「あ、バター安い」
「お一人様ひとつだから3つ買えるね。」
家の冷蔵庫がものの見事に空っぽだった為、夕ご飯の材料を近くのスーパーに買いに来た3人。


トモミがカートを押し、喜八郎は遊び疲れて(正確には掘り疲れて)うとうとし始めたこーすけを抱っこしている。

はた目からはその様子が若い夫婦とその子供、と映ったからか先程から様々なご婦人に「可愛いお子さんね、いくつ?」と聞かれたり、「一緒にお買い物してくれるなんて良いパパさんね。それに比べて家の主人なんか…」等と勝手な勘違いから立ち話を聞かされたり。
トモミは決して話し掛けられるのが嫌いなワケではないが、一応まだ高校生の身であるのにも関わらずこの2人と歩いているだけでそう見えてしまう程自分は老けて見えるのだろうか、と少しショックだった。


「トモミ?」
「えっ?あ、ごめん何?」
「さっきからぼーっとしてる。」
「……ねぇ、」
「うん?」
「私そんなに老けて見える?」
「………。」
「何で黙るのよ。」
「やだなぁ、冗談だよ冗談。だからその拳は下ろしてよ。」


思い切って聞いてみれば冗談で返されたが、仮に冗談で無かったら確実にトモミの拳は喜八郎の横っ腹(こーすけを抱えていなかったら鳩尾)に吸い込まれるように繰り出されていただろう。喜八郎にしては珍しく慌てて訂正する。
中学・高校とも空手部でとても優秀な成績を修めたトモミの実力を知る者ならば当然の判断だと言えよう。


「なんでそう思ったの?」

次第にずり落ちるこーすけを抱え直して聞く。

「だってさっきから夫婦と間違われてばっかりじゃない。普通夫婦で子供も居るって言ったらある程度の年齢の人なのに…私まだ18歳よ?」
「その歳で子持ちの人もいるじゃない。」
「でもそんなに居るわけじゃないし…それだったらまず兄弟かも、って疑うでしょ?喜八郎とこーすけ君似てるし。」
「にしては年が離れ過ぎてるような…」
「それは…そうだけど、」
「それにもしトモミの言う通りなら、たった2歳しか変わらない私も老けて見えるって事になるよ。」
「あ…」

次から次へと繰り出される質問に喜八郎が返してやるもトモミは納得がいかないようで、未だしかめっ面を継続している。



それを横目で見て、喜八郎が言った。


「ならさ、こう考えれば?」
「?」
「私達は夫婦に間違えられるぐらいラブラブに見えたんだって。」
「はっ…!?」

余りにもサラリと言うものだから、トモミは顔を真っ赤に染め上げ物凄い勢いで隣の喜八郎を見たが、言った本人は涼しい顔をしている。


「らっ…ラブラブって…」
「お似合いとも言うかなぁ」
「そ、そーゆーことじゃなくて…!」

うーん、流石に前より重くなったなぁこーすけは。
等とのんびりとした口調で既に眠りに落ちたこーすけを再び抱え直して、顔を覗き込む。

その本当になんでもなさそうな様子に、自分だけが先程の言葉を意識していたのかと恥ずかしくなり、トモミは顔を背けた。




「それにさ、」
「ななな何よっ…」
「こーすけの顔が、お父さんやお母さんに甘てえるみたいに幸せそうに見えたんじゃないかな…きっと。」



そう言った声色がいつもより優しいのに気が付いたトモミは彼を見やる。

本来は親と離され駄々をこねる筈のこーすけは喜八郎の腕の中で如何にも幸せそうな顔で眠り、喜八郎は無表情こそ変わらないものの寝顔を見つめる顔は穏やかで。
それを見ていたら何だか自分の考えていた事がどうでもよく思えてきた。



「…そうね、そう考えるのも良いかも。」
「でしょ?」


たまには良いこと言うじゃない。
と言うトモミの心の声は彼が調子に乗りそうなので言わずにおいた。






「しかも本番さながらの設定に予行練習にもぴったり。」


ついでに、そう呟いた彼の意味深な言葉も聞こえなかった振りをしてスーパーを後にした。




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まだ続きます…
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