「な…なん、ですか」

声が震える。


「離して くだ さい」

顔が熱い。


「…鉢屋先輩」

目が、合わせられない




「やだね。」

そう言って先輩は私の腕を床へ押さえつける力をより一層強める。


どうしてこうなったのか。
そんな事はどうでもいい。

というか、そんな事考えられない。

目の前で起きているこの状況を頭で処理するので精一杯だった。



「ねぇ…もうそろそろいいんじゃない?」

私が今が押し倒されているひんやりとした床とは対照的な、熱のこもった声が耳朶を打つ。

それだけで頭がくらくらと眩暈を起こして脳髄が甘さに酔う。

それでもなんとか自分を保って、必死の抵抗を試みる。


「何がですか…」
「分かってるクセに」

クッと喉を鳴らして笑う鉢屋先輩は不破先輩の顔を借りているにも関わらず、表情は眼前に用意された獲物に食らいつく寸前の獣のそれで。


私は
こんなの知らない。
分からない。


「なら教えてあげようか?」

首筋に宛てがわれた唇が、鎖骨に向かってゆっくりと触れていくのを感じる。

時々零れる吐息が、酷く色っぽい。



これ以上はだめ。


頭の中で誰かが警告するように叫んでいる。
それに呼応するように心臓の拍動が早鐘を打ち、僅かに汗ばむ。






逃げなきゃ
逃げないと私は、きっと―



「トモミ」

私を呼ぶ声に嫌でも意識を向けさせられ、初めて先輩と視線が絡む。


その瞳を見て私は悟った。


逃げられない事を




「捕まえた」


私の小さな悲鳴は鉢屋先輩の唇によって、喉の奥へと飲み込まれた。









The end.




それは終わりか、それとも―


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