※学パロ。電波?







この校庭のど真ん中をざくざくと掘り進めたずぅっと先には岩盤が、地殻が、マントルが、

「夢がないねぇ。」
「だって本当の事ですもん。」

突き詰めれば何だって現実に行き着く。
夢が無い訳じゃない。ただ私は知っているだけ。
貴方も私も所詮一個体の人間で、突き詰めればある特定の物質などで構成された物体なのだ。
それが知性を持ったばかりに、叶いもしない夢を見てしまう。

嘲笑うように学校のチャイムが鳴り響く。それでも手は休めない。


「どこまで掘るおつもりですか?」


積まれていく土。
人を罠にかけるために作っているいつもの穴とはどうやら様子が違う。
彼が常々言う、美しさが無いように思う。
感情や欲望や目的が剥き出しにされた穴はただそこでぽっかりと口を開けていた。

「どこまでだと思う?」
「さぁ、」
「トモミには分からないかも知れないねぇ。」
「何ですかそれは。」



ふう、まだまだ掛かりそうだなぁ
と汚れた学生服でうっすら滲んだ汗を拭った所為で、女の子のように綺麗な顔が土で黒ずんだ。
しかし気付いていないのかそれともそんな事も頓着していないのか、再び穴を掘り始める。
何も知らされない私は夕日に照らされる彼をぼんやりと眺めていた。

私達以外誰も居ないそこは、世界のほんの一部だというのに世界の全てのように感じられてしまう私の認識しうる世界の狭さに、いかに自分が矮小な生き物であるかということを思い知らされてしまう。
あまりにもちっぽけだ。
きっと私も彼も神様の手のひらで転がされる砂粒に過ぎないのだろう。


そうして勝手に自嘲気味になる私の心を見透かしたように、彼は言った。


「この向こう側にはさ、何があると思う?」
「土です。岩です地殻です。」
「トモミは余計な知能を持ったばっかりにどうのこうの、とかいう割には試験の模範解答みたいな答えばかりだねぇ。もっと人間の殻を破っていこうよ。」
「…すみませんね、つまらない返しで。」

そうだ。私は人間だ。
不平不満を言いながらも与えられた運命をすっかり享受している。
人間の殻なんか破れやしない。恐ろしい。

「じゃあ何があるっていうんですか?」

彼なら案外そんなもの躊躇いもなく越えてしまうのかもしれない。時々本当に同じ人間なのかと疑う程の言動をするから。

…などと考えていると不意に穴を掘るのを止めて此方に歩み寄ってきた。失礼なことを考えていたのがバレたのだろうか。


「あ、綾部先輩?」

ぐいと寄せられた顔が近くて思わず仰け反る。鼻を掠める土の香りが何だか恥ずかしい。
その乙女心を知ってか知らずか彼は私の手を取って穴へと導いた。よくわからないけど彼の言う向こう側にはまだ浅いように思える穴だった。



「この先にはきっとトモミが欲しかった世界があるよ。」
「世界?」
「そう。其処に僕も行きたい。」


穿たれた穴の向こう側。
言葉とは不思議なもので、そう言われた途端に魅惑の穴へと変貌する。

でも何故だろう、酷く背徳の香りがした。
取られた手に力が入る。
何をしているわけでもないのに、胸がどきどきする。

それが不安になってその原因を作り出した張本人の顔を見やれば、逆光になった夕日に縁取られた横顔があった。
土で汚れているのにそれさえも逆手に取って美しく見せてしまうような顔かたちに、見惚れた。彼を構成する要素は私のそれとは違うのかもしれない。

彼は言った。



「其処を僕とトモミだけの世界にしよう。」


大きな瞳が私を捉えた。

彼はやはり私如きには計り知れない人間だと、改めて思う。
彼は地上から逃げ出して、楽園を作ろうと言うのだ。

そんな、なんて恐ろしく甘美な言葉



「連れてってくれるんですか?」
「その為に掘ってるんだ。」
「いつ行けるようになりますか?」
「まだまだ。だけどきっとそう遠くはないよ。」
「そうですか。」
「だから、一緒に来るよね?」


穴が、私達を迎える準備をしている。

掘り進めたら中は暗そうだ。
でもぴったり寄り添っていれば互いの顔は見えるのだろう。私と彼だけの世界なのだから、他を見る必要も無い。
素敵な楽園だ。

けれど彼は肝心なことを忘れているようだった。


「先輩。」
「なぁに。」
「先輩と私だけの世界なら、穴を掘らなくてもありますよ。」


ほら、今まさに此処には私達だけじゃないですか。

そう告げると目をまぁるくして、おやまぁ、とだけ言った。

「灯台下暗し、ですね。」

楽園へ続くはずの穴は再びただの穴へと成り下がり、更に先輩はそれをどうせならと蛸壺なる落とし穴へ昇華してしまった。

そうして私達はもう少しだけ神様の手のひらで転がされる事にしたのだった。


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