「――…ティファ。」
柔らかな天使に出会った。
昼も夜も寒さも暑さも風も無も、そして時間さえも超越したような真っ白な空間で彼女に出会った。
此処に至るまでの記憶は酷く曖昧だけど、辿れる限りの最後の記憶は、いつかの刃を向けてきたカオスの戦士の冷たい、斬撃
"あの時"と同じ様に私を切り裂いた。
舞う鮮血を間に見ながら伸ばした手は虚空を掴んで。
だから此処は死後の世界なのかもしれない。
ふわふわとした栗色の髪を遊ばせながら彼女は、エアリスと名乗った。素敵な名前
――エアリス、
多分あの世界に来る前、私は彼女を知っていたのだ。
コスモスの戦士の中でも元の世界の記憶を殆ど持たない私だけれど、それだけははっきり分かる。
いや、ついさっき分かった、という方が正しいのかもしれない。
あの凍てついた刀が
鎖骨から肋骨にかけて斜めに亀裂を入れたあの時。
断片的に流れ込んだ記憶。
燃え盛る炎/
血濡れた/
殺されている/
皆が/
父親が/
エアリス、が
「ティファ…?」
あの刀はいつも私の大切なものを奪っていった。
あんなに鋭くて痛くて苦しいものを私は他に知らない。
なのに、貴女は笑ってた。
――ねぇ、エアリス。
貫かれて痛くなかった?
水は冷たくなかった?
ひとりは寂しくなかった?
守れなくてごめんね、
辛かったよね痛かったよね
もっと貴女に言いたい事はたくさんあったのに。
一番思い出したい貴女との楽しかった記憶が、全部全部抜け落ちてしまったの。
貴女が何を好きで何を喋ったのか、思い出したくても霧散していってしまう。
折角、会えたのに
「泣かないで。」
"生きてる"彼女がまた笑った。
それだけで救われたような気分になる。
やはり天使なのだと一人思った。
「きっと、また会えるから。」
薄れ始めた意識の中で囁く。
視界が光で溢れていく。
はたしてそれが彼女のものなのかそれとも私のものなのか分からなかったけれど、別れの時なのだと悟った。
そしてそれに抗えないことも。
それでも貴女の鼓動も、温かさも本物だった。
彼女は、生きていたのだ。
――必ず会える?
「うん。約束。」
――本当に?
「私が約束を破ったこと、あった?」
微笑む彼女を見て、彼女はこういう人だったと思い出せもしないのに何故だか懐かしく思う。
私も笑みを零して彼女に手を伸ばした。
触れることは出来なかったけれど
――じゃあ、私もひとつ約束。
「なぁに?」
―― 、…
それだけ囁いて。
瞬きひとつ分、貴女との世界が音も無く閉じた後には仲間達が心配そうに私をのぞき込むのが見えた。
-------------
そんな事があった、と
倒れ込んだその先にイミテーションの軍勢の湧き出す狭間が一筋の光を残して消えていくのを動かない体でぼんやりと眺めながら思い出していた。
倒れている仲間達。
奮った拳の、指先の感覚がもう無い。
霞んできた視界は終わりを予感させる。
同時に光に包まれていく自身の身体。肉体を失ってしまったかのように軽くなっていった。
そうして眠らされていた仲間達の元へ。
雲間からゆるゆると差し込む光を受けて。
浄化が始まる。
皆を光の竜が攫っていく。
眩い光が。
私達は淡く朧気に揺れた。
ひとり、また一人と。
これでいい。
次の戦士にきっと繋げたのだから。
希望を胸に、私は―――
"ティファ"
消えゆく最中、何処からか聞こえた声。
溢れる光は束となって彼女を形作った。
やっと約束を果たす時が来たのだ。
エアリス。
"また、会えたでしょう?"
すいと私の前まで歩み寄った彼女。
嗚呼本当に、会いたかった。
会いたかった。
「エアリス。私、貴女に話したかったことがたくさんあるの。」
貴女が愛した花、景色、人。
貴女との思い出全て。
私の約束通り、貴女との再会までに今まで形を成さなかった記憶達はぴったりとパズルをはめたように蘇っていた。
私は漸く大切な宝箱を開けることが出来たのだ。
「約束、でしょ?」
そう言えば彼女は花が綻ぶように笑った。
しなやかに白く細い腕が伸ばされる。
"行こう、ティファ。"
凛と澄んだ声だけが頭に響く。
どれだけこの時を待ち望んだのだろう。
触れることの出来なかった貴女がすぐ其処に居る。
手を伸ばせば触れられる。
消えるのではないのだと彼女は言った。
それならばこれはきっと、始まり。
「連れて行って、エアリス…―」
貴女の居る所なら何処へでも。
伸ばされた手を躊躇うことなく取った。
夢にまで見た理想郷で、貴女と
(交わした口付けは永遠の始まり)
**********
お待たせしました硝子さん!DdFFであの後、ティファは消滅しないでエアリスときゃっきゃうふふしてれば良いなぁという妄想から書かせて頂きました。全体的に意味不明で申し訳ないです。
硝子さんのみお持ち帰り可です。勿論返品も受け付けていますので何なりとお申し付け下さい^^
リクエストありがとうございました!