次屋先輩は無自覚な方向音痴であるという。
つまり、彼自身は道を間違えたという自覚も、迷ってしまったという感覚も無いワケだ。

それってとても幸せだな、と私は思う。



「そうかな。」
「そうですよ。」


だって誰かと一緒ならば兎も角、一人で、しかもよく知りもしない土地で"迷ってしまった"なんて状態は心底不安なものなのだ。
日も傾いてきた頃にそこを通りがかる親子を見ると、嗚呼あの子は、あの人は帰れるんだ、私は帰ることが出来るのだろうか、もう一生帰ることは叶わないんじゃないだろうか等と日常を失って恐怖に駆られるぐらいに。

知らぬが仏、とは正にこのことだろう。

そりゃあ周りの人は(かなり)苦労するけど、本人には全く害が及ばないだろうし、何だかちょっぴり羨ましいです、と戯れ言のつもりで零した。のに



「じゃあ、ずっと俺と一緒に居たら良いじゃないか。」



予想外過ぎる応答に思考が止まる。

これはよくよく考えてみると、無自覚方向音痴の先輩と居ても私が迷った事に気付いてしまえば意味が無いし、この案の唯一のメリットである2人になることで不安が軽減する、ということもそれが先輩である必要はどこにも無いし、寧ろ先輩の迷子に巻き込まれる可能性が高くなる。
だから実は私にとってのメリットデメリットを総合してデメリットの方が遥かに大きいのだが、原因である先輩がお構いなしに、うんそれが良いそうしようと言い切ってにっこり笑うものだから不覚にも、成る程それは確かに良い案だと思ってしまったのだ。









(先輩が嬉しそうなら、それで良い)

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