「此方です、奥方さま」

ふと、投げ掛けられた庄左ヱ門の声に顔を上げれば風がなびいて森全体が揺れるのが見え、夜に染まる木々が不気味に唸る。
少年が恭しく先導する森へと続く道の地響きにも似た風音に一瞬体が竦んだ。


そしてトモミの前に置かれた立派な籠。

生まれてこの方そんな上等なものに乗ったことなど無かった為(白無垢を着たことも無かったが)、思わず目を瞬かせた。


「これに乗るの?」

「はい、若様の御屋敷はこの森の中にあるのですが…なにぶん此処は"あやかしの森"。人である奥方さまが見つかってしまいますと危険なので籠の中に隠してお運び致します。」


"何に"見つかるのかは言わなかったが大方の予想が付く。トモミは改めて自分の状況を理解し僅かに恐怖が滲んだ。
それに気付いたらしい庄左ヱ門はにっこり笑って

「あぁ、御屋敷は安全ですから大丈夫ですよ。」


(いや、そっちじゃなくて…)


賢そうな面立ちをしているがこの少年はどこか抜けている、と緊張を走らせた肩が脱力するのを感じながら思う。

だが今の彼女にとってその人間臭さが少し救いで、本来なら恐れるべき対象である彼等妖狐に恐怖を抱かないのはその所為だろう。



そして、なんとなく浮かび上がる疑問。

「なんで最初から籠じゃなかったの?」

トモミはどこまで続いているのか分からない敷物の上をズルズル引きずっていた、白無垢の裾を摘んで言う。
確かに始めからそうしてもらえたなら彼女としても楽であるし、何より妖怪と間違われて卒倒されることも無かっただろう。

それに対して再び少年はにっこり笑って


「若様が『他のヤツにも見せびらかしたい』とおっしゃったので。流石にこの森の中では無理だと説得しましたが。」



どうやら自分を嫁に欲しがっているヤツは我が儘なようだ、といういらない予測が立ち彼女は肩を落とした。


しかしこれからその"若様"に更に振り回される事になるのをトモミはまだ知らない。



*******
まだ鉢屋が出ない罠^^
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -