※雰囲気だけの短文。大人設定。













「お帰りなさい、先輩。」


小さな声をぼんやりとした囲炉裏の火に浮かべる彼女は、つい先程俺が人を殺してきたという事実を知りながら、いつものように微笑んでいた。
知らないふりをしているかの如く態とらしいものでなく、ごく自然な。

そこで思い出すひとつのこと。
(あぁそうか、彼女も人を殺めたことがあるのだった。)





「お疲れでしょう?先に湯浴みなさいますか?」

そう言って俺に触れようとする手は血に汚れた着物とは真逆に近いのではないかと思わせるほど白く、思わずその手から逃れた。
彼女ももう潔白ではないと分かっているのに、俺に触れたら汚れてしまうのではないかという考えがよぎったから。



「トモミ、俺は…」
「先輩」


しかし同時に、己と一緒に堕ちて欲しい等という愛と言うにはあまりにも醜い欲が自身の中に芽生えているのに気付く。

やがて母になるであろう彼女をこれ以上汚したくはない、そう思っていたのに。



どうせ汚れた者同士。
逃れた手を取り、この腕の中に閉じ込めてしまえたら




「大丈夫。」


俺の心中を全て悟っていたのかは分からない。
だが少なくとも俺の苦しみと欲求を理解したらしい彼女は、汚れることも構わずに躊躇いなく触れた。触れられてしまった。

そこから広がる淡い熱に何もかも赦されたような気がして、感情の赴くままに彼女を抱き締めれば焦がれた心が満たされるのを感じ、俺はまたひとつ誰かの死を忘れていくのだった。

赦されてなど、いないのに







彼女が共に血塗れてくれるなら、俺は
地獄だって生きてゆける
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