私よりも細い艶のある髪を背中あたりでゆったりと緩く結えば、どこからどう見ても女の人にしか見えない。



「どうしたトモミ?」
「…ナンデモナイデス。」


仙蔵先輩の美しい女装姿に嫉妬すら覚えてしまう。いくら恋仲と言えども、ここまでくると何だか複雑だった。
だって普通の女の人よりずっと綺麗なんだもの!




「紅なんて要らないんじゃないですか?」
「…どういう意味だ?」
「いーえ、別にぃ。」

ちょっとだけ面白くない私は少し意地悪を言ってみるけれどすぐに先輩のターンが回ってきて、その顔には不敵な笑みが。

その表情は私をいじめて(本人にそのつもりはないのだろうけど、)楽しむ時と同じもので…


もしかして私、地雷踏んじゃった?



「確かに、紅を付ける必要はないな…」


嫌な予感がして正座したまま床板を分からないよう後退りするけど、それより早く先輩の手が私に伸びる。
骨ばった男らしい指が、つい、と私の顎に指が添えられたかと思うと


「!」


視界いっぱいに広がる美しい、顔


瞼を閉じる余裕もなく押し付けられた唇が薄く開いた私の唇から、ちゅ、と音を立てて離れた。

呆気に取られてまばたきを繰り返すも、目の前に居るのは女装をした仙蔵先輩が、先程同様不敵に微笑んで…いや、ひとつだけ違うけど、それは先輩の唇に私が差していた色が移った事だけ。

勿論今まで口付けをしたことが無い訳じゃない。それなりのことだってしてきた。
だけどそれが=慣れる、にはならなくて。

伏し目がちに自分の唇を指で確認する先輩に、私は上手く呼吸が出来ないでいる金魚の如く口をぱくぱくさせる。


「不思議な味がするな…」
「せ、んぱぃ」

私の心中を知ってか知らずか赤く色付いた唇を舌で舐めとった。
その様は、なんとも色っぽい。
見た目は女の人である筈なのに思わず胸が高鳴るのは、きっと先輩だから。


「おっと…紅がとれてしまった。」
「え…」
「また付けてくれるか?」



そんなわざとらしい台詞を言って再び縮められる距離。
とれたって…貴方が今舐めてしまったからでしょう!


「べ、紅なら!コレを使って下さい!」

先輩に口付けられるのは嫌じゃないけれど、まだ不慣れな私には心の準備が必要でして。しかし今の先輩の状況から、待ってくれる気配はない。
ならばと、二度目を阻止する為にお気に入りの、貝に入れられた紅を両手で差し出すも勢いに乗った先輩を止められる事は叶わず、不粋だとでも言うように手にとって一瞥すると、それを使用せずに懐に仕舞われてしまった。

明らかに近い距離にある顔は、より一層近くに。それはもう、吐息が首筋にかかる程。
あぁ、どうしよう。
伊達にくノたまをやってないので己の力を過信してこれぐらいなら自力で抜け出せると思ったけど…観念した方が良さそう。
うん、そうしよう。




「ああああの、さっき意地悪言ったのは謝りますから!も…もうこれ以上は…!」
「駄目だ。」


今の却下の速さから、恐らくどんな抗議をしても無駄なのだろう。
それでも危険に甘やかなこの雰囲気を脱すべく色々考えてみても、やはり到底思いつかなくて。
サラサラと降り注ぐ上質の絹のような先輩の髪が、頬にかかる。


そしてふと、心なしか着物が緩んだ気がした。
慌てて見れば腰に巻かれていた帯が、解かれた状態で先輩の手に。

あれれ、おかしいな。



「トモミはどうも私を男として見ていない節があるからな…」



耳元で囁いては、私の髪を一房取って口付けた。
髪って神経通ってたっけ?と思うぐらいに敏感に反応して、顔が熱くなる。

気付けば視界の背景は、天井に早変わり。






「その身をもって、確認させてやる。」


それはそれは妖艶に笑う先輩に、何されても良いかも、なんて一瞬思ったけれど後に後悔する事はこの時まだ知らない私は、紅く染まった顔で僅かに頷いた。








紅色乙女






(先輩、もう充分身に染みましたので…!)
(まだ復習が済んでないぞトモミ。)
(ふ、復習!?)



******
トモミちゃん、女装した仙蔵に襲われるの段。
何故女装してたか、とか、どこでそんなことしてんだ、とか聞いちゃ駄目ですよ!
トモミちゃんがふつくし過ぎる仙蔵に頂かれるのが書きたかっただけですから!←

とりあえず思うのは、美形が乱れるのはたぎry
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