※当サイトZC設定、忍者娘と子犬の話。











「ちわーっス!ユフィ様直々に届けに来たよー!」
バターン、と派手な音を立てるなりそいつは現れた。毎度毎度何かしら派手にアクションを起こすのがそいつだ、もうこいつに壊される扉はいい加減泣くこともしないだろう(それを修繕する俺もそれはモチロンのこと)。
「おー、来たな忍者娘」
俺は床を掃除してたモップを止めて、扉の前で仁王立ちにダンボールいっぱいに入った荷物を抱えながらニッ、と笑った忍者娘を呆れながら見つめた。その笑顔は昔とちっとも変わっていない。


* * * *


「なぁーんだ、クラウドの奴配達行ってて居ないのか〜。つまんないなぁ〜。つーかあいつ電話しても全然出ないんだよね。ザックスの方からも何とか言ってよ、何でアタシからのコールに出ないんだー!って」
「…俺じゃ不服だってか?」
「だって家主ってクラウドでしょ?その代理人じゃねぇ〜…」
第一このアタシが直々に届けに来たってのに居ないとは何事だ!というくだりから始まり、俺は作っていたリンゴジュースをユフィの前に差し出した。こいつは一度喋ると止まらない。神羅の誇る最新式のマシンガンよりも喋るんじゃないかと思うほどだ。
「ま、とりあえず来たんだからゆっくりしてけよ。で、こんなに食材持ってきてどうしたんだ?」
「そうそう!オヤジがさ、今年は収穫がたくさんあったから世界を救った英雄に持って行けってさ。何だかんだでオヤジの奴、クラウドのこと気に入ってるみたいだし」
「へぇ、そりゃ有り難いな。ウータイもだいぶ復興したんだな」
「そりゃね、メテオの傷痕にいつまでも負けてらんないからね!どんなにキツい状況でも挫けないのがアタシ達一族の強さだよ」
またニッ、と笑う少女の笑顔を見て、俺は胸の奥底にあった傷痕が微かに和らぐのを感じていた。この子がまだ小さい頃、ウータイを殲滅させたのは神羅であり、俺だ。何回か戦役中に会ったこともあった。こいつをそれを覚えているかは定かじゃないが。
ガサゴソと食材がたくさん入ったダンボールを物色していると、麻袋に入った米が出てきた。ずっしりと、それは重い。あの戦争からも、そしてメテオの災厄からもだいぶ立ち直ったのだと思わせるには十分なものだった。
「ウータイは、もう大丈夫なんだな」
ぽつりとそう言うと、ユフィもジュースを飲みながら、静かに返す。
「へぇ、ザックスもそんな顔出来るんだ」
「…お前なぁ、俺のことを何だと…」
「クラウド馬鹿」
さらりとそんなことを言われて、俺はがくりとうなだれる。確かにそうなんだが、そこは否定しないが、何かそれだけなんだと思われているのが男として悲しい。
「でも、優しい奴…。馬鹿みたいに優しいよね、あんた」
「あーあーどうせ俺は馬鹿だよ。馬鹿な子犬のままですよ〜」
くす、とユフィが笑う。ユフィは頬杖をしながら、目を穏やかに細めた。
「だってあんたさ、戦争中に、敵兵であるウータイの兵士達を一人一人丁寧な弔ってくれたんだろ?村のじーさんから聞いたことあるよ。ソルジャーの中でも、一人だけ馬鹿みたいに優しい奴が居たって。蒼い瞳に、針鼠みたいに髪を逆立てた、黒髪のソルジャー」
それってあんたのことだろ?
言葉は続かなくとも、そう聞こえた。俺も久しぶりにその話を聞いて、昔を振り返るように店の天井を見つめる。
「…そんなことも、あったな」
「アタシさ、ザックスと昔会ってるよね?」
「…さぁ、どうかな?」
「アタシあん時はもっとガキで、オヤジが止めるのも聞かないで、躍起になって戦地に飛び出して行って。その時に、黒髪のソルジャーに会ったんだよね。ガキの相手なんかしなきゃいいのにさ。相手してくれて、結果的に危なかった状況からアタシをうまくフェードアウトさせてさ。ても、そいつが一人焼け野原を背に立っている姿見てさ、」
嗚呼、アタシなんかに構ってくれてもやっぱり軍人なんだって、そう思った。
「………」
「でもそん時のあいつの顔、何か泣きそうだったんだよね」
そんなソルジャーも居るんだって、そう思ったよ。
…何とも、胸を抉られる話だ。俺がソルジャーの2ndになった16の頃だったか。初めてウータイ戦役に駆り出されて、そこで功名を立てるべく、俺は喜んで戦地へと立った。でも、戦えば戦うほど、人を斬れば斬るほど、解らなくなっていった。
神羅の闇に、俺は深く関わり過ぎたのだ。けれどもソルジャーになる、まして1stになるということはつまりそういうことだ。セフィロスに憧れて神羅に入社した若者がどれだけ犠牲になったのだろう。どれだけの人間が、あの神羅で生き延びることができたのだろう。
「ともかくさ、戦争は終わったんだ」
飲み終えたグラスをカウンターの上に置いて、ユフィはまた笑う。昔と変わらないその笑みは、やはり力強くて。
「今は前を向いて歩かなきゃ。じゃなきゃ、亡くなったご先祖さんに失礼だろ?」
「お前さぁ、」
「ん?何だよ?」
「…イイ女になったよなぁ」
つい手を伸ばして頭をくしゃりと撫でてやれば、虚を突かれた表情をしながらも顔を僅かに赤くしてぱしりと俺の手を払いのけた。
「い、今頃気付いたか!」
こういうことに免疫がないのか、ユフィの方こそこんな顔が出来たのかと、俺も新たな発見をした気分で内心ほくそ笑む。
ともかく、とユフィは埃を払うように尻をぱんぱんと叩いて入口の扉へと歩き、こちらへくるりと振り向いた。
「クラウドによろしく言っといてよ!今度ユフィちゃんからの電話を無視したら森羅万象食らわせてやるからなって!」
「ああ、言っておくよ。ああそうだ、ちょっと待ってろ」
「?」
疑問符を浮かべるユフィを置いて、俺は自室へとダッシュで駆ける。確かまだ残っていた筈だ。クローゼットの奥に眠っている宝箱。蓋を開ければぎっしり入ったマテリアの数々。これらは全てクラウドのものだが、一つくらい貰っても罰は当たらないだろ。緑色のマテリアを一つ取り、また階下の店へ戻る。ユフィに向かってそれを投げた。さすが忍者娘、気配でナイスキャッチした。
「やるよ。配達料代わりってことで!」
「サンキュー!一回だけ電話に無視しても特別に許すっ!」
じゃあね、と言ってやはり忍者娘は元気良く去って行った。そういやあいつはどうやってここまできたんだ?と初めてここで疑問が浮かび、外へ出れば赤いマントが靡きその後ろに跨がっている忍者娘の後ろ姿。
…なるほどな、ヴィンセントをパシらせてここまで来たのか。ヴィンセントも大変だな、厄介な奴に捕まって。ていうかあいつバイクの運転出来たのか、とずれたことに感心しながら、俺は中断していた掃除の続きをやることにした。
今夜の夕飯はせっかく貰ったウータイの食材をふんだんに使って、クラウドやティファたちをもてなそう。そう思い空を見上げる。


『今は前を向いて歩かなきゃ』


「そうだな。全く以てその通りだ…」
こういうことで感慨に耽るなんて、俺も年を取った証拠なんだろうな。いつまでも小さいとばかり思っていた忍者娘はもう立派なウータイの戦士で、ひとりの女だった。
何だかあいつが大人になるのを寂しく感じながら、俺は壊れかけた扉を開いて、店の中へと戻った。






嵐と子犬



2011/07/26


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