※現パロ。ティダがサッカーのジュニア選手になって海外へ行ってしまった話。


起きる直前、浮かんだ意識の中で思ったのは頭がやけに痛くて重い、ということだった。
加えて、腹の上に何かが重なるように乗っているようで、靴下が履かれたままの足が見えたので、無下にそれを落としてやる。
ぐが、といびきのようなものが聞こえてゆっくりそれを辿っていけば、その主はバッツだった。口を大きく開け、よだれを垂らしながら寝ている姿はとてもじゃないが年上に見えない。
辺りの惨状を確認して、また頭痛が増した。酒瓶は転がっているはテーブルの上につまみやアルミ缶が積み重なっているわで普段質素で何もない部屋が、今は乱雑していて足の踏み場もないほどだ(尤もほとんどのスペースを占拠しているのはバッツが大の字で寝ているからだが)。
とりあえずのそりと起き上がれば、雑魚寝した所為で軋んだ背中が悲鳴をあげた。更に二日酔いであろう頭痛にこめかみを押さえながら、ふらついた足取りでキッチンスペースへ向かう。
コップに水を汲み、一気に飲み干して、喉を潤していく感触がやけに気持ちいいと思った。もう一杯、と思い汲むと、ふとふわりと、どこからか風を感じる。
ベランダを開けた記憶はなく、陽が僅かに差し込むそこへ誘われるように、ベランダを覗けば。
「…起きたのか」
左方向に、クラウドが缶チューハイを片手に一人たそがれていた。
「…よく、朝から飲めるな」
痛む頭を押さえながら思わず皮肉を口にする。
確か、昨夜も散々飲んでいて、それで顔色一つ変えていなかったこの男の肝臓は一体どういう作りをしているのか。
だがクラウドはけろりとした様子で、それをもう一口飲む。
「目覚めに一発、というやつだ」
「あんた、ホストに転職したらどうだ?」
「よく言われる」
言われるのか、と心の中で突っ込みながら、コップの中の水をもう一口飲んだ。
空を見れば朝陽が昇り始めたばかりの、少し白み掛かった空だった。普段の快晴も気分が晴れ晴れとして良いが、どちらかと言えばこの時間帯の空の方が好きだと、漠然とそう思った。
普段の空は、今は遠くに行ってしまった彼を思い出して、見るには少し、辛いから。
「今日だったか」
「?」
「ティーダが、帰ってくる日」
「…ああ」
一年前に、人生をサッカーにかけたルームメイトは、今日一時帰国する。その間、連絡は一切取らなかった。意地でも、取らなかった。
取れば取っただけ距離を感じるし、甘えも出る。何より、寂しさや孤独感が募る。そんな惨めな思いをするくらいならと、スコールの妙なプライドが、連絡を取ろうとしなかったのだ。
クラウドは飲み終わったアルミ缶をめきょりと片手で潰すと、立ち上がる。
「さて、バッツを起こして、俺達は引き上げる。…少しは、」
「?」
「寂しさも、紛れただろう?」
いつもと変わらぬ様子で淡々とそう言う彼は、どこか無表情無感情のように思える。だが、こうしてわざわざ寂しさだとか孤独感だとかを紛らわす為に、酒の力を借りながらタガを外させてくれたのは、正直ありがたいと思う。少々頭は痛むが、不思議と、先日まで抱いていた鬱々とした気持ちは、少しこの空のように晴れ渡っている気がした。
意外と後輩思いの無表情な先輩に、スコールは静かに頷くと、クラウドはニヒルに笑ってみせた。
「今度、焼肉驕れよ」
「………」
その言葉に、一気に感謝の気持ちが冷めていったのはいうまでもない。



まぎらわす


2010/07/15


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