※AC後、当サイト設定



「ふざけるなっ!!」
とにかく怒りが込み上げて自分で何を言っているのかも解らなかった。けれども確かに解るのは、目の前の男がよりにもよって俺を庇って大怪我を負ったということだ。配達を二人でしていた帰りに、モンスターから奇襲に遭った。経験値を積んだ俺達にとって雑魚でしかなかったが、数が多かった。フェンリルを駆りながらバスターソードで薙ぎ払っていったが、飛び道具を放ってきたモンスターの攻撃を俺の後ろに乗っていたザックスが庇い怪我を負った。背筋に悪寒が走った。またあんな想いをするのはごめんだ。血が沸騰するんじゃないかってくらい熱くたぎり、雑魚にも関わらず問答無用でメテオレインを食らわせてからエッジへと急いで戻った。最悪なことに毒を持っていたモンスターだったらしく、以前よりも体力の落ちたザックスは苦しそうに呻いていた。懸命に呼び掛けながら、毒を治療した後に傷の手当もする。そうして夜が更けた遅い時間にザックスは目を覚ました。
だがザックスは笑っていた。俺が無事で良かった、と。そのことばを聞いて、今に至る。
「…あのまま毒の治療が間に合わなくて、万が一アンタが死んだらどうする?」
「…まぁほら、俺一回死んでるしさ?」
茶化そうとザックスがへらりと笑う。それにまた腹が立った。どれだけアンタは俺を守れば気が済むんだ。イライラして衝動的に、せっかく治療して治りかけてる脇腹の傷口を塞いでるガーゼと包帯を乱暴に剥ぎ取った。
「そんなに解らないなら、教えてやる」
「は?ちょ、クラウドさんッ…!」
まだ赤と青紫の色を帯びた傷口に、指をそっと添えた。ぐち、と思い切り爪を立てれば、ザックスの身体が跳ねた。無感情に俺はそれを見下ろす。嗚呼、いい気味だ。もっと苦しめ。アンタも味わえば良い。唇をいびつに歪めてから、更に深く爪を立てた。赤が滲む。そこに舌を這わせれば、さすがにザックスが俺の髪の毛に手を入れて辞めさせようとした。
「痛いか?」
「…ッ、結構…」
「もっと、味わえ。もっと、苦しめ…っ」
「クラウ…」
「俺が味わってきたのは、こんな痛みじゃないんだッ!!」
どん、と。ザックスの顔の真横に手をついて、晒された逞しい胸板に顔を埋める。日なたの香の中に、ザックスの体臭が僅かに混じり、鼻腔をくすぐる。この香が、俺を変にかきたてる。そんなことしてる場合じゃないのに、めちゃくちゃにしたくなって。けれども情けないかな、怒るってことが久しぶり過ぎて感情がついていかない所為か、泣けてきた。鼻先が痛い。ザックスの指が俺の頭をそっと撫でた。ごめん、と降ってきた優しい声に、俺は猫のように身体を擦り寄せた。
脇腹にまた手を当てて、小さくケアルを唱える。開いた傷口を塞ぐくらいは治るだろう。
「…もう、絶対無茶しない」
「当たり前だ…馬鹿ザックス…」
今度また俺を置いて行くような真似をしたら赦さない。
一生恨んで、恨みつづけてやる。睨みつければ、目を細めてザックスが額にキスをした。現金な俺はそれだけで嬉しくて、でもまだやっぱり腹が立ったから、形の良い適度に厚みがある赤いくちびるに、甘く噛み付いてやった。





ふざけるな




2010/10/09


n | b


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -