※異説→10本編



小さい頃から、俺は親父のことがとにかく嫌いだった。母さんは親父にべた惚れだったからそんなことないわよ、っていつも親父のことをフォローするけど、人が素直に遊ぼうって言えば、面倒臭そうな顔をしてはまた今度な、と頭をめちゃくちゃに撫でて去っていく。大きな背中は、俺がいつしか超えるべき目標になっていて、でもそれは世間的にはよく聞く、父親のことを尊敬しているからとかそんな綺麗事じゃない。単純に、大っ嫌いだったから。見下すのが大好きな親父は、俺のことをいつもガキだとかチビだとか馬鹿にするように言ってた。俺も逐一それに反応しなきゃいいのに、ムカつくから反抗してぎゃあぎゃあ騒いでた。とにもかくにも、俺は親父に対してろくな印象を抱いていない。だからか、親父の言うまた今度な、とかまた明日な、とか、次へ持ち越すような言葉は嫌いだった。そう言った親父の言葉を信じて、一度だけ期待しながら待っていたことがあった。家の近くの浜辺で膝を抱えて待っていたら、雨が降ってきて。母さんが迎えに来てくれるまで、俺はじっとそこを動かなかった。親父は結局来なくて、子供だった俺の心はたったその一回で砕かれた。期待し
ても無駄だし、しちゃだめなんだと思った。
親父は、この世界じゃカオス側についてる。元居た世界でどうして親父にあんなにまで固執していたのか、この世界に来てからは記憶が曖昧でうまく思い出せなかったけど、ようやく思い出した。親父を、止めなくちゃいけない。それが俺の旅の執着地点で、俺の物語だ。
「なぁ、」
月の砂漠の星空を仰ぎ見ながら、隣で今日一緒に見張りをしているスコールに声をかけてみる。自分の武器の手入れを常日頃から丹念に行っているスコールは、視線だけをこちらに寄越し何だ、と一言呟いた。
「旅、もうちょっとで終わっちゃうな」
クリスタルは、既に全員の手元にある。一度コスモスに会いに行くべく、今は休憩中だ。スフィアを象ったクリスタルを抱えながら、俺は胸の奥から込み上げてくるものを感じていた。この世界に、俺は確かに"居る"。でも、元の世界に戻れば俺は"消えて"しまう。希薄で曖昧な存在だ、この世界にも、ほんとうは長く居れないのかもしれない。何だか一人悶々としていると、スコールはため息を吐いた後に低く言葉を紡いだ。
「…例え皆が元の世界に戻っても、俺達の絆は永遠だ」
「え…っ?」
キザな台詞を吐くなぁと思いつつも、でもスコールが言うと様になってカッコイイなぁと思った。
「姿が見えなくとも、俺は皆のことを信じるからこそ、剣を奮える。大切な仲間、だからな」
「スコール…」
少し恥ずかしいのか、顔を赤らめながらもまた剣の手入れに戻ってしまった。でもその言葉が何より嬉しくて、ちょっと鼻の先がツンとして、ぽろりと溢れそうになるのを堪える。
「もし、機会があったら」
「?」
「スコールの世界、行ってみたいっス。俺の世界にはさ、光の道が透き通って綺麗な森とかがあるんだ。すごく綺麗で神秘的な場所だから、スコールがもし俺の世界に来れたら案内するっスよ!あ、あとザナルカンドも!!」
早口でまくし立てるように言えば、スコールは僅かに目をぱちくりさせて、それでもふっと男前に笑ってみせて、
「ああ、楽しみにしている。いつか、な」
なんて、柔らかい笑みを浮かべてそう言った。


* * * *


でもやっぱり、世界が決めた運命には、逆らえないみたいだ。異世界から戻ってきてすぐに、親父の元へ向かう羽目になった。幻光虫が浮かび上がって辺りを漂う中、シンに取り込まれた親父が目の前に居た。あの時から何も変わってない親父の背中。尊敬?そんなものしちゃいない。でも、超えるべき目標ではある。親父に父親らしいことをしてもらった記憶はない。だからそこに、甘ったるい感情なんてない。ない筈なのに、この期に及んで親父を助けられないだろうかと、どこかで思っている自分がいる。だって、約束したんだ。もう名前は覚えていないし、顔もおぼろげになってきたけど、額に傷を携えた同い年の俺の仲間に、俺の世界を紹介するって。俺もそいつの世界に行って、案内してもらうって。
「親父…」
これは、旅の執着点。そして俺の物語の幕開け。だから、終わらせたくない。親父も、俺も、共に運命に抗えるなら、抗いたい。また明日とか、また今度とか、それこそ、いつか、とか。希望を持たされる、そんな類の言葉が嫌いだった。でも、今は。その言葉に縋りたいんだ。明日なんてない、でも、頑張って突き進んだ先にはあるかもしれない。見えないどこかで、アイツが応援してくれているかもしれない。
(見えなくとも、繋がっている…んスよね…?)



だから、また明日



例え明日がほんとうになくたって、信じるこの気持ちは、永遠のつもり。身体が透けてきて、後ろから走ってきたユウナがこけてしまう。そっと抱きしめる。けど、もう限界っぽい。俺はここに居るよ。消えても、君の傍にも、お前の傍にも、居るよ。雲海の中に、ダイブした。アーロンが居た。ブラスカさんに、それに、親父も。ハイタッチをした後に、アイツの顔をようやく思い出した。そっちは、ちゃんと世界を救えたのかな。嗚呼、またいつかなんて俺らしくないかも。でも、使いたくなっちゃうんだな。だって、好きだから一緒に居たいって欲が、どんどん溢れてくる。




生まれ変われたら、また逢おう。
また明日、な。







2010/09/09


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