※AC本編前


ゆらゆらと揺れる水面に己の顔が映る。死んだ魚の目、我ながらピッタリな表現だ。此処が何処なのかも解らず、でも正直そんなことはどうでもよくて、何となく、その場でぼーっとしていた。ふと自分の手を見て、思う。
確かに剣を握り奮ってきた手なのに、己は誰かを守れたことが一度でもあっただろうか。
答えは、きっと否だ。
だって、世界を救えても、アンタがいなかったら意味がないんだ。一番助けたくて、でもその時の自分は指一本ろくに動かすこともできなくて。這いつくばってアンタの所にやっとたどり着いた頃には、アンタはもう血だらけだった。
助けたかった。
掬いたかった。
アンタが居れば、それだけで構わなかった。
身体が自然と震えてきて、膝からがくりと崩れ落ちる。己の肩を抱きしめれば、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。いつまでもアンタに縋り付くことしかできない俺はほんとうに弱くて情けない。ごめんなさい。ごめんなさい。逢いたい。抱きしめてほしい。アンタの温もりをまた、ただ感じていたい。
「ザッ…クス…ッ」
天を仰ぎ、風が吹く。誰かがそっと、俺の目元を覆い隠した。ふと後ろからそっと抱きしめられて。その温もりに、また、泣きそうになって。
「クラウド」
きっとこれは、夢だ。現実に戻っても、ザックスは居ない。夢でもいい。今はただ、ザックスだけを感じていたい。嗚呼、嗚呼、神様。どうかこのまま、時を止めて下さい。
そっと、包まれるように。
けれどもぎゅっと、引き寄せられて。
「クラウド」
「――――っ」
耳元で名を呼ぶ低い彼の声。
「なかないで」
ぎゅう。抱きしめられる力がこもり、更に密着し合う。彼にしては冷たい温度が、もう現実の人じゃないんだと、思い知らされた。



抱きしめて



「………」
目が醒めて、けだるい動作で隣のスペースへと手を伸ばす。もちろんそこには、誰も居ない。
「…あと何回泣けば、俺はアンタに会えるんだろう…?」
夢も希望も費えた俺には、そんなもの抱きしめることなんか、できない。





2010/08/27


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