※現代、カッチカチな社会人1とNがつく自由人5


ありがとうございましたー、という店員の声をぼんやりと聞きながら、俺は窓の外を見ながら烏龍茶を飲む。街中にあるファミレスで休憩がてら入ったつもりだったのだがちょうどお昼の時間と被っていたらしく、周りに居る人は次々と昼ご飯の注文をしているものだから見ている俺も思わず美味そうだなと思って変哲のないハンバーグを注文したものの。
暑さも手伝ってかあんまり食欲はなかった。半分食べた所でうっ、となってそこから手が止まりドリンクバーの烏龍茶で誤魔化す。食にうるさいフリオニールあたりにばれたら無理矢理食わされるに違いないと思いながら思わず怒る彼を想像して一人苦笑を浮かべていた。今日はバイトもないから何も考えずただふらっと街中に出てきたが、こうにも暑いとただでさえないやる気が更に失せる。もう適当に帰ろうかと思っていると、携帯が鳴った。しかもメールの相手はフリオニールからだった。今大学の授業が終わったらしく暇ならどこかで遊ばないか、というもの。少しだけやる気ゲージを上げた俺は急いで返信し、伝票を持ってレジへと向かう。そこでふと気がつく。レジには綺麗な銀髪の長い髪を携え、グレーのストライプスーツを着こなしたやけに姿勢の良い男性が店員に何か言っているようだった。
「ですから、本当に申し訳なく思っております…今後こんなことがないようにしますので…」
「そうだな、そんなことはあってはならない。まして飲食店は字の如く食べ物を食べる店だ。そのメニューの中にビニールの切れ端が入ってみろ、誤って口の中に入れれば下手をすれば口の中を切るかもしれないんだぞ?今後どういった対策を取るのか君の口から直接聞かせていただきたい」
「えっと、ですから…」
いわゆるクレーマー、という奴なのだろう。少し斜めに移動してそっと横顔を見ればなかなかの美形だ。でも外見は確かにインテリ系に見えるから存外こういう美形な奴ほど厭味っぽいのかも。なんてことを考えながら観察していると、店員の女の子は今にも泣きそうで、顔を真っ赤にさせながら耐えている。さすがに助け船出した方が良いかと思い、あのー、と声をかけた。
「後ろ、詰まってるんスけど?」
「…今大事なことを言っているんだ、少しくらい待てないのか君は」
「いやいや、さっきからじゅーぶん待ってましたよ?でも、実際やったのはその子じゃないんだろうし、もう十分反省してるって顔してるし、あと後ろ詰まってるし?良いんじゃないかなーって」
「…………」
ぎろ、と一瞬睨まれた。おお怖。後輩にもこんな風に思いっきり睨みつけてくる壁がお友達な後輩が居るが、何だかこいつからは貫禄を感じる。とりあえず負けじとにこにことしていると、相手から先に目を逸らし、ため息を吐いて精算を済ませた。店員の女の子に小さく礼を言われた後に俺もさっきの兄さんの後を追い掛ける。どうしても、一言云いたいことがあった。
街中の喧騒は暑くても人込みの量は変わらない。だがそれなりに長身で何よりあの銀髪はさぞ目立つだろう。案の定あっさりと見つかり、俺はそいつの手を無理矢理握った。
「…何のつもりだ?」
「いやさ、アンタにどうしても、一言云っておきたくて」
「?」
怪訝な顔。あ、その眉間に皺寄せるとこ、壁とお友達な後輩とそっくり!
「今時さ、アンタみたいに若い人でクレーマーって珍しいなって」
「人を珍獣扱いするのはやめてくれないか?失礼だろう」
「いやまぁ、そうなんだけどさ!でも!アンタみたいに云いたいことはっきり云える奴、今のこの世の中なかなか居ないからさ、アンタのその潔さが、何か良いなって思って!」
「…!」
ぐ、と両手で手を握り、握ったままぶんぶんと振って、俺はにか、と笑った。
「じゃあ、それだけだから!俺もアンタの潔さを見習うことにするよ!じゃあな!」
鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、その兄さんは立ち尽くしていた。俺は今のことでフリオニールに話したくて仕様がなかった。自然と心が躍る。何かよくわかんないけどやたらとテンションが高い。今なら一人JAM PROJECT熱唱とか余裕かもしれない。そんなワクワク感を胸に抱きながら、俺はフリオニールとの待ち合わせ場所に急いで向かった。


鉄壁と風




2010/08/18


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