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よくもまぁ飽きずに、この男は俺の唇に隙あらばキスを仕掛けてくる。帳簿をつけていた後ろでベッドの上でごろごろしながら雑誌を読み、たまに携帯を見たり、気付いたら少し寝ていたり。溜まっていたデスクワークに勤しむ俺(主人)に構ってほしい子犬に見えて仕方なくて、ザックスから顔が見えない俺は内心ほくそ笑んでいた。そうして飽きたのか、俺の耳元に顔を近づけて、まず匂いを嗅いでくる。
「良い匂い…」
別に至って普通のシャンプーで髪の毛を洗い至って普通の石鹸で身体を洗っているだけなのだが、子犬からしたら俺は甘い匂いを放っているらしい。耳元に感じる息遣いに内心どきりとしながら、手元だけはしっかり動かす。こんなに溜まっているとは思わず、少し目が疲れてきた。普段からマメな性格ではないから、次からはもう少しマメにつけようと悔やみながら次の分へいくと、髪の毛に今度は顔を埋めてきた。
「柔らかい…」
いちいち呟くなよ、聞いてるこっちが恥ずかしい。そう思いながら、ザックスの長い指が俺の首筋をそっとなぞった。ただの戯れだ、気にしない。こうして帳簿をつけていると、うちの仕事もそれなりに儲かってきたのだなと、内心思う。それはもしかしたらザックスの人柄の良さが顧客を得たりとか、口コミで広がっているからというのもあるかもしれない。今日はこうしてごろごろしているが、普段この男は平日はバーに来る常連の仲良くなった親父たちにいろんな仕事を紹介してもらったり、夜はティファの手伝いをしている。挙げ句俺のデリバリーも時々手伝ってもらっているから、いくらもうソルジャーではないとはいえその有り余った体力は常人を遥かに超えていて。下手をすれば俺よりも仕事を頑張っている。であれば、そろそろ飴をあげてもいいだろうか。
「クラウド…」
名を呼ばれたので、素直に斜め上に居るザックスの方へ顔を向けてやれば、思いの外すぐ傍にザックスの顔があった。
「ん…ッ」
ちゅ、と唇を啄まれた。ちゅ、ちゅ、と角度を変えて、浅い口づけはだんだん深くなっていく。ペンを握ってられなくなって、ガタリと崩れそうな所を瞬時に支えられた。結果的に、ザックスへと片手で縋り付く。はっ、と息を吐きながら糸を引いて離れた。藍の双眸が、嬉しそうにこちらを熱っぽく見つめている。
「キスしたい」
「…もうしただろ?」
「もっと、」
こんなんじゃ、足りない。
直接口に出すんではなく、脳みそに響くような、シグナルみたいに俺のナカに声が落ちる。嗚呼、それが何とも心地好い。ペンを捨てて、そっとザックスの頬に触れる。確かめるように、その熱を感じ取る。目元を細めて、ザックスは笑った。俺も応えるように、微笑を浮かべる。
「ザックス…」
こうなると、後はもうどうにでもなれ、だ。今度は俺から、唇を啄む。何度も、何度も。リップ音を立てて離れては至近距離で眺める藍が綺麗で、その度に見惚れてしまう。飽きない、この瞳は、何よりも綺麗な宝石だ。笑いながら、また口づけ合う。若い頃はただただ貪っているだけだったけれど、これも幸せだと感じる時間なんだって、思えるようになっただけ俺は前に進めたんだろうか。
「キス、好きな所は変わってないな」
「そりゃ、クラウドとのちゅーは別格だからな」
「…光栄だな」
くすりと笑んで、また引き寄せられる。しばらくそんな甘い時間を堪能して、溜まった帳簿が風にぺらぺらとめくられたと気付くのはもう少し後の話。



啄む




2010/08/16


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