※アニメ第5話ネタバレ有


知ってますとも、真田の旦那が馬鹿で阿呆でどうしようもない戦馬鹿だって。長い付き合いの俺は十二分に知ってるよ。というか身に染みて感じてるし理解してる。大事なことなので何回も言っちゃう。うん、そうだよ、馬鹿なのが真田の旦那なんだよ。
「だからってさー、」
何で先を急がなきゃいけないの解ってて加勢するかなぁ…。
俺が呟いたぼやきはこの喧騒に掻き消されて誰にも聞こえないのだろう。俺が胃を痛めることだって、真田の旦那はこれっぽっちも気付いていないにちがいない。いつものように猪突猛進、炎を纏いながら紅蓮の鬼という肩書き通りに敵陣へと単身突っ込んでいく後ろ姿はまことあっぱれ。しかしその後ろは誰が庇うと思ってんだこのやろー、と少し憎らししげに見ながら、近くにやってきた豊臣兵の足軽の首をはねてやった。返り血を避けながらするすると敵の合間を縫うように素早く移動しつつ急所だけを狙っていく。ぎゃあとかうわぁとか、聞き慣れた悲鳴を聞きながら、俺はいつも通り淡々と命の灯火を一つ一つ消して行った。小山田殿が旦那に活路を出そうと何かを叫ぶ。だが次々と刃を刺された小山田殿は、あっさりとその場に倒れ、血を大地に流した。
近寄り、無駄かとも思ったが脈をはかれば、既に事切れていた。旦那が、近寄ってくる。さっきの覇気ある顔はどこにいったのか、まるで捨てられた子犬のような顔だ。その腑抜けた面を見て、内心苛立つ。ほら見ろ。だから無駄だって言ったんだ。
「…ッ、」
旦那はぐ、と槍を握る力を込める。未だ豊臣と長曽我部の戦いは収まることを知らず、激化する一方だ。お館様から仰せつかった任務だってある。むしろそっちを優先しなきゃいけないわけで、こんな所で油を売ってる暇なんかないんだ。小山田殿の遺体を一瞥した後、俺は旦那を無表情に見つめた。目が合った。迷いに揺れる旦那の瞳は、滑稽なほど潤んでいて。またそれに、嘲笑いたくなった。
「引くぞ、佐助…っ」
搾り出すように俺の名を呼び、旦那は激化する二軍から背を向ける。
「りょーかい」
頷き、未だ戦う真田の赤備えの連中に知らせるために烏を呼び、空中から目くらましの煙幕を投げてやる。旦那たちが無事に撤退する様を見て、今度は豊臣・長曽我部軍を見た。法螺貝の音がこだまする。戦はあっという間に終わりを告げた。一軍の将だっていうのに、まだ甘ちゃんでいる旦那の後ろ姿はいっそう萎んで見える。知ってるよ。旦那が甘ちゃんだって。知ってるよ。旦那が誰よりも優しいって。知ってるよ。…旦那が、誰よりも真っすぐで一途だって。
だからさ、早く終わらせてくれよ、こんな馬鹿馬鹿しい世の中をさ。長曽我部の軍の作り上げた要塞が、海と共に沈んでいく。こうしてまた一つ、豊臣の暴挙によって沈められる。


引き上げる際に見た夕陽が、辺り一面更に赤く染め上げていく。いつこの戦に、この馬鹿げた戦国の世に終わりがくるのか、きっと知ってる奴なんて誰も居ない。
けれども豊臣に反抗した長曽我部も、旦那も、それにあの蒼い御仁も、皆それぞれ正義の旗の本に名乗りを上げ泰平の世を治めようとするその気持ちだけは、俺も解ってるつもりだ。とりあえず、ほんと早くこんな世の中終わってほしい。で、もうちょっと給料上げて俺に楽させてくれよ、旦那。




知ってるよ



2010/08/15


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