※現パロ



どうしようもなく、焦がれる瞬間がある。それは朝目が醒めた時や、一人で街中をうろついている時や、ふと寂しい、と思った時。いずれも、意中の相手が自分の傍に居ない時に、決まって、俺はあいつの温もりが恋しくなるんだ。
「…暑ぃー」
夏真っ盛り。暑くて熱くて、溶けてしまいそうで、あいつのことを想うと身体が火照ってしまって。余計に、脳みそがあいつに浸蝕されていくカンジ。ごろん、とベッドの上で寝返りを打つ。いい加減クーラーをかけるべきなんだろうが、だが開放した窓から入ってくるそよ風が心地好くて、あとつまらない意地もあって、クーラーは入れていない。北に位置する部屋だからそこまで暑くないけど、でもやっぱり暑いモンは暑いから、布団に預けた背中がじくりといやな汗を滲ませている。
ああもう、何かもう、いっそ泣きたい。でも、あいつは今遠い海の向こうに居て、声を聞くことも容易じゃない。留学するって聞いた時は、何で、とか、どうして、とかたくさん思うことあったのに、いざ出発の日になると、引き攣った笑顔でいってらっしゃいって、言うことしかできなかった。俺より頭も良ければスポーツ万能なあいつは、きっと海外に行ってもモテるにちがいない。何でもそつなくこなすあいつは、俺にとって憧れである同時に、皮肉そのものに思えた。でも、やっぱり。
「早く帰って来いよ…」
馬鹿、と小さく呟いて、天井に伸ばした手はぱたりとシーツの上へ落ちる。焦がれているんだよな。どうしようもないくらい。開放された窓から見えた高い青空の真ん中を、飛行機が横切る。あれにあいつが乗ってたら良いのに、と都合良いことを考えた。でも、俺は会いたいって思うけど、あっちは俺のことどう思ってるのか、実は知らない。俺はこんなにあいつのこと想うと泣けてくるくらいには好きな自信あるけど、でも同時に疎まれてる自信もある。…正直そんな自信あったって空しいだけなの分かってるけどさ。
いつも一方的にあいつの後ろを付き纏って、だからか周りには飼い主と犬って言われてた。それでも良いんだ。どんな形であれあいつの傍に居てあいつが俺を見てくれるなら、別に周りにどう思われたって良い。ちなみに今居る部屋だって、元はといえばあいつの部屋だし。長い間留守にするから、部屋の掃除しておいてくれって言われて、あいつから渡された鍵。ちゃり、と今日も俺の掌の中におさまってる。あいつが留学してからの俺の癖。これがないと、何か落ち着かない。自分の実家の部屋なんて散らかし放題も良いトコだけど、あいつ部屋はほんとに質素で、俺からしてみたら何もない。いつもガランとしてるから、余計に涙腺が弱くなる。最初は枕を抱きしめればあいつの匂いを感じられたのに、今じゃそれも薄くなってしまった。今日で、あいつが留学してから80日目。あと何日したら、あいつは帰ってくるんだろう。
ふと、携帯の着信音が鳴った。何だか見るのも億劫で無視してたら、しばらくして止まった。次に、ピンポーンとチャイムが鳴った。やっぱり億劫で居留守を決め込む。
「この部屋の主は居ないっスよー…」
なんてドアを隔てた向こう側に居るチャイムを鳴らす人物に向かって言ってみる。聞こえちゃいないだろうけど。枕をぎゅう、と抱きしめた。微かに、まだあいつの匂いが残ってる。それを鼻腔に吸い込んでいると、突如ガチャッ、とドアの鍵が開いた音が聞こえた。びく、と身体が強張る。まさか、泥棒?と思いながら、ゆっくり身体を起こした。どさ、と何かを床に置く音に、更に緊張感が増した。ぺた、ぺた、と近づいてくる。
どうしよう、武器になるようなものがこの部屋には何もない!
とりあえず息を殺してじっとベッドの上で佇む。相手の気配は更に近づいてきて、カチャ、と少し開放されていたドアが更に開いた瞬間。
「…何だ、居るんじゃないか」
…あれ?今の声、聞いたことあるような。
「携帯に電話しても出ない、チャイムを押しても反応がない、…心配したぞ」
目の前に佇む長くて大きな影。以前よりも、その脚は長くなったような気がするのはきっと気のせいじゃなくて。少し日に焼けた腕に、モデル顔負けの整った顔に、胸元のシルバーアクセに。長い前髪の隙間から見える、青灰の瞳に。
「ス…コール…?」
「ああ」
思ったより声は出なかった。でも、夢なんじゃないかって想うほど、目の前にはリアルなあいつが居て。思わず、手を伸ばして頬に触れる。僅かに暖かい。無遠慮に触っていると、いつまで触っているんだと、眉間に皺が刻まれた。
「…マジ?」
「嘘をついてどうする」
「スコール…?」
「…ただいま」
言われた瞬間、じわじわと胸の奥から込み上げてきた。そして、押し倒す勢いで抱き着いてた。焦がれていた人が目の前にいる、それだけで、視界が涙で見えなくなる。溶けていた脳みそが一気にフル回転して、スコールが此処に居ると、全身へくまなく伝える。
普段なら暑苦しいとか離れろとか言うのに、スコールは何も言わずに俺を抱きしめてくれた。
「…おかえり」
搾り出すように言った声は掠れていて、でもスコールは笑ったりしないで、ああ、と低く頷いた。







例え離れていても、







(…そういえば、何で突然帰ってきたんスか?)
(元々80日間の短期留学だから、帰ってきたんだ)
(え!?)
(…人の話くらいちゃんと聞けよ)




会えたら泣いちゃうくらい、いつでも君を想ってる!!






20100810*スコティ記念!




2010/08/10


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