気持ち悪い。第一に思ったことをその一言に込める。血臭がするわけでもなく、何かグロテスクなものが飛び散ってるわけでもなく、別に何かを心配して胃を痛めてるわけでもない。ただただ、目の前の風景が気持ち悪い。そう思っただけだ。
「大丈夫か?」
誰が仕掛けたものかはわからない、だが皆と一緒にカオスの陣営を目指して歩いていると、突然景色が変わり、今のこの目の前の風景に切り替わったのだ。誰かに声をかけられたが、一緒に落ちてきたらしいその人物はスコールにとってよく知らない人物だ。幾分か背は高く、髪は少し長めで、同じような額の傷に、青灰の双眸。そして首にかかる獅子のペンダント。男の外見はスコールと酷似しており、けれども男には目の前の風景は見えていないようで。自分だけ、この風景から目を逸らせなかった。逸らすことは赦さない。誰かにそう囁かれたような気がして、スコールは身体をふるりと震わせた。
「おい、しっかりしろ!」
男の声が強くなる。固まったまま動けないスコールの肩を掴み、パシン、と空気を切る音が響いた。そして遅れたテンポで、スコールの左頬がじんじんと痛みはじめる。
「あ…」
「しっかりしろ。自分を囚われるな」
はっきりした声音に、何故か涙が滲みそうになった。気高い獅子の姿が、眼前に在った。
風景はゆっくり霧散していく。幼い頃の、ただ泣いて待つだけだった自分。異世界で、仲間を守れなかった自分。思い返してもいやな思い出ばかりで、ならいっそのこと自分なぞ存在しなければ良い。そう思ったら、あの魔女の思うツボだっただろうに。男の一喝のお陰で、目が醒めた。
「誰かを守りたいなら、いつまでも弱い自分の過去に泣くな」
今度は、優しい声だった。けれども、力強い声だった。
「俺は昔、自分の守りたいと思う国を、友を、守ることができなかった。だから過去を捨て、本来の自分の名を捨てた」
男の右手に、武器が現れる。そしてその刃先を、スコールへと向けて。
「お前はまだ若い。俺のように過去を捨てずとも、名を捨てずとも、勇気一つで前へ進むことができる」
男の言葉に、スコールも頷く。同じように武器を現し、男の武器の刃先と自分のを交差させた。
「進め、若き獅子よ」
に、と互いに笑う。その瞳には、もう迷いはなかった。



いまとむかしと

※DFFスコと、王国心のレオン




2010/08/04


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