※現パロ


あまりの暑さに、ゆるりと意識が浮上した。全身がじとりと生温くなっていて額を流れた汗に不快感を感じながら、何とか枕元に置いてある携帯のディスプレイを見ると、午前3時という時間帯。昨日久しぶりに風邪を引いて、帰ってきた頃には熱が上がりきっていた。久しぶりに引いたものだから身体と意識がついていかなくて、とりあえずペットボトルを持っていそいそとベッドに入ると、間もなくしてティーダが慌てた様子で部屋に入ってきた。それからお粥とか作ってくれて、それで…
(…それで?)
どうしたのかと思い起き上がろうとするが、すぐ傍から寝息が聞こえた。暗闇の中でもすぐ解る金糸に、思わずほっと安堵の息を吐く。左手は汗で湿っていて気持ち悪い。だが、ティーダの手が俺をずっと握ってくれたのかと思うと、嬉しくて頬が緩む。
何とか全身が軋む身体を起き上がらせて、右手でティーダの髪をそっと撫でた。ぴくりと、ティーダの身体が身じろぐ。
「…ン…?」
起こしてしまったらしい。だが金糸の感触が気持ち良くて、撫でる手を止められない。
「スコ…ル…?」
「ああ」
「もう、平気…?」
「いや、まだ熱は下がってない…」
「じゃあ寝てろよ、無茶したらまた熱上がるだろ!?あ、水枕交換した方が良いっスかね…」
無理矢理寝かせられて、ぼうとした頭で目の前のうろたえるティーダを見て、また口元に笑みを浮かべた。水枕を交換するといってキッチンへと向かったティーダは、かいがいしい。普段俺も病気なんてしないから、こんな風に世話をされることもない。それゆえに、どこかくすぐったい。
「スコール、水枕持ってきたっスよ」
「ああ、悪いな…」
頭をそっと持ち上げられて、ひやりと冷たい水枕が心地好かった。
「早く熱、下がると良いっスね…」
心配した様子で、ティーダが俺にそう言った。少し潤んだ青空色の瞳は、まるで子犬のように愛らしい。そんなティーダに、そっと頬を撫でてやる。ティーダの頬は僅かに熱くて、でもそれは決していやな熱さじゃなくて。
「…熱は、移してしまうと治りが早いらしいな…」
は、と浅く早い呼吸をしている病人の台詞とは思えない台詞を吐くと、ぴきりとティーダが固まった。顔を真っ赤にさせて、一歩引いてこちらをじとりと見ている。そんなあからさまな態度をされると、余計に虐めたくなるのだがこいつはきっと解ってないに違いない。
「と、とにかく!治るまでちゅーとかは禁止っスからね…!」
「誰も口移しで移すだなんて言ってないぞ?」
「うっ…」
「空気感染でも、風邪は移るからな?」
「ううううるさいっス!さっさと病人は寝るっス!!」
どっかりとこちらに背を向けてティーダがベッドの縁を背に床に座り込む。少しからかい過ぎたらしい。おとなしく目を閉じて、意識を手放すことに集中させる。
また、左手をそっと握られた。温かみが掌を包んでいく。そうして、唇に重なった僅かな熱に、また頬が緩みそうになった。
「早く、治せよ…バカ」
バカとは何だ、とか、風邪移っても知らないぞ、とか。云いたいことはいくつかあったか、その前に俺の意識は既に遠い所にあって。云おうと思ったけど、それらは意識が浮上する頃には綺麗さっぱり忘れているだろうと思った。


気づけばそこに君が居た



2010/08/02


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