※現パロ


「でさーそん時のフリオニールの顔が茹蛸みたいに真っ赤になってって…て、聞いてるんスか?」
「…ああ」
嘘だ、ぜってー聞いてない。
心の中でそう突っ込んで、恨めしそうに相手を見ても、肝心の相手は俺の方を見てくれない。本を静かにめくる音が聞こえて、二人だけで住んでる安いマンションの部屋に何も流れない無音の空間に響くその音は、嫌いじゃない。でも、好きでもない。だって、俺のことを見てくれてない証拠だから。
スコールと、こうして二人だけで住むようになって、もうすぐ一年になる。けれども一年間、ずっとスコールはこんな調子。俺のことなんかお構いなしに、いつだってマイペース。俺も人のこといえないくらいマイペースだと思うけど、それにしたってスコールは俺のことを構ってくれない。俺はもっとスコールと仲良くなりたくて、渋るスコールを無理矢理説得というか、縦に頷かせてこうして一緒に住むようになったのに。
(これじゃ、今までとなーんも変わんねぇ…っスよねぇ…)
溜息を吐いて、隣で本を読み続けるスコールの横顔をちらりと見る。きれいな横顔だって、いつも思う。所作がいちいちきれいなんだよな。本をめくる指先も、前髪をかきあげる時の仕種も、ぴしりと伸ばした真っすぐな姿勢も、長い脚を組み替える時も。そんな仕種を逐一見てて、俺は胸が高鳴るんだ。相手は男だって、解ってるんだけどさ。
スコールとの共通の友人でもあるバッツやジタン、あとフリオニールと、所謂恋バナに花を咲かせていた時。キスってどんな味かっていう話題になった。フリオニールは顔真っ赤にさせながら聞いてた。俺はまぁ、ケンゼンな男の子ですから、興味津々に聞いてた。どんな味なんだろうって、聞きながら思った。

ぺらり。

またページをめくる音に、スコールの口元を見る。スコールは、誰かとキスしたことあるんだろうか。だったら、ちょっと悔しいっていうか、いや、悔しいって思うのもどーかと思うけど。でも何か、もやっとするっていうか。
「…どうかしたか?」
「ふえ?」
いきなり、スコールが声をかけてくる。視線は相変わらず本の方にいってるけど。
「…そんなに物欲しそうな顔をして、欲求不満なのか?」
「え!?や、えと…」
俺どんな顔してたんだろう。つーか、全然俺のこと見てなかった癖に、実はこっそり見られてたらしい。まっすぐ、スコールが見つめてくる。やばい、今度は逆に、俺がスコールのこと見れない。
「スコールは、キスがどんな味って、知ってるか…?」
「………は?」
視線に耐え切れずに、苦し紛れにそんなことを聞いてみれば。うわ、予想通りの反応。すっげー顔しかめてるよ。
「…バッツか?」
「え?あ、うん…」
何でバッツが出した話題だって解るんだろう。はぁ、と額を押さえながら溜息を吐いて、じ、とまた青灰の瞳がこちらを射抜く。その視線に、どきりとした。
「教えてやろうか…?」
じり、とソファの上でスコールがこちらへと寄ってくる。そっと頬に触れられた、エアコンで冷えた剥き出しの手は少し冷たくて、でもやっぱりきれいな仕種に俺の鼓動は速くなる。髪の毛の隙間から見えた青灰は、獣のように鋭い。何て返事をしていいか解らずにうろたえてると、そっとスコールの唇が俺のに重なった。一瞬何をされたのか理解できず、ちゅ、と吸われて離れていった唇だけが熱を伴って熱く感じる。
「…もう、限界だ」
ぼそ、とスコールが呟いた。意味が解らない。でも、もしかしたら、とまた心臓がうるさくなる。
「ティーダ…」
熱っぽく囁かれて、そっと抱きしめられた。嗚呼、そっか。何だ、スコールも、我慢してたんだ。何か途端にじわりと胸の奥から込み上げてくるそれが愛しいと思った。また、見つめられた。そうして自然に重なる唇の味に、今度バッツに教えて、フリオニールに自慢してやろうと思った。




どんな味?



2010/08/01


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