てい、やぁ、と掛け声をあげながら勇猛果敢に切り掛かってくる、といえば聞こえは良いが、俺から見たらただの無謀とも言える剣捌きで俺に切り掛かってくる姿は一生懸命だった。模擬といえど実際に抜き身の剣を用いながら戦っているのだから、一生懸命なのはまぁ当たり前の話だが。何というか、泣きそうな顔で切り掛かってくるのはやめてほしいと思う。
普段あんなに無邪気に笑ってバッツやジタンと馬鹿をやっている癖に、時折見せるこういう顔が、何だか見ていて危なっかしくなる。
俺が踏み込んで懐に入り、赤い球体を出しティーダの周りを一瞬で囲む。ティーダの顔に緊張が走った。いつもなら即座にリボルバーの引き金を引いている。だがティーダは固まったかのように動かない。そのまま引くのを止めて、ガンブレードをしまった。
「スコール…?」
怪訝な声でティーダが俺の名を呼んだ。腑抜けた顔だ。視線だけティーダへやると、ごめんっス…と小さく謝られた。
(そう言うなら、その顔をやめろ…)
はぁ、と小さく溜息を吐くと、ティーダも武器をしまう。いつもなら次はぜってー勝つ!と喚くはずなのに今日はその気配すらない。原因が解らないままこいつがこんな顔をしているのは何となく自身の胸中をもやもやさせた。何故苛立つのか、解らないから余計に。
「何かあったのか?」
「え…」
気づけば、声に出していた。ティーダは意外そうに目を丸くさせて、俺を見つめる。
「迷いは、切っ先を鈍くさせる。そんな泣きそうな顔で挑まれても、戦う前から敗因は見えてるぞ」
「うっ…ス…」
こく、と力無く頷く様はやはりいつもとは違う。だがティーダはこちらから催促してみても話し出す気配はない。もうどうでもいいと思いティーダを置いて陣営に戻ろうと踵を返した刹那。ティーダに服の裾を掴まれた。
「スコールは、元の世界の記憶、どれくらいあるっスか?」
小さな声だった。子供が泣く前のような、掠れて震えた声で、ティーダは尚も続ける。
「俺、俺さ…元の世界に帰っても、長く居れないんだ。祈り子の夢だって、さっき思い出して、それで、何かもやもやして、じっとしてらんなくて…。スコールなら黙って俺の相手してくれっかなって思ったけど、でも、スコールはあいつに似過ぎてて、余計に元の世界のこと思い出して、辛…くて…ッ」
こんな時も、ぺらぺらと、よく喋る。ティーダに背を向けたまま、今度は俺が動けなかった。こんな時どうすれば良いか、俺は解らないし、知らない。
「…ごめんっ、こんな話されても、迷惑っスよね。ちゃんと、元通り馬鹿でアホな俺に戻るから、だから…」
「…ティーダ、」
ぐい、と。ティーダに背を向けたまま、俺の服の裾を掴んでいた手を自分の方へと引っ張る。ぼふ、とティーダの顔が俺の背中に当たった。痛い、と呟く声が聞こえたが気にしない。
「スコール…?」
互いに顔を合わせぬまま、こんなことをするのはどうかと思う。だが、咄嗟に出た行動で、こうしなきゃいけないという訳の解らない欲求に駆られて、うまく説明ができなかった。狼狽するティーダの手を、ぎゅ、と握ってやる。自分の顔が見えない程度に肩越しに一瞥し、
「無理は、するな」
と言った。
「…っ」
ティーダの声が一瞬震える。今度はドンッ、と後ろからティーダに抱き着かれた。震えが増して、俺に伝わってくる。腰に回されたティーダの手を、またぎゅ、と握ってやった。途端に胸の奥から広がっていくナニカ。それはじんわりと、暖かい。
(…嗚呼、そうか)
何故苛立っていたのか。何故、放っておけなかったのか。意外と答えは簡単だった。認めるのは癪だが、けどきっとこういう感情が、俗に言う人を好きになることなんだとしたら。
(ティーダが元の世界に戻ってしまったら、その時俺は…)
どうする、なんて考えるだけ無駄なこと。それでも、この掌と密着する体温は本物で。元の世界に戻って朧な存在になるだなんて、思いたくなくて。
突っ込みたい所がたくさんあった。祈り子の夢って何だ、とか、あいつって誰だ、とか。けれど、戻っても希薄になる世界なんか、放っておけば良い。
消えてしまうなら、さらってやりたい。
「ティーダ、」
「…?」
嗚呼そうだとも、俺は、こいつが――――
















2010/07/30


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