朽だら野にただひとり‐02 

 なおも追求してこようとするギーマさんを、まあまあ、とシキミさんが止めてくれた。

「それじゃあ、部屋で待ってますね!誰の部屋から挑戦するかはお任せしますから」

 シキミさんのその言葉を合図に、四天王の人達は、各々の部屋へと戻っていった。
 彼らの後ろ姿を、どこか夢見がちな気分で見送った後、ようやく銅像に刻まれた文字が目に入る。
 四天王の人達がそれぞれどこの部屋にいて、そんなタイプのポケモンを扱うかが刻まれていた。

 ゴースト、かくとう、あく、エスパー。
 シキミさん、レンブさん、ギーマさん、カトレアさん。

 琳太が有利なのは、ゴーストとエスパー。逆にかくとうは苦手だし、あくタイプは攻撃が通りづらい。ドラゴンタイプの技で攻めてもいいけれど、そうするよりは得意なタイプの攻略をしてもらいたい。

「うーん……」

 気がついたら、みんなのボールを放り投げていた。こういうことはみんなで考えた方がよさそうだ。

「琳太、九十九、はなちゃん、美遥でそれぞれ挑戦しようと思ってるんだけど、どうかな……」
「まあ順当に行くとそうなるわね……。でもアタシ、エスパーもあくタイプも得意よ?」
「あくならオレも得意っちゃけど」
「うっ……」

 九十九、はなちゃんは、四天王に対して弱点を突かれることもない代わりに、得意なタイプでもない。美遥はかくとうタイプに対して有利だけど、”よわき”が発動するとほぼ負ける。
 紡希は言わずもがな身体が弱くて長期戦には向かない。そもそも、できればバトルをしてほしくない。でも、本人は戦う気満々だから活躍させたい気持ちだってある。
 与壱はチャンピオンロードでのバトルを見る限り不安だ、ただ、四天王達相手なら、やり過ぎなくらいでも勝てるか分からないから、挑戦する分には申し分ない。彼が強いのは、この場の誰もが知っている。

「ここでバトルに出ない人、チャンピオンで絶対出してもらえるようにしたら?」

 天啓かと思った。
 全員が一斉に、九十九の顔を見る。

「おいら、おいら我慢する!チャンピオンやりたい!やりたーい!!」

 真っ先に美遥が手を挙げた。ぴょこぴょこ跳ねるモーション付き。
 おそらくチャンピオンは6体フルに戦うことになる。そうなると、どう考えても四天王に挑戦して、なおかつチャンピオンにも挑戦できる者も居るはずなのだが、美遥は目先の餌に吊られた。それとも、確実にバトルできる方を取ったのだろうか。
 それ以前に、四天王だけで挑戦が終わってしまう可能性もあるのだが。
 どこまで美遥が考えているのかは分からないが、これで1抜けだ。

「じゃあアタシも1抜けちゃおうかしら」
「いいの?」
「いいわよ。その代わり、四天王戦で負けたらまた輝くわよ」
「どういうこと?」

 意味が分からず首を傾げたが、その場の与壱以外の背筋が伸びた。わたしと琳太のいない間に、何かあったらしい。

「分かった。ぜってー勝つ」
「まあ言われんでも勝つけどなあ?」

 これで4人に絞られた。あとは誰に対して誰を出すかだ。
 ギーマさんには与壱で挑みたい。エスパーとゴーストは与壱が苦手とするタイプだし、かくとうとあくならあくタイプに挑んでもらった方がいい。
 残りは……。

「じゃあ、琳太がエスパー、与壱があく、九十九はゴーストで、はなちゃんがかくとう。これでいい?」
「おう。琳太と与壱は分かった。タイプ相性的にそうだな。でも、九十九と俺のはどうやって決めたんだ?」

 いや、反対するつもりはないけどな、とはなちゃんが付け加える。
 わたしにとってもそこの選択は、正直深い意味があってのことではない。ただ、なんとなく、そう、なんとなく。
 
「なんかこう、はなちゃんの方が肉弾戦のイメージある……」
「脳筋ってことかいなあ」
「あァ?」

 そういうつもりで選んだんじゃないんだけどなあ。
 今にも与壱につかみかかりそうな剣幕のはなちゃんを、まあまあ、と九十九がなだめる。

「じゃあ次はどこから行くか決めなきゃね」

 紡希がさりげなく話を逸らそうとしてくれた。;これを決めなければ勧めない話題なので、自然、みんなもその話題へと飛びつくことになる。
 紡希の気遣いに感謝しつつ、出場予定の4人それぞれの表情を見比べた。
 できれば与壱を一番に出したい。わたしはまだ、彼のバトルスタイルを把握しきれていないし、一番不安を抱えているからだ。何より、まだ彼とバトルをしてのは1回だけ。経験が圧倒的に少なくて、不慣れな部分が多すぎる。
 来たからにはどの四天王に挑んだって、全部勝たなきゃいけないわけだけれど、どうしても、与壱の順番が最後というのは心が落ち着かないと思ってしまった。
 
 とはいえ、いきなり与壱を出すのは……。
 まだ緊張が取れていない今、与壱の動きについていけるか分からない。緊張をほぐすためにも、一番手は与壱以外で行った方がいい。
 
「もしよかったら、一番手、ぼくがもらってもいいかな?」
「九十九が?」
「うん。僕、こういう緊張しちゃうやつ、早めに終わらせておきたいタイプなんだよね」

 リサさんや琳太達がよければ、と言いながら、九十九はみんなの顔を見回す。
 九十九ならわたしも安心だ。他に反対する者もいないようだし、九十九が一番手……つまり、はじめの相手はゴーストタイプの使い手、シキミさんということになった。
 おそらく九十九は、嫌いなものを初めに食べるタイプなんだろう。ちなみに、わたしは迷いに迷って途中で食べるタイプだ。

 続いて与壱、はなちゃん、琳太の順番で挑戦していくということで話がまとまる。
 一番手さえ決まれば、あとの順番はサクサク決められた。意外だったのは、与壱が自分から二番手に名乗りを上げたことくらいか。
 本人曰く、「あとの順番やったら誰かさんのもがき様を落ち着いて眺められんやんか」ということらしく。
 その”誰かさん”は、こめかみに血管を浮き立たせながらも無言だった。それはそれで恐いんだけど。

 そもそもこの話し合い、ここでやるべきじゃなかったと思う。行き当たりばったりに決めるんじゃなくて、ちゃんと、宿泊所とかで作戦を練るべきだったのでは。
 まあ、今回はそれどころではなかったので、この反省は次回に活かすとしよう。

「じゃあ、行こうか」

 わたしの言葉を聞いて、与壱以外がボールの中へと戻っていく。
 彼に残ってもらったのは、彼自身がボールに入りたがらないからというもあるが、九十九のバトルをしっかりと間近で見てほしかったからでもある。
 彼にもっとポケモンバトルのことを知ってほしい。かといって、言葉にするのは難しい。
 だから、お手本を見てもらうことで、少しでもポケモンバトルを知ってくれればいいと思った。



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