Remember XXX‐08 

かいつまんで事情を話したら、みんなとても複雑な表情をしていた。言いたいことはあるけれど、言ってはいけないような気がして引き結ばれた口元。あるいは、嫌そうにしながらも、否定しきれないでうつむいた目線。あるいは、不安げでどうしようもなく下がった眉毛。

「さっきも言ったけど、わたし、こっちでみんなと旅を続けたいって思ってるから」
「でも、タワーオブヘブンには行くんでしょ……?」
「うん、燐架さんにはお世話になってるから」

とりなすように言ってはみたものの、みんな不安そうな表情のままだ。わたしってそんなに信用できないんだろうか。ちょっとショックだ。

「お前、流されやすいからなあ」
「えっ」

心底信用していないといった目で、はなちゃんがかぶりを振った。別に自分のことを流されやすい性格だとは思っていないけれど、巻き込まれやすい質だとは思う。
というかわたしの周りに強引な人がいるだけなんじゃ……。泉雅さんとか泉雅さんとか。だめだ泉雅さんしか出て来ない。わたしが空間移動したのこの人のせいだから。
いや、鈴歌もだ。琳太たちからすれば、わたしは誘拐されたようなものだし。
そして今回の昏睡状態と来たら、みんなが過剰なくらい心配してくれるのも分かる気がする。ありがたいけれど、よく迷子になるちびっこを見るような目をするのはやめてほしい。こっちの世界だったらわたしはもう十分に大人扱いされていいはずだ。なんで琳太たちからも疑いの眼差しを向けられているんだ?

「ま、まあ、とにかくタワーオブヘブンには行く!そこで燐架さんにちゃんと言うから」

ほぼ押し切るような形で、わたしのお腹が鳴ったのをきっかけとして、少し強引に話を終わらせた。みんなはわたしが燐架さんに騙されてるんじゃないかって思っているのだろうか。彼女はそんな人……ポケモンじゃないと思う。あんまりよく聞けなかったけれど、わたしのお母さんのことも知っているみたいだし。わたしの親にとっては結構前からの知り合いなのかもしれない。もうちょっとちゃんと聞いておけばよかったかな。

「琳太、グラタン食べに行こ」
「ん!いく!」

琳太の手を取って歩きだすと、自然ともう片方の手に美遥の腕が絡みついた。一瞬びくりと身体が跳ねてしまったけれど、美遥は全く意に介さずひっついてくる。どうやら中身は進化前と変わらないようで、何とも言えない気分になる。
周囲の目を気にせざるを得ないのは事実だけれど、だからといって突っぱねてしまうのもかわいそうだ。
そんなわたしの心情を察したのか、はなちゃんはちらっと苦笑いしてから、大きな手でぐしゃぐしゃっと美遥の頭を掻き回した。

「な、何するんだよお!?」
「さっさと行って席取っとくぞ!座れなかったらみんな困るだろ」
「!」

わかった、良い席取る!と言って美遥は廊下を駆けていった。そのひょろっとした後ろ姿をはなちゃんが追いかける。九十九は追いかけようか、それともゆっくり行こうかと迷ってあたふたしていたが、そうこうしているうちに美遥たちの姿が廊下の角を曲がって消えてしまったからか、忙しなく動かしていた手をぱたりと降ろしてゆっくりと歩きだした。


久しぶりの食事、という実感はないのだけれども、温かいものが胃袋に染み渡っていく感覚がしていたから、きっと身体は欲していたのだろう。食べ出してからお腹が空いていることに気付いたわたしは、追加注文をしてみんなをびっくりさせてしまった。
でも、そんなわたしよりも食欲を発揮していたのは美遥だった。とにかくまあよく食べる。その細い身体のどこに入っていくのかというくらい、するすると皿の上に乗ったものを片付けていくのだ。

「美遥、よく食べるね」
「ん〜……食べても食べても足りないぞお……」

もごもごとピザを飲み込みながら、美遥は追加で注文していた熱々のペペロンチーノに手を伸ばした。

「進化したての頃は、進化にエネルギーを使いすぎてこういうことになる可能性もあるって聞いたことある」
「えっと、つまり成長期……?」
「そんな感じかな」

九十九が研究室で聞きかじっていた知識の中にそういうものがあったらしい。それを聞いて安心した。この食欲がずっと続くようであれば、とてもわたしのお金じゃ賄えない。とはいえ、ポケモンフードはいつもより少し多めに買っておこう。




back/しおりを挟む
- ナノ -