リバース・リバース‐05 

ヤーコンさんの初手はワルビル。メグロコが二足歩行したような容姿で、進化形なのだろう。ヤーコンさんの真似をしているのか、どっしりと構えて腕組みをしている。
対して美遥はちょろちょろと動いて、今にも飛び出していきそうだった。

もう一度、旗が振られる。試合開始の合図だ。

「美遥、でんこうせっか!」

こちらの方が素早い。美遥は耐久力がないから、すぐ決めてしまうに限る。
一直線に突っ込んでいく美遥を前にしても、ワルビルは仁王立ちのままヤーコンさんの指示を待っていた。一度受け止めるつもりなのだろうか。突っ込んだままにするのではなく、当てたら引いた方がいいだろう。あの体格差だ、接近戦では勝てる気がしない。

「美遥、決めたらいったん引いて!」
「ワルビル、いばれ!」

ワルビルのお腹にでんこうせっかを決めた美遥が瞬時に後退る。踏みとどまったワルビルは、その隙を逃さず鼻を鳴らし、口角を吊り上げた。ヤーコンさんに似ている、と思ったがのんきなことを考えている場合ではない。

たちまち美遥は怒りだしたものの、怒りの矛先を向けようとするにはあまりに足元がおぼつかなかった。はなちゃんが混乱していた時とそっくりの状態だ。

「美遥、一度戻って!」
『い、やだ!』

わたしの声は聞こえているらしい。しかしふらふらと千鳥足の美遥は嫌がっていて、ボールの赤い光が当たらない。そうこうしているうちに、美遥がふらっとワルビルの目の前に飛び出してしまった。

「何だ、お前たちなんざそんなものか。ワルビル、かみくだけ!」
「美遥!!」

無防備な美遥の胴体に、容赦なくワルビルの牙が食い込んだ。ワルビルの強靭な顎が再び開かれたとき、もう美遥の身体はくったりと地に伏していた。

「アーケン、戦闘不能!」

ようやく美遥をボールに戻すことが出来た。望まない形で。入れ替わりに、少し震える手でダークボールを放り投げた。

「モノズ対ワルビル、試合開始!」
「琳太、りゅうのはどう!」

ワルビルを近づけさせたらダメだ。接近戦ではあの顎に捕らえられてしまう。青白い閃光はワルビルが動いたことにより、クリーンヒットとはいかなかったようだ。それでも足元を掬うには十分だった。

「ふるいたてて、りゅうのいぶき!」
「踏みとどまれ、じならしだ!」

よろけたワルビルが、次に踏み出す一歩で足を大きく地面に打ち付けた。毛並みを逆立てて牙を剥き、口を開けた琳太が、りゅうのいぶきを吐き出す前にじならしをもろに受け、転ぶ。

琳太が体勢を立て直したときには、もうワルビルも腕組みをして最初と同じように仁王立ちだった。振出しに戻った、ということになる。

「ワルビル、もう一度じならしだ!」

向こうも接近戦を避けるつもりでいるのだろうか。しかし、じならしをされていては、不安定な足場のため琳太が踏ん張れず、思うように動けない。となると、相手の思惑は接近戦、になるのだろう。そうするしかなさそうだ。琳太も直接攻撃の方が得意みたいだから、接近戦で頑張ってもらおう。
とりあえずは、相手のじならしを止めなければ。

「琳太、ほえる!」
『ん!』

地面の鳴動に負けないよう、勇ましく声をあげた琳太。ワルビルはぴたっと動きを止めて、赤い光となって吸い込まれていった。……え?

ヤーコンさんがボールを手にしていた気配もないのに、ひとりでにワルビルは戻っていったのだ。古代の城ではこんなこと、なかったのだけれど……。

ワルビルと入れ替わりで登場したポケモンもまた、ひとりでに現れてフィールドを踏みしめた。事情はわからないが、きっとほえるという技にはこういう効果もあるのだろう。

飛びだしてきたポケモンは、ジムトレーナーも繰り出してきていたガマガル。戦ったことがある相手奈文、先ほどよりも落ち着くことが出来た。とはいえジムリーダーのポケモンなのだから、ジムトレーナーのように一筋縄ではいかないだろう。

「ガマガル、アクアリングだ」

水のリングが幾重にも現れてガマガルを包み込む。その間に琳太はどうにか体勢を立て直すことが出来た。

「りゅうのはどう!」
「だくりゅう!」

濁った水流が大量に琳太へと押し寄せる。泥の匂いがここまで伝わってきた。りゅうのはどうは広範囲に広がっているだくりゅうとぶつかり、閃光の軌跡分だけ一直線に水流を貫き通した。
ガマガルに技が綺麗に当たった。吹き飛ばされたガマガルは、よろよろと立ち上がる。

「りゅうのいぶき!」
「じならしだ!」

たたみかけることをヤーコンさんは許さない。たちまち琳太はバランスを崩し、一方でガマガルは体勢を立て直した。持久戦に持ち込むつもりなのだろうか。アクアリングという技の効果のせいか、心なしかガマガルは技を当てた直後よりも回復しているように見えた。

こちらには回復技がない。持久戦に持ち込まれてしまう前に、一気に決めてしまわなければ。

「じならしでモノズを近づけるな!」
「っ、飛んで!」

短い脚で思いっきり跳躍した琳太は、ガマガルの頭上を取った。

「ドラゴンダイブ!」
「だくりゅう!」

小さな身体が不透明な津波に飲まれて掻き消えた。




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