リバース・リバース‐02 

じっとしていればすぐさま凍り付いてしまいそうな冷凍コンテナでは、氷タイプを苦手とする琳太と美遥はお留守番だ。基本的には九十九と、それからはなちゃんに頑張ってもらうしかない。

相手の方が長く冷凍コンテナの中にいたせいか、わたしたちよりも断然動きが鈍い。
・・・・・・そういうわけで、数で押してきたはずのプラズマ団は、割とあっという間に片付いてしまった。中には、こんなに寒くて震えていたら勝てるわけない、と愚痴っている男がいたが、本当にその通りだと思う。長居はしたくない。本当に血流が止まってしまいそうなのだ。
あとからやって来たヤーコンさんたちによってプラズマ団はあえなくお縄となった。
次々に連れ出されていくプラズマ団たちを尻目に、ヤーコンさんがわたしたちの方を向き、フンと鼻を鳴らした。

「お前たち、ちょっとはやるな。約束通り、オレさまのジムで待っているぞ!」

もしかしてヤーコンさんは、このコンテナの外からわたしたちが戦う様子を見ていたのだろうか。登場したタイミングを振り返ってみると、そんな気がしてきた。しかしそれを聞く勇気はなかったし、ヤーコンさんもさっさと外へ出ていってしまった。

「は、早く出よう……凍え、ちゃう……」
「ああ、そうしよう」

足早に冷凍コンテナを抜けると、生温かい空気に包まれた。身体が熱で溶けていきそうなくらいだ。少しそこで体をほぐしてから、チェレンと一緒にポケモンセンターへと向かった。

「プラズマ団の理想は、ポケモンと人が離ればなれになることだけど、それって、この世界からポケモンがいなくなることと同じじゃないか……」
「そう、だね」

ポケモンが、この世界からいなくなる。それはつまり、わたしの身体が半分なくなってしまうようなものだ。手足が人で、右眼がポケモンで、だなんて分けることは出来ないけれど、この白黒はっきりつかない身体もきっと、ポケモンがいなくなってしまえば、半身を失ってしまったかのように嘆くだろう。身を引き裂かれるような悲しみが、そこにはある。

ポケモンセンターで部屋を借りてからも、もしもポケモンがいなかったら、という思いが頭から離れない。生まれてからずっと、ポケモンがいないことが当たり前だったのに、いつの間にか、わたしは“ポケモンがいること”の方を当たり前だと思うようになっていた。

「リサ、ごはん!」
「……!そうだね、お腹すいたね!」
「ん!」

琳太がいきなりわたしの顔を覗きこんできて、どきっとした。マゼンタ色の瞳が、ソファーに座っているわたしにとっては逆光で、仄暗くぎらついて見えたのだ。
琳太が両手を差し出してきたので、それに応えるように手を重ねて、立ち上がる。自然と片方の手を琳太と繋げば、空いた方の手を、美遥がぎゅっと握った。

毎日、ずっと、こうなのだ。だから、これが当たり前じゃない、だなんて言えるわけがない。琳太がいて、九十九がいて、はなちゃん、美遥、それからそれから……。

「今日は何食べようかな」
「グラタン!」
「琳太それ昨日も食べたでしょ」
「じゃあドリア」
「いや変わんねーよ」
「変わるもん!」

はなちゃんのツッコミもむなしく琳太はドリアを注文することとなった。あのとろけて伸びるチーズがたまらないらしい。初めて食べたときは感動しきりで、3食グラタンでもいいと言っていたくらいだった。というか、琳太が好きなのは熱々のよく伸びるチーズなのだけれども。今度機会があれば、チーズフォンデュをするのもいいかもしれない。ああいうのはみんなでやった方が楽しいし。

「ヤーコンさんって何タイプの使い手なんだろう……?」

箸を止めて考える。冷凍コンテナがあるから氷タイプの使い手かとも思ったが、それなら真っ先にプラズマ団を片付けてそうだから違う気がする。

「ジム、あした行くの?おいら出たい!」
「う、うん、とりあえずヤーコンさんがどんなポケモンを使うか見てからね」

食後にポケモンセンターのロビーでポケモンジャーナルを広げてみると、ヤーコンさんは地面タイプの使い手だった。

「えっと、地面タイプだから九十九に頑張ってもらおう、かな」
「うん、やってみる……」
「今日も頑張ってもらったのにごめんね、大丈夫?」
「そんなに疲れなかったから、大丈夫だよ」

そう言って笑う九十九の顔が、何故だかぐっと大人びて見えた。どこがと言われると困るのだけれど、雰囲気に余裕みたいなものが感じられる。ミジュマルだった頃に感じていた、びくびくと周りの視線を避けているような印象がどこにもないのだ。進化してから一気にその変化が訪れたのではなく、段々、少しずつ、大人になっていったような……。

立ち居振る舞いも琳太や美遥の面倒を見るものになっていて、わたしのこともよく気にかけてくれている。周りに干渉しようとしなかった彼が、すっかり“お兄さん”の顔になっていた。

「……リサさん?」
「!」

結構長いこともの思いにふけっていたらしい。ちょっと困った顔をした九十九が、わたしのことを見ていた。どうやらじっと見つめてしまっていたようだ。急に恥ずかしくなって、誤魔化すために琳太をぎゅっと抱きしめて顔を隠した。

「あー!おいらも!おいらも!」
「よーし美遥もおいでー!」

夜なので静かにしてください、とジョーイさんから注意されるまで、わたしはずっとそうしていた。九十九からの視線は感じていたけれど、何だかもう、九十九の方を向いてはいけないような気がしていた。




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