サルニエンシスの剣‐04 

Nと向かい合って、観覧車の一室に腰掛ける。外の景色なんて見ている場合じゃない。観覧車に関してはあとからリベンジするとして、今は目の前のことを考えよう。

「ボクがプラズマ団の王様。ゲーチスに頼まれ、一緒にポケモンを救うんだよ」

そう思った矢先、わたしの出鼻をくじくように、Nが爆弾を投下する。
……Nは、プラズマ団の王様?つまり、プラズマ団を率いているのは、N?今まで彼がプラズマ団の団員を従えているのを見たことはない。けれど、よくよく思い返してみれば、プラズマ団の主張と、Nの言っていたことは、良く似通っている。それどころか、全く同じ方向を向いている。

人間からポケモンを開放せよ。それが彼らの共通した目標だ。プラズマ団やゲーチスほど表立って過激ではないけれども、Nにだって同じ考えが染みついている。
わたしには、彼らに反抗できるほどの刃がない。この世界にとってはほぼ異物に等しい存在で、ポケモンへの理解だって未熟で、不十分で、浅い。

けれど、反論の言の葉を紡ぐことは出来ずとも、わたしは彼らの主張には賛成しかねるのだ。だって、彼らの主張がまかり通ってしまったら。わたしとサツキの存在意義が、なくなってしまう。お父さんとお母さんが、わたしたちを必死に守り育ててきた時間が、泡となって消えていってしまう。そこにあった温もりも愛情も、何もかも。
それだけは、わたしにとって譲れないものだった。

Nだって、ポケモンの言葉がわかるというのなら。きっと、人間のことを好いているポケモンの声だって、聞くことが出来るだろうに。


ゆっくりゆっくり、無言の空間を乗せた観覧車は空に弧を描き、やがてわたしたちは地上へと降り立った。

慌ただしい足音がしたかと思えば、先ほどのプラズマ団の男たちが駆け寄ってくる。ッ彼らがNを気遣うような発言をしている様子からして、Nは、本当にプラズマ団の頂点に君臨しているのだと思わざるをえなかった。そう思ってしまったのは、Nを敵だと思いたくなかったからなのかもしれない。

「さて、リサ。ボクの考え、わかるかい?」
「……」
「またキミは迷っているんだね……。まあいいさ、キミにはボクの相手をしてもらうよ」

プラズマ団の男たちが逃げるための時間稼ぎのつもりなのだろう。有無を言わさずNはモンスターボールを放り投げてきた。
背中に視線を感じつつも、琳太に出てもらう。がたがたと揺れている美遥のボールをぐっと握りしめた。
こんな人の多い場所で、と思ったけれど、観覧車の周りには、不思議と人がいない。まとわりつく何かを振り払うように、声を張り上げた。

「琳太、りゅうのはどう!」

Nの繰り出したメグロコが噛みついてくる前に、琳太が青白い光線を放つ。メグロコは少し震えて、立ち上がりかけたものの、力尽きてボールに吸い込まれていった。

「ボクはキミに勝てない」

予言めいた発言をしたNは、とても冗談を言っているようには見えない。彼が冗談を言うところなど見たことはないし、そんな性格でもないだろう。わたしを油断させようとしてわざと言ったような風でもない。となると、彼には本当に、未来が見えているのだろうか。
2戦、3戦とこちらが有利なまま順調にバトルは進み、最後にNが繰り出してきたのはシンボラー。一瞬どきっとしたけれど、わたしたちを助けてくれたあのシンボラーではなかった。

ずっとうるさかった美遥のボールが静かになったあたり、美遥としては戦いづらい相手だったのかもしれないけれど。

「琳太、お疲れさま。はなちゃん、よろしくね」
『ああ』

連戦で疲労がたまっているであろう琳太を休ませて、飛行タイプに有利なはなちゃんを出す。
いつもなら気合十分にたてがみから火花を散らすはなちゃんだけれども、今回はおとなしくそこに立っていた。テンション低いのかな。

「シンボラー、サイケこうせん!」
「はなちゃん、かわしてスパーク!」

空から放たれる不気味な色をしたサイケこうせんをかわし、はなちゃんが自慢の脚力でシンボラーに肉薄する。……けれど、はなちゃんは体当たりを食らわせただけで再び地上へと舞い戻ってきてしまった。

「はなちゃん……?」
『俺も混乱してる。クソッ、何だこれ』

もしかして、シンボラーのサイケこうせんが掠っていたのだろうか。そのせいで……いや、サイケこうせんの効果で電撃が封じられてしまうようなことって、あるの?
Nもシンボラーも疑問が解消するまで待ってはくれない。次から次へと畳みかけてくる。
それに対して避けてとしか言えないことを、歯がゆく思っているのは、わたしもはなちゃんも一緒だ。

「はなちゃん、ニトロチャージ!」

もしかして、と思い試しに叫んでみる。すると、またたく間にはなちゃんは炎の渦をまとい、シンボラーへと突進していった。炎は、大丈夫。使えるみたいだ。しかし、シンボラーはひらりひらりと上空へ。これでは近距離戦に持ち込めない。

『リサ、仕方ねえ!もう一回だ!』
「う、うん。はなちゃん、でんげきは!」

はなちゃんが遠距離でも攻撃できるといったら、電気技しかない。一度目は失敗したけれど、次こそは。見守るわたしの目の前で、目を焼く特大の閃光が弾け散った。




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