サルニエンシスの剣‐01
朝というには少し遅い時間帯。ライモンシティはヒウンシティに負けないくらい人が多くて、華やかににぎわう街だった。ヒウンシティがビジネス街なら、ライモンシティは遊戯施設の多い、遊べる街と言ったところだろうか。
支度を整えて、いざライモン観光!と出かけたのはいいのだけれど、すぐにそれどころではなくなってしまった。
「おーい、リサ!」
「えっ?」
遠くう、人混みの奥から手を振っていたのは、サツキだった。わたしがヒウンシティにいた頃には、カノコタウンに帰っていたはずだけれど……。神出鬼没、の4文字が頭に浮かんだ。互いに駆け寄って、久しぶりだねとあいさつを交わす。
「久しぶり、英」
「お、おう」
サツキに名前を呼ばれるとそわそわするのか、はなちゃんはふいっと視線をそらしてしまった。わたしに出会って仲間になってくれるまでは、ずっと名も無きシママだったから、気恥ずかしいのかもしれない。そうやってうろたえ気味のはなちゃんを見られるのは珍しいのだけれど、すぐに気づかれてじろじろ見るなと怒られてしまった。でもこれはきっと、照れ隠しだな。
「久しぶりだしゆっくり話したい……ところなんだけど、ちょっとトラブルがあってね。おじいさんとはぐれちゃったんだ」
サツキは育て屋のおじいさんと一緒にライモンシティまでやって来ていたのだという。けれど、育て屋周辺のサンヨウシティやシッポウシティとはちがってこの街は、人も多く、道も入り組んでいる。街で用事を済ませた帰りに、運悪く人混みに流されてはぐれてしまったのだ。
「僕はおじいさんのボディーガードだからね……はぐれるとまずいんだけれど」
手分けして探そうということになり、ライブキャスターを持っているわたしとサツキがまず別れ、それぞれに琳太と美遥、はなちゃんと九十九がつくかたちになった。
「何かあったらすぐ連絡すること。こっちまで迷子になったらシャレにならないからね」
「うん、サツキも気を付けて!」
不慣れな景色の広がる街中を、足早に進む。
サツキはポケモンセンターのあたりではぐれたと言っていたから、まだそこまで遠くに入っていないはずだ。
「琳太、見つけたら教えてね」
「ん!」
「リサ、リサ、おいらは?おいらは何したらいい?」
「美遥は……そうだなあ、」
美遥はおじいさんの顔を知らない。おじいさんの顔写真を持っているわけではないし……。そういえば、服装を聞くのを忘れていた。これじゃあ顔を知ってるわたしでも探しにくい。
「美遥は、変な人がいたら教えて?立ち止まっている人とか、同じ場所をうろうろしている人とか」
「それだったら、あそこにいる人たち、ずっと立ち止まったまんまだぞ?」
美遥の小判型の瞳孔が映す先を見ると、確かに3人ほどの大人が立ち止まっている。向かい合って話しているようなそぶりだが、何をしているのだろう。おじいさんではないけれど、もしかしたら何か、話くらいは聞けるかもしれない。
そうして近づいたとき、わたしの眉間にぐっとしわが寄ったのを感じた。
「おじいさん!」
「あ?何だぁお前?」
そこにいたのはプラズマ団の男が2人と、彼らに囲まれたおじいさんだった。ほとほと困り果てた、といった風のおじいさんは、わたしの顔を見てすぐに気づいてくれたようだった。
「おお、リサちゃんじゃないか!」
育て屋のおじいさんだということで顔が割れているらしく、育てているポケモンを寄越せと脅されていたらしい。話の通じる相手ではないとはいえ、おじいさんはサツキ以外にポケモンを連れてきていなかったから、追い払おうにもそれもできなくて困っていた、という状況なのは、何となく察することが出来た。
プラズマ団の男たちはわたしが横槍を入れてきたのを邪魔に思ったようで、さっそくモンスターボールを放り投げてきた。2対1になってしまうが仕方ない。
「琳太、美遥、よろしくね」
「ちょっと待ったー!」
後ろから声がして、第2の介入者がやって来た。サツキたちだ。何のためのライブキャスターだとはなちゃんに小突かれる。ごもっともです。
「2対1ってのはちょっとねえ。というわけで、ね!」
わたしの隣に並んだサツキが、意味ありげな目配せを寄越した先は、はなちゃん。
一拍おいてその意味を察したはなちゃんは、思いっきり顔をしかめた。
「はあ!?お前の指示で戦うなんてぜってー嫌だからな!」
「そう言うと思ったよ。九十九、お願いしてもいい?」
「ぼ、ぼくで良ければ……!」
「よし。リサ、いくよ」
もしかしなくてもこれは、わたしとサツキのダブルバトルということになるのだろうか。
サツキはあくまでも指示を出す方に徹するようで、原型に戻った九十九と一緒にわたしのことを待っている。
「えーと、じゃあ、」
「おいらやる!やりたいぞ!」
「うん、美遥にお願いしようかな」
張り切って元気いっぱいの美遥を見たら、うなずかざるを得ない。事後承諾になってしまうけれど、と琳太の方を見れば、がんばってと言ってくれた。お言葉に甘えて、ここは美遥とがんばることにしよう。
「いけ、ミルホッグ!」
「ヤブクロン、いってこい!」
原型の姿をとった美遥が、ちらりとわたしを振り返る。
『リサ、そこにいる?』
「え?うん、ここにいるよ」
『そっか』
わたしの返事を聞いて、美遥がほっとしたのはなぜなのかを知ることは出来なかった。
もう、バトルが始まってしまったから。小さな翼を振り回して、美遥は力いっぱい駆けだした。
『どこにも行かないでね』
そうぽつりと言い残して。
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