さよなら那歩島



温かいな。誰かに抱き抱えられている・・・?
誰だろう。

「ん・・・お、オールマイト・・・」
「緑谷少女・・・来るのが遅くなった・・・」

私を抱き起しているのは敬愛してやまない師匠、オールマイトだった。なんでここに?オールマイトの頭上には戦闘機が見える。確か私は那歩島でかっちゃんと共に敵と戦っていたはず。その証拠に手が酷く痛んで動かすこともままならない。

「か、かっちゃんは・・・?」
「・・・君はいつでも人の心配を先にするな・・・。ボロボロだが、大丈夫。命の心配はない」
「良かった・・・。かっちゃんにすごく無理を、させたから・・・」
「爆豪少年に?」
「・・・オールマイト・・・」

良かった。かっちゃん無事だったんだ。安堵のため息を洩らした。
あと、それから・・・ワン・フォー・オールをかっちゃんに譲渡したんだった・・・
言わなきゃ、オールマイトに。なんて言われるだろう。少しだけ怖い。
キュッと震える唇を噛んだ。

「じょ、譲渡したんです・・・ワン・フォー・オールをかっちゃんに・・・」
「ワン・フォー・オールを!?」
「二つのワン・フォー・オールを使わないと・・・そうしないと、島の人たちを守れなかった・・・敵を倒せなかった・・・だから、かっちゃんに譲渡したこと、これっぽっちも後悔・・・してません・・・でも・・・」

後悔は微塵もしていない。だけど、せっかく憧れのオールマイト直々に後継者に選んでもらったのに応えられなかった。悲しくて悔しい。涙でオールマイトが黄色く滲んでいく。

「ごめんなさい・・・せっかく後継者に選んでくれたのに、ヒーローになれるって言ってくれたのに・・・。でも私は、どうしても、みんなを守りたくて・・・うぅっ」
「緑谷少女・・・・・・」
「ごめんなさい、オールマイト・・・本当にごめんなさい。でも、わた、し・・・」

なんだかまた意識が遠のいていく。目に溜まった涙が一筋頬を伝って落ちていくのをオールマイトは指で掬い取ってくれているのを感じながら再び目を閉じた。

ああ、オールマイトの弟子になれて幸せだったな・・・


それから数時間後、私は那歩島のヒーロー事務所の布団の中で目が覚めた。活真くんや島のお医者さん、救助にきてくれたリカバリーガールによって治療されていたのだ。隣の布団にはかっちゃんの姿があった。かっちゃんは未だ目が目が覚めておらず、活真くんが必死に治療にあたっているらしい。私は痛む体を無理矢理起こしてかっちゃんに近寄った。
寝ているかっちゃん。その腕は痛々しいほどに怪我をしている。ワン・フォー・オールを譲渡したせいだ。
ん・・・?あれ、消えたはずのワン・フォー・オールの炎の揺らぎが身体の中にあるのを感じる。どうして?かっちゃんに譲渡したはずでは・・・
いつの間にか隣にやってきたオールマイトが私の肩をポンと乗せ、声をひそめて言った。

「緑谷少女・・・君はワン・フォー・オールを正しく使ったんだ。だから奇跡が起こった。命を懸けて守ろうとした者と、命を懸けて勝とうとした者に、ワン・フォー・オールが奇跡を与えてくれたんだ」
「え・・・?」

ワン・フォー・オールを発動させると、それは残り火なんかではなく、私の中で煌々と燃え盛っている。全身に力がみなぎっていく。何故だか分からないが譲渡したはずのワン・フォー・オールは私の中に残っていた。

「歴代継承者の皆様に感謝だな」
「は、はいっ!」
「緑谷少女、泣き虫は早く卒業しないと」
「う・・・そんな泣いてません!」

笑い合う私たちの隣でかっちゃんが叫び声を上げた。びっくりして振り返ると、両手を広げて痛みを訴えている。起きた瞬間からこんな叫ぶことができるなんてタフネスだ。

「いってぇぇぇぇぇええ!!どうなってんだこりゃあ!?」
「あ、かっちゃん!!!」
「てめ、なに笑っとんだ!」

笑ってるつもりはなかったけど、かっちゃんにそう言われて緩んだ口元をキュッと結んだ。そして、かっちゃんは手を目の間に伸ばして自分の手をジッと見ている。

「クッソ・・・訳分からん。なんで腕がこんなことなっとんだ!」
「かっちゃん、ほんとに何にも覚えてないの?」
「あ゛?何の話だよ」
「ほんとに何にも・・・?え、もしかして、私のことも忘れちゃった?」
「てめェのそのアホ面忘れるわけねーだろ」
「そっか・・・ごめんね、かっちゃん。無理させて」

膝に乗せた私の手にかっちゃんの包帯だらけの手が重なる。顔をあげると、かっちゃんが頬をつまんできた。痛くてたまらないはずなのに無理して動かしている。

「なまえそんな面すんな。俺ァ無理なんざしてねーんだよ」
「うっ、うん」
「だから泣くなっつってんだろ」
「だって・・・」
「なまえも怪我してンだろ。俺の心配よりてめェの心配しとけ」

かっちゃんは私と共闘したことは覚えていたけど、ワン・フォー・オールの譲渡のことは何も覚えていなかった。オールマイトの言う通り、歴代継承者の皆さんが力を貸してくれたんだろう。だってそうじゃなければ説明がつかない。

そのあと、リカバリーガールがやってきてかっちゃんに治療を施してくれた。唇をつけて治癒するのだが、それははたから見ればほっぺにチューしているようにしか見えない。真幌ちゃんは初めて見るリカバリーガールの個性に、キャーと黄色い悲鳴をあげてて両手で顔を覆いながらもしっかりと見ていた。
確かに子供には刺激が強いかも。私はソファに座ってその様子を見ていた。私のところには活真くんがいて一生懸命治癒を続けてくれている。活真くんと目が合って微笑み合った。

それから敵はどうなったかというと、全員拘束されて、警察に引き渡された。だけどリーダー格の男の敵だけは見つからなかった。逃げたのかどうかも分かっていない。
島の人たちは全員守ることができたが、敵との攻防によって島のあちこちの建物が半壊、全壊状態で、被害は相当なものだった。復興にはかなり時間がかかるという。ヒーロー公安委員会は那歩島での"ヒーロー科生徒による、プロヒーロー不在地区での実務的ヒーロー活動推奨プロジェクト"の中止を決定した。しかし、那歩島の復興作業を手伝うため期日まで続行させて欲しいと私たちは相澤先生やオールマイトに嘆願した。先生たちの口添えがあったからか公安委員会は渋々ながらも了承してくれた。期日満了までは那歩島に残れることになったと気怠げに言う相澤先生を前に、皆手を取り合って喜んだ。

私とかっちゃんは重傷だったから、皆より少し遅れて復興作業に参加することとなった。
島の人たちと共に、奮起して少しずつ瓦礫を退けたり、新しい建物の基礎を作ったり、畑を一から作り直したりと忙しい日々に追われた。復興作業を手伝ううちに、最初は落胆していた島民たちにも笑顔が戻り、私たちも全力でサポートをさせてもらった。

皆で炊き出しすることもあったのだが、私は米を炊く担当にされてしまった。以前より包丁捌きは上達してはいるが時間がかかってしまうためだと、私は信じている。決して料理が下手だからではない・・・はず。

かっちゃんはというと珍しく文句も言わずに働いていた。島の人たちを守るためとは言え、自分も島を壊してしまったっていうのもあるのかもしれない。
かっちゃんは一日の仕事を終えてヒーロー事務所に戻ってくると、私を捕らえて夜のパトロールという名のお散歩にでかけるのが日課になっていた。
それを見ていたらしい真幌ちゃんに「ヒーロー名とバクゴーのはお付き合いしてるの?」と大真面目な顔で聞かれた。突然の質問に驚いて私はかっちゃんの方を向いて固まってしまった。我に帰って慌てて真幌ちゃんの両肩に手を置く。

「ま、真幌ちゃん!?え!?なんで!?」
「バクゴーはヒーロー名に惚れてるって島の皆が言ってた」
「え、島の人たちがそんなことを!?」

私は長年気がつかなかったのに、島の人たちはこの短期間で気づいていて驚きを隠せない。

「ヒーロー名も、バクゴーのこと好きなんだよね?」
「う、うん、そうだね、好きだよ。でも内緒にしててね?恥ずかしいから・・・」

真幌ちゃんは頬を染めて緩んだ口元を手で隠しながら頷いた。こういうことに興味あるなんて、さすが女の子だな。
すると突然後ろから首に手を回されて、ヘッドロックされた。

「!?」
「おい、なまえいくぞ。マセガキは寝てろ」

かっちゃんに引きずられてながらヒーロー事務所を出てパトロールに向かう私に、真幌ちゃんが手を振っているのが見えた。

そして、あっという間に数週間が経ちプロジェクト終了の日が訪れた。私たち雄英高校ヒーロー科1年A組は早朝に事務所を出た。制服に身を包んでフェリーに乗り込んだ。復興に手を取られている島の人たちの邪魔はできないから何も言わずに島を発つことにしようと昨日のミーティングで決まった。
だから朝一番に、公安委員会が用意したフェリーに乗ることになっていたのだ。

フェリーの一番上のデッキで、柵に背を預けて立っているかっちゃんを見つけて駆け寄った。

「この島ともお別れだね」
「清々するわ」

汽笛が鳴って船が港をゆっくり出て行く。

「あのガキどもに挨拶せんでいいんかよ?」
「言ってあげたいことはあったけど・・・でもいいの。きっと伝わってるはずだから・・・」

その時、港から声が聞こえてきた。

「「おーい!おーーーい!!!」」
「ヒーロー名姉ちゃーーーん!」
「バクゴー!」
「「みんなーー!!」」

手を振りながらフェリーを追いかける活真くんと真幌ちゃんが見えた。近くに二人のお父さんが車のそばに立っている。港まで二人を連れて来てくれたんだ。デッキの柵から身を乗り出すように下を見ると、かっちゃんも振り返った。

「島の人たちを!」
「守ってくれて!」
「「ありがとーー!!!!!」」
「ヒーロー名姉ちゃん!僕、強くなるね!お父さんとお姉ちゃんを守れるくらい強くなるから!そしてヒーロー名姉ちゃんやバクゴーさんみたいな、かっこいいヒーローに絶対なってみせる!」

私の思いはちゃんと活真くんに伝わっていたんだと胸が熱くなった。

「・・・その言葉ァ忘れんな、クソガキ!」
「活真くーん!君は・・・君は、ヒーローになれる!」

その言葉に活真くんの顔つきが変わった。私もオールマイトからもらった言葉で人生がガラリと変わったんだ。次は活真くんの番だ。
夢を叶えてほしい。活真くんなら強くて優しい、そんなヒーローになれると思うから。

「雄英で待ってる!」

私は大きく手を振り返した。

きっとまたいつか会える。
また会うその日まで私はもっともっと強くなってオールマイトみたいになるんだと決意を新たにした。

登ってくる朝日に照らされながら二人が見えなくなるまで手を振り続けた。


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