二人のワンフォーオール



雲間から薄らと差し込みはじめた朝日に照らされながら幼い姉弟や島の人たちを敵から必ず守ってみせると固く誓った。奴らはきっと来る。
城上の山頂から、八百万さんが創り出した単眼鏡を覗いていた障子くんが「来たぞ、三人。予想ルートを固まって歩いてる」と声を上げた。
活真くんを庇うように真幌ちゃんが動いた。私はその二人を守るように前に立った。
敵は私たちの狙い通り、島から城跡地へと続く細い道を三人固まって歩いてこちらへ向かっている。複数の個性を操る敵のリーダー格の男には仲間があと二人いる。髪を操る個性をもつ女の敵と、獣の能力を操る個性の男の敵だ。その情報を手にしている分私たちは、ほんの少しだけ有利なのかもしれない。

麓で待機する、八百万さんと青山くんが先制攻撃をしかける。青山くんのネビルレーザーが眩く光っているのが遠くからでもわかる。
敵の二人が左右に飛んで避けているが、敵の頭である男は空気の壁をつくりレーザーを防いでいるようだ。
とどめに八百万さんの二つの大砲から砲弾が飛び出す。砲弾は左右の地面に着弾した。獣型の敵は避けるために、崖から飛び降りていった。女の敵は、どこを狙ってるんだとばかりに嘲笑を浮かべるが、全て作戦通りだ。その地面は前もって芦戸さんの酸で崩壊するように細工してあるのだ。
敵の二人を上手く分断することができた。二人の敵は、それぞれチームを組んで交戦する手筈になっている。きっと、皆上手くやってくれるはず。

あとは正面にいる敵のリーダー格の男に個性を使わせて消耗させていくだけ。
お茶子ちゃんが浮かせた岩に瀬呂くんのテープがついている。これで接近することなく戦うことができるのだ。二人のチームアップは遠距離戦に向いている。
二人は巧みに距離をとって攻撃できているのだが、敵の爪弾によってあしらわれ続けている。お茶子ちゃんは、個性を使いすぎると気持ち悪くなって吐いてしまうのだが、迫り上がってくる吐き気に耐えながら無数の岩を落下させている。
がんばれ瀬呂くん、お茶子ちゃん!
私は無意識に手を握りしめていた。
渾身の一撃だったのに、敵には少しもダメージを与えられていないようだと障子くんが言った。お茶子ちゃんを抱えて移動する瀬呂くんは敵の攻撃をかわしながら、本命である大岩をせき止めている木の柵の下へと移動していく。
最後の力を振り絞って木の柵を無重力化させて取り除く。せき止めるものが無くなった大岩が雪崩のように勢いよく坂を転がって敵を飲み込んでいく。峰田くんがもぎもぎを投げ込んで大岩同士をくっつけて一塊の巨大な岩山となった。これで敵を押さえ込む作戦だった。ダメだったとしても足止めにはなるだろう。
しかし、その考えは甘かった。岩山の隙間から光が漏れ出して、地震のような衝撃波とともに岩が吹き飛んだのだ。

「本命が防がれた!」
「敵が麗日たちに接近!」

第二段階も防がれた。
青山くんや八百万さんも加勢するが、吹っ飛ばされてしまう。皆がやられてしまう。そう思った時、聞き慣れた爆発音が麓の方で聞こえた。ハッと周りを見渡すと、近くにいたはずのかっちゃんの姿がなくなっていることに気がついた。
単眼鏡で戦闘を伝えてくれている障子くんが再び声をあげた。

「爆豪が戦闘に参加!」

それを聞いて私も飛び出した。

「緑谷!?」
「活真くんたちをお願い!」
「ヒーロー名姉ちゃん・・・」

私は飛び出して落下していく最中、ワン・フォー・オールを身に纏うように身体に行き渡らせる。昨日二人で戦ってもボロボロになったんだ。かっちゃん一人だけで戦わせる訳にはいかない。
ここで死守する。それにあそこでかっちゃんと共に敵の足を止めなければ活真くんが奪われる可能性が高くなってしまうだろう。
ここで守れなきゃ、ヒーローを目指した意味がない!かっちゃんの攻撃の合間を塗って蹴りを放つ。

セントルイススマッシュ!!

しかし、またもや空気の壁で防がれた。
全力でなくていい。"個性"を使わせることだけ考えるんだ。
力をさらに込めて敵への攻撃をするが、衝撃波で弾き飛ばされて空中へ放り出された。飛ばされていく私の手をかっちゃんがガシッと掴んだ。掴まれた手を強く握り返す。かっちゃんは爆破で高速回転しながら勢いをつけて敵の元へと私を投げ返した。

「エクスカタパルトォォ!!」

爆破の回転で加速された私は一直線に敵へと飛ぶ。先程よりも数段と威力は増している。このまま、強力な蹴りを一撃でも喰らわせたい。空気の壁で防ごうとする敵の顔がほんの少し歪んだ。足先が空気の壁に触れるのが分かった。この一撃で、敵は土煙を上げながらずっと後ろに下がっている。

「なかなかやるじゃないか」
「ここから先は・・・」
「ブッ殺す!」

何度もデラウェアスマッシュで空気の礫を撃ち込む。その間にかっちゃんも徹甲弾を撃ち込む。相手も個性を使わざるを得ない状況へと追い込めてはいる。

離れたところから常闇くんのダークシャドウのうめき声が聞こえてきた。思わず、その方向に目を向ける。すると、地面が陥没していくのが見えた。
ダークシャドウが攻略されたのか!?
焦りが私の判断を鈍らせた。爪弾が飛んできているのに反応が遅れた。それに気づいたかっちゃんが、横から私の首根っこを掴んで爆速ターボでその場から移動する。爪弾から守ってくれたのだ。

「なまえ!前だけ見てろ!!」
「ごめん!」

敵の爪弾が私の体をかすり、かっちゃんの籠手にあたりバラバラに砕け散ち、腕が露になる。
ヤバい、やられるかも。
そう思ったとき、瀬呂くんがテープが横から飛んできた。爪弾を発射しようとする敵の腕に巻き付け、そのテープを巻き取りつつ勢いをつけて蹴りをいれようとするが、逆に引っ張られて爪弾を撃ち込まれてしまった。瀬呂くんのヘルメットが地面に転がる。もろに喰らってしまったのだ。

「瀬呂くん!」
「瀬呂!!」

そのとき、背後からお茶子ちゃんも飛び出し敵の背中へと手を伸ばす。あと少しで手が届くとき、背中から突然竜のような使い魔が飛び出してお茶子ちゃんに噛みついて岩肌に叩きつけるように放り投げた。

「お茶子ちゃん!!」

気を失っているお茶子ちゃんを空中でキャッチして、地面にそっと寝かせる。頭部から出血したのだろう。額から血が流れてでている。これ以上仲間を傷つけられたくない。飛び上がって反撃するも、かっちゃんと共に竜の使い魔によって飛ばされて城跡である石垣へと背中から叩きつけられた。衝撃で石垣へと身体がめり込んだ。激痛が走る。痛みでうめき声をあげる。横を見るとかっちゃんも石垣に飛ばされている。
このままじゃ活真くんたちに近づかれてしまう。
ドクンと激しく心臓が動いている。血流が極限まで増加したような感覚になる。これは怒りだ。
なんでここまで傷つけてまで、人から"個性"を奪おうとするんだ。絶対許せない。
あちこち怪我だらけの身体になんとか鞭を打って、石垣から抜け出した。敵へ身構え拳を握る。少しでも力を抜いたら気を失いそうだ。
敵は竜の使い魔を二体こちらへ差し向けるが、あまりの速さに避けることができない。目をきつく閉じ、きたる衝撃に耐えようと歯を食いしばるが、その衝撃はやってこなかった。目を開けると、敵は頭を抱えてうめき声をあげふらつき始めていた。やっとだ。ずっとこの時を待っていた。

「きた!限界時間!かっちゃん!畳みかけるよ!」
「うっせぇ!命令すんな!」

この機会を逃してはなるまい。私とかっちゃんは同時に飛び出した。敵はうめきながらも、なんとか立っている状況だ。

「さ、細胞活性さえ手に入れば・・・」

敵の背中のボトルが体内に注入されていく。その瞬間、敵の目が怪しく光り色が変わった。狂気に満ちていく。上空に突如現れた重低音を響かせる黒雲のせいで、朝から夜になったように辺りが一気に暗くなった。その時轟音とともに、黒雲から一筋の稲光が私とかっちゃんめがけて落ちてきた。
私たちを昨日襲った雷よりも威力が増している。直撃すればひとたまりもないだろう。だが、あの敵が雷を使うということが分かっていたから私たちは対策をしていた。強い電流に耐えられる男、上鳴電気が雄英1年A組にはいる。うってつけの人材を使わない手はなかった。落雷するまで近くで待機していた上鳴くんは、片手を上に高くあげて避雷針になってくれたのだ。電気を帯びやすい体質だから、低い位置にいても上鳴くんの方へと落ちるだろうと予測していた。
辺りには舞い上がった土埃が充満し、ビリビリと地面がまだ電気を帯びている。なんとか、私たちへの直撃は免れた。すぐさまかっちゃんは敵の方へと走り出した。

「行くぞなまえ!」
「上鳴くん、ごめん。行くね」
「ウ、ウェーイ。きょ、供給過多じゃね・・・?」

上鳴くんはプスプスと煙をあげたまま固まっている。本当なら上鳴くんも結構なダメージを受けてるから助けたい。しかし、敵が活真くんたちへと接近してる今そちらを優先しなければいけない。私も少し遅れてかっちゃんの後を追いかける。

真幌ちゃんが敵に捕まっているのが見えた。活真くんが敵の元へと駆け出している。
敵は手を伸ばし活真くんの"個性"を奪おうとしている。

「スマァッシュ!!!!」

あとすこしで活真くんに敵の手が届くというところで敵の手の中にいた真幌ちゃんは投げ飛ばされた。けどかっちゃんが受け止めてくれている。敵の横面に私の蹴りが決まった。活真くんを隠すように前に立つ。

「遅れてごめん!」
「ヒーロー名姉ちゃん!!」
「よくがんばったね活真くん。すごいよ!」

敵に向かって構えながら、チラリと活真くんを振り返ると怯えの中に安堵が目に浮かんだ。ひとりで怖かっただろうに。よく敵に立ち向かっていけたな。活真くんの歳の頃に自分は飛び出していけただろうか。
真幌ちゃんを抱きとめたかっちゃんが、恐ろしい顔つきとは裏腹に優しく地面におろしている。かっちゃんも真幌ちゃんを庇うように立つと敵に向かって構えた。

「バクゴー・・・生きて」
「言ったろーが。俺はオールマイトを超えてNo1ヒーローになる男だってな」
「活真くん、真幌ちゃんと逃げて!」
「うんっ!行こうお姉ちゃん!」

二人が離れていくのを横目に、かっちゃんとほぼ同時に地面を強く蹴り飛び出した。二人の蹴りはすでに張られていた空気の壁によって遮られる。

「どうやって私の稲妻を!?」
「あれは前に受けた」

そう言って、さらに力を加えていくと壁は壊れて敵が地面に転がっていった。
追い討ちをかけるようにかっちゃんが爆破していく。

「だから、使いもんになんねーアホを避雷針にした」

敵は、苦々しく顔を歪めて、攻めるかっちゃんへと爪弾を放つ。全てかっちゃんの技で相殺され、空中で小爆発を起こした。それと同時に私には竜の使い魔が襲いかかってきた。脚技で何度も引き裂くように蹴りをいれる。
かっちゃんの「死ねや!」と叫ぶ声と同時に大爆発したので一旦退避して呼吸を整える。隣にかっちゃんがやってきて、二人で炎の中にいるであろう敵を見る。これだけの炎に囲まれているので、逆に敵が心配になってしまう。
中にいる敵は大地を切り裂くような雄叫びと共に、炎によって生じた上昇気流を使って竜巻を作り出した。再び上空は暗闇で覆われていく。

「くっ!竜巻!?」
「チッ!やっぱ気象変動か!」

どうする?まだ活真くんたちはそう遠くに逃げ切れていないはずだ。それに避難している人たちにも危険が・・・
こうして考えている間にも島のあちこちに雷が落ちている。

「この島もろともぶっ壊す気か!」
「ワン・フォー・オール100%!」
「あんなもん最大火力で吹っ飛ばす!」

デトロイト・スマッシュ!
ハウザーインパクト!

私たちの技を同時に決める。地面に足がめり込むほどに踏ん張る。しかし、さらに勢いを増していく竜巻に弾き飛ばされ腕が折れた。そして炎の竜巻に飲み込まれて、なす術なくただ焼かれ振り回される。
竜巻が急に弱まって、地面に叩きつけられた。100%でも通じなかったことにショックを受けた。四つん這いになって、何とか立ち上がった。さっきのデトロイトスマッシュで左手がダメになった。コスチュームが焼けた上に破れて左肩から左手までの素肌が剥き出しになっているし、下着が露出してしまっている。だけど恥ずかしいとか言ってる場合ではない。

「無駄だ。その程度の力では生きられない。私の作る新世界では・・・」
「!?・・・新世界?」
「力を持つ者、強き者が弱き者を支配するユートピアだ」

爪弾を撃ち込まれ、さらに使い魔に噛まれ体が持ち上げられる。

「敵もヒーローも関係ない・・・力の前では全てが平等。それは真の超人社会のあるべき形だ」
「そんな勝手な思い込みで・・・」
「イカれてんじゃねぇ!」
「新世界を拒むか・・・ならば消え去るがいい」

使い魔に強く噛まれ、お腹に歯が食い込む。考えろ。オールマイトならどうする。
その時、活真くんと真幌ちゃんの声が聞こえてきた。

「ヒーロー名姉ちゃーん!!」
「バクゴー!!」
「「負けないでェェェッ!!!」」

その声に反応した敵がゆっくりと二人に近づいていく。

「か、かっちゃん・・・方法が一つだけ、たった一つだけある・・・」
「・・・!」

ダメになった左手をかっちゃんへと伸ばす。
オールマイトから譲り受けたこの“個性“は聖火の如く引き継がれてきたものだ。ヒーローは守るものが多いんだ。だから負けるなんてことあっちゃダメなんだ。
ワン・フォー・オールをかっちゃんに譲渡する。これが私の出した答えだ。

「かっちゃん!」
「なまえ・・・!!」

かっちゃんも私の真意に気づいたのだろう。ボロボロになった右手をこちらに伸ばしてきた。お互い必死に手を伸ばす。触れた指先を手繰り寄せるように手を繋いだ。これで傷口から出ている私の血がかっちゃんの傷口にも入った。あとは、“個性“を渡すと心の中で強く思うだけ。
私がかっちゃんにワン・フォー・オールを譲渡すると思った瞬間、繋いだ手から強い光が生じた。そして強い光はかっちゃんの体の中に溶け込んでいく。使い魔は強い光に驚いたのか私たちを口から吐き出して逃げていった。

「なまえ。こんなことして、てめーは使えんのかよ?」
「・・・わからない。でもオールマイトは譲渡した後も残り火で私たちを守ってくれた」

私の中に残っているワン・フォー・オールの存在を確かめるように拳を握る。

「二つのワン・フォー・オール・・・これで救ける!」
「これで勝つ!」

かっちゃんは、私があれだけ苦労して習得したワン・フォー・オールをすぐに使いこなせている。体に力を巡らせていく。

「この死に損ないがぁぁ!!」

敵は私たちが無事なことに怒り狂っている。足を踏み鳴らして、竜巻を発生させどんどんと巨大化させていくのが見える。

「てめェのヒーローになるって夢も、これで最後だな」
「いいの、これしかないもん。それにオールマイトなら、かっちゃんなら大丈夫だって言ってくれる。秘密を共有しているかっちゃんになら・・・同じ人に憧れ続けたかっちゃんなら・・・」

じわりと目の端に涙がたまる。これで皆が助かるならそれでいい。無個性に戻ったっていいんだ。かっちゃんが私を一度ギュッと抱きしめた。

「やるぞ」
「うん・・・!」

荒れ狂う天候の中で踏ん張りながら二人同時に拳を天高く突き上げた。

「勝つんだよおおお!」
「救けるんだあああ!」
「「デトロイトォォォスマーッシュ!!!」」 

二つのワン・フォー・オール。それは炎だけでなく降り出した雨を巻き込んで上昇していき、竜巻をも凌駕して掻き消した。それだけでなく、分厚い黒雲に穴を開けた。一筋の光が差し込み足元を照らされる。

「な・・・なんだその力は!?俺の道を阻むな・・・!」
「かっちゃん、行こう!」
「あぁ!?俺に命令すんじゃねぇっ!」

何度も二人のワン・フォー・オールで敵にぶつかっていった。島が半壊状態になりながら、何度も。
そして分かった。体の中で燃え続けていた残火が次に放つと消えてしまうと。

これが、私の放つ最後の・・・

敵もこちらに向かって飛んできた。正面から己の渾身の力をぶつけ合う。力と速さが勝負だ。
ありったけの力をこめて足を振り下ろした。

スマァァァッシュ!!!!!

敵の攻撃より先に私の足が、相手の首筋に入った。インパクトが体で受け止めきれずに敵は吹っ飛んでいく。続け様に、かっちゃんも超爆破を敵に向かって放った。眩しい光だ。敵はさらに遠くへと吹き飛ばされて海へと落ちていく。
もう、これ以上踏ん張れない。薄れいく意識の中で、自分の中の炎が揺らいでワン・フォー・オールが消えていくのを感じた。崖から落ちていくが、どうにも力が入らない。かっちゃんが手を伸ばして私の頭を抱き寄せた。二人して落ちていく。

さようなら・・・ワン・フォー・オール・・・ありがとう・・・かっちゃ、ん・・・



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