ヒーローズライジング
「緑谷くん、昨日爆豪くんと宿直したんだろ?宿直明けだから今日は非番でいいぞ!」と眩しい笑顔で飯田くんに言われた。だけど私は宿直したと言っても畳のところで寝てただけだ。「予定通り朝から働くよ」と返事をした。
それも朝からひっきりなしにかかってきていて、島民の手伝いをするヒーローが足りないからだ。一晩中起きていたかっちゃんは非番でいいけど、私は働かないとね。
私はパトロールと、海岸の清掃、事務所の周りの草引きを終えて一息ついた。
夕方になろうという時間に、またヒーロー事務所の電話が鳴った。
「はい、雄英ヒーロー事務所です。・・・旅行バックの紛失ですね、わかりました。すぐ向かいます。・・・商店街で観光客の荷物がなくなったらしい!」
電話に出た芦戸さんが事務所全体に聞こえるように大きな声で言った。
「私、行く行く!青山くんご一緒しよ」
「ウィ!」
葉隠さんがパソコンの画面と睨めっこしていた青山くんを指名した。青山くんは名前の通り優雅に立ち上がってキラリと光輝くマントをはためかせた。離島だろうが田舎だろうが青山くんには関係ないようだ。いつでもキラキラさせている。
その近くで事務書類を整理していた峰田くんが「忘れ物くらい自分で探せよ」と愚痴をこぼすと、すかさず芦戸さんが"依頼者の声がとっても可愛いかった"と教えた。すると峰田くんはニヤけた顔を隠すことなく、喜びを体全体で表現するかのように飛び上がって事務所を転がるように出ていった。そのあとを葉隠さんと青山くんが追いかける。
欲望にどこまでも忠実な峰田くんも、青山くん同様、場所なんて一切関係ないようだ。
ビーチで警備にあたっている障子くんと梅雨ちゃんから応援要請があり尾白くんが名乗りを上げた。
「私も、新島さんちの畑のお手伝いに行ってくるね」
芦戸さん、お茶子ちゃんに行ってきますと声をかけて事務所を出たところで、慌てて塀に隠れた人影に気が付いた。あの帽子見覚えがある。
塀のところへ向かうと、しゃがみ込んだ大きなツバの麦わら帽子の男の子。
「活真くん?どうかしたの?」
声をかけると立ち上がった。意を決したように振り向いた。
「あっ、あのっ・・・き、昨日はごめんなさい」
「あっ・・・偉いね!ちゃんと謝りに来てくれたんだ!大丈夫だよ、怒ってないから」
膝に手をついてしゃがむように目線を活真くんのところまで下げる。
「もう一人のヒーローにもごめんなさいって言ってくれる?」
「うん!言っておく。でも活真くん、どうして昨日あんなことを?」
「お姉ちゃんヒーロー嫌いなんだ」
悲しげに俯く活真くんの肩から下げている鞄にプロヒーローエッジショットのピンバッジがついているのに気がついた。
「昨日も、敵が出たって言ったら、ヒーローは怖がって救けにこないって言うから・・・だから、僕・・・」
「・・・信じてくれたんだ」
「え?」
「私たちが救けにいくって信じてくれたんだよね?だから呼びにきてくれた」
「・・・・・・うん」
ニッコリ微笑むと、活真くんの緊張が解けたのか小さく頷いた。
「そのバッジ、忍者ヒーロー・エッジショットのでしょ?」
「うん!」
パァッと目を輝かせてバッジに手を当てて活真くんはこっちを見た。
「活真くんもヒーロー目指してるの?」
「ぁ・・・僕の個性ヒーロー向きじゃないし・・・それにお姉ちゃんも"危険だ"って・・・」
だんだんと語尾が小さくなっていく。昨日迷子になった活真くんに初めて会った時に真幌ちゃんが言ってきた言葉を思い出した。
"あの雄英ヒーロー科のくせに、ダメダメじゃない。これなら前にいたおじいちゃんヒーローのほうがよっぽどよかったかも!"
そうか、真幌ちゃんのヒーローに対して突っかかるような態度には、活真くんを心配する気持ちが隠されていたんだ。
私はいつも心配かけてばかりいる母のことを思い出した。いつだってヒーローは危険を顧みず、自分より周りの人を優先する。ヒーローはかっこいい職業ではあるが、その家族にとってはヒーローである以前に大事な家族の一員なのだ。敵の攻撃で命を落とすことだってある。そんな危険な仕事を活真くんが目指すのをよく思っていないのだろう。
母に心配かけてまでもヒーローになりたいというわけではないが、やっぱり"ヒーローになりたい、困っている人や大事な人たちを守りたい"という自分の素直な気持ちは誤魔化せない。
今は心配をかけているが、いずれは心配をかけないくらい強い最高のヒーローに私はなるんだ。私はそう誓ったんだ。
塀に背中を預けて立っている活真くんの横に並んで、私はしゃがみ込んだ。
「ねぇ、活真くん。活真くんはどんなヒーローになりたいの?」
「・・・悪い敵をやっつける、強い、ヒーロー・・・」
「そうなんだ。私は困っている人を救けるヒーローになりたいんだ」
「ん?困ってる人を、救ける・・・」
私の言葉を反芻するように繰り返す活真くんに分かりやすく言葉を噛み砕いて説明する。
「うん。活真くんの、敵に勝って人を救けるヒーロー。私の、人を救けるために敵に勝つヒーロー。順序は違うけど、目指してるものは同じ、最高のヒーローなんだと思う」
「・・・・・・」
「だから、お互いに頑張ろう」
「うん!」
立ち上がって活真くんに手を差し伸べる。ガシッと握手して活真くんは笑った。
「あ!でもなるべく、家族には心配かけない感じで!」
慌てて苦笑しながら付け足すと、活真くんは「うん!」と返事をして手を振りながら駆けていった。
私の言葉で活真くんの心を照らすことができたかは分からないけど、活真くんの顔には迷いはもうなかった。最高の笑顔が向日葵のように眩しく輝いていた。
入れ違いざまに、やってきた事務所近くに住んでいる鈴村のおばあさんがビニール袋に野菜をたくさん入れて持ってきた。走り抜けていく活真くんのことをニコニコと見つめていた。
「活真ちゃん、本当にヒーローが好きなんだねぇ。はい、これ採れたての野菜だよ」
「ありがとうございます!鈴村さん」
野菜を受け取ってお礼を伝えた。腰の後ろで手を組んだ鈴村さんの目尻の笑い皺が深くなった。
「優しくしてあげてね」
「え?」
「あの子ん家ね、母親を早くに亡くして、父親は年中出稼ぎ・・・姉の真幌ちゃんと二人きりで暮らしてるんだよ。もちろんあたしら近所の者も面倒みてるよ。けどあの歳で親がいないってのは寂しいだろうから」
「そうなんですか・・・」
知らなかった。あんな幼い子どもたちが二人だけで暮らしてるなんて・・・
真幌ちゃんが心配するのも無理はない。二人で支え合って日々過ごしているのだから。
姉弟の家庭事情を知り複雑な気持ちで、新島さんの家の畑へ向かった。
手伝いをしながら私はボンヤリしていたようで、新島さんに熱中症ではないかと心配された。結局畑仕事はそこそこに家の中で休むように言われてしまった。
気持ちを切り替えて、畑仕事をワン・フォー・オールのパワーを駆使して手伝う。あっという間に畑を漉き込むことができた。
野菜のお裾分けを頂いて新島さんの畑を後にする。
事務所に戻ると、事務所の前で飯田くんと村長さんたちが談笑しているのが見えた。
「ただいまー!畑仕事終わりました!」
「おかえりなまえちゃん!」
「お疲れ様」
事務所の中にいるのは、飯田くんとお茶子ちゃん、かっちゃんだけで、他の皆は出払っているらしい。
私は冷蔵庫で冷やしてあった炭酸水をコップに入れてゴクゴク…きかと一気に飲み干した。畑仕事の後の炭酸水は、スーッと身体の中が冷やされていく感覚になる。これが大人ならビールになるのだろう。ビールを飲む大人の気持ちがなんとなく分かる気がした。
事務所の電話が鳴った。気怠げに電話のそばにいたかっちゃんが出る。
「なんだ?チンケな依頼だったら・・・」
受話器に耳を当てていない私にまで内容までは聞こえないが、電話の相手の声は聞こえてきた。
『敵が漁港に出たの!』
「その声、昨日のクソガキだな」
きっと真幌ちゃんからの電話だ。
「おまえなァ、そう何度も騙されると・・・」
『嘘じゃないって!本当だって!バクゴーっ!』
言葉ははっきりとは聞き取れないが切羽詰まった声が聞こえてきた。
「ちょっと、かっちゃん電話変わって!」
まともに取り合おうとしないかっちゃんから受話器を奪い取った。
「もしもし?ヒーロー名だけど」
「なまえ!てめェ!」
『漁港に!』
真幌ちゃんの電話がぷつりと途絶えた。そしてツーツーとビジートーンだけが聞こえる。真幌ちゃんからは"漁港"しか聞けなかった。
「真幌ちゃん、なんて言ってた?」
「・・・漁港に敵だとよ」
私は急いで事務所を飛び出した。
杞憂ならいいけど・・・とにかく漁港へ向かおう。フルカウルで駆け出す。
島のあちこちから爆発音が聞こえてきた。漁港を見下ろせる公園に到着して、下を見下ろすと防波堤を突き破ったフェリーが漁港に突っ込んで横たわっているのが見えた。
目を疑った。今までの活気あふれる漁港は影も形もなくなっていた。港に停泊していた漁船が木っ端微塵に破壊されている。漁業組合の建物も瓦礫の山になっていた。
「漁港が!!皆に知らせなきゃ。え、圏外!?なんでっ!?」
スマホを見ると圏外になっている。真幌ちゃんの電話が途中で途切れたのはいたずらでも偶然でもなかったんだと確信する。この島の通信基地が破壊されたにちがいない。私には今現在、A組の皆に連絡する手段がない。スマホをポケットにしまって、公園の柵の上に飛び乗った。
大きく跳躍して飛び降りて、船着場に着地した。怪我人や逃げ遅れた人がいないか探す。幸いにも漁港にいた人たちは逃げられたのだろう。ここには誰もいないようだ。
恐らく皆も事態に気付いて敵に対処しているはず。なら今はSOSの電話をくれた真幌ちゃんの無事を確かめないと。真幌ちゃんの自宅はたしか鈴村さんの近所。そこへ向かうことにした。
漁港を後にして、鈴村さんの家のあたりへ走る。
遠くの住宅街で土煙が上がってるのが見えた。スピードをあげると、敵の前で活真くんを抱きしめて地面にうずくまる真幌ちゃんを見つけた。二人をさっと抱き上げて跳躍して近くの森の中へと逃げこむ。
「ヒーロー名!」
「ヒーロー名姉ちゃん!」
敵から離れたところで膝をついて二人を下ろした。二人は私だと気がついてホッとした表情になった。
「大丈夫?走れるかな?」
「うん」
「早くここから離れて!」
「うん!活真!」
真幌ちゃんが活真くんの手をとり駆け出した。二人を見送って、きっと追ってきているだろう敵を迎え撃つため振り返る。攻撃体勢をとる。
「止まれ!なぜあの子たちを狙う!」
「退け」
「どくわけないでしょ」
「邪魔をするなら殺す」
黒地に紫のラインの入ったスーツとマスクを身にまとった銀髪の敵が右手を伸ばした。指先の爪が怪しく光る。
先手必勝!敵へと走っていき、思いっきり蹴る。だけど、敵に当たる前に透明な何かに阻まれて、体ごと弾き返された。
「見えない壁!?空気の壁か?うっ」
敵の指先がまた光って爪が銃弾のように勢いよく発射された。木の影に隠れて爪弾をなんとかやり過ごした。空気の壁をつくる個性に爪を発射する個性?関連性のない個性が二つも・・・それってまるでオール・フォー・ワンじゃない。オール・フォー・ワンは他人の個性を奪ったり、与えたりすることができる。それに似た個性が存在するのか?偶然?それとも・・・
嫌な予感が当たっていたら、と胸中がざわつく。
「デラウェアスマッシュ・エアフォース!」
何発も連続で空気砲を指を弾いて敵へと撃ち込む。だけど、敵の空気の壁によって全て弾かれてしまう。木々に隠れながら、弾かれた空気砲を避ける。
真幌ちゃんと活真くんが逃げる時間を少しでも稼ぎたい。できるだけ、相手の体力を奪いたい。そう思うけど阻まれて、逆にこちらの体力が消耗していく。何度撃ち込んでも無意味かもしれないが、私は攻撃の手を緩めることはなかった。
意思を持ったような突風が吹いて足元を掬われた。バランスを崩した瞬間を狙って敵の爪弾が連射された。空中で体を捻って避けるが、左頬を爪弾が掠って血が出た。
「くっ」
今の突風も個性?一体いくつ持っているわけ!?
相手が未知数なら出方をうかがうより先手を打つ。超パワーを解放して全身を強化させる。
「ワン・フォー・オール フルカウル20%!」
微かに敵の目が見開かれる。速攻で走っていき蹴りを繰り出した。今出せる私の最大パワーで攻撃する!
「セントルイススマーッシュ!!」
空中に10メートルほどの高さの土煙があがるほどの蹴りだ。さすがにこれは防げないだろうと思ったのだが、蹴りの威力は空気の壁によって弾かれた。20%が通じないなんて・・・
「この力・・・この個性・・・奪う価値がある」
私と敵の間にあった空気の壁が急に消えて、足場を失った私はバランスを崩した。敵は私の頭を鷲掴みにしている。敵の目が怪しく黄色に光った。頭の中に何か入ってくるそんな感覚に絶叫した。
「うわぁぁぁあああ!!」
敵は奪うと言った。やはりオール・フォー・ワンと同じ個性。ワン・フォー・オールが奪われてしまう。敵の手から逃れようともがく姿を、くつくつと笑ってみている。指の隙間から睨みつける。
その途端弾かれるように敵が私から離れた。いや、私も場所を移動している。お互いが弾かれたのか。
動こうとするが、先程の意識に潜入されるような感覚のせいで体が言うことを聞かない。
体動け!動け動け
そう思っても全然動けない。
近づいてきた敵が地面に突っ伏した私を空気の壁で吹き飛ばした。飛んでいって土手に体が埋まった。
「ヒーロー名姉ちゃん?」
「ヒーロー名!」
聞こえてきたのは心配する活真くんと真幌ちゃんの声。ハッとして振り返る。
離れて欲しいのに、二人は心配して土手を降りて駆け寄ってきた。
「に、逃げて」
「でも」
「いいから早く!やつが狙っているのは君たち・・・」
森の中から闊歩して向かってくる敵の姿がみえた。埋もれた体を起こして立ち上がる。二人を守らなければ!
両手を広げたその時、二つの爪弾が体を貫いた。
「ヒーロー名姉ちゃん!」
「は、早く・・・行くんだ・・・・!」
なんとか膝をついて、状態を起こす。二人を守るために立ち上がろうとするが、出血が酷くてフラフラする。
「いや、いや!・・・いやぁぁぁああああ!」
真幌ちゃんが悲鳴を上げた。大粒の涙をこぼしながら、巨大な幻を出した。ぬいぐるみのようにデフォルメされた私だ。
「誰かヒーロー名を・・・ヒーロー名を守ってーーーーーー!!!」
声の限りに叫んだ声は、素早く横切った何かの爆発音によってかき消された。
「爆発の個性・・・」
「見つけたぜ、クソ敵!!」
「・・・かっちゃん・・・」
「なまえをこんなにした敵は俺がぶっ殺す!」
かっちゃんだ。頼もしい幼馴染、そして恋人の登場に少し力が抜けた。
「あの人・・・」
「バクゴー!?」
活真くんたちは突然現れたかっちゃんに驚いている。
「ガキども!よく見とけ。No1ヒーローになる男の・・・強さをなぁ!」
派手な爆発を起こしながら突っ込んでいく。敵は空気の壁で防ぐ。かっちゃんは爆破で急上昇して壁を乗り越える。
「もらった!」
爆破をお見舞いしようとするが、爪弾が連射されてかっちゃんを狙っている。空中を爆破で移動し爪弾を逃げるがバランスを崩した隙に、増大した空気の壁でかっちゃんが地面に叩きつけられた。
「かっちゃん・・・、ぐっうぅっ」
立ち上がろうとするが、激痛で動けない。蹲って痛みをなんとか堪える。
「く、クソが・・・!」
「かっちゃん、相手は複数の個性持ち!個性も奪う」
「チッ、オール・フォー・ワンもどきか・・・なら、なおさらブッ潰さねーとなァ!」
かっちゃんは立ち上がり再び跳躍した。爪弾をジグザグに避けながら敵に向かっていく。後ろに回り込んで攻撃を仕掛けるが、敵の背中から現れた見たこともない巨大生物がかっちゃんを下から突き上げた。そして、地面に急降下。地面に巨大生物とともに地面に突き刺さっている。
「よく鳴く犬だ」
「そりゃてめェだ!」
かっちゃんが左手を伸ばして爆破する。威力は今までの倍以上だろう。煙幕に隠れながら私は飛び上がった。
「なまえ!」
「デトロイトスマッ・・・」
空を切り裂くように青い稲妻が私とかっちゃんを狙ったかのようにピンポイントで落ちてきた。敵を攻撃することができず、落雷のせいで私も地面に転がった。
「「ぐあぁあああああああっ!」」
息も絶え絶えになりながら地面を這いつくばる。
「さて・・・」
敵が活真くんたちへと向かおうとしている。敵の左足首を両手で掴んだ。かっちゃんも同じように這いつくばって敵の右足首を掴んでいる。
「行かせ・・・ない・・・」
「ハァまだ勝負は・・・終わって・・・」
「ヒーロー名姉ちゃん!」
「バクゴー!」
「・・・本当にヒーローというものは」
敵は呆れたように言って、手を振りかざした。空気の壁がまた私たちを襲った。呆気なく宙に吹き飛んだ。
活真くんたちへ向かって歩き出そうとした敵は突如苦しみもがき始めた。激痛の中、私は目をうっすらと開いて敵が苦しむ様子を見た。
苦しんでる?なぜ?
敵を心配する赤い長髪の女の仲間が現れた。
「ナイン!しっかりしてナイン!」
「しょ、少年を・・・」
「わかったわ」
女の敵が、髪の毛を一気に硬化させる。活真くんを狙って攻撃しようとしたその時、カラスの大群が横切った。視界を遮った隙に、障子くんが飛び出して活真くんと真幌ちゃんを抱き上げた。怯える二人に障子くんは「安心しろ、味方だ」と言った。
障子くんと口田くんが来てくれたんだ・・・
するとお茶子ちゃんと梅雨ちゃんも、カラス大群の陰から走ってくるのが見えた。お茶子ちゃんが私とかっちゃんをタッチして、梅雨ちゃんが舌を巻き付け駆け出した。
なんとか持ちこたえていたけど、激痛に耐えきれず私は意識を手放した。
島の中心部は敵の襲撃と落雷により半壊しており、あちらこちらで火の手があがっていた。夜になって、降り出した雨によって火災は広がらずに済んでいた。
八百万さんや飯田くんの誘導で島民は全員、島の中で一番大きなサトウキビ製糖工場へと避難していた。
私は、気がついたら怪我をした島民やかっちゃんとともに工場の休憩室で使われていた和室の上の布団で寝かされていた。温かい何かが私に触れている気がして、意識が急上昇した。
「ん・・・」
「ヒーロー名姉ちゃん!!」
「かつ、まくん・・・?」
「ヒーロー名!」
「ま、ほろちゃん」
二人に抱きつかれて目を細めた。傷口は島の診療所の先生が治してくれたらしい。活真くんの個性、細胞の活性化によって私とかっちゃんは目を覚ましたのだ。こんな小さな活真くんが頑張ってくれたんだと知り涙があふれた。
「活真くん、真幌ちゃん無事で良かった」
「ちっとも良くないわよ!!!ヒーロー名もバクゴーも死んじゃうかと思ったんだから!!!」
二人の頭を撫で抱きしめ返した。二人が私の肩に顔をうずめて小さく嗚咽を漏らした。
「心配かけてごめんね」
「バカヒーロー名!」
それを後から目が覚めたかっちゃんが布団に横たわったまま黙って見つめていた。
包帯だらけの体に鞭打ってコスチュームを着ていたら、診療所の先生と看護師にまだ寝ているようにと強く言われてしまった。だけど、活真くんのことが心配だ。
島全体が停電してしまったけど、上鳴くんと八百万さんのおかげでこのサトウキビ製糖工場だけは簡易発電機により明りが灯っている。ここにいますと敵に居場所を伝えているようなもんだ。またいつ敵が襲ってくるかわからない。
傷口が塞がっているし、活真くんの個性のお陰でかなり回復してきている。
私とかっちゃんが意識を取り戻してしばらくして、「皆にヒーロー名姉ちゃんとバクゴーの目が覚めたって伝えてくる」と和室を出ていった活真くんと真幌ちゃんが気になる。二人を探していると、遠くからA組の皆の声が聞こえてきた。まだ、素早く動けないから、一歩ずつゆっくり歩いて部屋へと向かう。
「僕の個性を奪うって言ってた」
「"個性"の強奪・・・」
「まるでオール・フォー・ワンみたいね」
活真くんの言葉に、常闇くんと梅雨ちゃんが続けた。
「でも敵の目的は分かった」
「この子を連れて逃げればいいだけ・・・」
「そう簡単にはいかねえ。相手は敵だ。この子を差し出さないと、島民を殺すとか言い出しかねねぇ」
轟くんの声だ。
「・・・僕を敵に渡して!・・・殺さないって言ってた。僕の"個性"なんかなくなってもいい。それで島のみんなが救かるなら・・・」
やっと部屋の前にたどり着いた。ゆっくりとだけどハッキリと伝えた。
「そんなの絶対ダメ」
「なまえちゃん!?」
お茶子ちゃんが椅子から立ち上がって机の上に手を置いた。飯田くんが駆け寄ってきた。
「緑谷くん、平気なのか?」
「活真くんの"個性"のおかげだよ」
活真くんの前にいきしゃがみ込む。
「細胞の活性化・・・新陳代謝の促進・・・ドーピング的効果すらある。おかげでこんなに回復できた」
ガッツポーズをして活真くんに向かって微笑んだ。目が潤んだ活真くんの頭を撫でた。ヒーロー向きの個性じゃないと自信が持てなかった活真くん。でも君の個性のおかげで私もかっちゃんも救かったんだ。
「すごい"個性"だよ、活真くん。ありがとう・・・」
「・・・ヒーロー名姉ちゃん」
「君が怖い思いすることなんかない。そのために私たちがいる!」
私の言葉に被せるように背後から声が聞こえてきた。
「ようするに、あのクソ敵どもをブッ殺せばいいだけのことだろうが」
「爆豪!!」
いつの間にかやってきたかっちゃんは開いたままのドアにもたれかかりながら、腕を組んでいる。振り向く私と視線がぶつかり合った。見つめている時間はほんの数秒だった。
だけど、多分私たち同じこと思い出してたんじゃないかな。二人で寮を抜け出して大喧嘩したあの夜のこと。オールマイトに言われた言葉を。
"互いに認め合い、まっとうに高め合うことができれば救けて勝つ、勝って救ける、最高のヒーローになれるんだ"
目を閉じてその言葉を思い出した。そして再び活真くんに向かい合って優しく言った。
「必ず、君たちを守るよ」
「敵どもをブッ潰す」
かっちゃんは拳を左手に叩きつけ小さな爆発を起こし宣言した。
「島の人たちも絶対に救ける!」
「完膚なきまでに勝つ!」
そう言う私たちに、轟くんが賛成した。それを皮切りに皆も次々に賛同していく。そして、全員立ち上がった。
「いつも言ってますもの」
「さらに向こうへ!」
「プルスウルトラ!!!!」
全員で突き上げた拳。必ず守ってみせるよ。
私とかっちゃんの思いが波及して皆が一つになった瞬間だった。
「でもどうやって?」
その梅雨ちゃんの言葉に、すかさず私が答える。作戦はもう練ってある。テーブルに広げた島の地図を指差して作戦を説明する。
安心した活真くんと真幌ちゃんは、ソファで寝息を立てている。先程までは緊張と興奮で寝られなかったのだろう。その様子を横目に、村長さんにも加わってもらい作戦を皆に伝える。
「確認できた敵は三人。後ろが断崖絶壁の城跡を拠点にして、敵の侵攻ルートを一つに絞らせる。そして、先制攻撃で敵を分断。それぞれの地形を利用して・・・」
「ヤツらを叩きのめす」
「そう。で、島の人たちは断崖絶壁の洞窟に避難。活真くんと真幌ちゃんは私たちで護衛。いざというときの脱出経路も確保」
「"個性"の複数持ちへの対応は?」
地図を真剣に見ている私に轟くんが尋ねる。
「私とかっちゃんが戦ったとき、突然相手が苦しみだした。おそらく"個性"を使いすぎると、体に負担がかかるんだ。だから活真くんの"個性"、細胞活性を奪おうとしていたんじゃないかな・・・」
「なるほど・・・消耗させんのか」
「うん。敵には波状攻撃を仕掛けて"個性"を使わせる。"個性"を奪われるから接近戦はなるべくしない方向で。それで敵を倒せればよし、たとえ倒せなくても・・・」
攻撃は最大の防御だ。その夜のうちに作戦は決行された。城跡地へと島民と家畜を誘導し、リヤカーに食糧を乗せて運び出す。そして移動を終えて戦いに備える。島民へは村長から説明してある。あとは・・・
「救援が来るまで持ちこたえれば・・・」
「みんなを守れる」
「違ぇ。絶対に勝つんだよ」
「うん!かっちゃん次は絶対に勝とう」
「なまえをボロボロにしやがったあいつだけは絶対許さねェ俺がブッ殺す」
ヒーローはどんなことがあっても絶対諦めない。全員で島民を、活真くんたちを守る。そう決意した私たちヒーローを、東の空から昇ってきた朝日が優しく照らしていた。