罰ゲームの行方



楽しい鍋パだったはずなのに、気がついたら鍋バトルになっていて最終的に罰ゲームを受けることになってしまったA組。なぜか飯田くんはノリノリである。

「ようし!ここは潔く罰ゲームを受けようじゃないか!」
「勝手に受けてろや!」

かっちゃんの眉間に刻まれた縦皺が深くなる。物間くん以外のB組は、罰ゲームなんてするつもりはなかったようで深いため息をついている。そして、「罰ゲームは闇鍋だ」と物間くんはしたり顔で言い放った。

「闇鍋ってなんだ?」

自分の頭の中の辞書になかったようで、首を傾げる轟くんに聞かれた。

「私もやったことはないんだけど、昔の漫画とかで出てきたりしたよ。暗闇の中で鍋を食べるらしい。暗くて何も見えないから、何を食べたか分からないし、何が入ってるのかも分からないでしょ?あんまり鍋に合わない食材とか入れられたりするんだよね・・・」
「なるほど!!」

一緒に聞いていた飯田くんが頷いている。罰ゲームに乗り気でなかったB組も闇鍋と聞いておもしろそうだと興味を示し始めた。

「ヤミ鍋。最初に聞いたトキハ、ヤミー鍋、つまりオイシイ鍋なのかと思いましマァシタ!とてもおもしろそうデース!ヤミ鍋はやくしたいデース!」

角取さんは、日本独自の文化に興味津々である。
かっちゃんは「やってられっか、行くぞなまえ」と、私と一緒に部屋に戻ろうとしたけど物間くんにめちゃくちゃ煽られた。

「尻尾を巻いて逃げるんだね、爆豪くん。彼女に負けるところを見せたくないっていう魂胆かな?」
「あ゛?爆死してェのかてめー」
「じゃあ、君も参加しなよ」

渋々参加することになったんだけど、正直ちょっと闇鍋って興味があったんだよね。やったことないし。
目を瞑るように言われて、A組全員が闇鍋の準備をしてる間大人しく座っていた。甘い匂いや、ガチャンという音に不安を覚える。しばらくすると発酵臭まで漂ってきている。鍋の中に新しい具材が投入されるたびに様々なにおいが混じり合って複雑なものになっていく。大丈夫かな。不安だな。
その思いが伝わったのか拳藤さんが、「全部食べ物だから大丈夫」と声をあげた。
鍋からコトコトと煮込む音が聞こえてくる。匂いだけで言うとかなりの確率で不味いと思う。
いざ実食の段階で、数名トイレに駆け込んだ。上鳴くん、尾白くん、芦戸さん、青山くんだ。
逃げるかのようなタイミングに怪しむが、生理現象ならば仕方ない。残ったメンバーで実食することになった。
青く光るガスコンロの炎の薄明かりの中で、一人一人順番に箸でつまみ上げて口に運んでいく。

「うっ?んだこれ・・・くたっとして青くさい・・・でもうめえ・・・?」
「これは・・・ドロドロしてふやんとしている・・・まるでお麩のようだ」
「・・・きゅうりや!・・・まぁまぁイケる!」
「これ、もしかして飴かしら?」
「おぇっ、これりんごか!?」

なんだかすごく盛り上がっていて、私が食べなくてもバレない気がする。しばらく様子を見ていたB組の鉄哲くん、骨抜くん、凡戸くん、吹出くん、拳藤さん、角取さんも一緒になって闇鍋を食べ始めた。あれ、A組の罰ゲームだったはずなのに・・・ま、楽しいしいいんだけどね。やはり視覚を奪われると他の感覚が研ぎ澄まされるので、より一層味に敏感になるようだ。
B組の皆は、食べながらえずいている。苦いのは拳藤さんが入れたコーヒーだとか、臭いのは納豆に鱗くんの入れた臭豆腐だとか、甘いのははちみつにアイス、ハンバーガー、ポテトチップス、いちごミルク、バナナ、パイナップルなど鍋には入れてはいけないような食材ばかり名が上がる。これから食べないといけない私は戦々恐々とした。
だけど、食材は鉄哲くんがほとんど食べてしまっていてスープしか残っていなかった。まだ食べていなかったかっちゃん、常闇くん、耳郎さん、口田くん、葉隠さんが全員「おえええっ」とえずきながら一口飲んだ。私も飲もうとしたけど、飲んだら吐く未来しか想像できなくて踏ん切りがつかない。渋っているうちに部屋の電気がついた。
鍋はきれいにからっぽになっている。
トイレから戻ってきたメンバーにもお裾分けする量は残っていなかったが、芦戸さんが私の取り皿を残されていた出汁となにか分からないクタクタに煮込まれた具を箸でつまみ上げおっかなびっくり食べてしまった。

「おぇっ!なにこれ不味ーーい!!水!水ちょーだい!」
「だ、大丈夫?はい、お水!」
「よくこんな不味いもの作れたよね!?」
「私実はまだ食べてなくて・・・」
「何だって!?緑谷ァ!食べてないのかい!?罰ゲームなんだからちゃんと食べろよ!」
「う、うぅ・・・」
「もう残ってないよ!だからなまえちゃんはいいでしょ」

芦戸さんがテキパキと取り皿を下げてしまったので結局私は一口も口にすることなく闇鍋は終了した。

A組全員が罰ゲームを受けていないのが納得できない物間くんが再対決を申し込んできた。どうしてもA組に吠え面かかせたいらしい。
だが、ここで負けっぱなしが許せないのか、かっちゃんが前に躍り出た。

「いいぜ、今度こそ完膚なきまでに勝ってやるよ」
「おお、そうこなくちゃ!それじゃあ対決の内容は・・・」
「おっと、それはこっちが決めさせてもらうからな」
「おいおい、勝手に対決などダメだぞ!だいたいインターンこ意見の交換会はどうするんだ!」

対決する気満々のかっちゃんと物間くんを制しようと飯田くんが間に入るがやはり先ほどと同様に丸め込まれてしまっていた。どう言う訳か、男子たちはかっちゃんが提案したサウナ対決に賛成して皆で風呂場へ駆け込んで行った。切島くんと鉄哲くんが意気込んでいるのを横目に、私たちはB組の女子が持ってきたお菓子と八百万さんの淹れたお茶でティーパーティーをし始めた。
男子がサウナ対決をしていることもあって、女子もサウナの話で盛り上がり、八百万さんの家にフィンランド製の特注サウナが家に備え付けられていることが発覚した。そのサウナは50人もの人が入れるという。B組の皆がざわざわのどよめいているが、これが八百万さんの"普通"なのだ。それにすっかり慣れてきたA組女子はさほど驚いている様子はない。
いつか八百万さんのお家に遊びに行きたいななんて考えながら、私は八百万さんの淹れてくれた温かい紅茶の入ったカップを両手で待って口を尖らせて息で湯気を吹き飛ばした。
皆も同じ気持ちだったようで、八百万さんの家でお泊まり会をしようと約束を交わした。
サウナが苦手だと言った耳郎さんも、「サウナには入らないけどヤオモモんちにはまた遊びに行きたいな」と照れ臭そうにしている。
そのとき、つけていたテレビにニュース速報が流れた。

『ここでニュース速報が入りました。警察署から強盗犯の敵が逃走し、現在もまだ捕まっていないとのことです。なお、その敵の"個性"は降雪という情報が入ってきております』
「結構近くやね。大丈夫かな?」
「本当だ。雄英の隣の市の警察署。割と近くだ・・・」

私と麗日さん・・・じゃないや、お茶子ちゃんは顔を見合わせて不安な表情を浮かべた。梅雨ちゃんがそんな私たちに声をかけた。

「もうヒーローが出動してるんじゃないかしら、大丈夫よ」
「それもそうだね」

梅雨ちゃんの大丈夫という一言は本当に心を落ち着かせてくれる。魔法みたいだ。

「ねえねえ!降雪の"個性"ってことは、もしかしたら雪が降ったりして!」
「そういえば、今年はまだ降ってないね?ちょっと見たいノコ」
「もー、敵が逃走してるんだからね?」

芦戸さんと小森さんが雪が降ってほしいと期待する声をあげるので、それを拳藤さんが笑って軽くいさめた。
男子風呂から「あっちぃー!」と叫ぶ声が微かに聞こえてくる。それを聞いて風呂の中のサウナ対決が目に浮かぶ。きっと負けず嫌いばかりが揃ってるヒーロー科だから、温度をガンガン上げていってるんだろうな。

「殿方は本当に対決するのがお好きですわね」
「ムダな争いは、災いの元・・・」

塩崎さんが手を組んで嘆いている。それを聞いていた葉隠さんがソファの上に飛び上がった。その勢いで私はソファから落っこちた。

「わ!」
「あ、ごめんなまえちゃん!」
「へーきだよ」

笑ってソファに座り直して、葉隠さんを見上げる。

「ねえねえ私たちも対決しない!?平和な対決!!」
「平和?それは神の御心に添う対決ですか?」
「もちろん!あのね、山手線ゲームでそれぞれの担任のいいとこを言っていく対決とかどう?」

葉隠さんの顔は見えないけれど、きっと満面の笑みを浮かべてるはずだ。皆も「ええ?」と驚いているが、満更でもなさそう。

「ウチのブラキン先生のいいところ、ありすぎて負ける気がしないんだけど」
「うちの相澤先生だっていーっぱいあるからね?」

取蔭さんが挑発すると、芦戸さんにも火がついたらしく、受けて立った。平和だけど、絶対に負けられない戦いの火蓋が切って落とされた。
先行はB組の拳藤さんだ。

「山手線ゲーム!!担任の良いところー!!」

二拍の手拍子の後に自分の担任の良いところを述べていく。

「熱血なとこ!」
「冷静なとこ!」
「声がデカいとこ!」
「待って。それ良いところ・・・?ちょっと審議しよ」

そう言ったお茶子ちゃんがソファの背もたれに頭を預けて突如眠ってしまった。それに続くかのように、梅雨ちゃん、八百万さん、耳郎さん、葉隠さん、芦戸さん、拳藤さん、角取さんまでもが突然寝てしまった。しかも、個性が発動して、寝ているお茶子ちゃんの身体が浮かび上がり天井に届きそのままふわふわと浮き続けている。梅雨ちゃんはカエルのように跳ねて窓を登っていく。八百万さんからはマトリョーシカが量産され続けている。
まさか、これは個性攻撃か!?
そう思って私は、部屋の中を歩き回った。だけど、怪しい人や物は見つからなかった。
戻ってきた私に、塩崎さんが言った。

「危ないから、とりあえず麗日さんと蛙吹さんを下へ降ろしましょう」
「そうしよう!勝手に動いたら困るから毛布で包んでおこうか。部屋から取ってくる!」

毛布で二人を包んで塩崎さんのツルで固定する。こうすればフワフワと浮くこともないだろう。そうしているうちに風呂場から男子が慌てて出てきた。話を聞くと、男子たちも急に眠って個性が暴発しているらしい。寝ている男子たたちは脱衣所で転がってるというが、風邪をひかないか心配だ。
とりあえず先生に救けを求めようと外を見て愕然とした。窓の外は、いつの間にか雪が窓の高さよりとずっと高く降り積もっている。先ほどの緊急速報を思い出した。敵が逃走するために雪を降らせたのかもしれない。これでは外に出るのは危険だ。先生に電話をしようとするが、繋がらなかった。

「先生たちに連絡もつかない。しかもこの雪で閉じこめられたも同然・・・つまり、ここにいる僕たちでこの異常事態をなんとかしなくてはならないということだ」

いつも突っかかってくる物間くんがめちゃくちゃ真面目な表情で言った。上鳴くんは焦りを隠せないといった声色で物間くんに食ってかかる。

「なんとかってどうすんだよ!?だいたい、こうなった原因もわかんねーってのに・・・」
「そのことなんだけどね、原因は鍋かもしれない・・・」
「鍋!?」
「闇鍋を口にしたものだけが異常事態に陥っている」
「そっか、だから俺とか尾白とかは大丈夫だったんだ」
「しかしですな、ただ眠っている人と"個性"が暴走している人では何が違うのですかな?」
「物間くんの仮説でいくなら、闇鍋の量や何を食べたかによるのかもしれない。うーん、だけど、食べ物の組み合わせで昏睡状態や"個性"が暴発するようなことなんてあるのかな。でも皆食べられるやつ入れたって拳藤さん言ってたよね」

ぶつぶつ呟いていたら、それを聞いていた物間くんが皆が何を入れたか確かめようと言い出した。

「俺、いちごミルク」
「俺はイカ墨だ」
「私は森林地区で採ってきたニガニガ茸ノコ」

円場くん、黒色くん、小森さんが順に答えていく。そして最後に残った物間くんが答えた。

「僕はエスカルゴ・・・とサルミアッキとシュネッケンと・・・」
「一つじゃないのかよ!しかもサルミアッキとシュネッケンって不味いので有名な飴とグミじゃんか!」

何個も具を入れた物間くんに上鳴くんが抗議する。

「一人一つなんてルールはないよ。それなら・・・小森の入れ忘れたニガニガ茸を入れた」
「えっ?私全部入れたけど・・・待って。もしかしてビニール袋に入れてたヤツ!?」
「そうだよ。A組に遠慮して入れなかったんだろ?」

小森さんは落ち着きない様子で空になったビニール袋を胸の前でぐしゃりと握った。

「あれはニガニガ茸じゃないノコ・・・」

小森さんは、「あれはニガニガ茸に似てけど違うキノコノコ。名前は"コセイボン"ノコ。コセイボンには毒があるノコ」と静かに言った。しかもそのキノコのスープを飲むだけで昏睡状態になって食べると"個性"が暴走するらしい。物間くんが知らずに入れた毒キノコが原因だってわかった。
嘘でしょ・・・みんな大丈夫なの!?
B組の起きてる人全員が「もーのーまー!」と物間くんに凄んだ。

「・・・悪かった」

珍しく殊勝な態度の物間くんよりも、毒キノコ中毒に陥っている皆の容態が気になる。

「とりあえず、コセイボン中毒を治すにはどうすりゃいいの?」
「その方法は一つだけノコ。コセイボンボン茸を食べさせることノコ!」
「な、なにそれ。似たような名前だね」
「コセイボンボンは、だいたいコセイボンの近くに生えてるキノコノコ」
「もしかして、一緒に採ってきてたりする?小森さん」

中毒を治す方法がわかったが、肝心のコセイボンボンがなければ治すことはできない。

「コセイボンボンは毒キノコでもないし、美味しくもないノコ」
「ってことは・・・採ってないかー」
「つまり採ってくるしかないってことだね」

その言葉に皆が窓の外を見た。しんしんと降り積もる雪が、窓の高さ以上になっていて外はもう景色が見ることができない。この雪の中茸が見つかるんだろうか。

「あの、小森さん」
「なにノコ?緑谷さん」
「コセイボンで死ぬことってあるの?」
「コセイボンの致死量はお茶碗一杯分くらいだって言われてるノコ。だけど、私が持ってた量は、そんなにないから個性が暴走するだけで、死なないと思うノコ。大丈夫ノコ」
「そっか。良かったぁ」

コセイボンで死ぬことはなくても、暴走した個性で二次災害が起こるかもしれないから急がないといけない。

物間くんが自分が採りにいくというので、上鳴くんがそれに続き、話し合いの結果尾白くん、青山くん、回原くん、小森さんの合計6人が外へ行くことになった。
私は眠っている皆が個性を暴走させたとき対処するために待機することになった。物間くんは、役に立ちそうな者の"個性"をコピーして寮から出て行った。

残されたメンバーで男子たちを脱衣所から共同スペースへと移動させることになった。

「緑谷!お前も手伝ってくれ」
「え!?私?」
「緑谷パワーあんだろ?」
「で、でも・・・、裸の男子はちょっと・・・」

黒色くんと鱗くんがポカンとしている。一瞬の間を置いて二人が笑った。

「大丈夫!俺らがもう服着せてるから」
「緑谷も運ぶの手伝ってくれ」
「わかった!」

裸だったらどうしようと心配したのだけど、それは杞憂に終わった。連れてくる前になんとか服を着せてくれたらしい。ホッとして、遠慮なく脱衣所に入ったのだけど目に飛び込んできたのは下着だけ身につけた男子たちであった。
待って、待って!服着せてるって言ってたじゃん!全然着てないんですけどー!?
外は雪だと言うのにこんな格好じゃ、どんだけ普段から鍛えていても風邪をひくにきまってる。とりあえず皆を運んでソファに寝かせよう。そこから服を着せよう。
B組の残った男子と共に、寝ている人たちを全員運び出して、共同スペースに寝かせた。轟くんだけは、風呂場に閉じ込められているらしい。なんでも、炎熱と氷結が暴走していて温度が乱高下しているらしい。とてもじゃないけど外に出すことはできないと言われた。可哀想だけどそれじゃ仕方ない。

あと今回わかったのは、寝てる人に服着せるのって大変なんだってこと。かっちゃんの服を着せながらそう思った。
もし、あの闇鍋を食べていたら私も寝てしまっていたんだろう。食べなくて本当に良かった。寝ているかっちゃんの頬に手を当てた。あったかい・・・
抱き上げても、服を着せても、全く起きない。眠りこけているかっちゃんは綺麗な顔をしている。思わず写真を撮りたくなってスマホを取り出した。それを見ていたらしい取蔭さんが、「緑谷って本当に爆豪と付き合ってんだね」と後ろからしみじみと言った。全然背後に気がつかなかった。
恥ずかしくなって、すぐにスマホをポケットにしまった。毒キノコで中毒になってるというのに写真なんか撮って不謹慎だったかもしれない。

「爆豪って黙ってたら男前だよね。黙ってたらだけど」

後ろから取蔭さんが、私越しにかっちゃんの顔を覗き込んできた。なんだか見られたくなくて、かっちゃんの顔を隠すように覆い被さった。

「ははっ!心配しなくても大丈夫だから。緑谷から爆豪とらないし、とりたくないから絶対に。爆豪とかありえないから」
「う、うん?」
「緑谷ってさー、アレだよね。可愛い系だよね。守ってあげたくなる系というか」
「え!私も戦えるよ!?」
「それは知ってるけど、戦いの時じゃなくて普段はってこと」
「そ、そうかなぁ・・・よく分かんないや。取蔭さんは強くてかっこいいよね。それにスタイルが良い」
「へへ、ありがとう!・・・ねえ!私も緑谷のことA組の皆みたいに下の名前で呼んでいい?」
「うん!」

取蔭さんはニッコリと笑って私の頭を撫でてきた。

「なまえってば可愛いー!なかなか話す機会がなかったから、ずっと話してみたいって思ってたんだよね」
「私も取蔭さんと話してみたいって思ってた」
「ふふ、これからはもっと話そう。じゃ爆豪の世話は任せた。私はあっちに転がってるB組男子の服着せてくるよ」

取蔭さんはそう言って、他の人の服を着せるのを手伝いに行ってしまった。取蔭さん、良い人だ。
取蔭さんがもしかっちゃんを好きになったらと思うと胸が苦しくなる。取蔭さん顔も綺麗だしスタイル抜群だし、かないっこないもん。
だけどスパッとあり得ないと言われるのもなんだかなー。複雑な気持ちに私は名前をつけることができなかった。ジーッとかっちゃんの顔を見つめる。たしかに男前だ。
ゴロンと寝返りを打ったかっちゃんが「なまえ・・・」と呟いて私の手を掴むとグイッと引っぱった。そのまま毛布の中に引きこまれてしまった。寝ているかっちゃんはいつものように私を抱き枕みたいにして足を絡ませている。
皆が見ている前で恥ずかしくて抜け出そうとするけど、がっちりホールドされて動けない。個性を使えば抜け出せるだろうけど、その刺激でかっちゃんの個性が暴走したら大変なことになるから個性は使えない。それに気づいた泡瀬くんがデカい声で叫んだ。

「あ!オイ!こんなとこでイチャつくなよ!てか、爆豪は寝てる時いつもこんな感じなのか」
「あの・・・み、見ないで・・・」
「意外と爆豪が甘えるタイプなのがウケる」

私の顔はあっという間に真っ赤に染まった。恥ずかしすぎて、毛布を頭まですっぽりと被った。ガヤガヤと毛布の向こうで何か言っているけど、物間くんたちが帰ってくるまではもうこうしていようと決めた。
誰かの個性が爆走したのか離れたところで悲鳴が上がる。近くにいた人たちが、走っていったようで足音が遠くなっていった。

かっちゃんの顔がすぐ目の前にある。大勢の前で抱きしめられて寝てるって・・・どんな状況だよとつっこみたくなる。しばらく抜け出せないか格闘していたけど、かっちゃんがさらに私のことをきつく抱きしめた。私は完全に諦めた。かっちゃんの腕の中って落ち着くし良い匂いするし眠くなるんだよね。
物間くんたちの帰りを今か今かと待っているが、眠気とも戦わないといけない。
意識を手放しかけたとき、寮のドアが空いて、キンキンに冷えた空気が流れ込んできた。
帰ってきたんだ。毛布から顔を出すと、雪まみれの6人が部屋に入ってきたのが見えた。そして、物間くんの手にコセイボンボン茸と思われるものがあった。

「皆お帰りなさい!あったんだね、コセイボンボン茸!」
「うん・・・なんで緑谷爆豪と一緒に寝てんの。ってなにその状況っ!?お父さん、そんな子に育てた覚えありません!!」

上鳴くんが私がかっちゃんの腕の中にいるのを見て叫んだ。いつから私のお父さんだったの上鳴くん。

「なんか成り行きでこうなりました」
「ふーん。じゃなくて、早く離れなさい!異性不純交友は認めません!羨ましすぎるだろ!」
「かっちゃんが離してくれないの」
「キーーーーーーー!!!!!」

騒がしい上鳴くんとは対照的に、普段からは想像できないくらい静かな物間くんが口を開いた。

「・・・あのさ、僕が入れた毒キノコのことは先生にも眠ってしまっていたみんなにも黙っていてほしいんだ」
「え・・・?」
「ブラド先生を悲しませたくないんだ・・・」
「・・・・・・分かった。内緒にしておこう。物間くんだってわざとしたんじゃないもんね」
「ありがとう緑谷」

採ってきたコセイボンボン茸を宍田くんが泡瀬くんと一緒に細かく刻んで、煮込んでいる。煮込んだスープと茸を眠り込んだ者たちに順番に食べさせる。しばらくすると、皆が眠りから覚めた。

「いったい何だったんだ・・・」

目覚めたかっちゃんはダルそうに呟く。そして腕の中の私に気がついた。

「なまえっ!てめー何してんだよ!!!」
「か、かっちゃんが離してくれなかったんだもん!」
「爆豪、おめー、寝る時甘えるタイプなんだな!」
「死にてェみてーだな。いいぜ、溶接野郎。爆破してやる」
「わーーーーー!やめて!かっちゃん!!!」

指の関節をポキポキ鳴らしながら、鬼のような形相のかっちゃんの腰抱きついて引っ張って止めた。すると、かっちゃんに舌打ちされて毛布を頭からバサッと被せられた。

「つーか、なんでこんなことなっとんだ」
「あー、なんか鍋に当たったみたい?」

毛布から顔を出して、物間くんを見ると薄く笑って素知らぬ顔をしている。上鳴くんが斜め上を見ながら誤魔化した。

「あ゛ぁ?鍋だぁ?」
「なんかヘンなもの入ってたのー?」

葉隠さんが不思議そうに聞いた。

「なんせ、闇鍋だからね。何が入ってるかわからないさ」
「お前が言うな!」

すまし顔の物間くんに、回原くんが突っ込んだ。私は思わず小さく笑ってしまった。色々あったけど、とにかく皆が無事でよかった。

それから皆で鍋の片付けをした。寝てしまっている人たちのことで手一杯で片付けまで回らなかったのだ。
かっちゃんに抱きつかれてるとこ見られたのは恥ずかしかったけど、取蔭さんをはじめB組の人たちとも前より仲良くなれたのでプラマイプラスと考えることにする。

明日からは授業にくわえて忙しないインターンの日々が始まる。英気を養えたのかは疑問だけど、B組との距離がグッと縮まった。大騒ぎだった始業式の夜はこうして更けていった。

これは余談ではあるが、A組もB組もこの冬の間、鍋をしようとは誰一人として言い出すことはなかった。



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