美味しければそれで良し?



今日から新学期が始まる。気づけばもう怒涛の一年次も残りあとわずか3ヶ月である。冬休みにインターンが再開したことで忙しく過ごしていたため休みだったという感覚はあまりなく、皆と離れていたのだと再会してからようやく実感することができた。私はエンデヴァーの事務所で学んだことを、レポート用紙10枚にまとめて新年一発目の授業に臨んだ。だけどそれは必要のないことだったと知らされることなる。
朝の会を少し遅れると連絡があった相澤先生の代わりに司会進行した飯田くんによって。

「明けましておめでとう諸君!今日の授業は実戦報告会だ。冬休みの間に得た成果・課題等を共有する。さぁ皆スーツを纏いグラウンドαへ!」

なるほど、実戦ね。確かに聞くより見る方が速い。

「いつまで喋って・・・」
「先生ー!あけおめー!!」

やってきた相澤先生の横を、芦戸さんは立ち止まることなく通り抜けていく。新年の挨拶もサラリとしていた。
私も遅れないように梅雨ちゃんと麗日さんに着いて行った。梅雨ちゃんと麗日さんと三人並んで新年の挨拶を相澤先生にした。深々とお辞儀して顔を上げると、相澤先生は「明けましておめでとう」と抑揚のない声で淡々と挨拶を返した。
更衣室目指して歩き出したとき、後ろで男子たちが飯田くんが空回りしていると面白おかしく話すもんだから振り返ると、確かに飯田くんは空回りしていた。腰をくねらせている。それもかなりのスピードで。
「ソレ!ソレ!」という合いの手を自ら入れていて、私は吹き出さずにはいられなかった。何が面白いって、飯田くんは笑わせようとしてやっているのではないのだ。常に全力、常に真剣。そこが面白みを引き立てている。

更衣室にたどり着いて着替えていたら、葉隠さんが麗日さんのコスチュームが変わっていると言った。

「お茶子ちゃんコスチューム変えたねぇ!似合ってるねぇ!お茶子ちゃん!マイチェン」
「本当だ!麗日さん見せて見せて!メモさせて!」
「なまえちゃん相変わらずやねぇ」

麗日さんのリストにはワイヤーが装備され、ヘルメットのシールドが無くなっていた。マイナーチェンジどころの騒ぎではない。急いでメモして、考えうるありとあらゆる使い方を頭の中でシュミレーションする。
ああでもない、こうでもないと呟いていたら着替え終わった皆に早く着替えなさいと叱られてしまった。

「なまえちゃんは冬休み成果あった?」
「緑谷ちゃん、あの飛び出す黒いやつはコントロールできるようになった?」
「うーん、黒鞭は暴走はさせることなく使えるようになってきてるかな」
「本当!?すごいわ。速いわね!」
「て言ってもまだ一瞬しか出せなくて用途は限られるんだけどね。だけど・・・前の私より確実に強い!」
「No1ヒーロー事務所なんてそう行くことないから良い経験ですわね」
「本当いい経験だったよ!エンデヴァーの元で気付かされたのは、私はワン・フォー・オールの常時出力コントロールと黒鞭の並行処理ばかりに囚われてすぎていたの。考えすぎていたんだ。並行処理の本質は"体に馴染ませる"ってことなんだってことをエンデヴァーが教えくれた。それに速度感覚が違いすぎて、考えながらじゃ、とてもじゃないけど、ついていけないんだよ」

グラウンドαに着くまで喋り倒していたので、先に来ていた男子たち、主にかっちゃんに白い目で見られてしまった。

「わーたーがーしー機だ!!」
「オールマイト!!」

オールマイトは綿菓子機に割り箸を突っ込んでくるくると綿飴を巻き付けている。わ、美味しそう。食べたいな。

「あれ?相澤先生は?」
「ヘイガイズ。私の渾身のギャグを受け流すこと水の如し。わたしが来た。わたがし機だ・・・」
「・・・・・・」
「・・・相澤くんは本当今さっき急用ができてしまってね。さっそくだが、君たちの冬休みの成果を発表してもらう!今日は仮想敵ロボと戦って新技や会得したことを実戦で報告してもらうよ。では早速始めていこう」

始まった実戦報告会。私がオールマイトのところへこっそり行って、綿菓子くださいと言うと嬉しそうにたくさん作り始めた。皆んなで食べながら、鑑賞することになった。ゆるりとしていて、こういうのもいいな。インターン中は常に気が張っていてこんな余裕なんてなかった。
トップバッターは、青山くんだ。

『去ねヤ人類!俺タチがこの世界のスカイネットだ!!』

猛攻をしかけてくる仮想敵ロボを見事に一太刀で切り裂いた。新技のネビルセーバーだ。そして青山くんのネビルレーザーを葉隠さんが光の屈折を強制的に行ってみせた。

「曲げたァ!!」
「見ててキモティーなァ」
「葉隠さん!すごい!!」
「光の屈折をグイッと出来ちゃうんです」

それでも猛攻の手を緩めない仮想敵ロボたちが襲いかかる。しかし、上空から現れた少女、芦戸三奈の前では全てが溶解してしまう。

「粘性MAX!!アシッドマン!!」
『ニンゲン・・・コワッ・・・』

強酸によってドロドロになった仮想敵ロボは全て壊れてしまった。

「こーんな感じです!」
「素晴らしい!皆、拍手だ!!芦戸少女たちは具足ヒーローヨロイムシャの下でのインターンだったな」
「攻防一体の策が多くて、ついていく為にコンボや新技を開発しました」
「この調子で各々インターンの経過を見せてくれ!!」

尾白くんと砂藤くんのインターン先はNo13ライオンヒーロー・シシドの事務所。彼らはそこでシシドから手数と先読みの力を学んだ。
耳郎さん、障子くんは、ギャングオルカの元で索敵を強化している。
上鳴くん、瀬呂くん、峰田くんは、チームアップしたMtレディの元で最短効率チームプレイを実践した。
飯田くんはノーマルヒーローマニュアルの元で物腰を身につけた。
口田くんは洗濯ヒーローウォッシュの元で円滑なコミュニケーションを。
常闇くんはホークス不在の中、事務所のサイドキックたちの元で総合力向上を図った。
切島くんは、ファットガムの元で、敵にいかに
早く戦意喪失させるかを。
麗日さんと梅雨ちゃんはリューキュウの元で決定力を身につけた。
八百屋さんは、魔法ヒーローマジェスティックの元で予測と効率を学んだ。
そして・・・エンデヴァーの元で、かっちゃんは実力の底上げを、轟くんはスピードを、私は・・・経験値を積み重ねてきた。
黒鞭を出しても、もう決して暴走しない。させない。地面を蹴り上げ、仮想敵ロボたちを一気に捕獲する為黒鞭を出して1箇所に引き寄せる。そして集めたところにフルカウルで飛び込んでいき粉々に壊す。

「おいバクゴー!てめー冬を克服したのか!」
「するかアホが!圧縮撃ちだ!」

切島くんがかっちゃんに怒鳴られていた。

「轟くんついに速いイケメンになっちゃったねぇ」
「いや・・・まだエンデヴァーには追いつけねぇ」
「緑谷ー!使えてんじゃん!黒いやつ!」
「峰田くん!うん!黒鞭ね。ご迷惑をおかけしました・・・!」
「緑谷おまえなァ!俺の個性がアレになっちゃうよ!おまえ・・・」
「瀬呂くんの個性とは似て非なるものだと思うよ!あ!麗日さん!」
「ん!?」
「ちゃんと使えるようにしたよ!」
「んん!」
「あの時は本当にありがとう!」
「いつの話をしとるんだい!」

ハハハと軽快に笑う麗日さんに背中をバシバシ叩かれた。麗日さん時々動作が豪快になるんだよな。

「あんね!更衣室でも見せたけど、このリストのワイヤーはなまえちゃんがきっかけで導入したの。短いし瀬呂くんみたいな使い方はできんけど・・・私はとっくに力に変えた。お互いに向上したってことで!」
「ありがとう!」

嬉しくって、麗日さんに飛びついた。私を抱きとめた麗日さんが耳元で小さく言った。

「なまえちゃん、そろそろ私のこと名前で呼んで欲しいなぁなんて・・・」
「お、お茶、お茶子ちゃん・・・」
「なまえちゃんかわええ!」

恥ずかしくなってきて顔を隠す様に麗日さんの肩に顔をうずめた。二人で抱き合っていたら峰田くんが横に来ていてよだれを垂らしているのに気がついた。

「何なん、この花園は。眼福ッッッ!!!」
「峰田くん、よだれ出てる!」
「キモイで峰田くん・・・」

それぞれの今後の課題を発表し、意見交換を終えて、オールマイトによる講評が始まった。

「皆しっかり揉まれたようだね。録画しといたから相澤くんに渡しておくよ!引き続きインターン頑張ってくれ!更なる向上を・・・」

私とかっちゃんに向けられた視線でオールマイトの合図に気がついた。授業が終わり、コスチュームから制服へと着替える。
更衣室を出るとかっちゃんが待っていて手を差し出された。手を取ると、握り返してきて歩き始めるかっちゃん。更衣室から出てきた女子たちにその光景を見られているとはつゆ知らず、私はかっちゃんの腕に自分の腕を絡ませて引っ付いた。

「行くぞ」
「待っててくれたんだね!ありがとう」

二人でオールマイトの待つ仮眠室へと移動した。私たちがソファに座って、小さなスツールにオールマイトが腰掛けた。かっちゃんは足を組んで座っている。

「黒鞭おめでとう」
「ありがとうございます」
「爆豪少年も君どこまで上り詰めるの!?って具合だ・・・」
「んだそりゃ!!」
「結局全ては分からなかった。だが進めねばならない。次のステップへ」

机の上にのせられた、オールマイト直筆のノート。表紙も手書きで"歴代継承者個性・緑谷少女ノート"とタイトルが書かれていて、タイトルよりも大きな文字でFIGHT!と書かれている。

「ワン・フォー・オール歴代継承者の詳細を可能な範囲で纏めておいた。残念ながら2・3代目に関しては手掛かりも見つからなかった。時代とワン・フォー・オールの性質が相俟って記録から探るのは不可能だった。"個性"が宿るとわかっていれば歴代も何かしらの形で残していただろうが・・・」
「どーでもいーから話ィ進めろ!俺の貴重な時間を割いてんだからよ!」
「黒鞭ですがまだ一秒くらいしか持続できないので瀬呂くんや相澤先生のようにら扱えませんが補助能力として既に強力な"個性"だと思います」
「あれ以来歴代との接触はないんだね?」
「はい」

かっちゃんがノートを手に取ってページをめくっていき、黒鞭のページを読み上げた。

「ラリアット。本名・万縄大悟郎。"個性"黒鞭。身体から放出する紐状のエネルギーで捕縛と空中機動を得意とした・・・こいつもそーだが、どれも特に強ェ"個性"持ちってわけじゃねンだな。聞いたこともない奴ばっかだしよォ」
「え・・・めちゃくちゃ凄い"個性"だらけじゃない!?」
「なまえは"個性"なら何でも凄ェんだろがザコ価値観が!」
「それいろんな方面にひどいよ・・・」

ページをめくるかっちゃんに近づいて一緒に覗き込んだ。

「爆豪少年の言うことも間違いじゃない。AFOはワン・フォー・オールに固執していた。今では考えられない程に悪が力を持っていた時代。AFOは強い者を徹底的に潰していった。歯止めの利かない悪意と支配がそれを可能にしていたんだ。地獄の中をもがき、息絶える中、歴代はこの力に未来を託して紡いできた。彼らは"選ばれし者"じゃない。繰り返される戦いの中でただ"託された者"であり"託した者"だった・・・」

私はその話を聞いて生唾を飲み込んだ。かっちゃんは手に持っていたノートを机の上に投げた。

「・・・どーりで、どいつも早死にだ」

たしかにノートに書かれた享年はどれも死ぬには早すぎる年齢だった。

「そー・・・だね」

オールマイトは表情を変えずに言った。オールマイトの師匠も早くに亡くなってるんだもんね。

「で!?次はなまえに何習得さすんだ」
「円滑・・・」
「てめーらがすぐ横道逸れンだろ!!!」
「"浮遊"お師匠の"個性"だ」

オールマイトの師匠・・・!!志村菜奈さん!
新たな力・・・浮遊かぁ。大丈夫かなぁ。観覧車苦手なのに私なんかがフワフワ浮いて。
突然隣のかっちゃんが「勝った!!」と叫んだから驚きのあまり心臓が口から飛び出るかと思った。向かい側に座るオールマイトですらビクッとして髪の毛が逆立っている。

「俺ァ爆破で浮ける!!なまえは俺が既に可能なことに時間を費やす!その間インターンで俺ァ更に磨きをかける!つまりなまえより先にいる!Q.E.D.!!」
「そっ、それはやだな。すぐ習得して追いつくよ!」
「どーせまたパニクって暴発する!」
「いや、黒鞭で要領は把握してるわけだから」
「絶対パニクって暴発して、泣いて俺に縋りつけ!!」
「揺るぎない・・・!で、でもこの個性なんかはかっちゃんでもさすがに真似できないんじゃない?」
「あ゛??どれだよ見せてみろ。俺にできねェことなんて無いんだよ!!」

しばらく言い合いしてたら、オールマイトに制された。その後は、オールマイトにインターンでの出来事を話した。
かっちゃんとヒーローかるた大会に出たことや、エンデヴァーよりはやく敵を退治できたことなどを話した。オールマイトはどの話もうんうんと相槌を打ちながら楽しそうに聴いている。

仮眠室から寮に戻る頃にはすっかり外は暗くなって星が輝き始めていた。

「ただいまー!」
「何してたんだ遅ェーーーよ謹慎カップル!!」
「早く手伝わねーと肉食うの禁止だからな!」
「え、肉禁止されるのやだ!すぐやるね!手洗ってくる!」
「肉を禁じたらダメに決まってんだろが、イカれてんのか!!」

かっちゃんがポケットに手を入れたまま叫んだ。理不尽な答えに瀬呂くんと上鳴くんが割と引いている。

「ええ・・・」
「ヤベェ人じゃん」
「嫌なら手伝えよ爆豪!」

かっちゃんがキッチンに立つ私の隣に来て、すでに切ってあるニラを摘んで持ち上げると、全てが絶妙に繋がっていた。

「ニラ切った奴誰だ!」
「俺だ!」
「姉ちゃん泣くぞ!!クソが!!」

なんだかんだ言いながら、ニラを切り直していく。それを隣で私は見ていた。結局私の手伝えたことといえば、具材をかっちゃんと砂藤くん指導の元切ってもりつけくらいだ。今日はB組もここに来て一緒に鍋を囲む予定だ。
B組はまだ到着していないけど、一足先に鍋パを始めることにした。飯田くんがコップを持って立ち上がって音頭をとる。

「では!"インターン意見交換会"兼"始業一発気合入魂鍋パだぜ!!!会"を始めようーーーーーーー!!!」
「カンパーーイ!!!!!」

皆それぞれ食べたい鍋の前に座りコップを掲げて乾杯した。ちなみに私は豆乳鍋が食べたかったんだけど、かっちゃんに手を引っ張られてキムチ鍋の前に鎮座していた。

「寒い日は鍋に限るよなァーーーーー!!!」

切島くんがキムチ鍋を一口食べてしみじみと言った。

「暖かくなったらもうウチらも2年生だね」
「あっという間ね」
「怒涛だった!あ、美味しー!豆乳鍋最強!!」
「あ、私も豆乳鍋・・・」
「なまえは、俺が丹精込めて作ったキムチ鍋を食うよな?」
「ハ、ハイ、食べマス」

かっちゃんに取り皿を引ったくられて、キムチ鍋の具材を入れられた。

「ありがとう」
「ん・・・」

辛そうだけど、かっちゃんが作って取り分けてくれたんだから食べるしかない。意を決して一口食べたら、かっちゃんは皆も食べられる辛さに味付けしてくれていた。かっちゃんだから激辛にしてるかと思ったけど意外と皆のこと考えてくれてるんだ。

「美味しい!これ、見た目は赤くって辛そうなのに、コクがあるよ!んー、出汁との相性がいいのかも。それに、野菜のダシも出てきていて、豚肉の旨味を引き立ててる!全ての具材の味の調和がとれている。黄金比率なんだ、きっと!かっちゃんすごいよ!これなら、ずっと食べていたい」
「俺が作ってんだ。美味いに決まってンだろ」

かっちゃんは私がキムチ鍋の具をを頬張るのをいつもと変わらない仏頂面だけど、どこか嬉しそうに見ている。
少し離れた席にいる飯田くんが皆に期末が控えていることを忘れるなと警告して、峰田くんが叫んだ。

「やめろ、飯田!鍋が不味くなる!」
「味は変わんねェぞ」
「と、轟・・・おまえ、それもう天然とかじゃなくね!?」
「皮肉でしょ。期末慌ててんの?って」
「高度!!」

轟くんのボケなのか本気なのかわからない言葉に峰田くんが過剰に反応し、耳郎さんに冷たくトドメを刺されている。上鳴くんが「俺は味方だぞー峰田ー!」と笑って、クラス皆もつられて笑った。

4月に雄英高校に入学してから激動の日々を過ごしてきた。時々ふと我に返る。今私がこうしてこの場にいること。オールマイトに見てもらえるなんて思わなかったし、かっちゃんとこうなる日が来るなんて思ってなかった。

「緑谷、ポン酢を取ってもらえるか」

私は・・・

「恵まれすぎてる・・・」
「・・・・・・緑谷、ポン酢を・・・」
「ああ!ごめん!!はい、どうぞ!!」
「かたじけない。考えごとか?」
「あ、ううん!大丈夫!寄せ鍋も美味しそうだね!後で食べよっと」

和気藹々と鍋を囲んでいると、玄関から威勢の良い声が聞こえてきた。

「お邪魔するよー!!!」

B組の姉御肌、拳藤さんを先頭にB組の女子たちが続々と入ってきた。飯田くんと八百万さんが玄関まで行って出迎えている。お茶子ちゃんと梅雨ちゃんと一緒に私も席を立ってB組の皆を迎え入れた。
差し入れのジュースとお菓子を受け取り冷蔵庫に入れる。食後のデザートがあるなんて小躍りするくらいにテンションが上がった。
小大さんの個性で小さくなっていたソファが大きくなって皆が十分座れる大きさになった。
だけど、まだ男子の姿が見えない。

「あら?あとはもう来ないのかしら?」

梅雨ちゃんが玄関を見て何かに気づいたような声を上げた。

「男たち?もちろん来るよ。ちょっとねー・・・色々持ってくるよ。A組先に謝っておく。ごめんね」
「何ー?何かあるの?」
「私も気になる。というか怖い!」
「B組のお騒がせの元は一人しかいねぇだろ」

かっちゃんが更に私の不安を煽る。その言葉に私だけじゃなく、他のA組の皆もハッとした。B組を愛しすぎるあまりA組に抵抗心を燃やし、問題を起こす人がやってきた。

「やぁ!!待たせたね!!待たせすぎたかな!?」

なんかめちゃくちゃ悪そうな顔をしている。なにか企んでるな、こりゃ。物間くんはツカツカとやってきてA組の鍋を覗き込んだ。品定めするような目つきで見ている。

「これは豆乳鍋。あっちはキムチ鍋かな?そしてあっちは寄せ鍋。あれは担々ゴマ鍋か。ふふ、ずいぶんベタな鍋をそろえたものだね」
「なんだよ?随分突っかかるな」

砂藤くんが訝しんで言った。私はまだキムチ鍋しか食べてないけど、砂藤くんの監修の元作った鍋は見た目だけでなく味も抜群なんだからね。

「そうだそうだ!みんなで一生懸命作ったんだぞー!美味いから食べてみろって!」
「上鳴くん、僕がただ単に君たちA組の作った鍋を食べるために来たとでも?」
「安心してくれたまえ!インターン意見交換会はきっちりやるぞ!」
「それは後でおいおい。僕が言いたいのはそういうことじゃなく、B組だって美味しい鍋を作れるということさ!君たち以上のね!!」

私は何となく、物間くんが言わんとすることが分かった。B組の残りの男子たち全員が入ってきた。鍋と、お皿とお箸を持参している。

「鍋も持ってきてくれたのかい?B組の皆の分も用意してあったのに」
「A組・・・この鍋は僕たちB組からの挑戦状さ。どちらが美味しい鍋を作ったのか、勝負しようじゃないか!!」
「ごめんね?こいつ、言い出したら聞かなくてさ・・・」

バーンと効果音付きで私たちの鍋を指さす物間くん。それを申し訳なさそうに見ていた拳藤さんが口を開いた。
その間も私は箸をとめることなくキムチ鍋を食べ進めていた。

「さぁ、この勝負受けるかい?」
「いやいや、勝負とかじゃなくてフツーに鍋食べようぜ」
「おやぁ?もしかして僕たちB組の鍋が怖いのかい?ええ?爆豪くん」
「あぁ?んなもんどっちでもいーわ」

キレやすいかっちゃんは、いたって冷静に私の取り皿にキムチ鍋をよそっている。A組の導火線のかっちゃんが!感動してかっちゃんを見ていたら、「ンだよ」と苛つかれた。あ、やっぱり前言撤回、この感じ、導火線のかっちゃんだ。導火線に火をつけ損ねた物間くんはさらに煽り始める。

「・・・そうだね、僕らB組の鍋はA組の鍋とは比べ物にならない。例えばそこのキムチ鍋なんてただキムチを突っ込んだような創意工夫もない鍋だもんねぇ!?」

かっちゃんはガシャンと取り皿の上に箸を乱暴に置いた。

「てめえ、俺のキムチ鍋にケチつけんのか!」
「ケチじゃないよ、ただそう見えるだけさ」
「そんじゃ食ってみろや!この鍋は俺の出汁をベースに爆豪が自分の激辛調味料で味を調えたんだぞ!何度も味見して、仕上げたんだ。ただ辛いだけじゃない。うまみとコクと複雑な辛みが豚バラと野菜を引き立ててるんだ!」
「そーだよ!かっちゃんはね!私でも食べれるように辛さを調節してくれてて、辛いのが足りない人用にかっちゃんが調合した特製の激辛パウダーを用意してるんだからね!!!」

かっちゃんの鍋をバカにされて黙っていられなくて、私は激辛パウダーを印籠のように持って立ち上がった。
切島くんもかっちゃんが鍋にかける思いを知って、感激したらしく私と共に立ち上がった。ノリのいい瀬呂くんも「やろうぜー!」と囃し立てA組とB組の鍋対決が始まった。
ルールは至ってシンプル。自分の好きな鍋に投票するのだ。自分の組を贔屓せず、本当においしいと思った鍋に投票する。だって私たちヒーロー科ですもの。プライドがある。

まずはB組がA組の鍋を試食した。次に私たちがB組の鍋を試食する。蓋をあけると立ち登る湯気に一同は深呼吸をした。すき焼きだ。

「・・・すき焼きは卑怯だろー!?」

切島くんは焦ったように叫んだ。わかるよ、すき焼きに一票を投じたくなる気持ち。私も好きだもん。甘辛い割り下で煮た牛肉、ネギ、お麩、豆腐、糸コンなどが輝いて見える。ゴクリとその場にいる全員が唾を飲み込んだに違いない。

「鉄鍋で煮るんだから、立派な鍋料理だろ?ほら、卵をつけて食してごらんよ」

鱗飛竜くん、円場くんたちが溶き卵の入った器に手際よく取り分けていく。手渡されて、私は輝きを放つお肉に目を奪われていた。隣の席のかっちゃんも渡されて渋々受け取っている。

「い、いただきます!・・・ん!美味しい!これは・・・肉の旨みが甘辛いタレで最大限に引き出されてる!舌でも切れそうなくらいに柔らかい牛肉が新鮮な生卵にからまって、よりまろやかに口の中を幸せでみたしてくれる。けれど肉以上にポテンシャルを引き出しているのは野菜だよ。肉の旨みと脂が溶け出したタレでくたりと煮込まれ、野菜の瑞々しい甘味が・・・」
「うるせェ!!なまえの食レポは長ぇンだよ!!早よ食え!食わねェなら俺が食うぞ」
「だ、ダメっ!」

すき焼きの小皿をとられないように急いで掻っ込んだ。

「ふふ、すき焼きにだいぶ傾いたようだね・・・」
「くっ!でも、A組の鍋だって負けたもんじゃねぇ!」
「それじゃ次の鍋はどうかな・・・」

その言葉に皆の視線が次の鍋に集まる。ぶわっと白い湯気とともに現れたのは野菜たっぷりの白身魚の鍋。なんの変哲もない普通の海鮮鍋のようだ。

「なんだよ、海鮮鍋か?でもそれにしちゃ白身魚しか入ってないじゃん」

上鳴くんが肩透かしを食らった顔をしている。勝ち誇った顔をしている物間くんに勧められてまた、皆が取り分けられた小皿を手にする。ポン酢しょうゆと小口ネギ、もみじおろしにつけて一口食べると、すき焼きとは違った旨味がじんわりと口の中いっぱいに広がった。上品な味だ。今日食べた鍋で一番かも。いや、かっちゃんのキムチ鍋も捨てがたい。迷うなぁ・・・

「ケロー!」
「口福・・・!」
「ウマーーイ!!」
「何この魚!?」

皆が口々に感想を述べる。静かに食べていた八百万さんが「これは・・・クエですわ」と言った。

「スズキ目ハタ科の海水魚ですわ。九州地方ではアラと呼ばれたりもしているようです。クエを食べたら他の魚は食べられないなどと称されるほど、美味で有名ですわね。クエ鍋は、鍋の王様とも呼ばれています」
「クエは超のつく高級魚さ。ウチの宍田の実家から送られてきたものなんだ」
「そ、そんな高価なものを・・・」

お茶子ちゃんが、高級魚と聞いて恐れ慄いている。博識な八百万さんだけど、魚にも詳しいんだ。八百万さんと水族館行ったら色々教えてくれそうだな。
高級魚を送ってくる実家ってなに?そう思って近くにいた拳藤さんにこっそり聞いてみた。
宍田くん獰猛な獣のような見た目だけど、実は八百万さんと型を並べるくらいのお坊ちゃんらしい。
全ての鍋の試食が終わり、投票の時間となった。

「全員全ての鍋を試食したね?それじゃあ・・・投票だ!自分が一番美味しいと思った鍋の前に移動してくれ!」

私はギリギリまで迷って、クエ鍋の前に移動した。すると、かっちゃんまでもがクエ鍋のところにやってきた。キムチ鍋のところで霧島くんが「つーか爆豪、お前もクエ鍋かよ!?」とショックを受けている。
かっちゃんは真っ赤に染まった取り皿を切島くんに見せた。一味を足しまくったもみじおろしだ。

「・・・うめえんだよ」

砂藤くんや、八百万さんもクエ鍋のところにいる。

「フフフ・・・どうやら勝負は決まったようだね!僕たちB組が大差で勝利だ!!!!」

高笑いして反り返っている物間くんは、申し訳なさそうにしているB組の面々に気付かず、鬼気迫る顔で続けた。

「さぁ、勝負に負けたからには罰ゲームと相場が決まっているよねぇ!?」
「えー!?どの鍋も美味しかったからそれで良いじゃん。それにそんなの聞いてないよ、ねぇ、かっちゃん!」
「ンなこと聞いてねぇぞ!!」

かっちゃんも立ち上がって抗議するが、物間くんはどこ吹く風で怯んでいない。むしろ煽っていく上に、飯田くんが丸めこまれて結局罰ゲームを受けることになってしまった。
どんな罰ゲームが待っているのか心配だ。



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