私が学級委員長!?
かっちゃんはあの後一人で帰っていった。初めてみたかっちゃんの涙が頭から離れなくて、ぼんやりしながら家に帰ると怪我をした私の姿を見て母が悲鳴をあげていた。心配させちゃうのは心苦しいけど、まだ生きてるのに死んだかのように泣かないで欲しい。私しっかり生きてるから。
翌朝7時半にかっちゃんの家のインターホンを押した。今日も来いって言われてるわけじゃないけど、なんとなくかっちゃんのことが心配で迎えにきた。かっちゃんのお母さんも、私の怪我をみて心配して大騒ぎしてる。たいしたことない怪我だと伝えると涙ぐんで「できるだけ怪我しないでね」と言って抱きしめてくれた。
かっちゃんのお母さん、私のことも自分の子どもの様に思ってくれてるんだろうな。
準備を終えて家から出てきたかっちゃんが、私のことを抱きしめてるお母さんを引き剥がして家の中に押し込んでドアを閉めていた。
「かっちゃん。お、おはよう」
「おい、てめェ。昨日教えてやっただろネクタイの結び方。なんでそんな下手くそな結び目なんだよバカ」
「え、あれ教えてくれてたの!?」
「なんだと思ってたんだよ」
「えっと、かっちゃんに抱きしめられてるみたいで緊張しちゃって。かっちゃんばっか見てて全然結び方見てなかった・・・あ、あと、ほら、昨日戦闘訓練で右手怪我しちゃったし・・・あ、べ、別にかっちゃんのせいだって言ってるわけじゃないからね!」
「・・・」
こっちみんなって言ってたし、てっきりこれから毎日結んでくれるのかと早とちりしてしまった。早口で言い訳してると、かっちゃんは何も言わずネクタイを引っ張って解いた。今日は正面からネクタイを結んでくれた。一度ネクタイで首絞められかけたけど。
かっちゃん、昨日より少しだけど元気になってて良かった。
今日は、満員電車なのだから仕方ないと最初から割り切ってかっちゃんの胸にピタリとくっついて電車に揺られていた。かっちゃんの匂い、なんか落ち着くんだよなぁ。
最近私は髪が伸びたので一つに結ってポニーテールにしてる。かっちゃんが剥き出しになっている私のうなじをそっと撫でた。突然のことに驚いて、ビクっと反応してしまった。恥ずかしくてかっちゃんに顔を見られないようにかっちゃんの胸に顔をうずめた。
「・・・わりぃ」
かっちゃんが謝った。春だけど今日は季節外れの雪が降るかもしれない。
今日は駅に着いてもさっさと行かず私のペースに合わせて歩いてくれている。怪我させたと思って気にしてるのかな。気にしなくていいのに。
学校の門に人だかりができている。マスコミ?何か事件でもあったのかな。怖くてかっちゃんのカバンを掴んだら、かっちゃんは一瞥したけど何も言わなかった。このまま掴んでていいのかな。
学校に近くなるとかっちゃんはちょっと素っ気なくなる。
校門を通ろうとすると、インタビュアーたちに囲まれてマイクを向けられた。
「オールマイトの授業はどんな感じです?」
「え!!?あ・・・すみません。私保健室行かなきゃいけなくて・・・」
私が答えないのが分かって、すぐ様かっちゃんにもマイクを向けている。
「オールマイト・・・あれ!?君"ヘドロ"の時の!!」
「やめろ」
かっちゃんは私の左手を掴んで歩き始めた。マスコミが見えなくなると手を離して、何も言わず保健室へと向かって二人で歩いた。送ってくれるんだ・・・
そこまで責任感じなくてもいいのに。
保健室でようやく右手の固定バンドを外して良いと言われた。そしてリカバリーガールに一気に治癒してもらえた。体力かなり持っていかれてフラフラするけどもう授業へ行かなくちゃ。
ふらつく足でなんとか保健室の外へ出ると、そこにはまだかっちゃんの姿があった。私の顔を見るなり、舌打ちして背中に乗れと屈んできた。たしかに教室まで歩くのはしんどい。甘えちゃおう。かっちゃんの背中は逞しくて、もう小さい頃のかっちゃんじゃないんだなと思った。大人の男の人になりつつあるんだ。
かっちゃんの肩に頬を擦り寄せるとかっちゃんが固まった。
「かっちゃん、ありがとう」
「・・・ん」
教室が近くなるとさすがに恥ずかしくて下ろしてもらった。
「ありがとう。かっちゃん先に行っていいよ」
「てめェが先行け。俺が後から行くから」
「?」
「てめェがどっかそこらで倒れたら人様の迷惑だろぉがよ。見ててやるっつってんだよ!先行け」
「う、うん。ありがとう」
そろりと教室のドアを開けると、麗日さんが駆け寄ってきた。
「おっはよー、なまえちゃん!」
麗日さんが私に飛びついてきて受け止めきれずに後ろに倒れた。後ろからきたかっちゃんが私と麗日さんを支える羽目になって、若干キレてる。かっちゃんの鋭い視線に気づかないのか麗日さんは呑気に微笑んでる。
ホームルームが始まると、相澤先生は昨日の戦闘訓練のことでかっちゃんに指導してる。きっと私のことも言われちゃう。
「・・・で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か」
返す言葉もない。下を向いてると先生は大きなため息をついた。
「"個性"の制御・・・いつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねぇぞ。俺は同じこと言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多いよ緑谷」
「っはい!」
返事をした私をみて頷いた相澤先生が、これから学級委員長を決めてもらうと伝えるとみんながざわついた。みんな立候補してる。すごいな。一応私も手を小さく挙げてみる。
飯田くんが民主主義に則り投票で決めようと言ったので投票で決めることになった。
そして開票の結果何故か三票集まった私が学級委員長になってしまった。荷が重い。みんなをまとめて引っ張っていけるだろうか。
お昼時になり、飯田くんと麗日さんと食事をとっていると突然警報が鳴り響いた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』
大騒ぎになって、慌てふためく人の流れに押されて麗日さんが流されていくのが見えた。私も人にぶつかったり足を踏まれたりして身動きが取れなくなった。パニックになって過呼吸になる人も現れて、あたりは騒然としている。どうにかしないといけないけど、人に挟まれて動けそうにない。
飯田くんが宙に浮いて、非常口の壁に物凄いスピードでベタンとくっついて大声で叫んだ。
「大丈ー夫!!」
鶴の一声で、辺りは静かになる。ただのマスコミだから落ち着くようにと端的に伝える飯田くんは凄い。落ち着きを取り戻した生徒たちはゆっくりと焦ることなく食堂を出て行き始めた。良かった。
名前を呼ばれて振り返ると、すぐ後ろにいたのは同じクラスの切島くんと上鳴くんだった。
「大丈夫かよ、緑谷」
「う、うんありがとう」
「ん?緑谷さぁなんか爆豪の匂いするなぁ」
切島くんが、私の首筋あたりを嗅いでる。慌てて手で首を隠したけど、かっちゃんの匂いってどういうことだろう。電車でかっちゃんにひっついてたけど、それでかな。
はっ!そう言えば、かっちゃんにうなじを撫でられた・・・そのときにニトロみたいな匂いがついたのかもしれない。いや、でもなんて説明したらいいの・・・!?
「緑谷がショートした・・・上鳴、お前個性使ったか?」
「いーや、俺は何もしてねぇぜ?」
「おーい緑谷ー?大丈夫かー?」
「はっ!ご、ごめん」
「緑谷って爆豪と付き合ってんの?」
「ま、まさか!!」
「だよな。あの戦闘訓練のとき爆豪お前を殺す勢いだっだもんな」
かっちゃんが私のこと好きじゃないって、わかってるけど、人に言われるとなんだか悲しくなってくる。涙で視界が滲んできてしまったから、また後でねと二人に小さく手を振って麗日さんを探しに歩き出した。
しばらくして警察がきて事態は収束した。
午後授業は他の委員を決めていく。私が仕切らないといけないなんて。やっぱり荷が重いし、私より適任な人材がいると思う。恐る恐る提案する。
「委員長はやっぱり飯田くんがいいと思います!あんな風にかっこよく人をまとめられるだもん。私は飯田くんがやるのが正しいと思う」
そう言うと切島くんや上鳴くんも賛成してくれた。みんな口々に「非常口飯田!しっかりやれよー!」と檄を飛ばしている。本人も引き受けてくれるそうなので私はホッと胸を撫で下ろした。
かっちゃんと目があって、どうしていいか分からず、笑いかけるとそっぽをむかれてしまった。