ヒーローかるた大会-後編
くじ引きの結果、まーちゃんとたっくんは第一回戦で対決することになった。この戦いは二人になるとって吉と出るか凶と出るか。
畳の上に並べられた絵札をみつめて場所を覚える。
絵札を挟んだ向かい側で、たっくんとかっちゃんが話している。
「わかってるな、敵顔。読まれた札に早く触ったらゲットできるんだぞ」
「読まれた札取りゃいいんだろが。簡単じゃねーか」
「かっちゃん、そう上手くいくかな・・・?」
「あぁ?」
私の神妙な顔にかっちゃんは絵札を見る。そうこのヒーローかるた、札には文字は書いてないのだ。数百枚のなかから絵札を取らなきゃならない。
「気づいた?ヒーローかるたはね、普通のかるたと違って文字がないの。しかも数百枚の中からランダムに並べる札が選ばれる。頭文字被りが何枚もある。それを読み札の言葉だけで、どのヒーローのことを指しているのか瞬時に分からないと札は取れない。つまり・・・」
「読み札暗記してなきゃ取れねえじゃねえか!」
「だから、さっき初心者じゃ勝てないって言ったんだよ!」
「もっと積極的に言えや!」
「なんだよ、自分がさっさとエントリーしちゃったんだろー!?」
言い争い出したかっちゃんとたっくんを、心配そうにまーちゃんは見つめている。私はまーちゃんの手を取ってニッコリ微笑んだ。
「がんばろうね!まーちゃん」
「う、うん」
まーちゃんは真っ赤な顔して目を逸らした。
二人に仲直りしてほしいのに、なんだか変なことになっちゃったな。
『では、第一回戦始めます!』
読み手が声をあげた。この戦いは、まーちゃんが主役、私はあくまで人数合わせの参加なんだから。そう思っていた。
『みん』
パァン!!
軽快な音ともに絵札が宙を舞う。
初めの二文字を聞いた瞬間に私の身体が無意識に動いていた。
『な大好き、平和の象徴・・・』
「やったぁ!・・・あ」
飛ばした絵札を拾って喜んだけど、我に返った。しまった。母親や親戚と遊んでいたヒーローかるたの成果がついでてしまった。私はヒーローオタクと自負している。もちろんヒーローかるた全ての札を暗記している。だけど主役を差し置いて出しゃばってしまって焦っていたら、まーちゃんの顔がパァと明るくなった。
「すごい!見えないくらい速かったよ!?」
「ご、ごめんね?一番大好きな札だったから、つい・・・」
「もっとバンバン取ってよ!僕も頑張るから!」
「うん!」
無邪気なまーちゃんの笑顔につられて「うん」と応えてしまった。その様子を目の当たりにしたかっちゃんとたっくんの顔がポカンとしている。私はその視線に気づかず、絵札の場所の暗記に戻った。
「クソなまえが!」
「なっ!なんだよ!!そんな強いなんて聞いてねぇぞ!?きょうひもの!」
「僕も聞いてなかったもん。それと"きょうひもの"じゃなくて卑怯者って言いたかったの?今日干物だと、ご飯のメニューになっちゃうよ!」
唇を噛みながら悔しがるたっくんは、まーちゃんはそっぽを向く。
読み手が困惑した様子でマイクを通して声をかけた。
『あの、次を読んでも・・・?』
「すみません、お願いします!」
『では、参ります。おお』
パァン!!
次に取ったのはまーちゃんだった。手にした札にはプレゼント・マイクが描かれている。
『声は宇宙の果てまで響きそう』
「やったね!まーちゃん!」
まーちゃんとハイタッチをして喜ぶ。まーちゃんは嬉しそうに鼻の下を擦った。
その次も、その次も連続で絵札を取ったのは、私とまーちゃんだった。
「クソガキ、てめえ勝ちたくねえのか!」
「・・・っ、勝ちたいに決まってるだろ!」
「じゃあなんで拳握ってんだよ、札叩けねえだろうが!」
「うるせぇ!敵顔!今、開こうと思ってたんだよ、バーカ!!」
「あぁ!?人様に向かってなんだ、その口の利き方は!」
かっちゃんは普段の自分の暴言を棚に上げてたっくんを責めている。その後たっくんが札を取った。
「最初からそうやってりゃいいんだよ」
「敵顔は休んでていいぞ。俺がお前の分もとってやるから」
「てめー調子乗んなよ?」
かっちゃんの目が鋭くギラリと光った。読み手が次の句を読んだ。
『せか』
かっちゃんがパァンとベストジー二ストの絵札を弾き飛ばした。言葉の続きは『いを着こなす、ファッションリーダー』だった。
「かっちゃん知ってたの!?」
「知らねーわ。こんなかで世界で活躍してんのはそんないねえだろが」
たしかに、この中では、ベストジーニストくらいだ。世界で活躍してるのは。ヒーロー活動だけじゃなくモデルとして海外ブランドとも契約しているのだ。
調子がでてきたのか、立て続けにかっちゃん・たっくんペアが札を奪取する。
私たちは焦らず残りの札に集中する。どんな試合にも流れというものがある。次は私たちに流れは必ずやってくる。まーちゃんが、連取しているとたっくんが叫んだ。
「・・・っ、まだまだ!最後に勝つのは俺だっ!!」
最後という台詞にまーちゃんが悲しそうに眉を寄せるのを私は見逃さなかった。
今度はたっくんが連取した。残りの札の枚数が減ってきた終盤で僅差で札を奪われたというのに、まーちゃんの顔には焦りも悔しさも浮かんでいない。もしかして・・・
まーちゃんに近い札に、二人の手が伸びる。だけど、先に触れたのはたっくんだった。まーちゃんの伸ばす手が一瞬止まったのだ。
「・・・まーちゃん、今足、抜いたろ」
「ぬ、抜いてない!」
足じゃなくて、手でしょって突っ込むこともなく、目を逸らすまーちゃん。たっくんの顔が怒りで真っ赤になった。
「それを言うなら、足じゃなくて手だろうが。アホガキ」
「うるせぇっ!」
突っ込むかっちゃんに、言い返すのがやっとで、怒りで言葉にならない様子だ。
「ダメだよ。本気でやらなくちゃ」
「え・・・」
驚いた顔のまーちゃんに、できるだけ柔らかい声色で、だけどハッキリと伝えた。
「本気でぶつからなきゃわからないこともあるよ。きっと」
「・・・・・・うん。ズルしてごめんねたっくん」
「・・・もう足、じゃなくて手ぇ抜くな」
「うんっ!」
絡まった糸のようだったわだかまりが、ゆっくりと解れていく。二人は照れたように笑い合っている。かっちゃんはフン!と鼻息を荒くし、たっくんの背中をバシンと叩いて喝を入れた。
「勝負ってのはケンカだ、絶対勝て!」
「おう!」
「ヒーロー名さん、さっきはごめんなさい」
まーちゃんは私にも謝ってきた。
「ううん!よし、じゃ気を取り直して。本気でいこう!最後まで集中!!」
「うん!」
それまで見守ってくれていた読み手がコホンと咳払いをして口を開いた。
『もう、よろしいですか?』
「あっ、本当に何度もすみません!」
土下座する勢いで頭を下げた。試合は再開された。
結局、試合は私とまーちゃんペアが辛勝した。私たちは二回戦に進出したけど、物心ついた頃からヒーローかるたをしている今大会優勝候補と謳われる最強の双子ペアにあっさりと負けてしまった。
「くそー!あの極悪ツインズ、強すぎだろ!」
まるで自分が負けたかのように悔しがるたっくんをみて、まーちゃんはスッキリとした表情でケラケラと笑った。
「なんで負けたのに笑ってんだよ?」
「だって、なんかたっくんたちとの試合ね全力出しきっちゃったから。全力でぶつかったからさ、なんかもうスッキリしちゃってて。・・・ヒーロー名さんありがとう!」
「それならよかった!」
まーちゃんとたっくんは、もう大丈夫だろう。転校して離れたってきっとずっと親友でいられる。
「たっくん!僕、転校しても絶対ヒーローかるた続けるから!絶対、絶対続けるから!だから・・・また一緒にやってくれる・・・?」
「・・・しょ、しょーがねーな!じゃ、指を切ろうぜ!」
「たっくん、それは指切り!指を切ったらただの怪我だよ」
「まーちゃんは細かいんだよっ」
指切りをして、約束を交わす二人をみて私はなんだか泣きそうになって、鼻をすすった。たっくんとまーちゃんは、私たちにお礼を言って駆けて行った。見えなくなるまで手を振っていたらかっちゃんは頭の後ろで手を組んで言った。
「貴重な休憩が潰れちまった」
「あっ!お昼ご飯食べなきゃ!」
歩き出そうとしたけど、神社を振り返った。
私、一番大事なことお願いするの忘れてた!
「かっちゃん、私もっかい初詣してくる!」
「二回目だから初じゃねーだろ」
「かっちゃんは細かいんだよっ」
さっきの二人の真似をして言うとかっちゃんは吹き出した。
「かっちゃん、待っててくれる?」
「・・・チッ!早くしろ」
神様にお願いする。かっちゃんと二人で"勝って救ける、救けて買つ、最高のヒーロー"になれますように。
「何お願いしたんだよ」
戻って開口一番言われた。けど、教えたら叶わなくなる気がして、「内緒」と微笑んだら頬をつねられた。
「いふぁいよ、かっひゃん」
私たちは性格も正反対で、物事に対する見方も違うし感じ方だって違う。もしかしたら一般的には相性は悪いのかもしれないけど、私たちには愛がある。かっちゃんのいない世界は想像できないし、今までの悲しい思い出さえ、今の私を作り上げている。私の一部なのだ。それにこの自分じゃなければ、オールマイトとも出会えてなかった。いろんな人に救けてもらって、ここまで歩いてきた。だから、これからもこの私で選んだ道を進んでいく。
先に歩き出したかっちゃんの後を追うように歩き出すと、後ろから声がかけられた。
「緑谷、爆豪、ここにいたのか」
記事チェックと昼食を済ませた轟くんだ。お詣りしようとやってきていたようだ。
「爆轟は、好きな子をいじめるタイプなのか?さっきほ頬っぺたつねってたの見えたぞ」
「はぁ!?なにキメえこと言ってやがる!!その口、爆破すんぞ!!」
「と、轟くんっ!いじめられてないよ私!大丈夫だから!かっちゃん!ここで爆破はやめてー!」
一触即発状態の二人を引き離して、ワン・フォー・オールで引きずるように境内から出た。私の電話が鳴った。バーニンからだ。
『ヒーロー名ちゃん、もう休憩時間終わるよー!爆豪くんもいる?』
「は、はい!かっちゃんも轟くんも一緒です!すぐ行きます!」
慌てて集合場所へ向かって駆け出しながら二人に言う。
「休憩時間、もう終わりだって!」
舌打ちするかっちゃんと、轟くんも走り出して神社を後にした。冷たい風がビューと吹いたけど、走り出して身体があったまってきたおかげか、少しも寒くなかった。白い吐息を吐き出した。
私たちは最高のヒーローになるための道を、無我夢中の興奮をガソリンにこれからも奔走し続けるんだ。