ヒーローかるた大会-前編



取材が終わった轟くんと合流してパトロール再開し、街に異常がないかを確かめて周った。すっかり日も暮れて西の空が暗くなる頃にパトロールが終わりエンデヴァー事務所へと戻った。
三人揃って事務報告を済ませて食堂へ行くと先客のバーニンが空になった皿の載ったトレーを片手に、手を振って合図してきた。

「おつかれー!どーだい!?ちょっとくらい追いつけたァ!?」
「お疲れ様です」

かっちゃんは「うるせぇな」と顔をしかめている。あからさますぎるので肘をちょんちょんと突いてたしなめる。
バーニンは私たちの疲労の色を見てとって豪快に笑っている。

「そんなんじゃウチでやってけないぞー!カツカレー食べな!今日のオススメ!!」

バーニンが手を振って去っていった後、配膳スペースで注文した。私はカツカレーの並盛を頼んだ。二人はカツカレー大盛激辛、カツカレーそばセットを注文している。
テーブルで、皆黙って熱々のカレーに息を吹きかけて冷ましながら口へと運ぶ。空きっ腹をガツンと埋めてくれるカレーは、バーニンがオススメするだけあって美味しかった。半分ほど食べてからようやく話す余裕が出てきた。

「緑谷、爆豪、あの本読んだか?」
「異能解放戦線?まだ途中。疲れて眠くなっちゃうし、言い回しが難しいんだよね・・・」

ホークスが皆に配って回るほどの本だ。興味はあるのだが、身体がヘトヘトなので読む気力がないのだ。それでもNo2のオススメだから読み進めてはいるが、しばらくすると顔に本が落ちてきて寝落ちしてしまっていることに気がついて諦めて本をパタンと閉じてベッドサイドのテーブルにのせるのを何度か繰り返している。果たして読み終わる日は来るのだろうか。
異能解放戦線とは、個性がかつて異能と呼ばれていた頃の過激派組織初代リーダー・デストロによって書き記された思想書である。自己啓発も混じっている気がする。

「読む必要ねーだろ、過激派組織のヤツが書いた本なんざ。つうか、話しかけてくんじゃねぇ、半分野郎」
「轟くんは?」
「いや、俺も同じだ。途中で寝ちまう」
「横になっちゃうともうダメだよね。あ、点での放出、つかめてきた?」
「いや、まだだ。もう少しで掠りそうな感じだ・・・爆豪はどうだ?」
「俺ァ、もうとっくに掠ってるわ。だから話しかけてくんなっつってんだろが」
「ワリィ」

轟くんは、素直に謝って蕎麦を啜った。冬でもざる蕎麦なんだね。

「轟くんは本当にお蕎麦が好きなんだね」
「おう、うめえからな」
「ここって全部のメニューを蕎麦セットにできるんだね」

食堂のメニュー全てに蕎麦をつけることができると大きなポスターが入り口に貼ってあるのだ。洋食やデザートにまでセットにできるなんて、蕎麦好きが多いのかも。炎のサイドキッカーズは、炎系の個性が多いし体内は冷やしたくなるのか、なんて考えてたら後ろからキドウとオニマーが話しかけてきた。

「ふっふっふ、気づいたかい。全てのメニューを蕎麦セットにできるそのワケ、教えてあげよう!」

轟くんは、蕎麦をつるんと啜って不審な目つきで二人を見た。

「ウチのボス、エンデヴァーがショートくんが職業体験で事務所に来ることになってから、すべてのメニューに蕎麦をつけられるようにしたんだよ!!」

それを聞いて轟くんはしかめっ面になった。体育祭の頃の誰にも心を開いていなかったら頃の轟くん、瀬呂くん風に言うと"初期ロキ"くんみたいになっている。カレーを食べる手を止めてハラハラしながら見守っていたけど、轟くんは蕎麦をまた箸で掬い取って食べ始めた。

「蕎麦に罪はねぇ。・・・それにヒーローとしてのあいつはやっぱりすげえからな」

かっちゃんは、フンッと鼻を鳴らしてテーブルに置いてある激辛ソースをカレーにかけていた。それを見て私は口の中痛くならないのかと心配になった。轟くん、私情に左右されずエンデヴァーの実力を認めているんだ。私も間近でエンデヴァーの仕事っぷりを見て、凄さを肌で感じていた。それは私だけじゃなくて、かっちゃんや轟くんもだ。

「おお!今の言葉聞いたらきっと喜ぶよ!」
「あとで報告しとく!」
「やめてください」

喜んでいるエンデヴァーは想像つかないな。苦笑いしながら、コップの水を飲み干し、キドウとオニマーが去ってから口を開いた。

「でもほんと、エンデヴァーの事件を察知する速さはすごいよね!常にアンテナ張ってるんだろうね」
「そうだな。近くにいても、俺たちよりずっと速え」

私がブツブツとエンデヴァーの分析を話し始めたらかっちゃんが「うるせぇ」ってテーブルの下で足を軽く蹴られた。

「あ、ごめんかっちゃん・・・そう言えば、昔から辛いもののときは静かに味わって食べてたよね。でも小学校のときカレーが甘すぎる、こんなのカレーじゃねえって言い出して先生に怒られてて」
「静かにメシ食わせろって言ったよなぁ。なまえ全然食ってねぇじゃねえか。俺が食わせてやろうか!クソなまえ!」

私のカツカレーをスプーンに掬って無理矢理口に突っ込まれた。

「ちょっ!ムグッ!・・・・・・・・・やめてよ、かっちゃん!」
「てめーがワリィんだろうが!」

さらに食べさせられそうになって顔を横に振っていたら、轟くんが不思議そうに言った。

「・・・お前らほんとに付き合ってんのか?」
「あ?」
「へ?」
「いや、だからほんとに付き合ってんのかと思って。付き合ってたら普通もっとこう、甘い雰囲気になんじゃねえのか?」

かっちゃんを見たら顔が引きつっていた。私はなんと答えたらいいか分からなくて俯いた。

「何なんだよ、てめーにゃ関係ねぇだろ」
「・・・・・・」

き、気まずい!!
よく考えたら、轟くんに告白されたことあるんだよね。今はどう思ってるか分からないけど、かっちゃんと私が目の前でイチャイチャしてても複雑だろうな。かといって今みたいな感じだと心配にもなるのかも。二人きりのときのかっちゃんはとびっきり優しいし、皆の前でみせる粗暴な態度も実は気遣ってのことだったりする。でもそれを説明するのもな・・・
チラリと向かいに座る轟くんを見たら、目が合った。キレて突っかかるかっちゃんに少し考えて轟くんは口を開いた。

「それがお前らの普通なんだな。無粋な質問して悪かったな」
「轟くん・・・」
「俺に話しかけんな!!クソが!!」

夕飯を食べ終わるとかっちゃんはトレーを持って行って食堂からさっさと出て行ってしまった。残された私はすっかり冷めてしまったカレーを食べ進めた。
轟くんは何事もなかったかのように食べ終わるまで待っていてくれた。

夕食を済ませて風呂に入りに大浴場へと行った。個室にもシャワーは付いているけど、大浴場は温泉施設並みに色んなお風呂があって、中でも私は美肌効果があると札の付いている真珠風呂が気に入ったのでここ最近毎日入っていた。乳白色の湯はとろみがあって、肌がスベスベかつしっとりとして確かに効果を実感できる。疲労回復にも効果がありそうだ。
神社で会ったあの子たち、大丈夫かな。幼馴染で親友の男の子たち。私は「絶対大丈夫!きっと仲直りできるよ!」と言ってあげられなかった。だって、私とかっちゃんも仲直りするにはかなりの年数がかかっているもの。時間が癒してくれるとも言い難い。私たちはいつの間にか仲違いしていたし、高校入学したあたりからようやく仲直りできた。それも割と大きな取っ組み合いのケンカをして。

あの子たちは一緒にかるた大会に出場するほど仲が良かった。まーちゃんが引っ越すまでに仲直りできると良いが・・・
仲直りできるようなシュミレーションを考え出そうとするが、ちっとも浮かんでこない。考えているうちに、のぼせてしまった。倒れる前にでなければ。服を着て脱衣所のマッサージチェアに倒れるように座り足を投げ出した。

なんとか、立ち上がれるまでに回復したので喉を潤すため自販機のコーナーへと移動する。そこに見慣れた金髪がいた。かっちゃんだ。

「かっちゃん」
「なまえ・・・なんか顔赤いぞ」
「長風呂しすぎちゃった」
「林間合宿んときもそうだったろ。学習しねぇヤツだな」

ミネラルウォーターを買ってベンチに座るとかっちゃんも隣に座った。
まだ少し濡れた髪を耳にかけて、「どうしたの?」と首を傾げるとかっちゃんの眉がつり上がった。

「それ、あいつには絶対すんなよ」
「あいつ?轟くんのこと?」
「そうだ」
「なんで?」
「何ででもだバカ」

ペットボトルの蓋をあけて、ミネラルウォーターを一口飲み下した。

「そういえば、あの子たち明日どうするんだろうね、ヒーローかるた大会」
「知るか。出たきゃ出るだろ」
「まぁ、それはそうなんだけど・・・」
「・・・あいつ、うわーんって泣いてたな。いつかのなまえみてぇに」
「え、あんな風に泣いてた?」
「泣いてた」

思い出し笑いしてるかっちゃんにムッとして、私も負けじと言う。

「あのたっくんっていう子も少し、小さい頃のかっちゃんみたいだったよね」
「あぁ!?どこがだよ」
「口が悪かったところとか?」
「似てねーわ!つーか疑問形で返すな!」
「仲直り、できるといいんだけど・・・」
「ガキの喧嘩の心配してる余裕なまえにあんのかよ」

かっちゃんの言い分もわかるけど、でも純粋に心配なんだ。偽善的にうつるかもしれないけど、本心だ。

「だって・・・昔の私たちみたいになってほしくないんだもん」
「ハァ・・・明日も早いからそろそろ寝るぞ。一人で戻れるか?」
「水飲んだらだいぶ復活したよ!ありがとう」

でっかい溜め息つかれたけど気にしない。かっちゃんが手を差し出してきた。その手につかまると引っ張って立ち上がらせてくれた。
ほら、二人きりのときはちゃんと優しいんだよ、轟くん。ニッコリ笑うと髪をクシャクシャにされた。前言撤回するよ!?
去っていく背中に「おやすみ」と言うと、振り返らず片手を上げてかっちゃんは部屋へと戻って行った。

翌朝のパトロールはいつものように追いついていくのがやっとだった。

「ヒーロー名!!注意力散漫だぞ。何をしにここに来ている!?」
「すみません!」

敵の動きに一歩も二歩も遅れをとってしまった。エンデヴァーはそれを見逃さずすぐに叱咤する。集中しているつもりだけど、昨晩はあの男の子たちが仲直りする方法を考えてたらなかなか寝付けたなかったのだ。

あの子たちかるた大会どうしたのかな。いや、ダメだ集中しなきゃ。どうせかるた大会は観に行けないんだし。昨日は例外だっただけで、普段はパトロール中にゆっくり休憩する暇なんてない。目の前の任務に集中しないと、また遅れをとってしまう。
しかし、数時間後に奇跡が起こる。ミルコからの緊急要請でエンデヴァーが現場に急行することになったのだ。私達も同行しようとするが、ミルコからの緊急要請となればきっと容易くない敵なのだ。足手まといだと残され、炎のサイドキッカーズとパトロールしておくように言われた。
かっちゃんは「連れてけや!」と食い下がるも、当然残され道端の小石を蹴飛ばしている。
珍しく小さな事件も起こらず、平和な昼下がり。轟くんは、昨日の取材記事の確認のため事務所へ戻るらしい。ゆっくりと休憩をとっていいと言われたので、私は神社へ行くことにした。振り向いてかっちゃんを誘おうとしたけどすでに姿は無かった。お昼でも食べに行ったのかな。
神社へ走っていくと、かるた大会のせいか人が昨日よりも多く、出店にも多くの人が集まっている。
どこだろう。そもそも来てるかな?
周りを見回していると、かっちゃんがそこにいた。

「かっちゃん!?」
「チッ!」
「え、なんで舌打ち!?もしかしてかっちゃんもあの子たちが気になって・・・」
「昨日みたいに出店が出てるかと思って来ただけだわ!」

かっちゃんにこっちを見るなと言わんばかりに顔を鷲掴みにされ押しやられる。そのとき、あの男の子たちの声が聞こえてきた。

「出ようよ!あんなに練習したんだよ!?」
「絶対嫌だ!」
「じゃあなんでここに来たんだよ!?」

かるた大会出場登録する受付の前で、まーちゃんとたっくんが言い争っている。まーちゃんに言われてたっくんは言葉を詰まらせる。

「ま、まーちゃんが出場できなくて泣くのを見に来ただけだ!!」

精一杯の虚勢だと私たちなら分かるけど、まーちゃんは鵜呑みにしてしまって酷く傷ついた顔をしている。たっくんもしまったと顔を歪めるが、言葉のナイフはまーちゃんに深く刺さってしまった。一度吐いた言葉は元には戻らないのだ。黙って俯く二人に声をかけずにはいられなかった。

「二人とも本当は出場したいんだよね・・・?なら、落ち着いて話を」

二人の間に入った私の腕をまーちゃんがぐいっとつかんだ。

「僕、この人と出場する!だからたっくんなんかもういいよ!」
「へっ?ちょ、ちょっと待って!」

たっくんは、それを見て動揺を隠せないようで唖然としている。かっちゃんはそれをみて吹き出した。

「いいじゃねえか、出場してやれよなまえ。人助けするのはヒーローだもんなぁ?」
「じゃっ、じゃあ俺はこの敵顔と出場してやる!」

たっくんに腕を掴まれたかっちゃんは「あぁ!?」とキレ驚いている。

「出場してあげて、かっちゃん!人助けはヒーローだもの」
「なんで俺が!!」
「かっちゃん、私たち今、ヒーローなんだよ・・・?」

ニッコリ笑うとかっちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「俺はガキとかるた大会に出るためにヒーローになるんじゃねンだよ!」
「んだよ!もしかしてヒーローかるたやったことねえのかよ?」
「ねぇわ。んなガキの遊び」
「・・・お前強そうな顔してるからヒーローかるたも強いのかと思ったのに・・・。ダメだ、初心者じゃ負けちまう!」
「・・・誰が負けるって?俺はいつだって勝ちにいくんだよ、んなガキの遊びなんか楽勝だわ・・・!」

こういった経緯で、なまえ・まーちゃんペア、かっちゃん・たっくんペアで出場が決まった。かっちゃんは受付の机を壊す勢いで名前を書いている。

ちゃんと仲直りできるといいけど・・・
私の脳裏に一抹の不安がよぎった。



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