いざ行かんNo1事務所へ
家族ごとに別れて寝室で星空を見ながら寝て、早起きして書初めをグランピング施設でするという人生初の体験を経て、施設から直接学校方面へ向かうバスに乗り込んだ。制服に着替えた私とかっちゃんを、私の母は目を潤ませながら、かっちゃんのお母さんは豪快に背中をバシンと叩いて見送った。
「ハンカチ持った!?」
「うん!」
「風邪ひかないようにね」
「うん」
母は昨日は私の表情を見て安心したと言ってはいたものの、やはり心配しているようで私のマフラーを整えている。
「またメールしてね!」
「うん!」
「インターン頑張ってね」
「行ってきます」
私と母のやりとりを、護衛してくれていたセメントス先生がヌボーッとした何とも言えない顔で見守っている。
手を振ってバスに乗り込むと先に乗っていたかっちゃんが踏ん反り返って足を投げ出すようにして座っている。その隣にちょこんと座ると多少姿勢を直してくれた。
「すごい楽しかったね!かっちゃんと年越しできるなんて思ってもみなかったよ」
「これからずっとできるだろ」
「!!うんっ!」
やり取りを見てニコニコしているセメントス先生と目が合って急に恥ずかしくなって、できるだけ小さくなった。
学校に着くと、帰省していた皆の顔が、前よりも一段と明るくなっている気がする。常闇くんを除いてだけど。彼はいつも冷静沈着で表情変わらない。明るい常闇くんがいたら本気で皆が心配しちゃう。
きっと各々素敵な年越しができたにちがいない。
麗日さんと梅雨ちゃんが駆け寄ってきた。
「麗日さん!梅雨ちゃん!明けましておめでとう!今年もよろしくね」
「なまえちゃん!あけおめ〜!今年もよろしくね」
「ケロッ!明けましておめでとう緑谷ちゃん」
新年の挨拶を済ませて、実家はどうだったかという話で盛り上がった。私はかっちゃんの家族と年越しをしたというと二人とも何だかソワソワして話をもっと聞きたがっていたけど相澤先生が入って来たので、後ろ髪を引かれながら着席していた。騒々しかったクラスが一気に静まり返る。
「起立!!礼!!明けましておめでとうございます!!」
「「「明けましておめでとうございます!!」」」
飯田くんの号令で新年の挨拶を相澤先生にしてまた着席する。先生は少し眠たそうな顔をしていたけど、元気な挨拶に顔付きがキリリとした。
「明けましておめでとう。えー、新年早々だが、これからインターンが始まる。皆心を引き締めてかかれよ。じゃ、早速合理的に宿題を提出しろ」
「はーい」
宿題を提出してコスチュームバッグを手に、各自インターン先へと向かうため学校を出た。
エンデヴァーの事務所へと向かう私は大きな欠伸を一つした。
轟くんの案内で電車を乗り継いで移動する。今朝、早くグランピング施設を出発したので眠たくなってきている。かっちゃんは轟くんと並んで座りたくないみたいだったけど、私が真ん中に座ろうとするとキレながら押しのけられて、結局かっちゃんが真ん中に座った。
「緑谷、なんか眠そうだな。大丈夫か?」
「朝早かったから・・・電車の揺れが心地よくて瞼が自然と下がってきちゃう・・・」
「俺を間に挟んで喋べんな!クソが!」
「じゃあ、場所変わるか?」
「変わる訳ねェだろ!半分野郎!!」
「ちょっと、かっちゃん!ここ電車の中だよ!シーッ!」
かっちゃんの機嫌が悪くなってきたので、宥めるのに必死で私の眠気はどこかに飛んでいってしまった。
エンデヴァー事務所の最寄り駅について、外に出るとエンデヴァー本人が直々に出迎えてくれた。しかも笑顔で。
「ようこそ。エンデヴァーの下へ・・・なんて気分ではないな」
笑顔から一転。仁王立ちでめちゃめちゃキレ顔になっている。以前の九州で脳無と戦った傷跡がその顔には残されていて、以前にも増して迫力がある。
「焦凍の頼みだから渋渋許可したが!!焦凍だけで来てほしかった!」
「許可したなら文句言うなよ」
「しょっ焦凍!!」
「・・・補講の時から思ってたがきちィな」
エンデヴァーが感情をどストレートにぶつけてくるところは、轟くんと似ているなーなんて思ってたら、かっちゃんが不躾なことをぶつけ返していて相乗効果で場の雰囲気がものすごいことになっていた。
「焦凍、本当にこの子と仲良しなのか」
「まァトップの現場見れンならなんでもいいけどよ」
「友人は選べと言ったハズだ!」
かっちゃんの一言がエンデヴァーに火をつけたようで、さらに轟くんに文句を言い始めてしまったので、慌てて私も声をかけた。
「あ、あの!許可していただきありがとうございますっ!!」
フレイムヒーローエンデヴァー。強烈な威圧感が頼もしいトップヒーロー。体育祭の時に会場の通路で会った時の印象が強くて正直かなり怖い。一人だけだったらエンデヴァーのとこに行くのは相当勇気がいっただろうけど、ここには二人がいる。それにエンデヴァーの雰囲気は体育祭の頃から随分と変わった。今は轟くんを育てたいって思ってるただの親馬鹿って感じだもんな。それでも眼光は鋭いし、私は萎縮してしまう。エンデヴァーは私をジロリと鋭い視線を飛ばしてきている。私のこと視線で串刺しにでもするつもりなのかな。ちょっとビビってかっちゃんのブレザーをそっと掴んだ。いや、ここでビビってちゃダメだよね。これからインターン始まるんだし。
だけど、どうすればきいか分からず困ってふにゃりと笑いかけたら、エンデヴァーはくるりと方向転換して歩き始めた。
「まっ学ばせてもらいます!!」
「・・・・・・焦凍は俺じゃない・・・だったな」
「え・・・?」
無言で歩き続ける彼の後ろを追いかける。突然ガードレールを飛び越えて走り出したエンデヴァーが叫んだ。走り出した方向でドンと大きな音が鳴った。コスチュームバックから素早くグローブを取り出して装着した。
「申し訳ないが焦凍以外にかまうつもりはない!学びたいなら後ろで見ていろ!!」
「指示お願いします!」
「後ろで!!見ていろ!!」
そう言ってエンデヴァーは加速していく。後ろで見るにはついて行かなきゃ見れないのだから、私たちは個性を使って追いかける。エンデヴァーは衝撃音が響く前に走り出してた。迅速なんてもんじゃない!個性で片側三車線道路を突っ切って進んでいく。
エンデヴァーの援護をしなければ!
そう思って私たちは敵の進行方向へと先回りした。路地裏を進むエンデヴァーが出て来るのを待ち伏せている武器を持った若年者の敵を見つけた。飛び出したけど、空を切り裂く音がして何かが、若年者の敵を掻っ攫っていった。
「ごめん。俺の方がちょっと速かった」
「ホークス!?」
急ブレーキをかけて止まった。バサッと大きな翼を広げて止まったのは最速ヒーロー、ホークス。ということは先程のは剛翼散弾だったのか。ホークスとは一度チームアップミッションで一緒に仕事をしている。それ以来会っていない。それにホークスは九州を活動拠点にしてたはず。なぜ彼がここにいるのだろう。
「エンデヴァーさんがピンチかと思って」
「この俺がピンチに見えたか」
ガラス操作の個性を持つ敵を地面に座らせて身柄を拘束してエンデヴァーがホークスに言葉を返した。敵は何かを喚いている。
「見えたよねぇ焦凍くん」
「え・・・あ・・・はぁ・・・」
「来るときは連絡を寄越せ」
「いやマジ、フラッと寄っただけなんで」
いきなり話を振られて轟くんが戸惑っている。少し遅れてやってきた警察に敵を全員引き渡して、炎を纏ったエンデヴァーが不機嫌そうな顔で戻ってきた。
「ホークス!お久しぶりです。覚えてますか?緑谷なまえです」
「もちろん覚えてるよー!チームアップしたよね。それに常闇くんから話たくさん聞いてる。いやー俺も一緒に仕事したかったんだけどねー」
ホークスは私の頭にポンと手を乗せた。
「常闇くんは・・・?ホークス事務所続行では・・・」
「地元でサイドキックと仕事してもらってる。俺が立て込んじゃってて・・・悪いなァって・・・思ってるよ」
不自然にホークスの言葉が途切れた。そして私の頭から手を退けて、両手を上げて降参だとアピールをしている。視線を感じて横を見たら、目を三角に釣り上げて怒っているかっちゃんがいた。
「なまえに触んな!それにさっきのァ俺の方が速かった」
「それはどーかな!」
明らかに額に青筋が浮かんでいるかっちゃんに引っ張られてホークスと距離ができた。苦笑いをしてるホークスに、エンデヴァーが話かけた。
「で!?何用だホークス!」
「用ってほどでもないんですけど・・・エンデヴァーさんこの本読みました?」
そう言って上着のポケットから本を取り出して見せる。表紙には異能解放戦線と書かれている。
「異能解放戦線・・・?」
「いやね!知ってます?最近エラい勢いで伸びてるンすよ。泥花市の市民抗戦でさらに注目されてて!昔の手記ですが今を予見してるんです。“限られた者にのみ自由を与えればその皺寄せは与えられなかった者に行く“とかね、時間なければ俺マーカーひいといたんでそこだけでも!デストロが目指したのは究極あれですよ。自己責任で完結する社会!時代に合ってる!」
「何を言ってる・・・」
「そうなればエンデヴァーさん。俺たちも暇になるでしょ!」
エンデヴァーに本を手渡したホークスを見て、私はソワソワしていた。どんな本なんだろう。
「No2が推す本!私も読んでみよう!あの速さの秘訣が隠されてるかも」
「そんな君のために持ってきました」
上着の内ポケットからも本を取り出すホークスに突っ込みを思わず入れてしまう。
「用意がすごい!どこから!!」
「そうそう時代はNo2ですよ!速さっつーなら時代の先を読む力がつくと思うぜ!」
「渡すのも速すぎる!す、すごい・・・さすがホークス」
目にも止まらぬ速さで私達に配り終えたホークスはポケットに手を入れた。受け取った本を開いてパラパラとめくる。後でじっくり読んでみよう。
「この本が大好きなんですね・・・こんなに持ってるなんて」
「布教用だと思うよ」
「そゆこと緑谷さん。全国の知り合いやヒーローたちに勧めてんスよ。これからは少なくとも解放思想が下地になっていくと思うんで。マーカー部分だけでも目通した方がいいですよ。“2番目“のオススメなんですから。4人ともインターンがんばって下さいね」
羽をバサッと広げたホークスはふわりと浮遊し飛び立っていった。来るのも速かったけど去るのも速い。最速の男は伊達ではない。
「若いのに見えてるものが全然違うんだなぁ。まだ22だよ」
「6歳しか変わんねぇのか」
「ムカつくな・・・」
そこからエンデヴァー事務所はそう遠くなかった。エンデヴァーの事務所は都心の一等地に構えていて、そのビル一棟全てにトレーニングジム、宿泊施設や食堂、大浴場、マッサージ・整体してくれるお店や美容室まで備えられているという福利厚生っぷりだ。さすがNo1ヒーローの事務所。私はこのインターン中にエンデヴァー美容室を利用するのを密かな楽しみにしている。最近は忙しくてヘアカットにも行けてなかったのだ。
事務所につくと有名サイドキックのバーニンが出迎えてくれた。私のヒーローオタク精神が疼き出した。あ、バーニンの後ろにキドウとオニマーがいる!すごい!!
「ようこそエンデヴァー事務所へ!」
「俺ら炎のサイドキッカーズ!」
「爆豪くんと焦凍くんは初めてのインターンってことでいいね?今日から早速我々と同じように働いてもらうわけだけど!!見ての通りここ大手!!サイドキックは30人以上!!つまァりあんたらの活躍する場は!!なァアい!!」
「面白ェ。プロのお株を奪えってことか」
「そゆこと!!ショートくんも!!息子さんだからって忖度はしないから!!せいぜいくらいついてきな!!」
ものすごい勢いで迫って来るので私の髪とリボンが熱風でなびいた。事務所にはコールスタッフが常在しているらしくかなりの人数がいる。サイドキックだけじゃなく、たくさんの人が働いていて活気に満ち溢れている。
「活気に満ち溢れてる!」
「No1事務所だからね」
「基本的にはパトロールと待機で回してます!緊急要請や警護依頼、イベントオファーなど一日100件以上の依頼を我々は捌いている!」
「そんじゃあ早く仕事に取り掛かりましょうや。あのヘラ鳥に手柄ブン取られてイラついてんだ」
「ヘラ鳥って・・・ホークスのこと?前のチームアップミッションでもそう言ってたよね」
手柄を横取りされて怒るところ戦国武将みたいだなって、苦笑いしてたらかっちゃんはますますヒートアップしていく。エンデヴァーの指示を待つように言われても、執拗に食い下がっている。
「100件以上捌くんだろ。何してんだよ」
「かっちゃんもうやめて!ヤバイって!」
「ハッハッハッハッ!いい加減にしろよおまえ!」
「まーしかしショートくんだけ所望してたわけだし、多分二人は私たちと行動って感じね!」
「No1の仕事を直接見れるっつーから来たんだが!」
「見れるよ、落ち着いてかっちゃん!」
「でも思ってたのと違うよな。俺から言ってみる」
怒り狂った猛獣みたいなかっちゃんは怖いけど、ここは人様の事務所だから問題を起こしたくないしまだ始まってもいないのに揉めたくないので必死で宥める。今にもサイドキックに掴みかかりそうなかっちゃんの腕にしがみつくようにして制すると、暴れるかと思いきや素直に大人しくなった。鼻息は荒いままだったけど。
後ろのドアが開いて神妙な面持ちのエンデヴァーが現れ、口を開いた。
「ショート、ヒーロー名、バクゴー。3人は俺が見る」
「!!はいっ!よろしくお願いします!!」
荷物を宿泊する部屋に置いて早速コスチュームに着替えた。鏡を見ながらリボンを整える。これから始まるインターンで、何がエンデヴァーの気持ちを変えたのかはわからないけど直々に指導してもらえることになった。No1の仕事を間近で見て、たくさん吸収するつもりだ。
パンッと軽快な音を立てて太腿を叩いて気合を入れ直し、部屋から足を一歩踏み出した。