賑やかな大晦日
熱もすっかり下がって元気いっぱい復帰した私はチームアップミッションを何件かこなして大晦日を迎えた。全寮制化の経緯から帰省は難しいと思われたけど、プロヒーローたちの護衛つきで一日だけ我が家に戻れるらしい。
私はズードリームランドに行く時に帰っているので数週間ぶりの我が家だ。そんなに期間があいてる訳でもないのに、帰省はやはりワクワクしてしまう。護衛でプロヒーローが家の近くをパトロールしてくれてるから安心して家で過ごせる。大晦日にお仕事してくれてるプロヒーローの皆さんに感謝しなければ。
そして私は今はみかんを食べながら母に学校での出来事を話している最中だ。あまり心配かけるのも良くないと思って電話やメッセージではいつも「変わりないよ大丈夫」とだけ言っていたのだけど、電話の声で私の体調が悪い時とかは分かるらしくて、余計に心配かけてたみたい。それで、個性が暴発したことを軽く話したら、根掘り葉掘り聞かれて結局全部話すことになった。
「でね、麗日さんと心操くんが助けてくれて何とかなったんだけどその・・・超パワー。お母さん?」
「生で聴くのは心臓に悪い」
「お母さん!!!」
口から泡をふきながら、意識朦朧としている母を横目に湯呑みに温かいお茶を淹れて差し出した。
「大丈夫?」
「うん大丈夫よ」
お茶を啜りながら、母は大きなため息をついた。私は着ているはんてんの内ポケットから手紙を取り出した。
「でね、お母さん。前に電話で言ってた子。エリちゃん覚えてる?実はねエリちゃんが手紙をくれたの!すごいんだよ!平仮名の勉強しながら書いてくれたんだよ!私がしてあげられた事なんて少ししか無いけど、頑張って書いてくれたの。凄いんだよ!」
手紙を見つめて、エリちゃんを救け出したときのことや手紙をくれたときのことを思い出した。
「ヒーロー名さん、平仮名の勉強してお手紙書いたの、これ・・・」
そう言って恥ずかしそうに微笑むエリちゃんが可愛くって、嬉しくって両手を広げて抱きしめた。
「え!?これ、書いてくれたの??嬉しい!!ありがとうエリちゃん!」
見守っていた通形先輩も私ごとエリちゃんを抱きしめて、3人で団子のようになって皆して大笑いした。エリちゃんが笑えるようになったのが心底嬉しくて少しだけ泣きそうになったんだよね。
その時のことを思い出しながら手紙を見つめてニッコリ微笑んだら、母の目から涙が凄い勢いで溢れてきた。
「わぁぁ!待って!下の小池さん家が雨漏りしちゃう!」
慌ててティッシュの箱を持って駆け寄った。
「小さい頃からオールマイトの真似して、困ってる人を救けるんだって・・・たくさん青タンこさえてね。そんな力無いのにねぇ。だからお母さん、なまえを守らなくちゃって・・・。ずっとそうだったのにね。でも、なんだろうね・・・今のなまえの顔見てなんだか安心しちゃった」
前から思ってたけど、もしかしたら母の個性は二つあるんじゃないかな。涙脆いっていう“個性“。そして、それは私にも遺伝しているはず。だって、私まで涙で視界が滲んできたもの。
結局、下の小池さん家が雨漏りしちゃいそうなくらいに母と抱き合って大号泣してしまった。
それから母と学校のことや、かっちゃんとのことを話していたら、電話がかかってきた。かっちゃんだ。
「かっちゃん!どうしたの?」
『もうそっち行っても大丈夫か?』
「え?もう?・・・いいと思うけど、お母さんに聞いてみないと・・・ちょっと待っててね。お母さん!かっちゃんが今からこっち来ても良いって聞いてるんだけど」
母は一瞬ハッとしたけど、ニコニコしながらミカンの皮を片付けながら頷いている。これは良いってことだろう。
「あ、もしもし、かっちゃん?良いって」
『ん、わかった。すぐ行く』
私は慌てて部屋に飛び込みはんてんを脱いでマシな服に着替えようとクローゼットを勢いよく開け放った。かっちゃんに、はんてん姿なんて絶対見せたくない。ハンガーにかかっている服をあれでもない、これでもないと無造作に掴んで取り出して全身鏡の前で自分の体に当てて見る。悩みだしてから数十秒して玄関のインターホンが鳴った。
え、かっちゃんもしかしてもう来たの?速っ!爆速ターボじゃん!ちょっと待ってほしいんですけど!?
慌てて掴んだニットに着替えてたら、母が玄関を開けてかっちゃんを招き入れているのが部屋のドア越しに聞こえてきた。かっちゃんが母に挨拶している。
「いらっしゃい。かっちゃん早かったわね。なまえったら、かっちゃんが来るからって慌てて着替えてるのよ。ふふ。ちょっと待ってあげてね」
「お、お母さん!言わないでよ!」
ドアを開けながら、抗議したら二人が振り返った。かっちゃんと目が合って、顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「かっちゃん来るの早すぎだよ!」
「電話してるとき、もうなまえん家の下に来てたンだよ」
「やっぱり!だと思った・・・来るの早すぎるもん」
「ダメなのかよ」
「ちがうの!全然ダメじゃないんだけどね・・・ほ、ほら、準備もあるじゃない?」
「なんの準備がいるんだよ」
「んー・・・とにかく!いっ!色々だよ!」
「んだよ」
「・・・だって、かっちゃんと会う時はできるだけ可愛い服着てたいんだもん・・・」
伏目がちに言うと、かっちゃんが頭に手を置いてきて、そのままワシワシと動かして髪の毛をクシャクシャにされた。抗議しようとかっちゃんの顔を盗み見たら、ほんのりと色づいた頬が見えた。それに気づいて、私の髪の毛がクシャクシャになったことなんて気にならなくなった。
かっちゃんの服装がいつもと違うことに気がついた。山登りに行けそうな格好をしている。
「あれ、かっちゃん山登り行ってたの?」
「ちげえよ。なまえたちを迎えに来たんだよ」
「へ?」
「聞いてねェのか?」
「う、うん」
お母さんもいそいそとはんてんを脱いで出てきた。ダウンジャケットに帽子に手袋を身につけている。え、さっきまでのまったりお家モードどこ行った。どういうこと?
「ごめん!なまえに言うの忘れてたけど爆豪家とこれからお出かけするのよ。グランピングって言うんですって!」
「えええええ!?なんでもっと早く言ってくれないの!!」
部屋に戻って全身鏡の前で再度服装を確認する。かっちゃんも入ってきて部屋のドアを後ろ手で閉めた。
「服これで大丈夫かな?」
「見てやる」
ニットの中にかっちゃんの手が入り込んできた。その手と外気に触れた背中が寒くてビクッとしてしまった。
「インナー着ねェと冷えるぞ」
「き、き、着てるよ!あったかくなるやつ」
「ならこれでいいだろ。さっさと上着着ろ」
「うん」
上着を着て、マフラーと手袋を手に取ってかっちゃんと部屋から出ると、母はすでに玄関で靴を履いて待っていた。
家の下にはかっちゃんの家の車が停まっていた。なるほど。どうりで家に来るの早かったわけだ。さすがのかっちゃんでも個性使ってこっちに来るのはまずいもんね。相澤先生に呼び出されてまた正座させられて怒られちゃう。
かっちゃんはエスコートしてるつもりはないんだろうけど、車のドアを開けて先に乗せてくれた。意外と紳士的なところもあるんだよかっちゃんは。皆に自慢したいような秘密にしておきたいような、なんとも言えない気持ちになる。
2列目にお母さんたちが座って3列目のシートにかっちゃんと座ったけど、以外と後ろって狭くて隣との距離が近い。
「かっちゃんのお父さん、お母さん。グランピングに連れてってくださるって聞きました。ありがとうございます」
心の中でついさっき聞きましたと付け加えた。
「なまえちゃんってば本当可愛いわね!勝己は幸せモンだねー。こんなに可愛い子が彼女になってくれて。感謝しなさいよ?」
「うっせェ!だまれババア」
「か、かっちゃん!ババアなんて言ったらダメだよ」
「勝己は生まれた時からずっと反抗期なのよ!アハハッ!」
豪快に笑い飛ばすかっちゃんのお母さんが格好良くみえる。座席に置いた手をとられて強引に指を絡めて手を繋がれた。パッとかっちゃんを見ると車窓から遠くを見つめていて何事もないかのように振る舞っていてこちらを見る様子もない。親もいる場でそんなことするなんて思ってもみなかったし、見つかったらと思うと気が気ではなかった。皆に見つからないように大人しくかっちゃんにされるがままにしていた。
車で移動すること1時間。着いたのは海辺のグランピング施設でコテージがいくつか並んでいる。コテージの中は豪華なつくりになっていて、ホテルのような風格を漂わせている。
こんなところに来て大丈夫なのかと母にこっそり聞いたら、お金は自分たちの分は出してるよと教えてくれたのでホッとした。
コテージを探索して驚いたのは寝室の屋根が透明になっていてベッドに横になると空が見ることができるようになっているところだ。しかも、寝室が3つあってどの部屋も造りが違っている。
かっちゃんの手を引いて、あちこち見て回ってすごいすごいと飛び跳ねていたら、「ガキかよ」と笑われた。いつものようなやや意地悪げな笑顔じゃなくて、時々みせる優しい笑みだ。
その笑顔に胸がカーッと熱くなった。込み上げてくる好きという感情が抑えられそうにない。
私ってば思った以上にかっちゃんが好きなんだ。
誰もいないことを確認してから、背伸びをしてかっちゃんの頬にキスをした。
すると、驚いた顔のまま固まったと思ったら両手から音がして煙が上がっている。慌てて窓を開けて換気しに行こうとしたら首根っこを掴まれ後ろからすっぽりと腕の中に捕まった。
「どうせキスするなら口にしろや」
かっちゃんに回れ右をさせられて向かい合う。ほんの少し熱を帯びた目で見つめられたら、照れてしまう。
意を決して、キスをしようとしたら誰かの足音が聞こえてきてかっちゃんを突き飛ばして寝室から転がるように飛び出した。
親に見られたら恥ずかしくて死ぬ。間違いなく死ぬ。
小さな声でブツブツ言いながらリビングスペースに駆けていくと、後ろからおどろおどろしい形相のかっちゃんが追いかけてきて悲鳴をあげた。
「オイこら待てや!逃げんななまえ!」
「ちょっと勝己!良いところに来たわね。って何?あんたたち鬼ごっこしてんの?」
「ち、ちがいます!」
「そうなの?鬼ごっこしてんのかと思ったわ。勝己ちょっと来て。なまえちゃんも」
かっちゃんのお母さんに呼ばれて、外に出るとウッドデッキに置かれた焚き火台に薪をくべていた。
「ちょっと勝己。あんたの個性で火つけてくんない?」
「チッ!なんで俺が」
「できないんだったらいいわ」
「あ゛?できるに決まってンだろ!退け!」
焚き火台の前に移動して、個性で火をつけるかっちゃんの後ろで、お母さんが悪戯っぽい表情でウインクをしてきた。何の合図かとドキッとしていたら、小声で「単純なヤツでしょ」と耳打ちしてきた。思わずクスッと笑っていたら、聞こえてたらしく振り返ったかっちゃんが「俺よりなまえの方が単純だわ!」と怒っている。
ウッドデッキにはフカフカな椅子が置いてあってこれぞグランピングって感じだ。
女性陣が年越しそばの準備を始めたので手伝おうとしたけど、私は座って待つように言われてしまってシュンとしながら戻って椅子に座った。
麺を茹でるのは私だってできるし、料理少しは上手くなったんだから・・・
かっちゃんのお父さんが焚き火台にまた薪をくべている。
「なまえちゃん、寒くないかい?」
「あ、はい!大丈夫です」
「これ良かったら使って」
そう言ってブランケットを差し出すお父さんは物腰柔らかくて、かっちゃんとは全然雰囲気が違う。かっちゃんは見た目も性格もお母さん似だもんなぁ。
「ありがとうございます」
かっちゃんのお父さんと談笑してたら完成した年越しそばをお盆に載せて母たちが運んできてくれた。
焚き火であたたまりながら外で年越しそばを食べた。
そしていよいよカウントダウン。
今年は色んなことがあったなと思い出一つ一つが頭をよぎる。かっちゃんと年越しするなんて思わなかった。
5、4、3、2、1!
「明けましておめでとう!かっちゃん今年もよろしくね!」
「おう」
「勝己!明けましておめでとうでしょ!ちゃんと挨拶しな!」
「うっせェババア!新年早々うるせェんだよ!」
「か、かっちゃん!ヒーローかるたでもする?」
「ガキじゃねンだからしねェよ」
「そっかぁ」
「なまえはまだガキん頃に戻りてェのか?」
「んーん。今が1番良い」
ニコリと笑うとむにゅっと頬をつねられた。
いつも母と二人だけだったから賑やかな年越しに憧れてた。こうして爆豪家の皆と過ごして、しかも新年初めての挨拶を交わすのがかっちゃんだなんて、今までの関係だったら想像つかないよ。
書初めの宿題があったのを思い出した。新年の抱負を書くのだ。もっと強くなってこの大好きな人たちの笑顔を護りたいし、困っていたら救けたい。だから書初めはありきたりだけど『強くなる』かな。
今年はもっともっと頑張るぞ!
そして良い一年になりますように。