38.2℃で溶けていく



いつものように自主トレを終えて、水分補給していたら後ろから名前を呼ばれて振り返った。そこに立っていたのは、背が高くて切長の目が印象的な男の子。柔和な笑みを浮かべ、目を細めて私を見ている。雄英高校の敷地内にいるし、制服着てるし雄英生だってのは分かる。だけど、どなたですか!?

「緑谷なまえさん、ちょっと良いかな?俺、経営科2年の竹虎大我」
「は、はい。初めまして・・・」
「いや、実は初めましてじゃないんだけど覚えてないかな?」
「へ??う〜ん・・・・・・」

長い間を置いて、記憶の中にこの人がいないか確かめたけど、私の頭のHDDを必死に検索するけど全く何も残っていない。ごめんなさい記憶力ポンコツで。本当、誰ですか。

「ごめんなさい・・・覚えてないです、本当すみません!」
「いや無理もないよ。俺たちが出会ったのは小さい頃だし!そんな謝らないで。ね?」

私の顔を覗き込む竹虎と名乗る先輩はクスッと笑った。小さい頃に会ってる・・・?
この後時間があるなら話さないかと言われて、別に予定も無いし、昔に出会っているというのがどうしても思い出せなくて、その時の話も聞けるかなと深く考えることもなく着いて行った。

校内のベンチに腰掛けて、先輩は隣の場所ポンポンと叩いて座るように促した。距離をあけて座ったけど、先輩が近づくように座り直してきた。わ、この人パーソナルスペースにずかずか入ってくるタイプの人だ。ちょっと苦手かも。

「なまえちゃんって呼んでもいいかな?小さい頃みたいに」
「は、はぁ・・・」

先輩は私の手を取ってマジマジと見つめている。引っ込めようとしても、掴む手に力が入っている。なんなの?なんとか引き剥がして、少し距離をとった。

「あの、私たちどこで・・・」
「ああ、それね。俺が小学1年生のころなんだけど、俺が祖母の家に夏休みの間泊まりに行ってたんだ。祖母の家が折寺小学校の近くの公園のところでなまえちゃんに出会って毎日一緒に遊んでたんだよ。なまえちゃんがヒーローになったら俺がなまえちゃんのプロデュースや事務所の経営をしたいって話をしてたんだ。夏休みが終わってからも何度か公園に行ったけど会えなくなって。やっぱ覚えてないか・・・体育祭で君を見て、びっくりしたよ。同じ学校で再開するなんて運命だって思ってた。なかなか話す機会がなくてようやく今になったんだけどね」
「そ、そうなんですか・・・」

てことは、私が年長さんのときか。丁度かっちゃんと仲違いしてひとりぼっちになってた時。私は公園に行く回数も減って、家でオールマイトの動画をみて研究するようになっていた。それに公園で遊ぶ人もいなかったし。
そういえば、遊んでくれた男の子がいたかもしれない。だけど、そんな約束したかなぁ。
先輩が私の手を引っ張て自分の胸の中に閉じ込めた。驚いて顔を見上げたら、先輩の切長の目が不気味なくらいに細くなった。

「君のヒーロー活動を、いや、君の今後の生活全てをプロデュースさせてほしい」
「せ、生活全て!?ごっ、ごめんなさい!私お付き合いしてる人がいるので全てって言うのはちょっと・・・」
「・・・爆豪勝己かい?」
「そうです。だからそういうのは・・・ごめんなさい・・・」
「彼はなまえちゃんのこと、何もわかっちゃいないよ?俺の方がずっとわかってあげられるのに!胸も脚ももっと出したほうが男性支持率も上がる!だからまずはコスチューム改良からかな」
「・・・はい?」

何言ってんの。なんかこの人怖い。峰田くんみたいな思考回路じゃん。ワン・フォー・オールを発動させ突き飛ばそうとしたとき、後ろからボンっと爆発音が聞こえてきた。

かっちゃんだ!

ホッとして顔を音が聞こえてきた方へ向けると、やっぱりかっちゃんがいて思わず笑顔になった。もう大丈夫、一安心だ。

「かっちゃん!」
「チッ!!」

こっちを見て固まっていたかっちゃんは、酷く傷ついた顔をしていたけど、すぐに不機嫌な表情になって舌打ちをした。ただ、何も言わず拳を握りしめて去って行ってしまった。突然のことに唖然としていたけどハッとして、いまだ私に抱きついている先輩を無言で突き飛ばした。

「ちょっと!いつまで抱きついてるんですか!」
「なまえちゃん!!あんなやつと別れてくれ。俺に君のヒーロー事務所を経営させて欲しい。君の生活も俺が全て管理してプロデュースする」
「私かっちゃんと別れる気なんてこれっぽっちもないです。・・・先輩、すみませんけど、プロデュースとやらは他のヒーローを当たってください」

何か喚いている先輩を置き去りにして、かっちゃんをあわてて追いかけたけどもう姿はなくて、小石で足を捻って盛大に転んでしまった。
転けた拍子に体操服に穴が開いて膝を擦りむいた。寒さでヒリヒリと痛みが増して涙が滲んできた。
だけど、こんなことで立ち止まってちゃダメだ。かっちゃんを悲しませた私が悪いんだから。
もっとよく考えるべきだった。2人きりで話していたら外からどう見えるかを。誰だって恋人が知らない人に抱きしめられてるところを見たら勘違いもすると思う。かっちゃんが他の女の子と抱き合ってる現場を見てしまったら・・・?
私だって悲しくなって泣いてしまうかもしれない。さっき見たかっちゃんは、心底傷ついたような表情をしていた。いつだって自信に満ち溢れていて強気なかっちゃんが今まで見せたことない顔だった。
膝についた砂を払って、走り出した。

罪悪感にかられながら寮に戻ってかっちゃんを探したけどどこにも見当たらなくて、思いつくところ全部探しに行った。切島くんや上鳴くんに聞いても居場所は分からず、ただあてもなく彷徨った。

こういうとき、かっちゃんならどうする?
かっちゃんならどこに行く?

かっちゃんが一人になりたいときに行きそうな場所を知らないことに気がついた。かっちゃんのこと分かってるようで分かってないんだ、私。
とりあえずお風呂に入って服を着替えた。擦りむいた傷がシャワーで染みて、突き刺さるような痛みを覚えた。これは、考え無しにかっちゃんを傷つけてしまった罰だ。
急いで髪を適当に乾かして、かっちゃんの部屋をノックした。だけどそのドアが開くことはなくて、私はしばらくドアの前で座り込んでかっちゃんを待っていた。
髪の毛がちゃんと乾いていないから、段々と身体も冷えてきて寒くなってきた。電話も繋がらない。メッセージも既読にならない。なら、部屋の前で待つしかない。
膝を抱えて小さくなって座ってたら、涙が溢れてきた。

どれくらいの時間が経ったのか、気がついたら寝ていたみたいで誰かに揺さぶられて目が覚めた。目を開けたら、呆れた顔してしゃがんでいるかっちゃんが居た。

「・・・風邪ひくぞバカ」
「か、かっちゃん!!あ、あのね、さっきのは、全然そんなつもりなくって!でも、傷つけたよね。ごめんなさい!!!」
「とりあえず部屋入れ」

腕を掴まれて立つように促されて、部屋に押し込められた。ソファに座らされて、力なくぽすんと座り込んだ。すっかり冷え切って湯冷めしている。カタカタと震えていたら肩にかっちゃんの上着をかけられた。今優しくされたら泣いちゃうよ・・・

「で?アレはなんだよ」

かっちゃんは壁にもたれかかって腕を組んでいる。怒ってる・・・よね?

「えっとね、あの人は経営科の2年生で小さい頃に遊んだことがあるんだって。あんま覚えてないけど・・・で、私のことをプロデュースしたいって言われて抱きつかれて。断ったんだよ?かっちゃんと付き合ってるからって。でも、あんなシーンみたら、う、う、浮気してるって思っちゃうよねっ・・・うう、ひっぐ、ご、ごめんなさい・・・」
「・・・バーカ。本当に浮気してたら俺が現れたときに満面の笑みでこっち見るわけねェだろ。それにてめェが二股するような器用な女じゃねェってわかってる。けど俺は怒ってンだよ!何度言ってもなまえは警戒心ゼロだし!クソなまえ!これでちったァ分かったろ。男と二人きりになるな!」
「は、はい・・・ごめんね、うっ、ひっく、私のこと嫌いにならないで・・・」
「嫌いになるわけないだろ、バカ。もう泣くな。こっち来い。これやる」

何かを渡されて手のひらの上に乗せられたものを涙で滲む視界でとらえた。かっちゃんの部屋の鍵だ。

「もっとはやく渡せば良かったな。これで部屋の前で待ちぼうけしなくてすむだろ」
「う、ぅう〜かっちゃんありがとう」

ますます泣き出した私を見て、かっちゃんは舌打ちしながら抱きしめた。自分の行動のせいでかっちゃんを傷つけてしまった。それなのにこうやって許してくれて部屋の鍵まで渡してくれて・・・
どう謝っても謝り足りない気がする。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった私にティッシュの箱を渡してきた。ズビッと鼻をかみながら、かっちゃんを見てまた謝った。

「かっちゃん、ごめんね・・・」
「なまえ熱あるだろ。体温計取ってくるから待ってろ」
「や、かっちゃん離れないで、そばに居て・・・」

ベッドに寝かされて、かっちゃんも一緒に布団に入ってきた。額に手を当てられて熱を測られる。ひんやりとした手が気持ち良いし、ニトロの甘い香りがして胸が締め付けられる思いがした。

「バカは風邪ひかないんじゃねぇのかよ」
「ぐすっ、私でも風邪はひくよぉ・・・かっちゃんどこにいたの?連絡もつかなかったし・・・心配したんだよ?」
「グラウンドβ行って風呂入ってた。スマホ持ってってなかったな」
「そっかぁそこまで探さなかったな・・・でもなんでグラウンドに?」
「頭冷やすためだ。はらわた煮えくりかえってるままなまえと喋ったら喧嘩になるだろうが。俺はなまえと喧嘩したいわけじゃねンだよ。時間おいたほうがお互い冷静になれるだろ」
「・・・」

そんなこと言われたら、時間が経っても感情的になってわんわん泣いてた私が恥ずかしい。

「つーか、なまえ熱出てんだろ。熱測るぞ」

有無を言わさずかっちゃんにベッドに押さえ込まれて、そのままスルリとベッドから出て行って体温計を取って戻ってきた。
ちょっとの距離ですらも離れたくないって気持ちになるのは、あのときのかっちゃんの顔が忘れられないからだ。心底傷ついたっていうあの顔。
体温計を滑り込ませて熱を測られる。ジッと見つめる瞳にドギマギしてしまって目を逸らした。
ピピッと電子音が鳴った。

「38度2分」

見せられた体温計は、確かに38.2と表示されている。そんなに熱があるとは思わなかった。だけど言われて見ればそんな気もしてきて身体が怠く重たく感じてきた。セルシウス度で表示されて初めて自覚するなんて、なんとも都合が良い体だ。
額に冷却シートをペシッと貼られて目を閉じたら、頬や唇をそっと撫でられた。

「なんか、溶けそうなくらい熱いな」
「いっそのこと溶けてかっちゃんと一つになりたい」
「なまえ、てめェなぁ・・・」
「でもかっちゃんに風邪うつっちゃうかな・・・」
「俺が菌やウイルスごときに負けるわけねェだろ!オールマイトをも越えてNo1になる男だぞ、俺ァ」
「それはさすがのかっちゃんでも負けるときはあるでしょ・・・え・・・どんな身体してんの?」

こんな時になんの張り合いしてるのかわからないけど、かっちゃんが、言うならきっとそうなんだろう。

「うるせェ!なまえの風邪なんかうつるわけねェだろ!うつせるモンならうつしてみやがれ」
「じゃあ・・・かっちゃんキスして?」
「〜ッ!!クソッ!」

ワガママで甘えたな私にかっちゃんは悪態をつきながら、優しく唇を重ねた。こうして熱に侵され二人して溶けていった。

翌朝私は熱があまり下がらず、授業を休むことになったというのにかっちゃんはピンピンとしていて「あの言葉通りだろ」と共同スペースでドヤ顔されて少し悔しくなった。なので、私からかっちゃんの頬にキスをしたら、かっちゃんの顔が真っ赤になった。それをみていた皆が騒いでいる。

「あ、オイ!ちょっと、なまえったら大胆なことするようになって!お母さん、そんな風に育てた覚えてありません!」
「上鳴、いつから緑谷のお母さんになったんだよ」
「いつからって最初からだよ!こいつらと出会った頃から見守ってたんだよ、カッチャンと緑谷の恋の行方をな」
「爆豪、顔真っ赤じゃん、ウケる」
「うっせェ!!てめェら後でまとめて爆破してやる!!なまえ・・・こっちこい」

ちょっとした仕返しだ。にっこり笑ったら、かっちゃんはわたしを肩に担いで部屋に輸送した。連れて行くではない、これは輸送だ。だけど、優しくベッドに下ろしてくれた。

「病人は大人しく寝とけ!生存確認するからちゃんと返事しろよ?しんどかったら、電話しろ。保健室連れて行く」
「はーい」
「じゃ行ってくる」

いつもより優しいキスを落とすかっちゃん。
熱があるのも悪くないとこっそり思った。



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