戦闘訓練はじめました



午前7時半。私はかっちゃんの部屋にいた。
何故って昨日呼ばれたから。謎の頭突きを食らって朝の呼び出しにも応じる私は馬鹿なのかもしれない。でも、かっちゃんと昔のように戻りたいって思ってるから、もしかしてと期待してしまう。
現在私は全身鏡の前でかっちゃんの足の間に座らされて、後ろから手を回されて制服のネクタイを結んでもらっている。緊張のあまり身体が金属並みにカチカチに固まっている。一体どうしてこんなことに・・・

昨日、ネクタイ解かれたときに、まともにネクタイも結べない奴と罵られたけど別に気にしてないよ?大丈夫だよ、分かってるの。ネクタイも結べないほどの不器用だって、ちゃんと自覚してるから。
かっちゃん言いすぎたって気にしてるのかな?
鏡の中のかっちゃんを見つめてると、「こっちみんなバカ」と罵られた。
ほら行くぞとブレザーを渡された。一緒に行くの!?ポカンとしていたら腕を掴まれて部屋を出た。
かっちゃんのお母さんに玄関で見送られる。行ってきますと手を振ると、満面の笑みでガッツポーズをしていた。・・・なんで?

ビクビクしながら少し後ろを歩いていく。時々かっちゃんは私の方を振り返り付いてきているか確認している。大丈夫、私は逃げません。だって同じ学校へ行くんだもの。

息もままならない満員電車の中、かっちゃんに抱きつく格好になってしまって恥ずかしさで爆死するかと思った。かっちゃんの顔を見上げたら目が合って、今なら爆破されてもいいと思ってしまった。かっちゃんは汚いものを見るような目つきだったけれど。
降りる駅に着くとかっちゃんは私を置いてさっさと歩いて行ってしまった。なるほど、一緒に行くのは駅までなのか。

教室にはいると麗日さんが挨拶してくれた。うわぁ、今日も可愛い。

「なまえちゃんおはよ!」
「麗日さんおはよう!」
「今日も頑張ろうねー!」
「う、うん!」
「あれ、今日はネクタイ綺麗だね!」
「えへへ、そうなの」

今日はかっちゃんのおかげで綺麗な結び目になっている。だけど、さすがにネクタイ結んでもらったなんて恥ずかしすぎて言えないので、曖昧に微笑んで誤魔化した。

午前は必修科目や英語などの普通の授業。
お昼は大食堂でプロヒーローのランチラッシュの作る一流の料理を安価で食べることができる。さすが国立。さすが雄英と言ったところか。
そして午後の授業。いよいよ始まるヒーロー基礎学。私はこれが楽しみで仕方なくて朝からソワソワとしていた。

オールマイトが登場して、早速戦闘訓練をすると言われた。
戦闘訓練!ヒーローたるものの基礎となる練習だ。これができなければ実践なんてとてもじゃないができないだろう。
みんなの"個性届け"と"要望"に沿ってあつらえたコスチュームが配られた。私も一応学校が用意したコスチュームがあるのだけど、母の買ってくれたジャンプスーツを着るつもりだ。母の気持ちのこもったこれ以上にないコスチュームだ。便利じゃなくたって最新鋭じゃなくたっていいの。これが私のコスチューム!
身体のラインが出て少し恥ずかしいけれど、オールマイトのような耳がついているので大満足だ。
みんなから少し遅れて着替え始めた。先に外に出ていた麗日さんの元へ駆け寄る。コスチューム可愛いし、似合ってる。私のコスチュームも褒めてくれた。
クラスメイトの1人がニヤニヤしながら、「ヒーロー科最高」と親指を立ててジェスチャーしていた。多分この人、欲望に忠実なタイプの人だ。

戦闘訓練は、これから"敵組"と"ヒーロー組"に分かれて2対2の屋内戦をするらしい。
コンビ及び対戦相手はくじ引きで決めた。
私は麗日さんとコンビになった。そして私たちの対戦相手はかっちゃん・飯田くんコンビ。

麗日さんは、罰がないから安心したと言っているけど私は全然安心できない。かっちゃんの言動が最近ヘンだからだ。

「安心してないね!!」
「いや、その・・・相手がかっちゃんだから、飯田くんもいるし。ちょっと身構えちゃって」
「そっか。爆豪くん、なにかとなまえちゃんに突っかかってるもんね」
「かっちゃん、小さい頃から凄いの。時々意地悪してくるけど。目標も、自信も、体力も、"個性"も私なんかより何倍も凄いしかっこいいの・・・でも、だから今は負けたくないって思うの」
「なまえちゃんってば健気な幼馴染なのね!可愛い!」
「ち、ちがうの!そんなんじゃないからね!?」

麗日さんの力で演習用ビルの2階の窓から潜入した。死角が多いから気をつけないと。ワン・フォー・オールはまだ調整できないから人に向かっては使用はできない。100%を人に向けて撃ったら殺しちゃうもの。
かっちゃんならどう動くかを考えるんだ。

多分、かっちゃんは私だけを狙ってくるはず。私の個性のことを知りたい筈だから。
曲がり角から飛び出すかっちゃんに気付いて、麗日さんを突き飛ばした。

「かすった・・・!麗日さん、大丈夫!?」
「うん!ありがと」

かっちゃんは白煙を立ち上げながら向かってくる。攻撃がかすったせいで、フェイスガードと左肩が破れてしまった。

「なまえ、こら避けてんじゃねえよ」

後日聞いた話だけど、この時モニタールームでは、女の子にも容赦ないかっちゃんのことを極悪非道だという声も上がっていたらしい。

かっちゃんが右腕を大きく振りかぶった。その手を掴んで背負い投げして地面に叩きつけた。

「かっちゃんは、大抵最初に右の大振りなの。私が小さい時からどれだけ見てきたと思ってるの!凄いと思ったヒーローの分析は全部ノートにまとめてるの!かっちゃんが爆破して捨てたノートに・・・!」

かっちゃんはすぐに起き上がって戦闘態勢になる。

「いつまでも"泣き虫でノロマで愚図ななまえ"じゃないよ!かっちゃん、私は、私は!かっちゃんと小さい頃みたいに仲直くなりたいの!!」
「ビビりながらよぉ、そういうとこがムカつくなあ!!!!」

かっちゃんが爆破の勢いで蹴りに威力を加えて繰り出してくる。その隙に麗日さんには先に進んでもらった。かっちゃんは私狙いで麗日さんには目もくれなかった。攻撃を避けて、確保テープを巻きつけようとしたが気づかれて逃げられた。

「なァオイ!!俺を騙してたんだろォ!?楽しかったかずっと。あ!?ずいぶんと派手な"個性"じゃねぇか!?使ってこいや、俺の方が上だからよお」

かっちゃんの両手の爆発が大きくなっていってる。あれに当たればコスチューム修復できないくらい破れちゃうかも。母の想いが詰まったこのコスチューム。すぐにダメにするわけにはいかないの。一旦引いて作戦を練ろう。

逃げて隠れて作戦を練っていたら麗日さんから無線が入った。

『なまえちゃんごめん!飯田くんに見つかっちゃった!今ジリジリと』
「場所は!?」
『5階の真ん中フロア!』

私のいる場所のほぼ真上だ。タイムアップは敵組の勝ちになってしまう。ここだけは負けたくない。考えるんだ!
かっちゃんが現れて追い詰められる。後ろは壁で逃げ場がほとんどない。

「何で使わねえ。舐めてんのか?なまえ」
「かっちゃん!も、もう怖がらないんだから!」
「てめェならもう知ってんだろうがよぉ」
「?」
「俺の爆破は掌の汗腺からニトロみてぇなもん出して爆発させてる」
「・・・?」
「"要望"通りの設計ならこの籠手はそいつを内部に溜めて爆発させることができる!!」

かっちゃんが籠手のピンを抜くとものすごい威力の爆風が発射された。ギリギリ着撃は避けられたけども、吹き飛ばされてあちこちに擦過傷ができている。

「"個性"使えよ、なまえ。全力のてめェをねじ伏せてやる。来いよ。まだ動けんだろぉ!?」

煽ってくるかっちゃんを無視して麗日さんと連絡をとる。これはあくまでも授業だ。かっちゃんには勝ちたいけど、ルールに則って勝負に勝たないと意味がない。

「麗日さん状況は!?」
「無視かよ、すっげえな、なまえ!!」
「わかった!窓側柱に!じゃあまた!!」

かっちゃんが真正面から飛びかかってくる。これは避けきれない。かっちゃんならここで攻撃してくるはず!身構えるが、その予想は裏切られる。フェイントだった。後ろから爆破される。怯んた隙にかっちゃんに腕を掴まれて投げ飛ばされる。受け身も取れないまま背中から地面に叩きつけられた。

「何で"個性"使わねぇんだ!俺を舐めてんのか!ガキの頃からずっとそうやって俺を舐めてたんかてめェは!!」
「かっちゃんが、かっちゃんが凄い人だから負けたくないの!小さい頃みたいに仲良くなりたいの!私はかっちゃんのことが好きなんだから!」
「っ?!その面やめろや、クソナード!!」

もう一方的にやられる私じゃないんだよ、かっちゃん!相討ちになってもいい。

「麗日さん、行くよ!!!」

かっちゃんの爆破は絶対片手では防ぎきれない。けど、狙うならそこしかない。

「デトロイト、スマッシュ!!!!」

麗日さんが私が作った瓦礫で飯田くんを攻撃する。そういう段取りだった。これで、きっと麗日さんがやってくれるはず。

「そういう・・・ハナっからてめェ。やっぱ舐めてんじゃねえか!」
「使わないつもりだったの!使えないから。体が衝撃に耐えられないから。相澤先生にも言われてたんだけど、これしか思い付かなかった。かっちゃんが強いから」

『ヒーローチームWIN!』

地面に倒れる時かっちゃんが抱えてくれた。
しばらくして小型搬送用ロボの担架に乗せられて保健室まで連れて行かれた。連れていかれるギリギリまでかっちゃんは私の腕を離さなかった。
かっちゃん・・・

気がついたら放課後になっていた。あれから意識を失って保健室で治療を受けていたらしい。今回は昨日の怪我も治したばかりで体力も消費しきっていたから、一気に治癒できなかったらしい。包帯を巻かれ、右腕を固定されている状態だ。これは相澤先生に縛りあげられちゃうやつだ。

教室に戻るとみんなに囲まれて、しどろもどろになってしまう。少し打ち解けた気がする。
麗日さんが心配して駆け寄ってきた。

「なまえちゃん!あれ!?怪我治してもらえなかったの!?」
「あ、いやこれは私の体力が無さすぎるせいで一気に治癒できなかったみたい。あの麗日さんそれより、かっちゃんは?」
「皆止めたんだけど、さっき黙って帰っちゃったよ」

それを聞いて居ても立ってもいられなくて、走ってかっちゃんを追いかけた。

「かっちゃん!!」
「ぁあ?」

かっちゃんは苛立っていることを全身で表している。

「これだけは、かっちゃんには言わなきゃいけないと思って・・・!人から授かった"個性"なの。誰からかは言えない!言わない・・・でも、コミックみたいな話なんだけど、本当で。おまけにまだろくに扱えもしなくて全然モノに出来てない状態の"借り物"で。だから、使わずにかっちゃんに勝とうとした!けど結局ダメでソレに頼ったの。私はまだまだで、だからいつかちゃんと自分のモノにして"自分の力"でかっちゃんに追いつきたい。かっちゃんと仲直りして、そばに居たい!」
「借り物?訳わかんねえ事言って。これ以上コケにしてどうするつもりだ・・・今日俺はてめに負けた!そんだけだろうが!そんだけ・・・こっからだ!!俺は・・・!こっから、いいか!?俺はここで一番になってやる!俺に勝つなんて二度とねえからな!!クソ!!」

かっちゃんの涙を初めて見た。私は咄嗟にかっちゃんのところに駆け寄ったけど、かっちゃんの手が伸びてきてデコピンされた。

「こっちみんなバカ」

そう言われても泣いてるかっちゃんを放ってはおけなかった。かっちゃんを正面から抱きしめた。突き飛ばされるかもと身構えたけど、かっちゃんは何もせずただ私の肩に顔を乗せてきた。左手でかっちゃんの頭を撫でた。

「なまえ、俺のこと好きなのか・・・?」
「え、うん。好きだよ?」
「〜っ!俺のそばに居たいって本気か?」
「う、うん。小さい頃みたいに戻りたい、の。ひっ!!」

それを聞いたかっちゃんからキレた音がした。掌が小さく爆発していた。

後ろからオールマイトから走ってきて、かっちゃんが離れていった。かっちゃんの温もりが離れていくのがなんだか寂しい。
オールマイトの激励がなくたって、かっちゃんは立ち直った。やっぱり強い人だ。私もかっちゃんと肩を並べられるように強くならなきゃ。

そして、この数日後知ることになる。オールマイトが言っていた真に賢しい敵の恐怖を。



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