ウサギとライオン



ズードリームランド。そこは名前の通り動物をモチーフにした夢の国である。そこへ一歩足を踏み入れれば現実世界とはおさらば。かっちゃんのお母さんがくれたチケットで、私とかっちゃんは二人でズードリームランドに来ている。ここに来るまでに試練があった。校訓であるPuls Ultraの精神でその試練を乗り越えてのズードリームランドなので感慨深いものがある。

まず一つ目の壁がかっちゃんの仮免合格という条件だった。これはかっちゃんの実力があったのでなんなくクリアできた。かっちゃんなら大丈夫だと信じていた。だけどちょっぴり心配してたって言うのは絶対に内緒。だってかっちゃん口が悪いから審査員に暴言吐きそうだから。

そしてもう一つが外出許可証の取得だ。
二週間前。私とかっちゃんは二人で相澤先生に外出許可をもらいたい旨を伝えるため職員室へ向かっていた。広い廊下は雄英高校の敷地が広大だという証である。私の少し前を歩くかっちゃんのブレザーの裾を掴んだ。

「ねえ、かっちゃん・・・なんだか嘘つくみたいで嫌だなぁ」
「実家に帰るのは本当だからいいだろ別に」
「で、でも!」
「あーだこーだうるせェな」
「だって、かっちゃんとお出かけするなら正々堂々としたいし。クラスの皆にも内緒にしないといけないお出かけなんて・・・ヒーロー目指す者としても・・・」
「そもそも文化祭ン時にてめェが迷子になるから問題になって護衛なしの外出が禁止になったんだろーが」
「うう、それを言われると・・・申し訳ないとは思ってるんだよ?でも、あの時はまさかそんなことになるなんて思わなかったんだもん」

本当は迷子じゃなくてジェントル・クリミナルと"揉めた"からなんだけど、それは誰にも言っちゃダメだって言われてるから迷子ってことになってる。そのせいで瀬呂くんには"はじめてのおつかい"ってあだ名でしばらく呼ばれたんだよね。
私がぶつぶつ呟いてるのをしかめっ面で見ていたかっちゃんは、黙って職員室へとずかずか入っていく。そのあとを慌てて追いかける。

「か、かっちゃん!待って!あ、失礼します」
「どうした爆豪。緑谷」
「外出許可をもらいに来た」
「相澤先生・・・あの、私たち外出許可を貰いたいんです」
「いつだ」

相澤先生は眠たそうな顔で尋ねてきた。

「えっと再来週の週末です」
「再来週、二人ともか。爆豪は、うまくいけば仮免補講も終わって仮免取得できているはずだな。行き先は?」
「えーっと、その・・・」

しどろもどろになってしまって相澤先生が訝しんでこちらを見ている。嘘をつきたくないし、かといって正直に「ズードリームランドです!」とも言えないし。

「・・・言えないようなところなのか?」

ズードリームランドの後に実家に帰るのは本当だから実家に帰るとだけ言えばいいのに心臓がバクバクして言えなかった。きっと嘘を一つつく度に寿命を一年縮めるに違いない。
かっちゃんは何も言わずにポケットからズードリームランドのチケットを相澤先生に見せた。え、そんなあっさり見せるの!?あれほど実家に帰るで通せって言ってたのに。先生はかっちゃんの手の中のものを見てため息をついた。

「お前らわかってるか?ヒーローになるために雄英に入ったんだろ?」

ピシャリと言われた言葉にウッとなり返す言葉もない。それを聞いていたミッドナイトとプレゼント・マイクが「イレイザー酷い!!」と喚き始めた。相澤先生は一喝したけど、二人の抗議は止むことはない。

「青い春を満喫することもできないなんて酷い学校だわ!!これは校長先生に抗議しなくちゃ!!」
「そーだぞ、省エネ消ちゃん!!たまには学生にも息抜きが必要だぞ!!知ってるか?緑谷も爆豪も毎日朝や夕方に自主練してるんだぞ!お前は心操の特訓で忙しくて気づいてないかもしれないがこいつらPuls Ultraで頑張ってんだぞ。ちったァ許してやれ!」
「こいつらが自主練してるのは知ってる。それにまだダメとは言ってないだろ」

ヒートアップしていく二人に相澤先生は少したじろいだ。かっちゃんの方を見ると、何言わず無愛想な顔をしてポケットに手を突っ込んでいる。行けなくなったらこのチケットを買ってくれたかっちゃんのお母さんに申し訳ないな・・・払い戻しできるのかな。肩を落としていると、後ろから小さな咳払いが聞こえてきた。

「話は聞かせてもらったよ!相澤くん!この二人は授業も、チームアップミッションもとてもよく頑張っている。それに仲良くすることは良いことなのさ!学校に縛りつけるだけなのは良くないしね。特別に週末は条件付きで生徒に外出許可を出してあげようじゃないか。一度に全員とはいかないけど、ヒーロー科だけじゃなくサポート科、経営科、普通科も順番にならなんとかなるだろう」
「こ、校長先生・・・!」

突然与えられた助け舟に涙が出そうになる。だけど条件ってなんだろう。

「昨今の敵情勢を鑑みて手放しに許可を出すのは難しい。そこでだ。君たちには小テストを受けてもらおう。合格点をとれれば外出許可証を発行しよう。そしてもう一つ。かならずプロヒーローが護衛することさ!」
「小テスト・・・?」
「小テストはこちらが選んだ科目の筆記、もしくは実技だ。科目の選考基準は、テストを受ける者が、最も苦手としている科目・・・ということになるだろうね」
「最も苦手な科目、か・・・」

校長先生は後ろで腕を組み、トコトコと歩き去って行った。後ろ姿も可愛いな、校長先生。
そして相澤先生のやる気のない瞳と目が合った。

「・・・だそうだ。科目と試験日は日を追って知らせる。お前らが最も苦手だと思う科目の勉強に励め。以上、解散」

職員室を後にし廊下に出たとき私は大きなため息をついた。かっちゃんの苦手な科目ってなんだろう。なんでも出来る才能マンな彼に苦手なものがあるのか・・・

「かっちゃんの苦手な科目って何?」
「あ?ンなもんねェよ」
「やっぱそうだよね・・・」
「なまえはどうなんだ?」
「えっと、美術もイマイチ、音楽も自信ない。けど一番はやっぱ家庭科かもしれない・・・」

こう見えて座学はクラス上位の私なんだけど、副教科は鳴かず飛ばずなのだ。林間合宿で露見してしまった私の不器用さを知ってるクラスメイトに、家庭科の調理実習の際に包丁を持つなとやんわりと止められてからは洗い物に徹してグループに貢献してきた。いざ、一人でやれと言われても何も出来る気がしない。

「・・・特訓するぞ」
「は、はい!」

かっちゃんに連れられてやってきた寮のキッチンで、鬼コーチによる特訓が始まった。突然始まったことに何事かとギャラリーが集まってきた。

「なまえちゃん、何しとるん?」
「料理の特訓だよ!」
「何でまた急に?」
「ほら、私の包丁捌きに不安があるでしょ?それで・・・」

麗日さんと梅雨ちゃんを手招きして、小声で話をする。

「かっちゃんとズードリームランドに行きたいって相澤先生に言ったら難色を示されちゃって。だけどそれを聞いてた校長先生が小テスト受かったら行ってもいいよって言ってくれたの!その小テストって言うのが、各々一番苦手な科目なんだって。私の一番苦手なのって家庭科でしょ?だからかっちゃんがコーチしてくることになったんだ」
「そっかあ!爆豪くんとなまえちゃんは特訓の時も一緒に過ごせるし、なまえちゃんは料理の腕を磨けるし、合格すればデートが待ってるんやね!一石三鳥や!」
「なるほどね、緑谷ちゃんがんばって!」

ガッツポーズして気合いを見せると、二人はふふふと笑って「応援してるからね!料理できたら振る舞ってね」と言ってキッチンが見えるところのソファに座って手を振ってくれた。

シャツを腕まくりして、エプロンを着けた。私の準備が終わるまで待ってくれてたかっちゃんがこっちに来た。
男子たちもこっちに来て何を作るのかと興味津々だ。だけど私も何を作るのか知らない。
かっちゃんが冷蔵庫から豆腐とネギを出した。そして戸棚から煮干しも取り出した。

「お味噌汁?」
「そうだ。調理実習で一番最初に作るメニューだろ」
「お出汁は取れるよ。見てて」

煮干しの頭と腑を取り出して出汁を作っている間に、材料を切ることにした。

「ネギと豆腐なら簡単そう!」

そう意気込んで包丁を持ったら上鳴くんと峰田くんが叫んだ。

「緑谷!それ今から人を刺すヤツの持ち方!!」
「え?こう?」
「チッ!ちげぇよ!こう持つんだよバカ」

かっちゃんが盛大に舌打ちしながら私の背中にくっついて後ろから包丁を持たせてその上から手を重ねてきた。何これ、緊張して逆に手元が狂いそうなんですけど・・・

「クソォォォォォォ!羨ましい!!オイラもアレやりたい。後ろから女子に抱きついて教えるふりしてR18なことしたい」
「R18なことって?」
「なまえは黙ってろ」

私が聞き返すとかっちゃんがカウンター越しに峰田くんを軽く爆破した。地味に痛そう。

「緑谷と結婚するやつは手料理は諦めないとダメかもな」
「バカ!料理ができないっていうギャップがまたイイんだよ、上鳴。アバタもエクボだ!はぁぁあ、オイラもナイスバディな女子と二人きりの調理実習がしてぇよ」

あの爆破を食らいながらもめげない峰田くんはすごいと思う。もはや不死鳥じゃん。上鳴くんが失礼なこと言ってたけど寛大な心で許してあげようじゃないか。私は料理できなくったっていいんだ。だってかっちゃんに「俺が料理できるからいい」って言ってもらったことあるもんね!

時間がかかったけどかっちゃんと一緒にネギを小口切りにできた。最後は一人で切れたけど大きさはバラバラ。かっちゃんは頭を抱えてたけど・・・大丈夫だよね?
私は母がしていたみたいに手のひらに豆腐を乗せて切ろうとしたら、かっちゃんに止められた。

「なまえ、手ェ切りそうで怖いわ。慣れるまではまな板で切れ」

豆腐も大きさは均一にはならなかったけど、味噌汁は完成した。まずはかっちゃんに飲んでもらった。見た目はアレだが、味は合格ラインには入ってそうだと辛口コメントを頂いた。麗日さんと梅雨ちゃんは美味しいって飛び跳ねてた。
それからも料理の特訓は続き、私の左手は絆創膏だらけになって日々の特訓の激しさを物語っていた。鬼コーチの指導もあって、私はようやく人並みに包丁を使えるようになっていた。そしてわかったことなのだけど、私は包丁が苦手なだけで味付けは意外と悪くないってこと。時々A組寮にやって来て絡んでくる物間くんにバカにされたけど、最終的には「見た目はともかく味は良いんじゃない?」と言わしめた。たかが味噌汁、されど味噌汁。奥深いんだよ、味噌汁は。かっちゃんを筆頭にA組の皆が暇を見ては特訓に付き合ってくれた。
そして私は毎日の特訓にリンゴの皮剥きを追加した。だけど毎日大量のリンゴを食べさせられたA組の皆はリンゴにうんざりしているようだった。常闇くんとエリちゃんを除いて。
最初は砂藤くんがリンゴのスイーツを作ってくれていたけど、段々とレパートリーが無くなっていって頼むから違う果物にしてくれって頼まれてしまった。それでもせっせとリンゴの皮を私は剥き続けた。

しばらくして私とかっちゃんは相澤先生に呼び出された。きっとテストの科目と日時のお知らせだろう。ついでに大量に剥いたリンゴを差し入れしようとタッパーを持参している。

「相澤先生・・・」
「お前らにこれを渡しておく」

手渡された紙を広げてみるとそれは外出許可証だった。

「え・・・?」
「小テストっていうのは校長先生的に言うとちょっとした頭脳心理戦だそうだ。つまり合理的虚偽ってことらしい。お前らは十分に日々努力し成長している。校長先生からも小テスト免除で良いと言われている」
「え、えええええええ!?合理的虚偽ぃ!?待って待って。私の努力は何だったの!?」
「謀られたな・・・でも、まァこれでなまえもちったァ料理できるようになったんだからいいだろ」
「そ、そうだけど!!」
「料理・・・?緑谷は何の科目の勉強してたんだ?」
「家庭科です。調理実習全然ダメだったので」
「・・・緑谷には化学を受けさせるつもりだった。小テストがなくて良かったな。護衛はエクトプラズムが担当することになった。金曜の晩から実家に帰ることを許可する。ただし爆豪、仮免合格しなければ爆豪は外出はできない。また仮免講習再開となるからな。集中して臨めよ」

小テストは、まさかの化学だった。私の苦労は水の泡となったけど、リンゴを先生たちに差し入れることはできた。これで、A組の皆もリンゴから解放される。兎にも角にも外出許可証もらえて本当良かった。
そして、話は冒頭に戻る。かっちゃんは仮免試験に余裕で合格したから二つの壁を乗り越えてズードリームランドに行けることになったのだ。

金曜日の晩、エクトプラズム先生に連れられて私とかっちゃんは実家へと向かった。久しぶりの地元に心躍る。夏以来帰ってなかったのだが、景色は何も変わらずただ冬支度をして私たちを迎え入れてくれている。
玄関先まで送ってくれたかっちゃんとエクトプラズム先生に手を振って、一歩踏み入れた久々の我が家の懐かしい匂いに感極まって泣きそうになったのは秘密にしておく。

母は私の好きなメニューを作ってくれていて、しかもケーキまで買ってくれていた。ご飯を食べながら、かっちゃんと両思いだって分かったんだって伝えたらめちゃくちゃ喜んでくれたのだけど、勢いよく立ち上がったせいでお茶がこぼれて大惨事が起きていた。
二人で笑いながら机と床を拭いた。嬉しそうな母をみて、私まで嬉しくなった。

翌日AM8:00。かっちゃんが家に迎えに来たてくれた。電車で移動するとき、私たちの両サイドをエクトプラズム先生の分身が座っていてなんとも奇妙な光景だった。エクトプラズム先生はズードリームランドの入り口までの付き添いで、入場したあとは二人で行動していいことになっている。

中に踏み入れると、クリスマスが近いこともあってパークの中はクリスマスカラーに染まっていた。週末ということもあって人がたくさんいる。どこもかしこもカップルだらけだ。両思いだとわかってはじめてのお出かけなので今更緊張してきた。かっちゃんとお互いの手がぶつかって慌てて手を引っ込めようとしたら、かっちゃんはそのまま私の手を掴んで繋いで歩き始めた。

「行くぞ」
「う、うん!」

歩き始めてすぐに早速アニマルカチューシャを売ってるワゴンを見つけた。

「わぁ見て!かっちゃん、カチューシャだ。可愛い!ウサギの耳のやつつけようかな」

白いウサギの耳のカチューシャを手にとって頭につけた。かっちゃんの方を振り返るとかっちゃんは私を見て、後ろを向いて頭を抱えていた。

「かっちゃんも一緒につけようよ」
「バカらしいわ。ウサギなんてつけてられっかよ」
「かっちゃんはライオンの耳が似合うかも。髪の毛金髪だし。ほら」

ライオン耳のカチューシャを無理矢理つけたら、立て髪のふわふわの色がかっちゃんの髪の毛の色によく似ていてとても似合っていた。

「まって、可愛い・・・」
「はァ!?可愛いわけねェだろが、この俺が」
「に、似合ってる!かっちゃん百獣の王みたいで!写真撮ってもいい?」
「ダメに決まってンだろ。バカ」

慌てて言い方を変えて事なきを得たけど、写真は撮らせてくれなかった。かっちゃんに可愛いはNGだ。覚えておこう。一人でつけるのは恥ずかしいから一緒につけてほしいとお願いした。

「ね、お願い!かっちゃん!」
「嫌にモンは嫌だ」
「一生のお願い!」
「こんなしょーもないことに一生のお願いを使うなよ!!クソなまえ!!」
「それもそうだね。じゃ、私も買うのやめとこうかな」
「・・・・・・」

カチューシャを戻そうとしたら、二つとも奪い取られてレジの係の人にお金を払って戻ってきた。あまりの素早さに自分のお財布を出すこともできなかった。

「ん」
「ありがとう・・・いいの?」
「・・・その代わり俺の乗りたいアトラクションにも付き合ってもらうからな」

そう言ってかっちゃんは絶叫系のアトラクションを次々に乗っていった。私も絶叫系は嫌いじゃないからノリノリでいたのだけど、かっちゃんは私が絶叫系怖がってないのが意外だったらしい。アトラクションの待ち時間もかっちゃんがいれば長く感じない。
お手洗いに行くと言って離れて、ライオンのマスコットを買った。かっちゃんにプレゼントしようと思っていたのだ。連れてきてもらったお礼だ。戻ったとき壁にもたれかかっているライオン耳のかっちゃんをこっそり写真に納めておいた。

クリスマス限定のいちごタルトは絶品で、一口食べて頬に手を当てた。

「めっちゃ美味しい!はぁぁぁ、幸せ〜」
「なまえの身体は甘いモンでできんのか?」
「そんなわけ!・・・いや、待てよ。そうかもしれない・・・毎日でも食べれるもん、このタルト!」

私がうっとりしながら食べてると、かっちゃんがスマホを構えた。写真を撮られた。

「ちょ、ちょっと!撮るなら食べる前が良かった!」
「うっせェ。食べてるとこでいいんだよ」
「よくなーい!全然よくない!食いしん坊みたいじゃん!」
「実際そうだろ」

確かにそうなんだけど。花も恥じらう乙女だから、一応。撮るなら可愛く撮って欲しいじゃん。頬を膨らませて抗議したらデコピンされた。

冬は日が暮れるのがはやくて辺りはもうすっかり暗くなってイルミネーションが幻想的に揺れてロマンチックな雰囲気を演出している。

「なまえ、観覧車乗るか?」
「あ、う、うん」

実は私は観覧車は苦手だ。小さい頃、誰かと一緒に乗ったときゴンドラをめちゃくちゃ揺らされてからトラウマになっている。
観覧車もスピードあげて高速でぐるぐる回ってシートベルト付きのアトラクションにしてほしい。絶叫系の方が怖くない。
かっちゃんの腕にしがみつくような感じでゴンドラに乗り込んだ。
かっちゃんの向かい側に座った。

「かっちゃん、絶対動かないで」
「は?」
「だから、その席から動かないでね。今荷重のバランスが取れてるはずだから」
「何言ってンだ。俺となまえ体重ちがうのに取れてるわけねェだろ」
「・・・そうだけど怖い」
「なにが?」
「小さい頃観覧車に誰かと乗ったんだけど、ゴンドラ揺らされてそれからずっと観覧車が怖くて」
「・・・」

楽しかった雰囲気が少し暗くなってしまった。チラリとかっちゃんをみると目があった。

「ンなことする子どもじゃねえ。無駄に揺らしたりする訳ないだろ」
「うん・・・」
「隣に座っても揺れないし、落ちたりしねェよ」

かっちゃんがゆっくり立ち上がって隣に移動した。ゴンドラは揺れることはなかった。
かっちゃんは私の手を取って指を絡めた。
私の頭の中で、荷重のバランスがとか、シートベルトが欲しいとかの考えは隅に追いやられ、かっちゃんが隣にいる安心感でいっぱいになった。よく考えたらクリスマスムードのパークで、夜の観覧車って・・・
私たちのゴンドラが一番上に近づいている。ようやく外の景色をちゃんと見ることができた。
パークの中を動いている色んなアトラクションがライトアップされ、ジェットコースターは流れ星のようだ。

「わぁ!綺麗!流れ星みたい!」

そう言ってかっちゃんの顔を見たら、優しい表情でこっちを見ていた。その表情はずるい。キスしたいかも。
かっちゃんに顔を近づけて目を閉じた。
少し間を置いてかっちゃんが私の後頭部を手で触り引き寄せられた。唇には柔らかい感触。何度もキスをした。地上に降り立つまでずっとキスしてたから、景色は見ていない。
トラウマだった観覧車はかっちゃんによって素敵な思い出に塗り替えられた。もうきっとかっちゃんと乗るなら観覧車だって怖くない。

大きなクリスマスツリーの前で記念撮影をしたくて、パークのスタッフに声をかけた。スマホを構えるスタッフのお姉さんに「お二人さんもっと近づいてー!」と言われて、かっちゃんが静かにキレながら私の腰を掴んだ。

「はいチーズ!もう一枚撮りますねー!はいチーズ!」

私は背伸びをしてかっちゃんの頬にキスをした。かっちゃんは突然のことに固まっていた。

「彼女さん可愛いーーーー!!!素敵なカップル!!!彼氏さん、こんな可愛い彼女さんで幸せですね」

スタッフの人がにっこり微笑みながらスマホを返してくれた。照れ臭くなって、笑って受け取ると、かっちゃんは私の手を掴んで引きずるように歩き始めた。

「エクトプラズムとの約束の時間になる。お土産買うんだろ?行くぞ」
「はーい」

手を繋ぎ直して、お土産屋さんによって皆に配るお土産を買った。
私は足取り軽くゲートへと向かって歩き始めた。帰りたくない気持ちもあったけど、先生に迷惑はかけられない。
エクトプラズム先生はゲート前で待っててくれて、私たちを見て手を振っている。
私たちのカチューシャを見て先生が「似合ッテルゾ」と褒めてくれた。かっちゃんはキレながら慌ててカチューシャをとって鞄にしまっていた。
夢の国から現実世界に戻ってきたって感じがする。次はいつ行けるだろうか。名残惜しくて振り返っているとかっちゃんに引っ張られた。
また家までかっちゃんとエクトプラズム先生が送ってくれた。別れ際にかっちゃんにこっそりウサギのマスコットを手渡された。

「やるよ」
「え!?あ、ありがとう!可愛い!!いつの間に!!すごい嬉しい大事にするね!あ、あとね、実は私もかっちゃんに渡すものがあるんだ・・・はいこれ!」

鞄から出したライオンのマスコットが小さく揺れた。かっちゃんは私を見てニヤリと笑った。

「考えてること同じかよ」
「ふふ、凄いよね。あー・・・かっちゃんと離れたくないなぁ」
「なら俺の家泊まりに来るか?」
「んー・・・でもお母さんが寂しがるからこっちに泊まる。また明日学校戻ったら、かっちゃんの部屋行くね。今日は本当にありがとう!楽しかった」
「・・・じゃ帰るわ」

こうして私とかっちゃんのデートは幕を下ろしたのだ。ベッドに寝転がって、今日撮った写真を見ながら余韻に浸っていた。かっちゃん、なんだかんだカチューシャずっとつけてくれてたし、写真も意外とたくさん撮ってくれたな。

このままかっちゃんと一緒にいられたらいいな。来年も再来年もその先もずっと。



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