チームアップミッション
遅刻ギリギリで教室に滑り込んだ私たちを見て、切島くんはなぜか親指を立てて何かのサインを送っている。首を傾げていたら、かっちゃんが切島くんに罵詈雑言を浴びせ始めた。もういつものことなので、私は自分の席に着いて、重たい腰を下ろした。しばらく続くのかな、この痛み。
相澤先生が入ってきたので、かっちゃんも静かになった。
朝のホームルームが終わり、相澤先生が出ていくのと、オールマイトが入ってくるのはほぼ同時だった。マッスルフォームで片手をあげて入ってくる姿は何度見ても感動するし興奮のあまり鳥肌が立つ。師弟の関係で、さらに教師と生徒という関係であるがファンであることには変わりはない。
「雄英高校1ーAの諸君!私が説明に来た!」
「オールマイト!!」
「昨日で全員が仮免を取得した今!よりヒーローとして活動の場を広げられるようになった!したがって今後・・・新たな制度チームアップミッションに参加してもらおう!」
「チームアップミッション?」
これから全国の学校とヒーロー間で行われるチームワークとコミュ力を高め合うことを目的とした制度のことらしい。確かにプロになれば見知らぬヒーローと協力して事件に臨むことも多々ある。
「知り合いであっても“個性“の相性は実戦を経ないと分からない!そんなとき迅速に行動できるかな?難しいよね!だから今のうちからチームでの訓練を始めようっていう制度さ!他校との連携も増やしていく予定だぞ!」
梅雨ちゃんが士傑や傑物高校も参加するのか尋ねると、もちろん参加するとの返事であった。つまり、仮免試験の時に戦った相手とチームを組むこともあるんだ。楽しみだ。
すでに最初のミッションが決まっているらしくて、各自にTUMと書かれた封筒が配られた。TUMはチームアップミッションの略語なのね。
「指定の日時にプロヒーローのもとへ向かってもらうぞ!」
どんな人とチームを組むんだろう。私はワクワクしながら封筒を開け、中に入っている要綱に目を通した。待って。このメンバーは・・・
クラスメイトたちがどこへ誰と行くのかと盛り上がる中、私は前の席のかっちゃんの肩をつついた。
「かっちゃん、一緒のチームだね。よろしくね」
「・・・足引っ張んなよ」
「が、頑張ります!」
昨日のことを意識しすぎているのか、かっちゃんの態度が皆の前だとよそよそしいというか、つっけんどんというか・・・少し距離を置かれてる感じがして寂しくなる。
そんな時に麗日さんがやってきて周囲の雰囲気が明るくなる。
「麗日さん!よろしく」
「一緒やねなまえちゃん!頑張ろうね!爆豪くんもよろしく」
「なんで俺がこいつらと一緒なんだよ」
そうぶっきらぼうに言うと、オールマイトがヌッと急接近してかっちゃんに「チームワークが大事なんだよ」と諭した。
「更に向こうへ!!」
「Plus Ultra!!!!」
休み時間になって、どこへ行くのか誰と組むのかと大いに盛り上がるA組。後ろの席の峰田くんに、ちょんちょんと服を引っ張られて振り返った。
「なあ、緑谷は誰と組むんだ?」
「麗日さんとかっちゃんだよ」
「ハーレムじゃねぇかよ、爆豪のやつ!!!」
「峰田くんは誰と組むの?」
「オイラは他校の男子だ・・・絶望だよ。なんで女子じゃねぇんだよ!!!どうなってんだ?世の中男と女とどちらでもないで構成されてんだろ?なら、女と組む確率もあるはずなのに、よりによって男だけのチームアップなんて・・・」
峰田くんはよほど悔しいのか机に突っ伏して、机を叩いている。女性への執念が強すぎて怖い。ガバッと顔を上げた峰田くんが何かを決意したような面持ちでかっちゃんのところへ歩いていき土下座をし始めた。
「頼む爆豪!!!チーム変わってくれ!!!」
「え、えええええ!?峰田くん何してんの!?」
「麗日のうららかボディと緑谷のメリハリおっぱいを堪能できるなら死んでも良い」
「だったら今死ねや!!なまえに指一本でも触れたらコロス!!」
「ちょっとかっちゃん!」
かっちゃんの手を掴んで爆破させないようにしようとすると、反対の手でかっちゃんに腰を抱かれてグイッと引き寄せられた。
「きゃっ!」
かっちゃんと目が合って、昨夜のことを思い出してお腹の奥がキュッとなった。
「ちょっと待て!!!爆豪、緑谷、お前らなんか雰囲気違う・・・緑谷に至っては肌ツヤがちげぇ。以前は無邪気で幼い印象だったが、今日の緑谷どことなくエロい。さ、さてはお前ら一線を越えたんじゃねぇだろうな!?」
大きな声でそんなこと言うもんだから、私は赤くなった頬を隠すように両手で押さえて俯いた。かっちゃんは怒りで手が震えている。しかも、教室中がこっちを注目してるのが分かる。恥ずかしくて、少しだけ泣きそうになった。
素早く梅雨ちゃんが峰田くんを舌で縛り上げて、芦戸さんと、葉隠さんが両サイドから平手打ちをした。見事な連携プレーだ。峰田くんの両頬に真っ赤な紅葉マークができている。
「峰田!あんたね!ほんっとデリカシー無いわね!!そういうのはね、思ってても心の中だけで留めておきなさいよね!!」
ありがとう芦戸さ、ん・・・え、待って、思ってたんだ!?
「そうよ峰田ちゃん。二人のプライベートなとこに土足で踏み入ったらダメよ。例え気づいていたとしてもね黙って見守るものよ」
梅雨ちゃんも気づいてたの・・・!?なんで!?
「そーだ、そーだ!!それにいつになく、爆豪くんがなまえちゃんを見るときの眼差しが優しくて、なまえちゃんのこと死ぬほど大好きなんだなって分かったとしても、すぐにエッチなことと結びつけるのは良くない!!」
葉隠さん・・・嘘でしょ?嘘って言ってよ、お願い。なんで、見てるだけなのに分かるの?私なんてかっちゃんの気持ちに気づくのに随分時間かかったって言うのに。
峰田くんは総攻撃を食らってシュンと落ち込んで自分の席へと戻って行って、グラビアアイドルの動画を見始めた。
飯田くんが「一線を越えるとはなんのことだ?」と一人叫んでいるけど、誰もが答えようとしない。
かっちゃんを恐る恐る見ると、怒りで今にも爆発しそうだ。私の腰を抱いてる手が戦慄いている。休み時間を終えるチャイムがなって事なきを得たけど、もう少しで峰田くんは大怪我をするところだったんじゃないかな。
こうして新制度により、私たちは数日後プロヒーローの元へと向かうことになった。制服をきて指定された待ち合わせ場所へと電車を乗り継いで向かう。私たちの手にはヒーローコスチュームが入った鞄があった。着いたのは猿華舞区のビジネスホテル。
「着いたよヒーロー事務所!行こう!麗日さん、かっちゃん」
「なんでてめェが仕切ってる風なんだァ!?なまえ!!」
「爆豪くんチームワーク!」
麗日さんに宥められても尚憤怒しているので、かっちゃんの手を掴んでホテルに入った。ロビーのソファに腰掛けて待つように書かれている。
「ここがヒーロー事務所?普通のホテルやん」
「ここで合ってるはずなんだけど・・・誰なんだろう」
「ザコヒーローじゃなきゃ良いがな」
「お前ら緑谷・麗日・爆豪だな!?」
私の背後から声をかけられて振り向くと、そこにはNo5ヒーローのミルコが腰に手を当てて立っていた。
「ヒーロービルボードチャートNo5ラビットヒーロー、ミルコ!!本物だ!すごい!でもなんでこんな場所に」
「ここは借宿だ。私は事務所を持っていないからな」
そうか。ミルコは管轄地域を持たず、日本中を飛び回る新しい形のヒーローだ。だからビジネスホテルに集合だったのか。
「サイドキックもいないミルコの活動を近くで見られるなんて貴重すぎる!今日は私たちがヒーロー活動のお手伝いを」
「いらん!!」
ミルコはすごい勢いで私の言葉に被せて、断ってきた。えええええ!でも、チームアップミッションの制度はチームで動くのでは?
私のぽかんとした顔を見てミルコは笑った。
「公安委員からのお達しでお前らを受け入れただけだ。私は一人で自由にやるのが性に合ってんだ!」
「そんな・・・」
麗日さんと顔を見合わせているとミルコは長くて真っ直ぐな髪をなびかせて歩き始めた。
「まぁでも付いてくるなら好きにしな!!」
「「はい!!」」
ビジネスホテルの一室で麗日さんとコスチュームに着替えた。着替えて街中へ出てパトロールをするミルコの後を追う。敵が街中を暴走しているがミルコの足蹴り一撃で敵は失神してすぐに警察に引き渡されていた。的確な判断と迅速な対応!これがプロの技か!そしてファンサービスもしっかりとしている。
その騒ぎで小さな男の子が持っていた風船を手放してしまったようで、天高く風船が舞い上がっていく。それを見た麗日さんがすぐさま“個性“で風船をキャッチし地面に降りてきた。
「はい!もう無くさないようにね」
「ありがと!お姉ちゃん!」
男の子の笑顔に撃ち抜かれたのか、「天使や!」と叫んで麗日さんが仰け反っている。すごいな、麗日さん、私も頑張らなきゃ。
すると横からかっちゃんのドスの効いた声が聞こえてきた。
「おォい敵。どこだァ・・・?敵出て来いやァ!!!!!」
振り返ると敵みたいな形相をしたかっちゃんが身構えていつでも対敵できる体勢になっている。むしろ市民に怖がられている。
「かっちゃん!?怖がられてるよ!?」
「ああ!?何か文句あるか!?」
「い、いや、えっと」
あまりの迫力に私もビビって後退った。この前の甘い空気はどこへ行ってしまったの。
「おい!あぶねェ」
かっちゃんに腕を掴まれたけど、間に合わなくて後ろにいた通行人にぶつかってしまった。その人はフードを深く被って黒いマスクをつけていた。
「あっ、すいません!」
「そのコスチューム・・・・ヒーロー?」
「あっ、私はまだ学生なんですけど今は授業の一環としてヒーロー活動してるって感じです!」
「へェ・・・じゃあ“個性“が自由に使えて羨ましいなぁ・・・」
その人は顔色が悪くて今にも倒れそうだ。顔を覗き込もうと近づいたらさっと手で制された。
「あの何だか顔色が・・・」
「あまり・・・近づかない方がいいですよ」
「え・・・?」
深くフードを被り直して去っていってしまった。
「具合でも悪いのかな」
「・・・・・・」
かっちゃんは私の腕を掴んだまま離さなかった。
その後は何事もなく終わって、またビジネスホテルに戻ってきた。ホテルのロビーでミルコはソファに腰掛けて足を組んだ。
「今日の活動・・・私ゃ指導なんかするつもりはないがひとつ言いたい!爆豪!」
「あ?」
「敵に対する剥き出しの殺意・・・良いぞ!」
いいんだあれで!?
「麗日もナイスだ!」
「ミルコさんに褒められた!ちゃんと見ててくれたんやなぁ」
「ウサギは視野が広いんだよ!」
ホワホワと嬉しそうに頬を染める麗日さんと、いつもと表情は変わらないかっちゃん。そして私だけ褒められない・・・
「緑谷は何もできてなかったな!」
指差されて言われてしまった。ごもっともです。ごもっともなんですけど、そんなハッキリ言われると傷つきます!シュンと肩を落としていたら外から悲鳴が聞こえてきた。
「うわああ!た・・・助けて!!」
ホテルに逃げ込んでくる人がミルコの姿を見て駆け寄ってきた。
「霧が迫ってきて・・・吸い込んだら気分が悪く・・・」
ロビーのテレビが緊急速報を映し出した。
『速報です!猿華舞区に有害な霧が発生し街中が混乱しています。速やかに安全な場所へ避難してください。霧の発生源と思われる人物、毒島猛“個性“は毒ガス・・・』
テレビの画面に映ったのはさっき私がぶつかった通行人だった。
「ミルコ・・・どうするんですか?」
「決まってんだろ!敵が出たなら蹴っ飛ばす!!」
外に出ると繁華街を中心に黒い霧が渦巻いている。濃い霧のところにさっきのフードの人がいるのだろう。私は救助に行ったミルコの手助けをするため、エアフォースで霧を散らしていく。
私とかっちゃんは二人で、濃霧の元へと走っていく。フードの人、毒島はどんどん街の郊外へと移動しているようだ。
「街の外れに何かあるのかな」
「あぁ!?“個性“の解放だろ。“個性“を使える奴への羨望の目、俺ァよく知ってんぞなまえ」
「・・・」
路地裏を走る毒島を見つけてかっちゃんが、爆破のブーストで追いかける。大通りの手前で毒島は進路を急に変えて逃げていく。
「逃げるだけかコラァ!!」
かっちゃんが壁を蹴って毒島の進行方向へと先回りして、後ろから私と麗日さんで追い込んだ。ミルコも建物の上から飛び降りてきた。逃げきれない状況に、毒島は息を荒げている。だけど私は何か引っ掛かりを覚えて考え始めた。
なぜそんなに“個性“を使いたかったんだろう。毒島は人の多いところを避けて行動していた。そして毒ガスの個性・・・もしかして?
「間違いなんだよ!ヒーロー4人相手に逃げようなんてな!」
そのミルコの言葉を合図にかっちゃんが動き始めた。私は毒島を庇うように前に立った。
「何のつもりだ?なまえ。そいつは敵だ」
「何か事情があるかもしれないの。この人はずっと人のいるところを避けるように、被害のないように行動していた。そしてあの“個性“・・・もしかして、あなたはもう自分では毒を抑えられなくなったんじゃないですか?」
「・・・・・・その通りだ。僕の“個性“は危険な毒ガス。使わなければどんどん体に蓄積されてしまう・・・でもこの社会は“個性“の使用を禁止している。僕はただ毒を体に溜め込むしかなかった・・・けどもう限界だ。この“個性“が身を滅ぼす前に解放するしかなかった・・・!ねぇ僕は敵なのかなぁ・・・?教えてくれよヒーロー・・・」
毒島は地面に座り込んで、俯いたままだ。私はこの人を救いたい。でも、どうすれば・・・
「・・・なんだそんなコトかよ。なら全部出しちまえ“個性“」
「!?」
「そうすりゃ清々するだろ、なぁ!?」
かっちゃんは籠手を振り回して言った。
「敵の行動に手を貸すつもりか?」
「ミルコ!かっちゃんには考えがあるんだと思います!何の考えもなしにそんなことを言う人じゃない・・・」
「なまえちゃん!私も爆豪くんを信じる!同じチームだもん!」
「麗日さん!」
毒島は何年も溜め込んだ毒ガスを解放するのは危険すぎると言った。周りの人も巻き込むことになるしヒーローがそんなことさせていいのかと憂慮している。かっちゃんがキレながらやれと言うが毒島は簡単には頷かない。こんな時、私にできることは・・・つけていたマスクを外した。
「毒島さん、信じてください。私たちを」
素顔でにっこりと笑うと、毒島の目に涙が浮かんできた。麗日さんが毒島を高いところまで浮かせた。かっちゃんが追いかけていって、毒ガスを解放させたのだろう。モクモクと濃霧が空中に放出される。そして、かっちゃんがどデカい爆破で毒ガスを燃焼させた。
「敵をやっつけるのがヒーローじゃない。困ってる人を助けるのがヒーローなんだ!」
ふわりと降りてきた毒島の元に駆け寄る。マスクを外した毒島は泣きながら笑った。その顔色はもうすっかり良くなっている。
「スッキリした面になってんじゃねぇか」
「消えてる・・・毒が全部・・・ありがとう、ヒーロー・・・」
かっちゃんは毒島に抱きつかれてお礼を言われたのだけど、照れくさいのか「離れろ!」と言って両手が爆発していた。ミルコは腕を組んでその様子を黙って見ていた。
この後、私たちはこの事件のあらましを全て警察に話した。連行されていく毒島は、パトカーに乗り込むまで何度も私たちに礼を言っていた。
結局私は何もできなかったけど、ビジネスホテルに戻るとミルコがキャロットジュースを三人に渡してくれた。しかもよく頑張ったなとねぎらいの言葉をかけてくれた。
彼のしたことを無かったことにはできない。でもこの事件がニュースで世間にしれ渡ると彼の罪を軽くするためたくさんの署名が集まったそうだ。こういった“個性“の持ち主はきっとまだたくさんいるはずだ。政府が個性登録をさせて把握していたにもかかわらず、こうした溜め込むタイプの“個性“の持ち主に対しての適切な処置、つまり“個性“の解放をする場所の確保ができていなかったことへの批判も高まった。今後はこうした溜め込むことで人体への影響がある“個性“の持ち主には定期的に“個性“を安全に解放する場が設けられることとなった。
「結局私何もできなかったなぁ。麗日さんもかっちゃんもすごい格好良かったよ!」
「えへへそうかなぁ?でも、なまえちゃんの鋭い考察のおかげであの人の命は助かったんだよ!あ!お餅屋さんや!ちょっと私お餅買ってくる!」
麗日さんがお餅屋さん目がけてまっしぐらに駆けていく後ろ姿を微笑んで見ていたら、かっちゃんがこっそりと呟いた。
「なまえがあの時止めてなかったら本当にあいつはただの敵として捕まってたかもな。・・・・・・ありがとな」
「え?」
「もう言わねぇよクソなまえ!一回で聞き取れや」
「ご、ごめん!」
かっちゃんは私と麗日さんを放ってさっさと帰ろうと駅に向かって歩き始めた。ツンツンとした髪の毛が夕日に染まって綺麗なオレンジ色になっていた。
次は誰とどんなチームだろう。
雄英高校1ーAのチームアップミッションは始まったばかりだ。