激闘!A組 VS B組
寒空の下運動場γに集まったA組。皆コスチュームが寒冷仕様になっていてモコモコふわふわしていて可愛い。葉隠さんは相変わらず、グローブとブーツだけ。見えないけど、見ててこっちが寒くなる。わたしも梅雨ちゃんほどではないけれど、寒さに弱いので冬用の生地にひっそりチェンジしてるんだよね。
かっちゃんもコスチュームが様変わりしているのに気がついた。
「あ!かっちゃんも変えてる」
「あーーー!?文句あんなら面と向って言えやなまえ」
「そのスーツ、防寒発熱機能付き?汗腺が武器のかっちゃんにとってとても理に適った変更で素晴らしいと思う!それにカッコいいし似合ってるね」
「そんな褒めてんじゃねェーーー!!」
「えー!?」
かっちゃんは皆の前で褒められるのがいやだったのか、ムスっとした表情見せて私にデコピンしてきた。
それを見てた尾白くんが苦笑いしながら、私のコスチュームを指さした。
「緑谷が一番変化激しいよな。パンツタイプからスカートになって、最近また何か付いたし」
「デザイン変更はサポート会社が勝手にしたことなんだけどね。やれることが増えてきたからね。すごいんだよこのグローブ!実は既に2代目なんだけど、発目さん強度の調整までしてくれて!」
「あー!発目なー!」
「おいおい。まー随分と弛んだ空気じゃないか。僕らをなめてるのかい」
B組だ。物間くんが相変わらずネチネチ絡んでくるので、私はかっちゃんの後ろにサッと隠れた。何故だか分からないけど物間くん私を見ると絶対何か言ってくるんだよね。物間くん、顔は良いんだから黙ってればいいのに。黙ってたらモテそう。
「お!来たなァ!!なめてねーよ!ワクワクしてんだ」
「フフ、そうかい。でも残念。波は確実に僕らに来ているんだよ。さァA組!!!今日こそシロクロつけようか!?」
上体を反らしながら叫ぶ物間くんは敵みたいな顔つきをしてる。ここまでくるとA組への対抗心というより執着心だ。
「見てよこのアンケート!文化祭でとったんだけどさァーア!A組ライブとB組超ハイクオリティ演劇どちらが良かったか!見える!?二票差で僕らの勝利だったんだよねぇ!」
「マジかよ!見てねーから何とも言えねー!!」
「入学時から続く君たちの悪目立ちの状況が変わりつつあるのさ!!そして今日、A VS Bの初めて合同戦闘訓練!!僕らがキュ」
「黙れ」
「ものまァ!!!」
最後まで言い切る前に相澤先生の捕縛布が物間くんの首を締め上げた。ちょっと気の毒だけど、たしかにうるさすぎた。
「今回特別参加者がいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」
「特別参加者?」
「倒す!!」
「女の子!?」
「一緒に頑張ろうぜーーー!!」
「ヒーロー科編入を希望してる普通科C組心操人使くんだ」
「あ、あーーーーーーーーーー!!心操くん!"まァね"ってこういうことだったのね!」
体操服姿の心操くんが現れた。マスクを首元につけてあって、相澤先生みたいな捕縛布もある。頭をかきながら、私と目が合うとニヤリと笑った。
「会話すると洗脳されちゃうんだよね」
「初見殺し」
「緑谷掛かったけど解いてたよ」
「あれは、正直マグレ破りだけどね」
ワン・フォー・オールの面影を見たのは心操くんの洗脳がキッカケ。タイミングが良いのかそれとも・・・
心操くんが相澤先生に促されて挨拶し始めた。体育祭で戦ったときの心操くんの言葉を思い出した。
"恵まれてていいよなァ、緑谷なまえ"
あの時から心操くんは一人でここまで登り詰めて来たんだ。すごいよ。
「立派なヒーローになって俺の"個性"を人の為に使いたい。この場の皆が超えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません。よろしくお願いします」
拍手をしながら、心操くんの言葉に身が引き締まって背筋を伸ばした。
今日行われる戦闘訓練は4人1組のチーム戦で、お互いがお互いを敵と認識し、4人捕まえた方が勝利となる。双方の陣営には"激カワ据え置きプリズン"を設置されている。相手を投獄した時点で捕まえた判定になるらしい。見たら、たしかに緊張感のないメルヘンで可愛い牢獄が置いてあった。心操くんの参加するチームは5人1組だけど、4人捕まったら負けというハンデを背負う。
「お荷物抱えて戦えってか。クソだな」
「ひでー言い方やめなよ」
「いいよ。事実だし」
「徳の高さで何歩も先行かれてるよ!!」
私はくじ引きで、麗日さん、芦戸さん、峰田くんと同じチームになった。5回戦目だからじっくりと皆の観察ができる。
対戦相手は・・・うわぁ。物間くんがいる。しかも心操くんも。絶対勝つぞ!!
「なまえちゃんは心操くんと再戦やね」
「うん!力をつけた心操くん、一体どうくるのか楽しみだな」
メモをしようとポーチからノートとボールペンを出したら、麗日さんに「常に持ち歩いてるんだ!?」ってびっくりされた。
1セット目が始まり、早速心操くんも参加する。各陣営へと移動する皆に着いていく心操くんに手を振ったら無表情のままだったけど小さく振り返してくれた。ニコニコしてたらかっちゃんにペシンと頭を叩かれた。振り返って見たその顔が般若みたく恐ろしい顔つきだったので私はギギギという効果音とともに首を動かして見なかったことにしようと思った。
耳元で「俺の目の前で他の男によそ見とは立派なモンだな!後で覚えとけよなまえ」と私にだけ聞こえる声量で囁かれた。いや、手を振っただけなんですけど!?
メモを取ろうとするけど、かっちゃんの視線が気になって集中できない。
「か、かっちゃん」
「なんだよ」
「あの、心操くんとはただの友達で、わ、私が好きなのは、かっちゃんだけだから!!」
「・・・わーっとるわ、ンなこと。早よ前見ろや」
心なしか般若みたいだったかっちゃんの顔が優しくなった。第1セットは心操を含めたA組の勝利となった。心操くんの捕縛布のアクションはまだ戦闘スピードについてこれていないようだったけど、心操くんには心操くんの強みがある。変声機の使い方も良かった。状況さえ整えてしまえばいるだけでその場を支配できる。挨拶で何十歩も遅れてると言っていたけど、そんなことない。私たちと遜色なく戦えてる。
私たちは心操くんと戦うことになる。対策練らなくちゃ。峰田くんと、芦戸さん、麗日さんを呼んで作戦会議を始めた。
その間に第二セットが始まる。拳藤さんチームと八百万さん率いるチームの戦いだ。B組は、黒色くんや小森さん、吹出くんが健闘している。最後は八百万さんが気絶してしまって、4-0でB組の勝利となった。だけど、先を見据えて創造していく八百万さんの作戦、とても素晴らしかったと思う。
先の戦いで建物を壊しすぎているため移動も兼ねてインターバルを挟むことになった。
ノートに先程の試合の分析を書きこむ。
「当たり前だけど、皆"個性"だけじゃなくて精神面での成長が"個性"を更に強くしてるんだね」
「書くなぁ〜!なまえちゃんも成長しとるさ」
「だといいなぁ」
「オイラにゃ及ばんけどな」
「緑谷少女!」
「はい!」
「私がシットリ来た!ちょっとこっちへ」
オールマイトに後ろから声をかけられ、手招きされ隅の方で二人で話をする。
「引き続き何か違和感などは?」
「特にはないです」
「そうか。お師匠が何か仰っていなかったかグラントリノにも伺ってみるつもりだ。くれぐれも気をつけてくれ。5戦目・・・面影のきっかけとなった心操少年がいる」
「・・・はい」
「オイ」
かっちゃんが真後ろに立っていて驚きのあまり、小さく悲鳴をあげてしまった。
「び、びっくりしたぁ」
「てめーら人に守秘強要しといてバンバンコソコソしてんじゃねェぞ!バレるぞ!」
「ムム」
「ムムじゃねェよ!・・・何かあったんか。ワン・フォー・オール」
そう言えばまだかっちゃんに、明け方に個性が暴発してこよなく愛するお布団やラグがダメになったこと伝えてなかったな。ついでに新しいお布団届くまでかっちゃんの部屋で寝させてもらうつもりでいることも言わなくちゃ。ざっと事のあらましを伝えた。
「・・・暴発。ハッ!成長してんのか後退してんのかわかんねェな!いつになったらモノにすんだ?あ?てめーとやった時より強くなってんぞ俺ァ。俺と並ぶんだろォがよ」
「・・・それは焦る。あ、そうだ。暴発のせいでお布団もラグもダメになっちゃって・・・新しいの届くまでかっちゃんのベッドで一緒に寝てもいい?」
「代償払うならいいぞ」
「代償ってお金?」
「・・・・・・まァ、そんときに考える」
「??わかった。じゃ、今日からお世話になります」
第3セットが始まった。投獄数1-1の引き分けとなった。ただ気絶者多数につき、搬送ロボットに保健室へと皆運ばれて行った。
第四セットかっちゃんの番が来た。かっちゃんは私の頭をポンと叩いて、「俺のこと目ェかっぽじって見とけ」と言い残して行ってしまった。
「あー僕この第4セット楽しみだったんだよねぇぇ。なんたってあの取蔭がいるからねぇ〜〜!ねえ爆豪くん!!」
かっちゃんは華麗に物間くんを無視してる。物間くんの顔がホラーに近づいてる。これ以上怖い顔になったら、心霊的なアレ認定しちゃうよ。かっちゃん頑張って。心の中でエールを送る。
走り出したA組チームは、かっちゃんを先頭に着いていく。耳郎さんの個性でB組の出す音源を探るがそれは取蔭さんの罠だった。
耳郎さんが真っ先に狙われる。かっちゃんは耳郎さんを足蹴にしながら庇って鎌切くんにカウンター攻撃を繰り出した。
「決めてンだよ俺ァ!勝負は必ず完全勝利!4-0無傷!これが本当に強ェやつの"勝利"だろ!」
瞬き厳禁。あっという間にB組を二人確保。協調性皆無の暴君だったかっちゃんはもうここには居ない。完璧な連携を取れるチームとなっている。
「耳郎ちゃんたちも信用してるから任せられるんだ」
「ドラムが効いたな」
「バンドが効いた」
あと残るは取蔭さんと鎌切くんのみ。まずは鎌切くんを爆破式カタパルトで回転をかけながら攻撃し、すぐさま身体のパーツを戻している取蔭さんの位置を把握。ゼロ距離でのスタン・グレネードで瞬殺KOした。
「あんた変わりすぎなんだよー!!」
「・・・変わってねェよ。昔も今も俺の目標はオールマイトをも超えるNO1ヒーロー・・・そしてなまえを・・・」
わずか5分足らずで4-0の完全勝利。戻ってきたかっちゃんの元に駆け寄ると、進行方向上にいないのに「退けカス」と罵られた。え、なんで。
「俺ァ進んでんぞ」
「うん、凄かった!」
「てめーにゃ追いつけねェ速度でだ」
「並ぶよ!」
「うるせぇな。んな事言いに来たんか」
「ううん!本当にカッコ良かった!かっちゃんのことより一層好きになったよ」
「・・・・・・デカい声でそんなこと言うなバカ」
ポケットに手を突っ込んでかっちゃんは歩いて行ってしまった。後ろから見えた耳がほんのり赤くなってて、私の心までジンワリと熱を帯びた。
「いい幼馴染を持ったね、緑谷少女。あの悪口が玉に瑕だけどね」
「はい!悪口が目立っちゃうんですけど、本当は誰よりも優しいんです!」
「ハハハ、惚気られちゃったな」
「・・・ハッ!そ、そんなつもりは!あ、でも、かっちゃんは、本当に優しいんですよ」
「分かってるさ。さぁ行っておいで」
自分の陣営へ向かっていく。私が上から先行してワン・フォー・オールに異常がないか確かめる。
「とりあえず心操でいいんだよな。不安なってきた。洗脳されたくねーよ」
「あんまそこだけに捉われんよーにね。向こうは姿見せなくてもどっから来るかわかんない攻撃が揃っとるもん」
浮かす、溶かす、くっつける。三人は肩を落としてため息までついた。
「不利なんだよなぁ。待てないし、攻めれんし」
「やっぱオイラの"もぎもぎグレープ畑作戦"いこうぜ!」
「誰も引っ掛かんないよ。とにかく!先に見つけて罠にハメる!これね」
「その囮役に私がなるよ!」
早朝に暴発があったけど、ワン・フォー・オール問題なく使えそうだ。
「どう?何か"個性"がへんかもとか言ってたけど」
「うん、全然何ともないや。いつも通り!ただ・・・あの4セット目見せられたら向こうは私を警戒すると思う!いつも以上に動かなきゃ」
「大丈夫かよー。お前頼りだぜ?」
拳をぐっと握りしめた。
「大丈夫!絶対勝てる!」
「前はもっとキョドってたのになァ、緑谷。なんか寂しい」
「なまえちゃん逞しくなったもんね」
かっちゃんにあんな発破かけられて、負けてられないよ。スタートの合図とともに走り出した。建物を自由自在に動き回る。まず、私が目立つことで標的になる。一番スピードのある私をB組は無視できないハズ。B組に攻撃させて全員の居場所を割り出してから麗日さんたちと連携して捕らえる。
下方からドラム缶が飛んでくる。柳さんの個性、ポルターガイストだ。
「キャア」
麗日さんの悲鳴が聞こえて振り返ると、物間くんがこちらを覗き見ている。
「あれ?見つかっちゃったか。爆豪くんの活躍を見た後で君を警戒しないわけがない。君みたいな動けて強い人間を警戒する。クレバーな人間はそう考える。その一方でクレバーな人間はこうも考える。"さっきの彼の強さは他の3人によって引き出された"と。"先に潰すべきは3人だ“と。わざわざ目立って居場所を教えてくれたね。僕の仲間が早速3人を見つけたようだ。3対4だぜ?大丈夫かな?心操くんもいる。密なコミュニケーションは取れない。君はすぐにでも彼らの元へ駆けつけなきゃあ・・・いや待て。仮に今の悲鳴が心操くんの声だったら?まだバレてない3人の居場所を君が教えることになってしまうぞ。ハハハ困ったな」
「・・・・・・・・・」
物間くん、めちゃくちゃ喋るなぁ。洗脳をコピーしてるかもしれないから迂闊に返事できない。
「緑谷!!仲間の方を見向きもしないなんて薄情だな!」
視線で探るつもりでしょ。引っ掛かってあげないから。跳んだ勢いで足でスマッシュを決めようとしたけど、物間くんがかっちゃんの話をし始めてその足がとまる。
「心操くんとこんな話をしたよ。"恵まれた人間が世の中をブチ壊す"彼の友人なら教えてよ。爆豪くんさ!何故彼は平然と笑ってられるんだ?平和の象徴を終わらせた張本人がさァ!!」
かっちゃんのこと何も知らないくせに。かっちゃんがオールマイトを終わらせたって涙を流すほどに気にしているのを知らないくせに勝手なこと言うな!!腹の底が煮えくりかえる勢いで私の思考は怒りに染まっていく。
怒りに任せて物間くんへエアフォースを打とうと右手を構えたのだけど、いつもと感覚が違うことに気がついた。
「え」
右手から一気に黒い何かが溢れてきて抑えられない。こんなの初めてだ。ワン・フォー・オールの暴走?どうしよう、左手で押さえても止まらない。
「うううううう!!!あぁっ!!」
「まーた知らない力か。嫌になる!」
何で!何これ。さっきまで何ともなかったのに。
「物間くん逃げて!!あああああああああああ!!!」
周りの建物のパイプや壁に黒い何がが突き刺さり私を一気に引き寄せるかのように引っ張られ地面に叩きつけられた。激しく崩れた壁の近くに心操くんの姿が見えた。
「心、操くん・・・逃げて!力が抑えられないの。溢れる!」
腕が勝手に動いて力がとめどなく溢れている。黒い何かに引っ張られて空中に放り出された。痛くて痛くて腕が千切れそうだ。
「お願い止まってワン・フォー・オール!止まれ!止まれぇぇええええ!!!」
憧れの人から譲渡してもらえて、大怪我しながらわかんないことだらけで、それでもようやくモノになってきてこれからだってのに。もう誰にも心配させたくないのに。なんで。
止まれ!ワン・フォー・オール!
麗日さんが飛んできて私を抱きしめた。それでも暴走は止まらなくって。どうしよう。どうしよう!?
「なまえちゃん!落ち着け!!」
「止めっ、られない!!」
「心操くん!!洗脳を!!なまえちゃん止めてあげて!!!」
一瞬の間を置いて心操くんが叫んだ。
「緑谷ァ!!俺と戦おうぜ」
「くっ!ううう、う、うんっ!」
ビタッと力の暴走が止まった。黒い何かは私の右手の中に戻って行った。そして、私はまた夢の中へ。初代の記憶をみたあの場所だ。
「おっめェェなァアア!!!違うんだよ、違う!言ったさ!?確かに一人じゃないってさ。時満ちたさ!?発現したさ!?でもさ!?その力はもう、残念マシマシで使っていいモノじゃァなくなってる。頑張りなさいよ!!」
この人は歴代継承者の一人だ。
「頑張れよー!頑張れば大概どうにかなるさー!!」
この世界では私は口がなくて話せない。右手の自由がきくだけ。
「おォい、お口がないのか!ドンマイさ!」
こんなにハッキリと・・・これはもつ面影とかそういう類のものじゃない。夢でもない。この人は、継承者たちはワン・フォー・オールの中に生きている?
継承者が語り始めた。私が今出した力は、彼の"個性"なのだと言う。ワン・フォー・オールが成長しているらしい。何で?何が起こるわけ?
「お前ささっき、捕らえるか、掴む。そう思ったんじゃねェか?思ったなァ!?」
確かに物間くんを捕まえようと思った。その思いに適した"個性"が、発動したというのだ。彼の個性は黒鞭という名前で、ワン・フォー・オールに蓄積された力が上乗せされ先代の頃より大幅に強化されてるようだ。
「いいか?怒りのままに力を振るえば力は応える。肝心なのは心を制する事さ。怒るのは良い。怒りは力の源さ。なればこそ最も慎重にコントロールしてかねばならん。8人の人間を渡ってワン・フォー・オールは途轍もなく大きな力となった。いいか小娘。おまえにはこれから6つの"個性"が発現するさ。心を制して俺たちを使いこなせ」
継承者の姿が渦の中に消えていく。いや、私が渦の中に消えてるのかな。分かんないや。
「なまえちゃん!なまえちゃん!!大丈夫!?」
「麗日さ、ん。離れて危ないよ!!あ、あれ。個性が」
「心操くんの洗脳でおさまったんだよ。何ともない?」
麗日さんの顔には無数の傷が付いている。きっと私の個性の暴走のときに付けてしまったんだ。
「麗日さん、傷がっ!ああ、何てことを・・・ごめんね」
「ねえ!まだ終わってないんだけど!!」
背後から物間くんが飛びかかってきて、ほんの少し触れたけど直撃は免れた。だけど、畳み掛けるように柳さんの追撃がくる。いつのまにか同じ場所に全員集まっていて乱戦になっていく。
ワン・フォー・オールでまた皆を傷つけるわけにはいかない。頭がいっぱいいっぱいだ。
心操くんの捕縛布に引っ張られて下に落ちた。
「力負けした!?なまえちゃんが!?」
「また皆を危ない目に遭わすかもしれない。今この状況で"個性"は使えない」
「じゃあ一旦退こう!立て直そう!」
「退いたら負ける。心操くんが目の前にいる今が勝つチャンスだ!」
「でも、だってなまえちゃん。つまりそれ"無個性"で戦うってこと!?」
「ううん。麗日さん頼みがあるの。私を無重力にして!心操くんの懐に潜る!」
物間くんが私の個性をもらったと叫びながら襲いかかるが、麗日さんがガンヘッド・マーシャル・アーツで押さえ込む。
「なまえちゃんのパワーじゃない!ハッタリだ!行って!」
その隙に私は心操くんのいるところへ向かって壁を登る。捕縛布で物間くんを助けようとしてるとこに飛び込み、心操くんの変声機を吹っ飛ばした。これで声真似はできなくなった。
「体育祭ぶりだな。取っ組み合うのは!!」
「・・・」
「あの時の俺とは違うぞ!緑谷!!」
そう叫びながら捕縛布で周りの巨大なパイプを落下させてきた。この勢いじゃ避けきれない!
今朝と違って不思議と不安が晴れていた。あの継承者の持つ雰囲気、声色、色んなものがオールマイトにどことなく似ていたから・・・
心を制して使いこなす!!!
両手からあの黒い何かがでてきて、落ちてくるパイプを掴んでコントロールする。この黒いやつのことを"黒鞭"と継承者は呼んでいた。
力に対する恐怖はもうない。この力は私の味方。オールマイトに言ってもらった言葉や、オールマイトと過ごした海浜公園での時間。心を制すること、すなわち私の原点を思い出すこと。思い出すだけでいつだって何でもできる気がしてくるんだ。
「っトに、何なんだよおまえは!!さっきの大暴れはブラフかよ!?俺の気持ちを返してほしいね!」
心操くんは吹っ飛ばした変声機を拾い上げた。私の黒鞭は一瞬で消えて、内側から痺れるような痛みが生じた。伸びた個性に身体が伴っていないんだろう。瞬間最大出力20%で扱える力じゃない。体感でわかる。この力はもっと先にある力だ。完全にワン・フォー・オールを扱えるようになって初めて使える力だ。
心操くんは捕縛布を使って逃げていくのをただ眺めるわけにはいかない。かと言ってブレが出やすいエアフォースでまた暴発するのは怖い。8%でやるしかない。
逃げる心操くんを追いかける。もう少しで捕まえられるってときに、突然私の左頬に殴り飛ばされたかのような衝撃が発現した。
「!?」
さっき、物間くんに顔を攻撃されたときの・・・
庄田くんのツインインパクトをコピーしてたのか。だけど、こんなことで負けちゃいられないんだ。常に心に原点を。
飛んできた捕縛布を掴んで回転しながら手繰り寄せ心操くんを地面に押し倒した。心操くんは悔しそうだったけど笑っていた。心操くんを捕獲テープでぐるぐる巻きにして、あのファンシーな牢獄へと連れて行った。
「また、負けちまったな・・・緑谷強いな」
「心操くんだって強くなってた!」
「次こそ勝つ」
「うん!!また戦おう!あと、私を助けてくれてありがとう」
「・・・おう」
その間に皆、B組を確保して4-0で勝利した。
これにて5セット全て終了。
「第1セットA、第2セットB、第3セットドロー、第4セットA、第5セットA。よって今回の対抗戦!A組の勝利です!!」
「やったぁぁぁぁ!!!」
「いぇぇぇえええい!!!」
皆でハイタッチをして喜んだけど、私は麗日さんの怪我が気になって素直に喜べなかった。
相澤先生に名前を呼ばれた。
「えー、とりあえず緑谷。何なんだおまえ」
「すごく黒いのが顕現していたが・・・」
「新技にしちゃ、超パワーから逸脱してねぇか?」
「どういう原理?」
周りが騒ついている。私だって分からないよ。ワン・フォー・オールのことは詳しく話すことはできないし・・・言える範囲で正直に言うしかない。
「私にもまだハッキリわからないです・・・力が溢れて抑えられなかった。今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで私自身すごく恐かった。でも麗日さんと心操くんが止めてくれたおかげでそうじゃないってすぐに気付くことができました。心操くんが洗脳で意識を奪ってくれなかったらどうなるかわからなかった。心操くん"ブラフかよ"って言ってたけど、本当に訳分かんない状態だったんだ・・・二人ともありがとう!!」
麗日さんも心操くんも頷いてくれた。
ミッドナイト先生が、そういう青春ぽいの最高!と嬉しそうにしている。
心操くんは自分のことで精一杯だったと反省しているけど、私は心操くんが自分の得意な戦いに戻そうとしてたの分かったよ。パイプ落下での足止めも速かったし、移動の捕縛布の使い方なんて相澤先生みたいだったもん。
「誰かの為の強さで言うなら、私の方がダメダメだった」
「そうだな」
相澤先生は私の方を見て頷いた。
「これから改めて審査に入るが、恐らく、いや十中八九!心操は2年からヒーロー科に入ってくる。おまえら中途に張り合われてんじゃないぞ」
「おおーーーーー!どっちーーーーー!!?A?B?」
「その辺はおいおいだ。まだ講評続いてるぞ」
物間くんは私の個性が"スカ"だって言っている。スカって何だろ。そういえば、庄田くんのツインインパクトが発動したってことは私物間くんに触られてたんだよね、ワン・フォー・オールの力を器が受けきれないと四肢が爆散するって聞いてたから焦ったけど発動しなくて本当に良かった。
授業の後オールマイトに小声で放課後仮眠室に来るように言われた。仮眠室のドアをノックする。オールマイトが顔を出して招き入れてくれた。足を踏み入れると、ソファにかっちゃんが座っていた。あ、あれ!?かっちゃん!?驚きながら隣に座ると、かっちゃんはフンと鼻を鳴らした。
あったかい緑茶を飲みながら、さっきの授業で起こったことを二人に話した。継承者が話しかけてきたことや、黒鞭と呼んでいたこと。6つの個性が発動すると言われたこと。
「先代の"個性"ワン・フォー・オールそのものの成長・・・」
「いっつもここで話してたんか」
「うん。かっちゃんも来ててびっくりしちゃった」
「爆豪少年も秘密を共有する者としてね」
「オールマイトは知ってたんか。今回の事。黒い"個性"ん事」
オーマイトは首を横に振った。オールマイトの先代も歴代継承者の個性が備わっていた事は知らなかったらしい。
「じゃあ現状、なまえが初ってことだな。オイ、何かキッカケらしーキッカケあったんか」
「ううん、全く。ただ時は満ちたとだけ言ってた・・・何か外的な因果関係があるのかも」
「オール・フォー・ワンが関係してんじゃねえのか?ワン・フォー・オール元々あいつから派生して出来上がったんだろ?複数個性の所持。なるほどあいつとおんなじじゃねぇか」
「・・・・・・言いたくなかったことを・・・また、ああならぬようもっとその力を知る必要がある。夜にTDLで特訓しよう。夜7時に集合してくれ。爆豪少年もだ」
「ぁあ?なんで俺が」
「緑谷少女のことを大切に想ってるんだろ?」
「チッ!!わーったよ、行くよ」
かっちゃんは立ち上がってさっさと仮眠室から出ようとしている。私も慌てて立ち上がってオールマイトに一礼してかっちゃんをおいかけた。
「か、かっちゃん!」
「なんだよ」
「ありがとう」
「・・・なまえてめェ、後で覚えとけって言ったの忘れてねェだろうな?」
「え・・・?あーーう、うん」
「今の間、ぜってェ忘れてただろ!クソ!こっち来い」
私の手を掴んで社会科資料室とかかれた部屋のドアを開けようとする。こういう時に都合よく鍵が開いてる訳・・・って開いてるんかい!
資料室の中に押し込まれてかっちゃんが後ろでガチャリと鍵を閉めた。猫に追い込まれた鼠状態だ。
かっちゃんが腹をすかせた猛獣みたいに見えてきて後退った。
「逃げンな。なまえ」
「だ、だって・・・ひゃっ」
かっちゃんが私の首と腰に手を回して捕獲された。かっちゃんの唇がぶつかって何度も重ねられる。捕食するような獣みたいな目つきのまま貪るような激しいキスをされて私は立ってられなくてかっちゃんに身体を預けた。静かな部屋に響く水音に身体が熱くなる。最近キスしてたら体が火照ってもっとかっちゃんに触れたい、触れられたいっていう感覚が強くなる。だけど口にするのは恥ずかしくてずっと言えないでいる。
ようやく離されたと思ったら、私の怪我したところを労わるように、慈しむように優しく口づけを落としていく。かっちゃん・・・
「なまえは俺だけ見てりゃいんだよ。他の男のことなんか見ンな。あと触られンな」
「わ、私こういうことしたいって思うのかっちゃんだけだよ」
そう言ってかっちゃんの唇に触れるだけのキスをしたら、強く抱きしめられた。
しばらく二人だけの世界に閉じこもって好きを上書きしていった。