個性把握テスト



中学の卒業式の後は、かっちゃんに会うこともなくひたすらオールマイトの提案したトレーニングをして個性を使うイメージなどを教わった。高校の制服や教科書が送られてきて、ヒーロー科に入学したんだという実感が湧いてきた。

そしてついに迎えた高校生活の始まりの日の朝。私は寝坊した。

「なまえ、ティッシュ持った!?」
「うん」
「ハンカチも!?ハンカチは!?ケチーフ!」
「うん!!持ったよ!時間がないんだ急がないと!」

スニーカーを履いて玄関のドアを開けようとすると、また母に呼び止められる。

「なまえ!」
「なァにィ!」
「超カッコイイよ」

嬉しくて、すこし照れ臭くて頬が緩んだ。

「へへ!行ってきます!」

雄英高校は毎年倍率が300を越える。それもそのはず、2クラスしかないからだ。そんなところに私が入れたのはオールマイトのおかげだ。
学校が広すぎて迷子になりそう。1-Aと書かれたドアをようやく見つけた。できたらかっちゃんと、真面目眼鏡くんとは別のクラスがいいな。かっちゃんとはなんだか気まずいし、真面目眼鏡くんは普通に怖い。
ドアを恐る恐る開けると、すぐそこに2人がいて、盛大に言い合いをしていた。私の小さな願いはバキバキに打ち砕かれた。

真面目眼鏡くんは飯田天哉という名前で聡明中学出身らしい。
彼はドアから中を覗いている私に気づいて近づいてきた。

「あ・・・っと私緑谷。よろしく飯田くん」
「緑谷くん・・・君はあの実技試験の構造に気づいていたのだな。俺は気付けなかった・・・!!君を見誤っていたよ!悔しいが君の方が上手だったようだ!」

いや、私も気づいてなかったよ。かっちゃんが睨みつけているのを感じてできるだけ目線をそっちに向けないようにした。

試験の時の可愛い女の子が入ってきて、再会できたことを喜びあった。
無事に合格できたんだねと女の子が嬉しそうにしている。仲良くなれるといいな。

「今日って式とかガイダンスだけかな?先生ってどんな人だろうね。緊張するよね!」

首を縦に振って、同意を示す。
女の子と仲良くなれる気がして自己紹介しようと思ったが、後ろにいつの間にかシュラフに入って廊下に横たわっていた担任の先生により遮られた。プロヒーローなのかな。見たことないけど。相澤先生に、早速体操服に着替えてグラウンドに出ろと指示された。
個性把握テストをするらしい。個性を使った体力テスト。かっちゃんが指名されソフトボール投げをすることになった。
かっちゃんは球威に爆風を乗せて思いっきり投げた。死ねと叫びながら。
・・・死ね?
結果、705.2メートル。
個性を使えるのが嬉しいのだろう。みんなはしゃいでいるが私は笑えない状況だ。なんせまだワン・フォー・オールが使いこなせていない。どうしよう。
相澤先生はトータル成績最下位の者は見込みなしと判断して除籍処分とすると宣言した。
かなりマズイ!入学初日の大試練。

第一種目50メートル走。
第二種目握力。
第三種目立ち幅跳び。
第四種目反復横跳び。
第五種目ソフトボール投げ。
クラスメイト達が驚異的な記録を出す中、平凡な数字しかだせていない私はこのままじゃ最下位になる。ここで個性使わなきゃ、除籍処分は免がれない。
思いっきり個性使おうとしたけど、力がすっぽ抜けて46メートル。確かに個性使おうとしたはずなのにどうして。

「"個性"を消した」

布で隠れていたゴーグルを見つけて気がついた。相澤先生は、視ただけで人の"個性"を抹消する"個性"!抹消ヒーローイレイザーベッドだ。先生は目をギラつかせながら近づいてきた。目力強すぎる。こ、こわい。

「見たとこ"個性"を制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに救けてもらうつもりだったか?」
「そっそんなつもりじゃ」
「どういうつもりでも周りはそうせざるをえなくなるって話だ」

先生の話は確かに的を得ている。

「"個性"は戻した。ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

力の調整が私にはまだできない。このままもう一度全力で個性を使おうもんなら、イレイザーベッドの力で抹消されてしまうだけだ。それに相澤先生の言う通りだ。これまで通りじゃヒーローになんてなれやしない。私は人よりも何倍も頑張らないとダメなの!だからこの一投に全力で今私にできる全てを乗せる。
指先一本だけに集中して、ボールを吹き飛ばした。結果705.3メートル。
指一本がダメになったけどまだ動ける。入試の時の気を失うような痛みではない。大丈夫。泣きそうになるけどなんとか耐える。

「先生、まだ・・・動けます!」

かっちゃんが私の名前を呼びながらものすごい形相と勢いで走ってきたので仰反るように尻もちをついた。かっちゃんが相澤先生の捕縛武器に捕まって私に触れらずにいた。結果発表で最下位になれば私は雄英を去らないといけなくなる。せっかく入れたのにもう出ていかないと行けないなんてそんなの酷すぎる。結局私が最下位だったけど、相澤先生が私たちの最大限を引き出す合理的虚偽だったそうで除籍はなんとか免れた。

私が固まっていると、先生に保健室利用書を手渡された。リカバリーガールのとこで指治してもらわないと今後の授業に差し支える。
保健室でリカバリーガールによる治療を受けた。指は治ったけどなんだか一気に疲れに襲われて、すぐに動けそうにない。それに怖いことも言われた。大きな怪我をしまくると治せるけど体力奪われて逆に死ぬらしい。私が動けないのを見たリカバリーガールは保健室のベッドで休みなさいと言って寝かせてくれた。

動けるようになって、教室に戻りなさいと言われた。もう少しこのふかふかのベッドで寝ていたかったな。教室に戻りかっちゃんの横を通り過ぎようとした時、机をガンとかっちゃんが蹴ったのでその音に驚いてしまった。めちゃくちゃ不機嫌だ。触らぬかっちゃんに祟りなし!逃げるように自分の席に着いた。

それからカリキュラムの説明を受けて、長い初日の授業が全て終了した。

「つ、疲れた・・・!」

飯田くんに呼び止められて話していると、麗日さんも走ってきた。駅まで一緒に帰ろうと言ってくれた。飯田くんは、真面目なだけで怖い人じゃなさそうだ。麗日さんは天真爛漫で話しているとこっちまで明るくなれる気がした。太陽みたいな女の子だ。

「麗日お茶子です!えっと飯田天哉くんに緑谷なまえちゃんだよね!!」
「名前教えたっけ」
「え?だってテストの時爆豪って人が呼んでた」
「そうだっけ」
「なまえちゃんって呼んでいい?」
「うん!」

出来ないことだらけで頑張らなきゃいけないけど・・・
オールマイト、友だちが出来たことくらいは喜んでもいいですよね?

駅からの帰り道見慣れた後ろ姿。かっちゃんだ。気づかれないようにできるだけ距離をとって歩こう。コソコソと電柱の影に隠れながら歩く姿は探偵さながら。バレるはずない。

「おいてめェ!バレバレなんだよ!」

ものの数十秒でバレた。顔から火が出るほど恥ずかしい。探偵とかいってすみませんでした。
かっちゃんにガシっと首根っこを引っ張られ引きずられる。これかなり苦しい。
しばらく引きずられて、かっちゃんの家に押し込まれた。お家には誰も居ないみたい。2階へと追いやられると、またかっちゃんの部屋に放り込まれた。

「か、かっちゃん?」
「てめェ、ずっと"個性"あるの黙ってたのかよ・・・?俺を騙してたんか!?」
「ち、ちがっ」

かっちゃんが近づいてくるので、後退る。後ろはベッドでもう逃げ場がない。かっちゃんのベッドにぽすんと座る形になってしまう。

「許さねェ。なまえのくせに」

かっちゃんが覆い被さってきて、組み敷かれてる。この状況を誰か説明してくませんか、本当に。かっちゃんの目が怒り狂っていて、めちゃくちゃ怖い。それに顔が近すぎる。今すぐに気を失いたい。ギリギリと私の腕を掴む手に力が入っていく。

「う、痛いっ!」
「あたりめェだ、痛くしてんだよ馬鹿!」

気がついたら制服のブレザーのボタン外されて、ネクタイもシュルリと音を立てて外された。恐怖と痛みで涙が出てきた。

「ネクタイもまともに結べないような奴が"個性"だと!?はっ、笑わせるぜ」

顔を横に向けてできるだけかっちゃん見ないようにした。かっちゃんの怒りが収まるまで耐えるしかないの?いや、違う。私は悪いことなんて何にもしてないもん。これじゃ以前までの私と同じじゃないか。

「かっちゃん、やめて。怖いよぉ」

かっちゃんの目を真っ直ぐに見つめた。声は少し震えちゃったけど、かっちゃんの手の力が緩んだ。かっちゃんには"個性"は使わない。ちゃんと言葉で伝えるんだ。
かっちゃんの顔が近づいてきて、額に頭突きされて解放された。痛い。
私から離れてベッドに腰掛けるかっちゃんの顔を覗き込む。後悔してるような、怒ってるような何とも言えない不思議な顔をしてる。

「あ、あの私帰るね?」
「・・・」
「また明日学校で」
「おい、明日の朝7時半にここに来い」
「へ?な、なんで!?」
「うるせェなんでもいいから7時半に来い」

謎の約束を取り付けられて、私はよく分からないままに首を縦に振った。振り返らないで、かっちゃんの部屋をそっと出た。
お邪魔しましたという私の声は静かな家の中に溶けて消えていった。



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