お布団がなくなりました
はっきり言って私は朝が苦手だ。寒さが増すとともに、私の寝坊率も比例して上がっていく。今日だって、まだ寝ていたいって思ったけどスマホのアラームがそれを許してくれなくてしぶしぶ眠たさの残る身体を布団から引き剥がした。キリキリとした寒さの中、ストーブをつけてその前を陣取って毛布に包まる。かっちゃんがこの光景をみたら"イモ虫"って言うだろうな。もぞもぞと毛布の中で体操服に着替える。これからオールマイトと個性の特訓なのだ。
先日のヒーロービルボードチャートJP下半期の発表。未だオールマイトという平和の象徴、アイコニックな存在が不在のまま行われた。珍しくランキング上位のヒーロー達が壇上に上がり意気込みを語っていた。万年二位という辛酸を舐めてきたエンデヴァーはようやく一位に。体育祭で会った時のエンデヴァーは炎を纏っているのに随分と冷酷な人だと思った。轟くんに執着しているのはずっと一位になりたくて、オールマイトを越える子どもを育て上げたかったからだ。だけど、轟くんが父親へ心を開いてからはちょっと見る目が変わってきた。なんだかんだエンデヴァーはただの親バカなのかもって。
壇上に上がったエンデヴァーの言葉は、すごく短い一言だったけど内に秘められた激情が見て取れた。
"俺を見ていてくれ"
かっこいい。率直にそう思った。私が体育祭の頃の私のままじゃないように、彼もあの時の彼のままではないのだろう。
ヒーロービルボードチャートJPの発表の数日後、福岡にいたエンデヴァーとNO2ヒーローのホークスが脳無の奇襲に遭って応戦していた。脳無はなんとかエンデヴァーが撃破したけれど、荼毘もその後に現れた。NO5ヒーロー・ミルコも応援に跳んできたので勝ち目はないと思ったのか、荼毘はそのまま消えてしまった。
街への被害は神野と同等もしくは以上だったけど、死者はゼロ。テレビ中継で見守っていた、轟くんをはじめその場にいたA組の皆は安心してため息をついた。はやく私はワン・フォー・オール100%に耐えられる身体を作らないと・・・
こんなことが頻発していてはいつ死者が出てもおかしくないはずだ。オールマイトの跡を継ぐ者として、私がオール・フォー・ワンの目論見を止めなくては。
そんな大事件があってからまだ数日。今日この後オールマイトに会ったら、きっとその話題になるだろうな。そんなことを思いながらモゾモゾと毛布の中で大人しくしてたらアラームが鳴って訓練に行く時間だと知らせる。行かなくては。毛布から出たがらない身体に鞭を打ってなんとか立ち上がる。
オールマイトとの特訓が終わって、寮に戻ると食堂でかっちゃんは朝ごはんを食べていた。私もその隣に座って朝食を食べ始める。
「かっちゃん、おはよぉ」
「アホ面してんぞ」
「かっちゃんは相変わらず朝強いね」
「てめェが弱すぎなんだよ」
コテンとかっちゃんの肩に寄りかかると、かっちゃんの箸が止まってカチカチに固まった。皆の居るところでかっちゃんに触れると必ずと言っていいほどこうなる。
かっちゃんの向かいに座る切島くんと上鳴くんが何か言ってるけど、もう私は二度寝モードなので何も聞こえない。かっちゃんが何か怒鳴ってるけど、もうそれすらも子守唄。かっちゃんは私が食べ終わるのを待ってくれた。制服に着替えて一緒に学校に向かった。
「ねーねー!皆!もうすぐクリスマスじゃない?それで考えたんだけど、プレゼント交換会しない!?」
葉隠さんがピョンピョン飛び跳ねながらそう言った。
「おー!いいな!楽しそうじゃん」
「それ良い考えだな!!女子からのプレゼントとか良い匂いすんだろうなぁぁぁあ!うっひょぉ!楽しみだぜぇぇぇ!」
「聖なる夜、キリストの生誕祭・・・」
「プレゼントの予算はいくらまでだ?偏りのないように決めた方がいいだろう!学級委員として公正な交換会になるように司会進行させてもらう!」
「飯田くん、相変わらず真面目だね」
そう言って自分の席に荷物を置きながら笑うと、飯田くんがロボットみたいな動きでビシッと敬礼した。
芦戸さんと麗日さんが近寄って来て私の肩に腕を回してきて教室の隅へと連行された。二人の顔はニヤニヤしている。なんか嫌な予感。
「な、何・・・?どうしたの??」
「なまえちゃん、爆豪サンタに何おねだりするのー?」
「え、かっちゃん、サンタさんだったの!?」
「そうじゃなくて、爆豪とうまくいったんでしょ?」
「え、え!?え!!な、なんで!?知って・・・!?ええええ??」
「そりゃさー、なまえちゃんを見るときの爆豪の優しい目!それに爆豪に素直に甘えるようになったなまえちゃんのこと見てりゃ分かるよ。雰囲気がさ、こう丸くなったというか、甘くなったというか。爆豪ついに好きって言ったんだね!!良かったじゃん!!」
「え、待って!な、な、な、なんでそれを!?芦戸さん、エスパーなの?」
「相談してたやん、なまえちゃん」
「あ、あれは私のトモダチの話だって言ったのに・・・」
「バレバレやで」
麗日さんまで気づいてたなんて・・・嘘でしょ?
「なまえちゃんは爆豪から何貰いたいの?」
「え、そんな・・・もう髪につけるリボン貰ったし欲しいものなんて・・・」
そう言って頭につけた黒いリボンに手を添えた。かっちゃんにもらったリボンが揺れる。きっと今私、真っ赤でとても見れたもんじゃない顔になってる・・・
「なまえちゃん可愛いなぁ!もう!ほらほら!指輪とかネックレスとか欲しくないの?」
「欲しくないわけじゃないけど、私たちまだ学生だしそんな高価な物は・・・」
「健気やなぁなまえちゃんは!爆豪くんはなまえちゃんのためなら、指輪でもネックレスでも何でも買うと思うんやけどな。おっと噂をすればご本人登場〜!」
「え、うそ」
かっちゃんがポケットに手を入れて私たちの所へドスドス歩いてきた。もしかして話聞こえてたのかな。なんだか不機嫌だ。
「おいコラ。なまえ再来週は仮免補講もねェ。外出許可もらって出かけるから予定空けとけ」
「う、うん」
それだけ言うとかっちゃんは席に戻って行った。芦戸さんと麗日さんがキャーキャー黄色い声をあげて私に抱きついてきた。
「あれってデートのお誘いだよね!良かったねなまえちゃん」
「え、でも外出許可貰っても先生がついてくるんでしょ?」
「それでもデートみたいなもんじゃん!」
「そ、そうなの?」
それからの授業は座学の後に基礎体力訓練をして個性応用訓練をしたのだけど、かっちゃんとのデート、と言っていいのか分からないけどお出かけのことで頭がいっぱいで、気もそぞろだった。集中力を欠いて基礎体力訓練ではミスを連発してしまった。そのせいで怪我もした。保健室の常連の私をリカバリーガールは「あんた、またこんな怪我して。本当にどうしようもない子だね。ペッツ食べるかい?」なんて小言を言いながらも治療してくれた。お世話になりすぎてて頭が上がらない。
怪我が治ってから、また授業に復帰し放課後も個性の特訓をしていた。本当に今日はヘトヘトだ。疲れ果てて、風呂も入らずに体操服のままベッドにダイブした。そのまま私は倒れるように寝てしまった。
夢を見た。隣には綺麗で精悍な顔つきの女性がいて、その奥にも知らない人たちが。あれは・・・これは前にも見たことがある。いや前よりもずっと明瞭だ。ワン・フォー・オールの面影。
ここに並んでるのは、7人。私を含めると8人。歴代のワン・フォー・オールの継承者。私は9代目。残る一人はそこに居る人なのか。
声が聞こえてくる。神野で聞いたオール・フォー・ワンの声だ。「弟よ」と語りかけている。つまりあの人が初代か。
私は喋れなくて右手の自由だけが利く状態。二人は私に気付くことなく話し続けている。過去が再現されてるのかな。夢だし。
オール・フォー・ワンが個性を移動させる様を目の当たりにする。記憶が再現されていき、とうとうワン・フォー・オールが誕生する場面へと差し掛かった。
オール・フォー・ワンに向かって嫌だと叫ぶ初代。黙って見てられなくて私は手を伸ばした。
ブアッと強い風が巻き起こって、記憶の再現は終わった。
「君が9人目だね・・・」
初代が優しい声で話しかけてきた。オールマイトの話では、ワン・フォー・オールの面影には意思はなくどうこうは介在せず、双方干渉できるものではないと言っていたはず。
「もう少し見せたかったけど、まだなんとか20%なんだね。気をつけて特異点はとうに過ぎてる。でも大丈夫。君は一人じゃない」
初代の手がこちらに伸ばされて私の手と触れ合った瞬間に目が覚めた。
気がついたら私は個性を発動していたみたいで、部屋がめちゃくちゃになっていた。私の愛するふかふかの布団やラグが焼け焦げているし、机の上のものは散らばっているし、椅子もひっくり返ってる。しばらく動けず自分の右手を見つめていた。
結局そのまま寝るのが怖くなって、部屋の掃除をした。ダメになってしまった布団やラグを丸めて紐で縛った。
ごめんね、お布団ちゃん。
新しい布団が届くまでしばらくかっちゃんの部屋で寝させて貰おう。片付け終わる頃には太陽が姿を見せはじめていた。お風呂も入らずに寝てしまってたので、ランニングしてからシャワーを浴びに一階へ降りることに。蛇口を捻り熱い湯を頭から浴びる。
夢なはずなのにやけにリアルな感触だったな。手と手が重なるその瞬間。夢の終わり。私を見つめる先代たちの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
昼休みにオールマイトにそのことを話した。
「初代の記憶・・・!見たか・・・!」
「はい。あれはオール・フォー・ワンの記憶でもありました。"ワン・フォー・オールの面影"オールマイトも若い時に見たんですよね?」
「ああ。その後お師匠・・・私の先代から"面影"の存在を教わった。君に成り立ちを伝えられたのも見たからこそさ」
「私が見たのは"与えられた"ところまでで・・・その後初代が私に話しかけてきました。まだ20%かって。特異点がどうこうって。オールマイトは体育祭の時そこに意思はないって言ってたけれどそうは思えなかったです」
「私は経験しなかったし、お師匠にもそう教えられた。私の知る限りじゃ君だけに起きた現象だ。ただ・・・・・・・・・」
オールマイトはそれっきり黙り込んで何か思案している。
「あの、オールマイト・・・??」
「はっ!!」
オールマイトは私が呼ぶと意識がこちらに戻ってきたようで慌てて吐血している。ハンカチを差し出すと受け取ってくれた。
「暴発して目が覚めたと言ったね?怪我は?」
「してなかったです」
「それは良かった。現状わかるのは私にも分からない事態が起きた・・・という事のみだ。"特異点"とは個性の特異点の話なのか、この事態君に因るものなのか、外的要因によるものなのか・・・他には何か?」
「あとは二人だけ見えなくて・・・オールマイトもボヤーっとしてました。オールマイトは比較的まだ新しいからって事なんでしょうか?」
「私も詳しくはわからない・・・ごめんな。でもその力は絶対に君の味方だよ。これから共に探っていこう」
「・・・がんばります!あ・・・あとそうだ。オールマイトのお師匠キレイな人でした」
「だろ」
そう言ってオールマイトはニッコリ笑って私の背中を押した。仮眠室から一緒に出て廊下を歩いてると、相澤先生と心操くんに出くわした。
「おお、お二人さん。相変わらず仲のよろしいことで」
「相澤くん!違うんだこれは!緑谷少女はいわば娘のような存在で、一生徒として大事に育てていかねばと思ってるんだ!!決してやましい気持ちなど持ち合わせていない」
「何言ってんすか。そんなのわかってますよ。冗談っスよ。そんなムキにならないでくださいよ。サムイ」
喋ってる先生達をよそに私は心操くんに手を振って話しかけた。
「心操くん!久しぶり!たしか前にも相澤先生と一緒にいたよね」
「まァね」
心操くんはニヤリと笑って頭をかいた。なんだか体育祭のときより体格が良くなってる気がした。成長期の男の子ってすごいな。私だってまだ身長伸びてるんだからね。負けられない。
「心操くん、なんか強くなったんじゃない?」
「それ俺に聞くかよ」
「また闘いたいね!あ、今度一緒に特訓しようよ!」
「相変わらず警戒心ゼロだな、お前。ちったァ警戒しろって。そんなこと言ってたら本当に俺に足元すくわれるぞ」
「なんで、心操くんを警戒しないといけないの?」
「・・・俺の個性忘れたのかよ」
「忘れてないよ?」
「・・・」
心操くんは呆れた顔して何も言わなくなった。え、なんで・・・何か変なこと言ったかな。
「緑谷。早めにアップ済ましとけよ。今日は忙しいぞ」
「・・・??はーい」
「じゃあまたな緑谷」
「ではまた午後の演習で会おう緑谷少女!」
心操くんと相澤先生はさっさと歩いて行ってしまった。その後を置いてかないでって叫びながらオールマイトが追いかけて行く。相澤先生の言葉、なんだか意味深だったな。
私一人がその場に取り残された。私もそろそろいかないと。ワン・フォー・オールの面影を見てから寝れなかったから少し寝不足気味だ。このままのんびりしてたら授業に遅れてしまう。
そう自分に言い聞かせて重たい足を前へと出し歩きはじめた。