文化祭は花に嵐
初めて文化祭開催を知らされてから1ヶ月と少し。私は文化祭準備のかたわら、ワンフォーオールの特訓に明け暮れていた。毎日ヘトヘトになっていて、かっちゃんの部屋にお邪魔しても、すぐに寝落ちしてしまってまともにコミュニケーションを取れていなかった。だけど毎日の疲れは嫌な物ではなくて何だか心地良い。
何度かリハーサルで衣装を着て踊ったのだが、衣装姿でかっちゃんの元に行くと全然視線を合わせてくれなくて最初は戸惑った。上鳴くんがこっそりとかっちゃんは私の衣装姿が可愛くて直視できないんだって教えてくれた。本当にそうだろうか。そうなら良いんだけど。
かっちゃんの一挙一動で心が浮き沈みするのは惚れた弱みか・・・
とうとう明日は文化祭当日。本番だと思って臨めと芦戸さんに言い続けられた通し稽古も今日で最後。
「ツートントン、ツートントン!パッ!で、青山中央、なまえちゃんハケる」
「ウィ!」
「ラジャ!」
「なまえちゃん動きまだヌルいからグッ!!グッ!!意識!!」
「ラジャ!!こう?」
「そうそう!それをキープして!!そんでなまえちゃんはソデからすぐに天井に行ってそんで青山をセットして、ロープで吊り上げる」
青山くんが天井から吊るされて、クルクルと回っていたら、ハウンドドッグ先生が扉を壊す勢いで入ってきて、21時だからと追い出された。これであとはもう、寝て起きたら待ちに待った文化祭が開催される。
寮に戻ってから、私は青山くんと道具の点検をしていた。耳郎さんと飯田くんの会話が聞こえてきて、“恥ずかしがったり、おっかなびっくりやんのが一番良くない。舞台に上がったらもう後は楽しむ!“という言葉は色んなことに通じるなと思った。
「誰が為を考えると結局己が為に行き着くのさ」
「なるほど・・・あっ!ロープほつれてる」
「ワオ!ずっと練習で酷使してたもんね。僕らの友情の証じゃないか!!」
「うん・・・いや危ないよこれ。ごめんね気づかなくて」
「八百万につくって貰えば?」
上鳴くんが八百万さんのモノマネをしながら提案してきた。だけど、八百万さんに頼ってばかりじゃ迷惑だし、買いたいものもある。
「私明日、朝イチで買ってくるよ。朝練もあるしついでに買いたいものがあるの」
「いやいや俺ら10時からだぞ。店ってだいたい9時からじゃん」
「雄英から15分くらいのとこにあるホームセンター。あそこなら朝8時からやってるんだよ」
「けっこーギリギリじゃん。緑谷迷子になったりしねぇか?」
「なまえちゃん、明日くらいはヤオモモに頼んでも良いんじゃない?」
「大丈夫!寄り道せずに真っ直ぐ帰ってくるから」
みんなに寄ってたかって心配された。何でだろ。
「そろそろガチで寝なきゃ」
「そんじゃ・・・また明日やると思うけど・・・夜更かし組!一足お先に。絶対成功させるぞ!!」
「「オーーーーーー!!」」
そして迎えた文化祭当日。AM6:30。もはや日課になっていた緑化地区でのオールマイトとの特訓。この特訓で、インパクト時に20%の力を引き出せるようになれば、かなり攻撃力が増す。だから、何としてもモノにしなくてはならない。木陰から発目さんが突如現れて、びっくりした私はコントロールがブレてもう少しでオールマイトの髪を散切りにしてしまうところだった。
「やはり居ましたね、緑谷さん!!!」
「発目さん!!黒っ!!」
「フフフ・・・隈と垢です。当日でも変わらずやっていると思っていましたよ。例のブツ!使えるようになったのでお渡ししにきました」
「うわああ!すごい、かっこいい!ありがとう!!文化祭が終わってからでよかったのに」
「終わったら36時間寝るので!!デザインもコスの趣を崩さないようにしてるんですよ!クライアントの希望には一発で応えるのがデキるデザイナー!」
「嬉しい!本当にありがとう発目さん!」
これで“やりたい事“がやれる・・・発目さんは私に新しくなったグローブと取り扱い説明書を押し付けて、さっさと帰ってしまった。さっそく着けて試し打ちしてみる。私がしたかったこと。それは風圧に指向性を持たせるということ。これができれば市街地で対敵したときに街への被害を減らしつつ敵を倒すことができるだろうから早い段階でこのグローブに慣れておきたい。さっそく試してみることに。だけど慣れるのに手間取って、時間ギリギリになってしまった。
AM7:50。ロープはコンビニには売ってなくて、結局ホームセンターまで走った。ロープとは別に買おうと思っていたものも買えたし後は戻るだけ。急がなきゃ、皆心配してるから。
草が生い茂った一軒家からサングラスマスク、ロングコートを着けた男女が出てきてぶつかりそうになった。
「気をつけたまえよ」
「すみません!」
「ゴールドティップスインペリアルの余韻が損なわれるとこだったじゃァないか。さァ行こうラ・・・ハニー」
「ハニー!!?ええ、私はハニー!!!」
ゴールド・・・あ、八百万さんが淹れてくれた幻の紅茶!
「へぇ・・・あの家喫茶店か何かなのかな。わかんないや」
「ゴールドティップスインペリアルが"何か"を知らなければその発想には至らぬワケだが・・・君わかる人間かね!幼いのに素晴らしい!」
「いや、私はそんなに・・・友達が淹れてくれたから知ってただけで」
なんかこの人聞き覚えのある声だ。どこで・・・あ、まさか。
「ホホウ、そんな高貴な友が・・・良い友人を持ってるね」
「はい、人には恵まれて・・・」
やっぱりこの声。そして紅茶。嘘でしょ。踵を返して立ち去ろうとする男女を引き止めるため声をかけた。
「待ってください!ルーティーンってやつですか?」
ピリッとした空気になり、その問いにとぼけるけどもう手遅れだ。あの迷惑動画の敵だと確信した。たしか、ジェントル・クリミナル。
「動画見ました」
「・・・ラブラバ、カメラを回せ」
「雄英に手ェ出すな!!
頭によぎったのは、"警報が鳴れば即中止"といったミッドナイト先生の言葉。文化祭、良いものにしようと頑張る者、笑顔を知らない少女のために準備する者、最後のミスコンで有終の美を飾るため励む者。色んな人たちが頑張ってるんだ。それを邪魔させるわけにはいかない。
ここで戦闘すること自体、バレたら中止になるかもしれないが、食い止めてこの人たちが諦めて"穏便に"去ってくれれば・・・
A組の出し物まで1時間28分。時間がない。とっとっとケリをつけて戻らなくちゃ。
「察しの良い少女だ」
土曜日の朝、人通りはナシ。雄英の近辺にはヒーロー事務所は無い。加勢には期待できない。お店の人に通報してもらえば・・・警察がきて文化祭は即中止になるだろう。私一人でやる!
ワン・フォー・オールを身体中に巡らせる。ジェントルはオープニングを撮影し始めた。
「"雄英!!入ってみた!!"」
俗っぽ。そんなことさせない!
走り出そうとしたけど、薄い膜に阻まれて前に進めない。ジェントルの個性だ。
「暴力的解決は好みじゃない」
そういう割にものすごい暴力的なんですけど!?弾き飛ばされて、地面に転がった。申し訳ないと言いながら学校へと向かうジェントルを追いかける。
「謝るなら学校に手を出さないでよ!」
「そいつは出来ぬ相談!ジェントリートランポリン!」
地面が弾力を持ち、トランポリンのようになってまた弾き飛ばされ宙に放り出される。
「学生の頃は私も行事に勤しんだよ。君も懸ける想いがあるのだろうが、私のこのヒゲと魂には及びはしまい。この案件は伝説への大いなる一歩。邪魔はしないでもらいたい!さらば!!青春の煌めきよ!!」
二人は軽々と私を飛び越えて空を飛んでいく。私の文化祭に懸ける想い。それはエリちゃんの笑顔を見たいと願っているみんなの想いが私を突き動かす。ここで負けて侵入を許すわけにはいかない。
「ジェントル・クリミナル!!」
ここで、芦戸さんの言葉を思い出した。“動きの中で一瞬グッと意識する“そう言っていた。
この指一本に集中!
デラウェアスマッシュ エアフォース!!
放たれた風圧によってジェントルの体勢が崩れた。
「っしゃあ!!出来た!!」
「空気砲だとォ!!?しかし止めるに如かず!私はめげない!!」
「懸ける想いは皆同じだ!」
「そいつは失敬」
建設中の工事現場に私とジェントルは吹っ飛んでいった。ダンスの特訓がここで活きた。ありがとう芦戸さん。辺りは土煙が舞い上がってジェントルの姿が見えない。声が聞こえてきて振り返ると、鉄骨に服が引っかかって宙吊りになっているジェントルがいた。ぶらぶら揺れて今にも落ちそうだ。それなのに強気な態度で逆にすごいなって思った。諦める気は毛頭ないようだ。狙いは何なの。
「雄英にちょっかいかける気なんでしょ!何するつもり?」
「いや、本当敵連合のような輩と一緒くたに考えないでいただきたい。攫ったり刺したりしようなどとは考えちゃいないのだ。ただ私は君たちの文化祭に侵入するという企画をやりたいだけ・・・見逃したまえ少女」
見逃すなんてできるわけないでしょ。
「警戒体制で臨んでるのよ。侵入する前にあなたみたいな人が見つかった時点で、警報は鳴らされる。文化祭は中止になって逃げ場はなくなる。諦めてよ!」
「それならば心配ない。我が相棒が警報のセンサーを無効化する算段だ。中止にもならないし、私たちも企画成功。ウィンウィンの関係じゃァないか!」
「そんなのもっと大問題でしょ!」
「確かに!!・・・それがまさに私の企画。面倒なことになる前にそろそろ向かいたいのだが」
「もう通報してある!ヒーロー、警察が到着するまで私が足止めする!!」
お願いだから諦めてよ。それでもジェントルは諦める気配はない。相手の動きを予測して・・・出来ない。空気の幕で自分のうった空気砲が跳ね返ってくる。ジェントルは鉄骨のボルトを外して、さらに下にいるおじいさんのところへ鉄骨を落とそうとしている。私が鉄骨の下に潜り込んで支えるが、重たくて動きが止まってしまう。そうこうしている間にジェントルに逃げられでもしたらかなりやばい状況だ。工事現場の重機に個性を発動させて反動でまた移動しようとしている。私は鉄骨を片手で支えて、右手でエアーフォースを撃った。鉄骨を人のいない場所へと落とした。見えないけどジェントルの個性の痕跡は残っている。人来ても異常に気がつくようにボルトを空気の膜の上にそっとのせておいた。
重機で私も後を追った。女の子とジェントルを押さえて諦めるように説得する。
「警察に引き渡します。これからすぐに」
「愛してるわ」
「ありがとうラブラバ」
女の子が愛の言葉を囁いた途端にジェントルの力が増していき、押さえていたはずなのに起き上がって私の体を蹴った。
「力づくで解決するのは好みじゃないから・・・こいうところはいつもカットしているんだ。しばらく眠っていてくれたまえ」
「ごめんね緑谷なまえちゃん。必ず最後に愛は勝つのよ」
手刀が首に振り下ろされるが腕で防いだ。
「もっと・・・強くて速い人と、たくさん戦ってきた・・・まだ負けてないから!!」
後ろ手でエアフォースで撃ったらジェントルは吹っ飛んでいく。それを追いかけていく。
「頼むから止まって!!」
「ジェントルごめんなさい、ごめんなさい!愛が足りなかった!!」
「君の想いが足りないなど誰が証明できよう!ジェントリーサンドイッチ!」
何層にも重なった空気の膜で地面に抑え込まれる。
「歴史に!後世に名を残す!この先いつも誰かが私の生き様に想いを馳せ憧憬する。この夢もはや私一人のモノではない。今日は偉業への第一歩。諦めろと言われて諦められる程軽くはない!君も雄英生なら夢に焦がれるこの想いおわかりいただけよう」
「なんで・・・そこまでわかってて何で文化祭なのよ!!何で雄英の想いを踏みにじれるの!!夢の為なら人の頑張りも、そこに懸ける情熱も!笑い方を知らない女の子の笑顔も奪えるの??」
「それが夢を叶えるということだ。芯が無いと嘲笑うがいい。それでも結構!私は!」
そう言って殴りかかるジェントルの手を受け止めた。
「笑わないよ、ジェントル・クリミナル」
あの女の子の個性が強くなっていってるのか、ジェントルの力が増していく。段々と圧されていくが踏ん張って耐える。耐えるだけじゃダメだ。押し返さないと。
「君は何のためにヒーローを志す」
「同じだよジェントル。私だけの夢じゃない。身の丈に合わない夢を心の底で諦めてしまった夢を笑わないでいてくれた!認めてくれた皆に応えたい!辛い思いをしてきた人に明るい未来を示せる人間になりたい!!」
力勝負は私が勝った。押し返すと、ジェントルは後方の木にぶつかった。
「まだこれまで戦ってきた方々には及ばんかね!?恥も外聞も流儀も捨てて君を断つ!」
全力でぶつかってくるジェントルに、私も全力を出す。20%のワン・フォー・オールだ。シュートスタイルで蹴ると気を失ってジェントルは地面に伏せた。ジェントルの身体を押さえつけて、すぐに覚醒したジェントルが雄英へ近づけないようにした。どこかへ走って行った女の子が戻ってきて、泣きながら私をポカポカと殴った。
「ジェントルが心に決めた企画なの!大好きなティーブレイクも忘れて準備してきたの!放せ!何が明るい未来よ!私の光はジェントルだけよ!!ジェントルが私の全てよ。ジェントルを奪わないでよ!!ジェントルと離れるくらいなら死ぬ!!」
ああ、この子は心の底から彼を愛してるんだ。ジェントルが私を飛ばした。そして空気の膜に弾かれ、少し離れた場所に飛ばされた。
「そのまま失せたまえ。緑谷なまえ。彼女の為に彼女の明るい未来の為に」
「ジェントル・クリミナル!!」
ハウンドドッグ先生とエクスプラズム先生が現れて、ジェントルは女の子を抱きしめたまま動いていない。それにそのまま失せろという言葉。ジェントルのやらんとしている事が何となくわかった。私はジェントルたちの元に戻った。
ハウンドドッグ先生が私の姿を見て睨むようにして唸り声のように問いただす。
「戦ったのか」
「・・・雄英にいたずらしようとしてるのがわかって少し揉めました。けれど、もう大丈夫です」
「・・・」
女の子は大声で泣き叫んでいる。エクスプラズム先生の持っている無線に連絡が入って、それに答えるハウンドドッグ先生は口輪を嵌めているのに牙が剥き出しになっている。
「現時点で緊急性はない。引き続き警戒を続けます。・・・詳しいことは警察署で話せ」
ハウンドドッグ先生に連行されるジェントルが口を開いた。
「私もかつてはヒーロー科にいた。“ジェントル・クリミナル“はヒーロー落伍の成れの果てだ。とても言えた義理ではないが君の想い届くといいな」
「・・・」
私とエクスプラズム先生が現場に取り残された。先生にオールマイトが心配していると言われて、気が付いた。買った荷物を置いてきてしまった。先生も一緒についてきてくれて、何とか時間ギリギリで学校に戻れた。先生にまだ間に合うから傷を治せと言われて、リカバリーガールの元に駆け込んだ。
戻った時にはもう、舞台に上がる直前で、クラス皆から怒られた。そして、麗日さんに抱きしめられた。
「麗日さんごめんね。心配かけて」
「なまえちゃん、お説教は後や。今は一生懸命できることをしよ!」
「うんっ!」
AM10:00。いよいよ始まる。深く息を吸い込んで、緊張とともにゆっくり吐き出す。
どうかエリちゃんに届きますように。私は君の笑顔が見たいんだ!
「いくぞコラァァアア!!」
かっちゃんの爆発を合図に音楽が始まる。
「よろしくお願いしまァス!!!!!!」
私と青山くんのパートも息ぴったり合わせる事ができた。私たちの見せ場の青山くんのレーザーミラーボール!青山くんをブンと天井に向かって投げ飛ばした。眩い光を放ち、会場がざわめいた。私は出番が終わって舞台袖にハケた。その時先輩の肩に乗ったエリちゃんが、見えて親指を突き立て合図した。
そしていよいよやってきたサビのメロディ。かっちゃんが練習で言ってたんだ。ここで全員ブッ殺せって。殺すのはちょっとアレだけど、音楽やダンス、演出で楽しいって思って欲しい。笑顔になってほしい。
青山くんを会場に行き渡らせる為に、ロープを持って私は天井の梁を駆け巡った。
麗日さんがハイタッチした人がゼログラビティで会場をふわふわと浮かんでいる。もちろん安全に配慮して、瀬呂くんのテープで固定している。会場にダイヤモンドダストも舞っているし、上鳴くんは空中でギターをかき鳴らす。峰田くんのハーレムパートにキャーと笑い声が上がる。
大喝采の中A組皆やりきった。大成功だよ!私は青山くんとハイタッチをした。
後片付けをしていたので次のB組の演劇は観ることができなかった。残念・・・
そして私は片付けの途中オールマイトに呼び出されてお説教されていた。
「遅れたのはいい。電話に出なさい」
「スマホ持たずに出てました・・・急いでて」
「着歴見たら驚くぞきっと」
「ご心配かけてすみません」
「エクトからの報告であらまし聞いてる」
オールマイトの後ろから、ハウンドドッグ先生がやってきて、ものすごい勢いで肩を掴まれた。
「“正解“だと思うなよ!大した怪我もなく結果的に文化祭は続いている。だが結果としてだ!お前は仮免ヒーローで雄英の生徒。揉めるなら頼るべきだった。俺たちだって守らなければいけないんだ」
「・・・はい」
「何陰気くさい面してる。行け!」
「??」
「続くんだからちゃんと楽しめ!」
そう言って、ハウンドドッグ先生は私を吹っ飛ばした。嘘でしょ。何で!?
飛んだ先にかっちゃんがいて、かっちゃんは持っていたもの全部地面に投げ捨てて、私をキャッチしてくれた。周りの生徒たちがそれを見てキャーキャーと黄色い悲鳴をあげた。
「何してんだクソなまえ!!」
「えっと、ハウンドドッグ先生からの激励を受けてた??」
「なんだよそれ」
「さ、さぁ・・・?」
「爆豪、緑谷をお姫様抱っこして文化祭回るつもりか!?」
通りすがりの切島くんに言われて、二人声を揃えて否定した。
「「違う!!」」
かっちゃんは私を地面に落として行ってしまった。ええええ!さっきは助けてくれたのに!
瀬呂くんに「しばらく“はじめてのおつかい“って呼ぶ」と言われてしまって凹んでいたら、エリちゃんを連れた通形先輩がやってきた。
「よーうオツカレ!緑谷さん」
「エリちゃん!!!どうだった??」
「最初は大きな音でこわくって、でもダンスでピョンピョンなってね。ピカって光ってヒーロー名さんいなくなったけど、ぶわって冷たくなってね、プカーってグルグルーって光って女の人の声がワーってなって私、わああって言っちゃった!」
手振り身振りを加えて一生懸命感想を伝えてくれるエリちゃんの顔には笑みが浮かんでいた。私は嬉しくって涙がこぼれそうになった。俯いて服の袖で涙を拭いた。顔をあげて微笑んだ。
「楽しんでくれて良かった!」
みんなでミスコンを見に行って、拳藤さんや他の出場者のパフォーマンスを見ていた。絢爛崎さんの登場で、会場内は混乱していた。エリちゃんがこれは何の出し物?と聞くくらいだ。
その後に出てきた波動先輩はふわりと空に舞っている。まるで、おとぎ話に出てくる妖精みたいに幻想的で美しかった。私は拳藤さんに心の中で謝りながら、波動先輩に投票した。
その後、エリちゃんにバレないようこっそり抜け出して、寮のキッチンで砂藤くん指導の下リンゴ飴を作った。
エリちゃんが帰る時間だと言うので門まで送りに行った。
「今日はありがとう!!楽しかった!」
エリちゃんはまだ帰りたくなさそうで、下を向いて足元ばかりじっと見つめている。
「エリちゃん顔をあげて」
しゃがんで、俯いたままのエリちゃんの目の前にリンゴ飴を差し出した。
「サプライズ!」
「リンゴ飴!!売ってた!?俺探したよ!?」
「プログラム見て、ないかもと思ったんで買い出しの時に材料買っといたんです。作り方、包丁使わなくて簡単だったんです。食紅だけなかったんで、砂藤くんに借りて一緒に作りました」
「フフ・・・さらに甘い」
エリちゃんがリンゴ飴を一口かじった。パァっと明るくなって、口元は弧を描いた。
「またすぐ会える!!」
「うん!ヒーロー名さんまたね」
手を振って帰っていく、通形先輩とエリちゃんを姿が見えなくなるまで見送った。相澤先生も付き添いで行ってしまった。
かっちゃんから、どこにいるんだとメッセージが来て校門にいると送ると、門まで迎えにきてくれた。約束覚えてくれてたんだなと思うと胸が熱くなった。
「かっちゃん!」
「なまえてめェ今日散々心配かけやがって」
「ご、ごめんなさい!!」
「なんかあったら俺を呼べよバカ」
コクンと頷いたら、かっちゃんが手を差し出してきた。その手を握るとかっちゃんは手を繋いで歩き始めた。誰かに見られたらどうしよう。そう思ったけど、人が多いところに近づくとどちらともなく手を離した。
かっちゃんの温もりが離れていって少し寂しい。こんなにも近くにいるのに。
それから二人で文化祭を見て回った。クレープやワッフルを買って食べた。今、私たちは誰もいないA組の教室で買ってきた苺のパフェに舌鼓を打っている。私が食べてるのをじーっと見てかっちゃんは「甘いモンばっかで吐きそうにならねェのかよ」と聞いてきた。
「全然大丈夫!もっと甘いの食べれるくらいだよ。かっちゃんも一口食べてみる?」
そう言って、スプーンを差し出したら少し嫌そうにしてたけど食べてくれた。
「美味しいでしょ?」
「・・・甘ェ。なまえ」
「ん?何?」
かっちゃんの顔が近づいてきて、私の唇の横をぺろっと舌で舐められた。私はびっくりして固まっていたら意地悪な顔してかっちゃんは笑った。そして何度も唇が重なって、口の中にかっちゃんの舌が入ってきてお互いの唾液がとろとろに絡み合う。苦しくて、気持ちよくてどうしたらいか分からなくなる。かっちゃんの服を掴んだら、ようやく離してくれた。
「ちょ、ちょ、ちょっと!!こないだ相澤先生に怒られたとこじゃん。そ、そういうことは部屋でって」
「誰もいねェだろ。それに口の端にクリームつけてるてめェが悪い」
「えーーー!?」
意地悪な笑顔に私はときめいてしまって、その後かっちゃんの顔をまともに見れなくなってしまった。