まずはツーステップから
賑やかな休み時間。芦戸さんがブレイクダンスを披露してくれた。前から思ってたけど芦戸さんは個性を使わなくっても運動神経がずば抜けている。クラスメイトたちも底抜けに明るい彼女の周りに集まっていく。そんな彼女のこと憧れてるんだよねこっそり。芦戸さんが恋愛相談にも乗ってくれたおかげで、かっちゃんにずっと聞きたかったことを聞けたし、かっちゃんが私のこと好きだって言ってくれたしね。
「芦戸さんは身体の使い方がダンス由来なんだよね。何というか・・・全ての挙動に全身を使う感じだ。私もやってみようかな・・・」
「教えて貰えば?」
「オーケーガール!!レッツダンシン!!」
「あっ、えっとお願いします!!」
突如始まったダンスレッスン。私だけじゃなくて青山くんも参加して初心者でもできるツーステップから教えてもらっている。だけど、私はカクカクした変な動きになってしまう。何度も教えてもらってようやく一つの動きができた。けど芦戸さんみたくなるのにはまだまだ修行が必要だな。
次のホームルームで相澤先生による学校ぽいお知らせがあった。それは文化祭。皆も「ガッポォオオイ(学校っぽいの意)」と叫んで、中には立ち上がって喜ぶ者もいた。
「文化祭!」
「ガッポイの来ました!!」
「何するか決めよーーーー!!」
葉隠さんも見えないけどノリノリなのが伝わってくる。
「いいんですか!?このご時世にお気楽じゃ!?」
切島くんが叫んだ。それも確かにそうだ。ついこの前対敵したばかりだもんね。
「もっともな意見だ。しかし雄英もヒーロー科だけで回ってるワケじゃない。体育祭がヒーロー科の晴れ舞台だとしたら、文化祭は他科が主役。注目度は比にならんが彼らにとって楽しみな催しなんだ。そして現状寮制をはじめとしたヒーロー科主体の動きにストレスを感じてる者も少なからずいる」
「そう考えると・・・申し訳ねェな・・・」
「ああだからそう簡単に自粛するというワケにもいかないんだ。今年は例年と異なり、ごく一部の関係者を除き学内だけでの文化祭になる。主役じゃないとは言ったが、決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」
なるほど。確かに寮制になったのもヒーロー科のせいだし、みんな鬱憤も溜まってるよねきっと。そんな人たちのためにも文化祭盛り上げないとだね。
候補を次々に挙げて行くクラスメイトたち。こりゃまとめるの大変そう。
「上鳴くん!」
「メイド喫茶にしようぜ!」
「メイド・・・奉仕か!悪くない!!」
「ぬるいわ上鳴!!」
そう言って挙手した峰田くんは、「オッパブ」と言って梅雨ちゃんに締め上げられていた。オッパブって何?かっちゃんの背中をツンツンと突いて小声で聞いたらキレて頭をスパーンと叩かれた。何で!?聞いただけなのに!仮にも私かっちゃんの好きな人なはずのにな・・・
その後も、おもち屋さん、腕相撲大会、ビックリハウス、クレープ屋、ダンス、ふれあい動物園、暗黒学徒の宴、青山くんのキラメキショー、コントなどの声が挙がった。個人的にはクレープ屋さんいいなと思った。甘いもの食べたい!
黒板にはその後もでた案が書かれていく。八百万さんは、不適切・実現不可と思われる候補を消していく。真っ先にかっちゃんが提案した“殺し合い(デスマッチ)“と青山くんの“キラメキショー“、常闇くんの“暗黒学徒の宴“、峰田くんの“オッパブ“が消された。たしかに暗黒学徒の宴ってなにかさっぱりわかんないし、オッパブってのも全然想像つかない。その後もクラスから、飯田くんの“郷土史研究発表“と八百万さんの“お勉強会“も消された。残ったものを纏めるのは難しい。あれこれ言ってるうちに決まらないままチャイムが鳴ってしまった。
「実に非合理的な会だったな。明日までに決めておけ。決まらなかった場合・・・“公開座学“にする」
公開座学!!!!!つまり、私たちは文化祭を楽しめなくなるということ。それだけは何としても避けたい。もし私たちのクラスがクレープ屋さんじゃなくなったとしても、甘いものを出すクラスがきっとあるはず。それが楽しみなのに、公開座学じゃ買いに行けなくなっちゃうじゃん。話し合いは寮のリビングでも引き続き行われることになったけど、インターン組は補習があるから学校に残らなきゃいけない。また決まったら教えてねって飯田くんに託して補習室へと向かった。
補習室で相澤先生がエリちゃんが私に会いたがってることを教えてくれた。
「ああ、厳密には緑谷と通形を気にしている。要望を口にしたのは入院生活始まって以来。初めての事だそうだ。緑谷、明日学校も休みだし俺が引率するからエリちゃんとこに行っやってくれないか」
「もちろんです!!私もエリちゃんのことずっと心配で会いたいと思ってたんです!」
「なら決まりだ。明日10時に出発するから準備しておけ」
「はい!!」
補習が終わって急いで寮に戻ると文化祭の内容、生演奏に合わせてダンスをするのはどうだと聞かれた。私もそれに賛同して、他の人たちも納得した上で決定した。
翌日、相澤先生に連れられて通形先輩とともにエリちゃんの入院している病院へと向かった。
エリちゃんの病室に入ると、くりくりとした目が私たちを捉えた。
「エリちゃん!元気になったんだね、よかった!会いに来れなくてゴメンね」
「フルーツの盛り合わせ!よかったら食べて!好きなフルーツある!?俺当てていい!?ももでしょ!ピーチっぽいもんね!」
「リンゴ・・・」
「だと思ったよね!!」
豪快に笑う通形先輩を見てエリちゃんはほんの少し表情が柔らかくなった。私が張り切ってリンゴの皮を剥こうとナイフを持ってリンゴを手にした。何も知らない通形先輩が「さすが女子だよね」って褒めてくれたけれど、すぐに先輩は私の手つきを見てすぐにナイフを取り上げて先輩が剥いてくれた。先輩の手を煩わせてゴメンなさい。そう思ってるのがバレたのか、先輩は「人には向き不向きがある!!気にすることはないよね」と励ましてくれた。うん、わかってた。私に包丁は向いてない!!
先輩は器用にリンゴをウサギ型に切っていく。それをエリちゃんと私は感嘆しながら見つめていた。リンゴを食べてエリちゃんはベッドの上にペタリと座った。
「ずっとね熱が出てた時もね考えていたの。助けてくれた時のこと・・・でもお名前がわからなかったの。ルミリオンさんしかわからなくて、知りたかったの」
「緑谷なまえだよ!ヒーロー名はヒーロー名!えっと、呼びやすい方で呼んでくれて構わないよ」
「ひーろーめい?」
「あだ名みたいなものだよ」
「ヒーロー名さん」
エリちゃんは私の名前を覚えようと呟いてくれた。嬉しくなってエリちゃんの頭を撫でた。
「ルミリオンさん、ヒーロー名さん、あと・・・メガネをしていたあの人・・・皆私のせいでひどいケガを・・・」
エリちゃんはナイトアイの死を聞かされていない。
「私のせいで苦しい思いをさせてごめんなさい。私の、私のせいでルミリオンさんは力を失くして・・・」
「エリちゃん!!苦しい思いをしたなんて思ってる人はいない。皆こう思ってる!“エリちゃんが無事で良かった“って!存在しない人に謝っても仕方ない!気楽に行こう。皆君の笑顔が見たくて戦ったんだよ!」
頭にポンと手を置いて話す通形先輩の話を黙って聞いていたエリちゃんは、自分の手で頬をグイッと持ち上げた。
「「??」」
「ごめんなさい・・・笑顔ってどうすればいいのか」
エリちゃんの背後にはまだ治崎の影が残ってるんだ。この子はまだ全然救われてやしないんだ。楽しいことを、笑うってことを知らないままなんだ。どうしたらエリちゃんが心の底から安心して笑って過ごせるかな。その時、チーズをくれた青山くんの言葉が頭をよぎった。
“サ・プ・ラ・イ・ズ!“
お医者さんの話では“個性“を発動する為の角が縮んでいる。暴走の可能性は低い。部屋の入り口の壁にもたれ掛かり面会を見守っている相澤先生の元に行き、エリちゃんが一日だけでも外出できないかと交渉した。
「無理ではないハズだが・・・というかこの子の引取先を今・・・」
「じゃあ、エリちゃんも来られませんか!!?文化祭に!エリちゃんも!!!」
「なるほど・・・」
「ぶんかさい?」
「エリちゃん!これは名案だよ!文化祭っていうのはね俺たちの通う学校で行うお祭りさ!学校中の人が学校中の人に楽しんでもらえるよう出し物をしたり、食べ物を出したり・・・あ!リンゴ!リンゴ飴とかも出るかも!」
「リンゴ飴・・・?」
「リンゴをあろうことかさらに甘くしちゃったスイーツさ!」
「さらに・・・」
エリちゃんの口の端からよだれが溢れた。きっとエリちゃんにとっての唯一の楽しみが甘いものだったのかもしれない。
「校長に掛け合ってみよう」
「それじゃエリちゃん・・・どうかな!?」
「・・・私考えてたの。救けてくれた時の、救けてくれた人のこと・・・ルミリオンさん達のこともっと知りたいなって考えてたの」
「嫌ってほど教えるよ!!!校長に良い返事がもらえるよう俺たちも働きかけよう!俺休学中だからエリちゃんとつきっきりデートできるよね!」
「でぇと?」
「蜜月な男女の行楽さ!」
「みつげつなだんじょのこうらく?」
「先輩何言ってるんですか」
突っ込んだら、先輩は頭をかいて笑った。自然と私も笑顔になってエリちゃんの手を取った。
「一緒にいろんなお店見てまわろうね、エリちゃん!!」
「俺はー!?」
「先輩は、天喰先輩とでも回っててください」
「ひどいよ緑谷さん!リンゴ剥いてあげたのに」
「ぐっ!それは言わないで先輩・・・」
面会時間が終了して寮に帰ってから、かっちゃんの部屋でエリちゃんと面会してきたことを報告した。ベッドの上でかっちゃんの枕を胸に抱いてエリちゃんと一緒に回るんだって説明してたら、かっちゃんが睨みつけてきた。
「おい、俺とは行かないのかよ」
「え!!!!????行ってくれるの!!!!????」
「・・・じゃあもういい」
「ごめん!かっちゃん、怒らないでー?行ってくれるって思わなかったから・・・つい。一緒にお店見てまわろ?」
「しゃーねーな。行ってやるわ」
「ありがと。楽しみだね文化祭」
「・・・ヒーロー科のこと妬んだり疎んだりしてる奴は必ずいる。中にはむき出しの敵意見せてくるやつもいるだろ。俺らがそいつらのご機嫌をとるためになんかするっていう趣向なのが気に食わねぇ」
「ま、まあ仕方ないよ。私たちのせいで寮制になったのは事実だし。皆それに巻き込まれる形で全生徒寮に入ったわけだから憤慨してる人がいてもおかしくないよね。でも、私は楽しみだなあ文化祭!甘いものたくさん食べたい」
「てめェはいつも甘いものばっか考えてるだろ」
「そんなことないよ!!かっちゃんのこともたくさん考えてるよ?」
「・・・!!」
かっちゃんに枕を奪われて、手を引っ張られてかっちゃんの膝に向かい合うようにして座らされた。ギュッと強く抱きしめられて苦しくなった。首を吸われて身体の力が抜けていく。
終わった頃にはぐったりしていて、かっちゃんにもたれかかった。
これ以上のことされたら、いつか私溶けて死んじゃうかもしれない。これ以上のことって何があるんだろ。
翌日、A組は文化祭についてまた話し合いをしていた。インターン組は本当は補講だったんだけど、相澤先生の都合で明日の朝に時間変更になった。
「文化祭はちょうど一ヶ月後!時間もないし今日色々と決めてしまいたい」
「まずは楽曲だね」
「やっぱノれるやつっしょ!」
「じゃあなるべく皆が知ってる曲をやるべきじゃね!?」
「踊れるやつ〜〜〜〜〜!」
それを聞いた耳郎さんが、曲について詳しく検討してくれた。私にはわからない難しい単語がたくさん出てきた。わからないけど、うんうんと頷いて話を聞いていた。
「ダンスミュージックだと本当はEDMでまわした方がいいけど、皆は楽器をやる気なんだよね?ベースとかドラムとかやってた人いる?」
シンと静まりかえって誰も経験者がいないことを示している。
「だよね・・・まずバンドの骨子ってドラムなんだけどさ、ウチギターメインでドラムは正直まだ練習中なのね。初心者に教えながらウチも練習しなきゃだと一ヶ月じゃ正直キツイ」
「あ!つーかお前昔音楽教室行かされてたっつってたじゃん」
「あ?」
上鳴くんがかっちゃんを指さして言った。そういえばかっちゃん確かに音楽教室通ってたね。
「え〜〜〜〜〜〜意外!」
「爆豪ちょっとドラム叩いてみろよ」
「誰がやるかよ」
「かなり難しいらしいぞ」
瀬呂くんがけしかけて、難しいと聞いたかっちゃんの闘争心に火がついたのか、かっちゃんはスティックを瀬呂くんから奪い取ってドラムを完璧に弾きこなした。す、すごい!かっこいい!耳郎さんも完璧と言って感動している。かっちゃんは昔からなんでもできるもん。皆口々に爆豪はドラムに決定と言っているけど本人が乗り気じゃないと・・・
「そんな下らねーことやんねェよ俺ァ」
「爆豪お願い!つーかアンタがやってくれたら良いものになる!」
「なるハズねェだろ!アレだろ?他の科のストレス発散みてーなお題目なんだろ。ストレスの原因がそんなもんやって自己満足以外のなんだってんだ。ムカツク奴から素直に受け取るハズねェだろが」
葉隠さんが怒ったけど、それすらも馴れ合いだと冷たく切り捨てるかっちゃん。
「ムカツクだろうが。俺たちだって好きで敵に転がされてんじゃねェ・・・!!!」
「・・・・・・・・・」
「なンでこっちが顔色伺わなきゃなんねェ!!てめェらご機嫌取りのつもりならやめちまえ。殴るンだよ・・・!馴れ合いじゃなく殴り合い・・・!!やるならガチで雄英全員音で殺るぞ!!」
「バァクゴォオオ!!」
「爆豪くん自身晒されて多大な負荷を背負っているものな・・・」
「理屈がやばいけどやってくれるんだね!やったね耳郎ちゃん!」
かっちゃんはポケットに手を突っ込んでどかっとソファに座った。私もかっちゃんの横に腰掛けた。少し距離があったのに、かっちゃんが座り直したから私とぴったりとくっついてなんだかドキドキしてしまう。
「か、かっちゃん、ドラムかっこ良かった!ファンが増えちゃうね、きっと」
「あ?ファン?クソどうでもいいわ!」
ぶっきらぼうに言ってるけど、なんだか私の事気遣ってくれてる気がして嬉しくなって、ニッコリ笑ったら頬をつねられた。
その後もキーボードが八百万さん、演出も決まっていった。ボーカルは耳郎さんかなって思ってたけど、立候補が三人いた。切島くん、峰田くん、青山くんだ。順番に歌っていくが、なんとも言えない空気になった。思い切って私は耳郎さんを推薦した。
「あ、あの、私は耳郎さんが良いと思う」
「私も私もー!前に部屋で楽器教えてくれた時歌もすっごくカッコ良かったんだから!」
「ちょっとハードル上げないでよ!やりづらい」
「いいからいいから」
それを聞いた峰田くんが喧嘩腰になっている。皆耳郎さんの歌声聞いたら絶対、耳郎さんがいいっていうに決まってる。歌い始めた耳郎さんの声に皆聞き惚れていた。満場一致でボーカルは耳郎さんに決定した。あとギターは二本いるそうだ。上鳴くんと峰田くんがギターしたいと名乗り出た。
「やりてー!楽器弾けるとかカッケー!!」
「やらせろ!」
「やりてェじゃねンだよ!殺る気あんのか」
「あるある超ある!ギターこそバンドの華だろィ!!」
上鳴くんがギターをかき鳴らした。だけど峰田くんは体格的に難しそう。峰田くんが泣きながらギターを手放したので、常闇くんがそれを拾って切ないメロディを奏で始めた。弾けるんだ・・・Fコードで一度挫折したから最初に名乗りでなかったらしい。
そして深夜一時まで及んだ会議で全員の役割が決まった。バンド隊、演出隊、ダンス隊に分かれて本番に向けて練習していく。私はダンス隊としてエリちゃんに喜んでもらえるように頑張る!
明日からより一層忙しくなりそうだ。