チーズとフィナンシェ



いつの間にか夏は終わりを告げ、秋の気配を感じる今日この頃。10月ということもあって寒暖差も激しくなってきた。あれから私たちインターン組はオールマイトと相澤先生の引率のもとナイトアイのお葬式へ参列した。
もうこの世にナイトアイがいないって言うのはとても悲しいことだけど、笑って過ごせというナイトアイの遺言は私や通形先輩の心に残ってる。泣き虫な私だけど、お葬式では泣かないように必死で頑張った。
あれからインターンは学校とヒーロー事務所の話し合いの末に、しばらくは様子見となることになった。ナイトアイの事務所はサイドキックのセンチピーダーが引き継いで通形先輩の復帰を待っている。エリちゃんはようやく目を覚ましたけれど、未だ隔離されたままだと言う。またいつ暴走するか分からないからだそうで、早くエリちゃんに会いに行きたいけど、会えていない。一つ分かったのは、エリちゃんの“個性“は額の角から放出されていたと言うこと。熱が引くにつれて角も小さくなっていたらしい。

エクトプラズム先生の数学の授業で定積分の計算問題が出された。ガリガリと計算式をノートに書いて、答えをはじき出した。立ち上がりながら挙手した。

「緑谷!」
「107/14です!」
「不正解!八百万!」
「107/28ですわ!!」
「正解!デハ次ノページヘ・・・」

後ろから峰田くんが小声で「惜しかったなー計算ミスか?」と話しかけてきた。むー悔しいな。もう一度解き直す。あ、ここでミスってる。
休み時間も有意義に勉強していかないと、インターンで開けた穴は補講があったとはいえ、みんなから遅れを取っている気がする。机に齧り付いてガリガリシャーペンを走らせていたら、かっちゃんがジュースをくれた。「休み時間なんだからちょっとは休めやバカ」って言われてしまった。
昼休みになって麗日さんと飯田くんが食堂に行こうって誘ってきた。

「なまえちゃん猛々しいねェ」
「勉強に力を入れるのは良い事だ!さァ午後の為にもランチラッシュの料理を食べに行こう!」
「うん・・・お腹ペッコペコだ」
「じゃあチーズあげる」

最近妙なことが起きてるんだけど、それがこれ。青山くんが事あるごとにチーズをくれるんだよね。

「びっくりした!!チーズ!?」
「ポン・レヴェック・チーズ。まろやかで食べやすいんだ」

そう言って包み紙の中に入ったチーズをもぐもぐと食べ始めた青山くん。なんか怖い。それに私の口の中のチーズがなくなる前に次のチーズを差し出して食べさせようとしてきている。

「ええ!?いや、いいよ。まだ口の中入ってるよ!ありがとう・・・」
「青山くんも一緒にどうだい!?君一人で大概食べてるだろう!!」
「ノン!ここの食堂は僕の口に合わない!」

そう言って青山くんは自分の席へ戻り優雅な所作でプレースマットを敷き、その上にお皿とナイフとフォークを並べてワイングラスに水を注ぎ入れた。いつも思ってたけど、フレンチ食べてるの?あれ、毎日自分で準備してるんだよね?すごくない?料理できないから私いつも感心してたんだ。だけどあのスタイルで食べてるの本当に手間だと思うんだよね。相澤先生風に言うと合理的じゃない。
クイーっとワイングラスに注がれた水を飲んで食事を始めた青山くんに飯田くんは「また後ほど!」と声をかけた。

青山くんはインパクトある言動をするんだけど、イマイチ何言ってるか掴めなくて私は彼が苦手だなと思っていた。

今日は気分を変えたくて寮の食堂で勉強していた。今日の宿題を終わらせ、復習して明日の予習をしていく。そろそろ寝ないといけないと思って教科書をパタンと閉じたら目の前に青山くんが座っていた。
全然気がつかなくてびっくりして悲鳴を上げてしまった。

「きゃあっ!青山くん!ど、どうしたの?」
「びっくりした?」
「え、うん。心臓止まるかと思ったよ」
「僕はそろそろ寝るよ、おやすみ」
「あ、うん、おやすみ」

そう言って去っていった青山くんのいた場所にチーズが並べてあった。出た!!チーーーズ!!!!

“僕は知ってるよ“

しかも最後に星形のチーズまで置いてある。何だこれ。口で言ったほうが早くない!?青山くんの真意がわからなくて、怖くなって泣きそうになった。勢いで自分の部屋に持って帰ったけど、何これ食べたらいいのかな。部屋の鍵を閉めるまで怖くて何度も後ろを振り返った。
ベッドに潜り込んだけど怖くて、なかなか眠りにつくことができなかった。かっちゃんの部屋に行けば良かった・・・絶対朝起きらんないよ。

翌朝、案の定寝付いたのが遅かったので寝坊して遅刻しかけた。教室で飯田くんと麗日さんが待ってくれていたんだけど、走るなって言われて競歩みたいにめちゃくちゃ早く歩いた。

「始業一分前!ギリギリセーフだ!」
「朝からうるせェよ!」

瀬呂くんに突っ込まれて、膝に手をついて乱れた呼吸を整えながら挨拶した。

「みんな、おはよー。寝るの遅くなって寝坊しちゃった」
「夜更かしは良くないぞ!自律神経が乱れる」
「すいません委員長」

青山くんの席を横切る時ウインクされて声には出していないけど口元の動きで「サ・プ・ラ・イ・ズ!」と言ってるのが分かった。青山くんのせいで怖くて眠れなかったんだから。
青山くんとはあんまり話したことない。青山くん自身あまり積極的に人と絡む方でもないし、好きな時に好きなことを言う自由人みたいなイメージ。けど、合宿の時や仮免試験で飯田くんから聞かされた彼の行動はまさしくヒーロー。そんな彼が私に一体何を伝えたいんだろう。何か事情があるのかもしれないし、皆に話して大事にするわけにもいかない。

TDLでの必殺技の訓練をしている時、切島くんに名前を呼ばれた。

「爆豪!!砂藤!!緑谷!!思う存分俺をサンドバックにしてくれ!」
「誤解を招くぜ!!?」
「ごめん、私は一人で・・・」
「分かった!!」

一人で必殺技を練習したくて断ったのだけど、切島くんは気持ちいいくらいさっぱりとした返事をした。

「ちったぁ進んだンかよ」
「全然・・・」
「全っ然かよ!!俺と並ぶんじゃねェのかァ!?」

寝坊して全然かっちゃんと話せていなかったから、これが私たちの今日の最初の会話。全然両思いって感じがしない。ちょっと寂しい。けど、本当に頑張らないとかっちゃんと肩を並べてヒーローできなくなっちゃう。
無理矢理になら20%まで力を引き出せた。でもそれでも治崎には勝てなかった。100%の力を自力で出せるようにならなきゃ勝てもしなければ救うことだってできない。

「ねえ見て!」

青山くんがセメントスの作った岩に肘をついて私に話しかけてきた。何事かと思って見ていたら、新技だというネビルビュッフェ・レーザーを発射した。そして仕上げに岩にビームで文字を書いてみせた。ため息を一つついて、青山くんは地面に座り込んだ。

「これやるとすぐお腹痛くなるんだよね」
「何で今やったの!!?大丈夫?セメントス先生!!青山くん調子崩しちゃって、ちょっと休んでもいいですか?」
「はいよ」

お腹を押さえてうずくまっている青山くんを立たせて保健室へ行こうとしたら、一人でトイレに行くと言われた。

「じゃ、せめてトイレのところまで付き添うよ」
「メルシー」
「あの・・・最近っていうかこないだの食堂に置いてったチーズ。“知ってるよ“って・・・何のこと?」
「君の“個性“体と合ってない。君は僕に似ているんだ」

一体何なの、青山くん。何が言いたいの。

「似てるって何が・・・?」
「僕常にサポートアイテムのベルトを巻いてるんだ。幼い頃からね。じゃないとネビルレーザーが漏れちゃうのさ!先天的なモノでね。僕も身体と“個性“が合ってないんだ。お医者様にそう言われた。君入学当時“個性“を全然コントロールできてなかったろ?以前から似てると思ってたんだ。インターン以降君は以前にも増して焦ってるように見える」
「青山くん・・・」
「サプライズは嬉しいだろう!?僕はサプライズが何よりも嬉しいのさ!僕が嬉しいと思うことをしたのさ。どうだい?チーズ美味しかったかい?」
「あ、うん。美味しかったありがとう」
「辛いことと向き合ってるだけじゃきっとキラめけないのさ!」

びっくりしたしかなり怖かったけど、あれは全部私を励ますためにしてくれたんだ。サプライズのつもりだったんだ。青山くんなりの気遣いで優しさだったんだね、怖すぎたけど。

「ありがとう。サプライズ大成功だよ青山くん」
「・・・・・・」
「青山くん??」
「ちょっと一人にしてくれないか、マドモアゼル」
「だ、大丈夫なの?一人で行ける?」
「もちろんさ。さぁ君は元の場所に戻りたまえ」
「じゃあまた後でね」

いつものキラキラした青山くんじゃなくなって真剣な表情に驚いた。こんな顔もするんだね、青山くん。

「フィナンシェあげる!」
「わぁ!美味しそうありがとう!」
「チーズより反応が良いねマドモアゼル!」
「スイーツ大好きなの」

それからも時々青山くんは私にチーズだけじゃなくて焼き菓子もくれるようになった。少し仲良くなった感じかな。それを見た上鳴くんと芦戸さんが歯を磨きながら、青山最近元気だねって話してた。本当元気な青山くんのおかげで焦らなくても自分のペースでもいいんだって少し思えるようになった。それに青山くんに抱いていた苦手意識もいつの間にかどこかへきえていっていた。

ありがとう、青山くん。



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