My Girl
クソガキたちの心を掴むという地獄のような意味わかんねぇ仮免補講から帰ってきたら、寮のリビングに人だかりができていた。何事かとチラリと見るとその輪の中心に見覚えのある小さな子どもがいた。なまえだ。なんで小さくなってるのかはなんとなくわかった。どうせ個性事故かなんかだろう。俺が週末は仮免補講だって言ったら、「私は学内で自主トレだー」なんて言ってたから、どうせどっかの誰かの個性でも貰い事故したんだろう。
小さな子どもの姿のなまえをみると胸が苦しくなって昔のことを思い出した。
なまえは記憶も全て幼い頃に戻ってるのか、知らない人たちに囲まれて怯えてるのか麗日の手を握りしめて泣きそうな顔をしている。そうだ、あいつはあの頃常にオドオドしてたし、色んなものにビビってた。
チビなまえと目が合った。途端にパァと明るくなるその幼いなまえの顔を見るのは何年ぶりだろう。深緑の毛先がはねていて、その髪は肩につくくらいの長さだ。4、5歳くらいのなまえだろうか。
「まぁ!爆豪さんのことは分かるのですね!さすが幼馴染ですわ」
「ちっちゃいなまえちゃん、ほんま可愛いわぁ」
八百万はおもちゃを創り出して渡していたようでなまえの周りにはおもちゃが散乱していた。オールマイトとクマのぬいぐるみを抱きしめてなまえがこちらに走ってきた。
「かっちゃん?」
首を傾げながら尋ねてきた。15歳のなまえとは違った可愛いさがある。目がでっけえし、キラキラしてる。ちっせェこいつに翻弄されてるのがなんかムカつく。俺は何も言わずに頷いた。
「あのねなまえね、知らないところに来ちゃったの。あのお姉ちゃんがオールマイトとクマちゃんくれたの。いろんなお姉ちゃんが遊んでくれたんだよ。かっちゃん、おうちにいっしょに帰ろ?遅くなったらおかーさんに怒られちゃう」
「・・・ちゃんと礼言ったのか?」
「言ったよ!!」
えっへんと胸を張るなまえの可愛いさに頭を殴られたような衝撃を受けた。こいつこんな可愛かったのかよ。クラスの奴らもそれを見て微笑んでやがる。誰にも見せたくない。
「おい。こいつどうやったら元に戻んだよ」
「それが、残念ながら分からないみたいですわ。時間薬だろうとリカバリーガールは言ってましたわ」
意外と喋るなまえを抱き上げて顔をマジマジと見た。なんで俺のことだけ認識しとんだよ、このバカ。
「かっちゃんなんで大きくなってるの?」
「てめェが小さくなってんだよバカ」
「ふぅん。そっかぁ。なまえも早く大きくなりたいなぁ」
「・・・」
「そしたらなまえ、かっちゃんのお嫁さんになれるのになぁ」
「!!!」
「緑谷、もうそれ以上はやめてやれ!爆豪が爆発しちまうだろ!」
外野がうるせェし、戻す方法もないならとりあえず部屋に連れて行くか。
なまえを抱き上げたまま行こうとしたら、なまえが「かっちゃんあっち!」と女子がいる方を指差した。降りて女子のところへと歩き出した。俺は黙って見ていた。
「お姉ちゃんたち遊んでくれてありがと」
「ふふ、なまえちゃんほんま可愛いわぁ」
「緑谷さん入浴がまだなのでそれはこちらでお世話しますが・・・爆豪さんに小さな子のお世話ができるのでしょうか?少し不安ですわ」
律儀に挨拶して俺のところへ戻ってきた。なまえが手を広げて抱き上げろと無言で言っている。仕方なくまた抱き上げた。それに八百万に失礼なことを言われてカチンときた。なまえの世話くらいできるわ!
「こいつの世話くらいできるに決まってんだろ!」
「今日の仮免講習で俺たちは小さな子どもの心を掴む訓練を行ってきた。だから大丈夫だろう」
舐めプ野郎が呑気にそんなこと言ってやがる。それに俺の腕の中に収まってるなまえをジッと見つめてやがる。勝手にこいつのこと見んな!ムカついて見えないように隠しながら、八百万たちに引き渡した。手を引かれて風呂に向かうなまえが振り返ってきた。
切島と上鳴がニヤニヤしながら肘打ちしてくる。
「おいおい、バクゴー!!チビ緑谷可愛いな」
「お前ちっせぇ頃から好きなんだろ?緑谷のこと」
「うっせェ殺すぞ。黙れ」
「ねえ、爆豪。ちょっといい?」
芦戸が珍しくこっちに来て話しかけてきたと思ったら人気のないところまで引っ張られた。何なんだよ一体。
「なんだよ」
「なまえちゃんのことなんだけど。悩んでるみたいなの。余計なお世話かもしれないけど、ちゃんと想いを口に出して伝えてあげたらどうかなって。じゃないと、このままじゃなまえちゃん、他の人のものになっちゃう・・・なんてこともあるかもね。じゃあ、私もチビなまえちゃんたちとお風呂入ってくるわ!じゃあね」
俺も仮免講習から帰ってきたばかりで風呂に入りたいし、戻ってから何の話してたんだってまとわりついてくる切島たちがうるせえ。二人を無視して俺も風呂場へと向かった。あいつの言った言葉を反芻する。
想いを伝えろ?伝えてるだろ。なまえが他の人のものになる?そんなのぜってェ許さねぇ。
男風呂から出たタイミングでなまえも女風呂から出てきた。嬉しそうに飛びついてくるなまえを片手で抱き上げて八百万に礼を言った。
「お姉ちゃんたちバイバイ!また遊んでね」
「なまえちゃん、また明日!」
俺の部屋へ連れて行って下に下ろすと、なまえは不思議そうにキョロキョロと見回していた。
「かっちゃんここに住んでるの?かっちゃんのおかーさんとおとーさんは?」
「そうだ。ここには居ねェよ。それよかなまえ、なんだその服」
「なまえね、目が覚めたらおっきな服着てたの。すぐ脱げちゃうからお姉ちゃんが服くれたんだよぉ」
そう言ってくるりと回る仕草見覚えがある。ちっさい頃にもしてたな。本当になまえなんだな。
「大きくなったなまえはかっちゃんのお嫁さんになってるの?」
「はぁ??」
「かっちゃんのお嫁さんになるのがなまえの夢なの」
「・・・いずれそうなる、かもな」
「そうなんだ!良かったぁ!」
そう言って破顔一笑するなまえに俺はため息をついた。
「でもなんで、なまえだけちいちゃくなっちゃたのかな。どうやったらもどるのかなぁ」
「知るか。ガキは歯ァ磨いてさっさと寝ろや」
「もう磨いたよ〜!ねえねえ、お姫様にかかった呪いは真実の愛のキスでとけるんだよ?かっちゃん知ってる?」
「興味ねェよ、そんな話」
「そっかあ。おやすみかっちゃん」
そう言ってチビなまえは俺の頬にキスしてベッドの中に飛び込んで、すぐに寝息を立て始めた。普段から寝つきが良いなと思ってたが、いくらなんでも寝るの早すぎねえか?
「なまえはずっと俺のモンだ。誰にもやらねぇよ」
独り言が二人きりの部屋に溶けて消えていく。ちっせェくせにやることが大胆だし、ムカつく。やられっぱなしは性に合わねェ。負けた気がして、寝てるチビなまえのデコにキスしたら、ポンと音を立ててなまえが元のサイズに戻った。八百万が作った服は伸縮性がいいのか、元のサイズに戻っても破れることもないみたいだ。あいつがさっき言ってたみたいに個性解除の条件が本当にキスだったのかはわかんねえけど戻ったんならこれでいいだろう。
すやすや寝てたはずのなまえが目を擦りながら起き上がった。
「あれ、かっちゃん?おはよ?」
「・・・・・・」
「ど、どうしたの!?かっちゃん顔真っ赤だよ?」
「黙れ、ブチ殺すぞ」
「ええええ!?なんで!?」
おい、こいつ下着つけてないのかよ!そのぴっちりした服脱げ今すぐ。俺のTシャツを一枚取ってきてなまえに投げつけた。
「これに着替えろ」
「わ、何この服!」
「いいから早く着替えろバカなまえ」
自分の着てる服をマジマジと見て、俺の言わんとすることに気がついたのか顔が茹で蛸みたいに真っ赤になった。いそいそと布団の中で着替えて顔を出してきたなまえがクッソ可愛いくて、俺はなまえの後頭部を手で支えて唇を重ねた。やっぱチビの姿だとそんな気起きなくてできなかった。なまえはこの姿の方がいい。
「か、かっちゃん、あの・・・ずっと聞きたかったんだけど、な、なんでキスするの?」
「はァ??」
「だから、その」
「ずっと昔から俺の気持ちは変わってねンだよバカ」
「・・・???」
「・・・」
何言ってんだこいつ。俺の気持ち伝わってるって思ってたけど、まさかあの黒目の言う通りわかってないのか?
「てめェがすきだからだよバカ・・・」
「え、偽物!?本当にかっちゃんなの!?」
「なまえが聞いてきたんだろうがよ!!もう二度と言わねェからな!クソ!」
頭を叩いて、怒鳴ったらなまえがメソメソ泣き出した。
「う、嬉しい・・・かっちゃんが私のこと好きになってくれるって思ってなかった」
まじで何なんだよ。昔から好きだって言ったつもりが全然伝わってねえし。泣く意味がわからん。本当は一人前のヒーローになってから、せめて仮免受かってからと思ってたのに、気持ちが先回りして手を出してしまったから余計に誤解させたのかもしれない。なまえを俺が弄ぶわけないだろ。
「そっか、かっちゃん私のこと好きなんだ・・・」
「じゃなきゃキスしねぇし一緒に寝ないだろバカかてめェは」
「だって付き合ったことないからよくわかんなくて。かっちゃんは彼女の一人や二人いたことあるかもしれないけど」
「・・・今まで付き合ったオンナなんていねぇよ」
「嘘!!!???めっちゃモテてそうなのに?」
「知るかそんなモン。俺はてめェにしか興味ねえから覚えとけ」
怒ってんのに、なまえは涙ぐんで嬉しそうにしてるから段々とそんな気持ちもどっかに飛んでいった。
「そっか、私が初めてなんだ・・・」
「ガキは早よ寝ろや」
「ガ、ガキじゃないもん!もう大人だもん」
「さっきまでガキだったじゃねぇか」
「??」
「大人はこういうこともするんだぞ」
そう言って、シャツの中に手を入れて腹を撫でてスーッと手を上に持っていって、胸のあたりに近づけたらなまえが悲鳴を上げた。
「うるせぇ!!!!!」
「だ、だ、だ、だって!!!」
「だからガキだって言ってんだろ。もう寝ろ」
電気を消して強制的に視界を真っ暗にしてやった。じゃないと俺の顔熱くなってんのバレるからな。あー、もうそろそろ限界越えて俺死ぬんじゃねえかな。
固まって身動き一つとることもしないなまえを抱きしめながら小さく呟いた。