咲かせろ恋のハナシ
通形先輩は休学という形をとることになった。寂しいけれどクヨクヨしない。先輩が泣かないって決めたんだ。私も泣いてちゃダメだ。だから笑って過ごして先輩が帰ってくるのを待つ。
そして私たちはようやく学校へ戻った。長いようで短い戦いだったな・・・
戻ってからも色々と調査や手続きが立て続けで結局寮へ戻ってこれたのは夜だった。
「ただいま〜」
「帰ってきたァァァ!!!!奴らが帰ってきたァ!!!!」
「大丈夫だったかよォ!!?」
「ニュース見たぞおい!!」
「みんな心配してましたのよ」
「大変だったな!」
「まァとにかくガトーショコラ食えよ!」
「お騒がせさんたち!」
「おまえら毎度凄えことになって帰ってくる!怖いよいいかげん!」
「無事で何より」
皆口々に心配して駆け寄ってきてくれた。葉隠さんに女子三人まとめて抱きしめられた。
「なまえちゃん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん〜!!」
「葉隠さん!ただいま」
「皆心配だったのはわかるが!!落ち着こう!!」
飯田くんが素早い動きで皆を制した。
「報道で見たろう。あれだけのことがあったんだ。級友であるなら彼らの心を労り静かに休ませてあげるべきだ。身体だけでなく心も擦り減ってしまっただろうから・・・」
本当に優しいなぁ、飯田くん。でも、ナイトアイや先輩に言われたんだ。どんなに辛くても笑っていようって。
「飯田くん、飯田くん。ありがとう。でも・・・大丈夫だよ」
「・・・・・・じゃあいいかい。とっっっっっっっっっても心配だったんだぞもう!!僕はもう君たちがもう!!」
「おめーがいっちゃん激しい」
瀬呂くんが少し呆れた顔して言った。飯田くんに肩を掴まれて揺らされながら大声で無事を確かめられた。その横から砂藤くんに問答無用で口の中にガトーショコラを突っ込まれた。びっくりしたけど、美味しくてほっぺたが落ちそうだ。私がモグモグしてたら、それを見た八百万さんがハッとしてラベンダーのハーブティーを淹れてくると言って走って行った。
それから皆と話していたんだけど、リビングのソファに座りテーブルに足を乗せてるかっちゃんと目があった。それに気付いた上鳴くんが私の背中を押してかっちゃんのところまで連れて行った。
「おーい!かっちゃん何をフテクされてんだ。心配だったからここにいんだろ!?なァ!?ほら、緑谷連れてきたぞ。素直になれよ!」
「・・・寝る」
「えー早くね!?老人かよ!!」
「かっちゃん、ただいま」
「・・・おう」
「それだけ!?もっと何かいってあげたらどうだ」
「てめーらと違ってヒマじゃねンだ」
かっちゃんはポケットに手を突っ込んだまま去って行ってしまった。轟くんもスマホ片手に、部屋に戻ると声をかけて行ってしまった。
「爆豪ちゃんはともかく、轟ちゃんまで・・・どうしたのかしら」
「あいつら明日仮免の講習なんだ。にしても早いけど・・・」
私たちも帰ってきたばかりで、各自することがあるから、一旦解散した。私は風呂に入り寝る支度をしていたら、スマホが鳴った。かっちゃんだ。部屋に来いとだけ言って、私が返事をする前に切られてしまった。相変わらず強引だ。
かっちゃんの部屋のドアをノックしたら鍵が開いて、かっちゃんに手を引っ張られた。かっちゃんの胸に私の顔がぶつかった。鼻をさすってたらかっちゃんに頬を両手で掴まれて頭突きをされた。
「痛っ!な、なんで頭突き!?」
「うるせぇ」
嘘でしょ!私割と頑張ってきたのに、褒めてくれたりしないの?そっとかっちゃんのTシャツを掴んだら、身体を持ち上げられてベッドに投げ飛ばされた。いや、ほんとちょっと乱暴すぎませんか?
かっちゃんが布団を私にかけて、端に追いやるようにしてベッドに入ってきた。多分今日は一緒に寝るってことかな。だんまりで何も言わないかっちゃんだけど、私の顔をジッと見つめている。な、なんだろ。
「か、かっちゃん?怒ってる?」
「・・・怒ってねぇよ」
「かっちゃん、私頑張ったんだよ?ちょっとは、褒めてほしいなーなんて・・・」
「・・・」
「ごめん、やっぱ忘れてください」
「・・・・・・なまえにしては頑張ったな」
「!!」
聞こえるか聞こえないかのギリギリのボリュームでかっちゃんが褒めてくれた。本当に褒めてくれるとは思わなくて、偽物じゃないかと疑ってしまった。だけど、かっちゃんからニトロの香りがしてきて本物だって証明してる。
「けど俺の居ないとこで無茶すんなよ。それに泣いてたんだろ」
「な、なんで分かるの?」
「何があったか詳しくは知らねェけど、他のやつの前で我慢して強がってンのはわかった。俺の前では泣くの我慢しなくていい。言いたくねぇなら言わなくてもいい」
「っ、うん、ありがとう・・・・・・あのね、私ナイトアイ助けられなかったの。それに通形先輩も。いろんな人に救けられるばかりで、私は全然救けられなかった」
「女の子救けられたんだろ?」
「う、うん・・・でも代償に失ったものが大きすぎる」
かっちゃんは何も言わずに私の頭を抱き寄せ撫でた。目の前に黒いTシャツのAJIFRYの文字が目に飛び込んできた。アジフライ・・かっちゃんアジフライ好きなのかな。泣きそうだったけど、かっちゃんの優しさと絶妙な服のチョイスのおかげで、少し元気が出た。かっちゃんの顔を見たくなって顔をあげた。
「好き・・・」
心の中で呟いたつもりが声に出てしまって、顔に熱が集まるのが分かった。かっちゃんは少し優しい表情になって私は目が離せなくなった。こんな優しい顔のかっちゃん他の人がみたら好きになっちゃうじゃん。絶対他の人には見せたくないな。私だけに見せてほしい。でもこんな我儘言えないから心の引き出しにそっと仕舞う。
この二日色々あって疲れてちゃったから、かっちゃんにピトッとくっついて目を閉じた。いつ寝たのかわからないけど気がついたら朝になってて、かっちゃんのアラームの音で目が覚めた。背中にかっちゃんがぴったりとくっついている。アラームを止めたかっちゃんは寝惚けてるのか、手をパジャマの中に入れて私のお腹に触れ撫で回している。くすぐったいし、恥ずかしい。私は身じろぎしてかっちゃんの腕を掴んで離そうとしたけど、ワン・フォー・オール使ってない時は普通に負けてしまう。突然ピタッと動きが止まって、かっちゃんの手が離れていく。私は大きく息を吐き出した。無意識に息を押し殺してたみたい。後ろを振り返ったらかっちゃんが珍しく焦っていた。
「悪ぃ」
「ん、大丈夫だよ。気にしないで」
そう言って小さく笑ったら、かっちゃんはそっぽを向いてしまった。
よくよく考えたら私たちってどんな関係なんだろ。触れたり、一緒に寝たり、キスしたり・・・
私は好きって言ってるけど、かっちゃんに好きとは言われてない。でも好きでもない人にキスするとは考えにくいし・・・だけど付き合おうって言われた訳でもないし・・・
以前相澤先生に付き合ってもない男女が一緒のベッドで寝るなって怒られたことを思い出した。前にふと感じた小さなモヤモヤが少しずつ大きくなっている。
その考えを振り払おうと、起き上がってボーっとする頭を横に振った。
かっちゃんも起きてきて、着替え始めた。待って私いるのに普通に着替えちゃうの!?もう一度布団をかぶって着替え終わるのを待った。
かっちゃんは今日は仮免講習で出かけしてしまう。私は土日はお休みなので自主トレする予定だ。その間にA組の女子に相談してみようかな。
かっちゃんと轟くんを寮の外まで見送って手を振った。かっちゃんは「後ろ歩けや」と轟くんにキレていた。
「頑張ってねー!二人とも!」
大きな声で叫んだら、かっちゃんは振り返らなかったけど轟くんが振り返って手を振ってくれた。その後も何かかっちゃんがキレてたけど、何を言ってるかはもう聞こえない距離まで行ってしまった。
さて、私は寮に戻ってソファに集まってる女子たちの輪に加わった。芦戸さんの隣に座って、ちょんと服の袖を引っ張った。
「どうしたの?なまえちゃん」
「芦戸さん、ちょ、ちょっと相談なんだけど、いいかな」
「いいよ!どしたどした」
「えーと、私、じゃなくて私の友だち!友だちの話なんだけど」
「まさか、恋バナ!?」
頷いたら芦戸さんがキャーと言ってはしゃぎ始めて、女子の注目が私に集まる。恥ずかしくなってきた。
「好きとは言われてないんだけどそれっぽいことは言われて、だけど確信が持てなくて・・・それで確信を持てないままキスしちゃったんだ。それってどう思う?」
一瞬の間を置いて、女子たちが叫び出した。
「えーーーー!!!!????なまえちゃん爆豪とキスしたの!?」
「嘘!いつの間にそんなに進展してたの!?」
「なまえちゃん、なんで教えてくれへんかったん!」
「ち、ち、ち、ちがっ!あの、私じゃなくて、あの、その、私の友だちの話!!」
芦戸さんが私の肩に手を回してきた。
「何それめっちゃ可愛い!キュンキュンするー!なまえちゃ、いや、その子はキスされてどう思ったの?嫌だった?」
「嫌じゃない・・・けど胸の奥がポカポカするし、ギュッと痛くなって・・・その、キスするって一般的にはどんな関係なのかな」
「うーん。付き合おうとか言われなかったの?」
「う、うん・・・」
「そうか、なまえちゃんはそれで悩んでるんだ」
「や、私じゃなくて私の友だちで・・・」
「ふふ、はっきり聞いてみたら?私のこと好き?付き合ってるんだよね?って」
「で、でもそれで、相手がそう思ってなかったら・・・」
「なまえちゃん、それは絶対に大丈夫。私の命を賭けてもいい。向こうも絶対にその子のこと好きで好きでたまらないから。好きすぎて気持ち伝えるより先にキスしたんだと思うよ。それか、それっぽい言葉でちゃんと通じたと思ってるじゃないかなぁ」
「そうなのかなぁ・・・」
「爆豪帰ってきたら聞いてみな?」
「そうよ。緑谷ちゃんが聞いたらちゃんと答えてくれるはずだわ」
「うん・・・あ!待って!か、かっちゃんのことじゃないよ!?私の友だちの話だから!!」
そう言って立ち上がったら、麗日さんと葉隠さんに抱きつかれた。
「「なまえちゃん可愛い〜〜〜!!」」
「や、だから!私のことじゃなくて!友だちの!」
「「はいはい」」
ニヤニヤした瞳がこちらを見ていて、もう否定するのを諦めた。なんでみんなかっちゃんと私のことだって思うんだ。でも、確かに本人に聞いてみるしかないよね。
「芦戸さん、皆相談乗ってくれてありがとう。えーと、友だちに伝えておくね・・・?あ、これから自主トレ行くけど皆も行かない?」
「いいねー!私たちも行こう!!」
皆で体操服に着替えて、管理人室にいる相澤先生のところへ向かった。グラウンド使用許可をもらうためだ。
「先生!自主トレしたいので、グラウンドを借りたいんですけど」
「他学年やB組も使っててな、どこ借りたいんだ」
「グラウンドβです」
「まあ、すでに何人か使ってるんだがそれでよければ使ってもいいぞ」
「ありがとうございます!」
グラウンドへ行きを先に使用していた2年生に声をかけて私たちも使わせもらうことになった。2年生の提案で1年と2年でチームアップして敵とヒーローに別れて、人質を救助する訓練を行うことになった。私は最初は人質役になった。梅雨ちゃんに救助されて、選手交代。次は私がヒーロー役。2年生と八百万さん、芦戸さんに攻撃されて、もろに2年生の個性攻撃が直撃した。嘘でしょこのパターン何度目だよー!
そう思いながら私は身体が縮んでいって、気を失った。