エリちゃん救出大作戦



ナイトアイの事務所に集まってから二日後の深夜。スマホにエリちゃん救出決行日の連絡が入った。寮の一階に集まってインターン組で確認し合った。
かっちゃんにも言いたいけど言えないのがもどかしい。無事にエリちゃんを保護して事件解決に至れば、かっちゃんに話してもいいのかな。隠し事をしてるみたいでなんか嫌だもん。
インターン組は小声で頑張ろうと言って皆で目配せした。

翌朝、早く寮を出るからかっちゃんに会えないかもしれないと思って出る少し前にメッセージを送ったら、かっちゃんが見送りに来てくれた。会えないと思ってたから驚いてると、なんだよその顔ってキレられたし、ネクタイ引っ張られて一気に距離が近くなった。

「なまえ・・・がんばれよ」
「うん!行ってきます」

私に会うためにわざわざ早起きしてくれたのかな?そう思ったら胸の奥がじんわりと温かくなっていって、ギュッと切なく苦しい感覚になった。いや、待ってこれ本当に苦しいんだけど。手を胸に置いた。ちゃんと規則正しく鼓動してるけど、心臓発作的なやつ?え、大丈夫なのこれ。
なんとか絞り出した笑顔をかっちゃんが変なモノでも見るような冷ややかな目をしてた。ちょっと!私との温度差すごくないですか!?
後ろから声が聞こえてきて振り返ると切島くんたちがやって来ていた。

「爆豪ちゃん、おはよう」
「お、爆豪早えな。緑谷の見送りか?朝から見せつけてくれるなよ」
「っせェバカ!!そんなんじゃねぇ!!はよ行けやバカなまえ」
「あ、うん。またね、かっちゃん」

そんなこと言いながらも玄関の外まで送り出してくれる。私たちが歩き出してからしばらくして振り返ったらまだ見送ってくれていたので、手を振ったけど盛大に無視された。
切島くんが「あいつも素直じゃないな。緑谷のことすげぇ、心配してるのにな」と呟いていた。さっきの冷ややかな目で凹んでたけど、それを聞いて私の心は急上昇した。なんて単純なんだ。だけど、浮かれてる場合じゃない。

私たちインターン組やビッグスリーは、再びナイトアイ事務所に集まって詳細を聞かされていた。

「緑谷さんやるぞ!!やるんだ!!」
「なんて動きなの、先輩」

ワサワサと両手を奇妙に動かしながら通形先輩は大声で叫んだ。以前の雰囲気に戻っている。ここしばらく、エリちゃんの件で落ち込んでいたから、先輩が元のようになったので安心した。先輩はこうでなくっちゃ。付き合いはまだ浅いけれど、先輩は太陽みたいな人だと思うんだよね。
今度は必ずエリちゃんを救ける!
あとは治崎のいる時間帯に令状を持って踏み込むだけだ。

決行日当日。AM8:00警察署前にて最終確認が行われた。いよいよ始まる救出作戦に私は少し緊張していた。

「プロ皆落ち着いてんな!慣れか!」

切島くんの言葉で周りを見渡した。ヒーローがたくさんいる中、グラントリノの姿を見つけることができなかった。

「皆・・・グラントリノがいない・・・どうしたんだろ」
「あの人は来れなくなったそうだ」
「え・・・そうなんですか」

どうやら塚内さんの抱えている敵連合の件で大きな動きがあったとかでそちらに同行することになったようだ。こちらも人手は充分だから支障はないと言っている。一緒に戦えると思ったので残念だ。

「そっかぁ」
「八斎會と敵連合一度に捕まったりしてな」
「それだ!!っしゃあ・・・!頑張ろうね切島くん!!」

切島くんの前向きな考えに引っ張られて私まで前向きな気持ちになれた。気合いを入れ直していたら、相澤先生が声をかけてきた。

「おい」
「あい・・・レイザーヘッド!」

相澤先生と言いかけたら、先生がジトっとした目で見てきたので慌てて言い直した。そういや学外ではヒーロー名だったね。すみません。

「俺はナイトアイ事務所と動く。意味わかるな?」
「はい・・・!」

この前相澤先生と約束した、正規の活躍のことを言っているんだろう。ちゃんとやるよ、大丈夫、先生。じゃなくてイレイザーヘッド!
警察の合図で、死穢八斎會の本拠地である、事務所へと移動し始めた。
時刻にしてAM8:30。いよいよ決行だ。警察が令状を読み上げたら突入する。インターホンを鳴らしている警察を見て、私はヤクザの事務所にもインターホンあるんだなぁなんて考えていた。ま、そりゃそうだよね。
インターホンを鳴らした途端に、中から個性で門扉を壊しながら人がでてきた。その勢いで、警察官が数名飛ばされた。嘘でしょ、さっそくすぎない?
私は脚に力を込めてフルカウルで、飛んで行った人を掴んで地面に降り立った。

「大丈夫ですか?」
「大丈・・・夫だ。ありがとう。早く・・・行って」
「座ってじっとしててください」

暴れているヤクザ者をリューキュウが彼女の個性である竜の姿になって抑え込んでいる。梅雨ちゃんと麗日さんは、リューキュウの援護をし始めた。二人にまた後で会おうと約束して、その隙にみんなで中に突入する体制に入った。
私は遅れないように必死にナイトアイと通形先輩の後ろについて行く。死穢八斎會の事務所の中から何人もの人が出てきている。まるで私たちが来るのを分かっていたみたいだ。組総出で時間稼ぎをしている。
ナイトアイが隠し通路の場所へと辿り着き、板敷を順番に押していく。こんなの予知で見ていなければ絶対分からなかったはず。通路が現れたと同時に八斎會のチンピラも現れた。バブルガールとセンチピーダーが飛び出してきたチンピラを取り押さえた。
私たちはその隙に地下への隠し通路の階段を駆け降りた。だけどその先には壁があって行き止まり。きっと誰かの個性で道を塞いだんだ。
通形先輩が透過で壁の向こうを見に行って戻ってきた。ただ塞いだだけで道はその向こうに続いているらしい。

「来られたら困るって言ってるようなもんじゃん」
「そだな!!」

私のフルカウルと切島くんの硬化ならこのくらいの壁壊せる。

「妨害できてるつもりなら、めでてーな!!」

タイミングを合わせて二人で壁をぶち壊した。先に進もうとすると地面がぐねぐねと動き変形していく。本部長の入中という人物の個性だと警察官が言った。キツめのブーストをかけて大規模な範囲のコンクリを変形させているのだ。イレイザーも本体を見なければ個性を消すことができない。きっとコンクリの中に隠れているはず。闇雲に壊せば地下の空間が崩れて生き埋めになる可能性だってある。どうすればいいんだろう、このままじゃエリちゃんにたどり着けない。私だけでなく天喰先輩までもネガティブな思考になりかけているのを見て、通形先輩が励まして先にコンクリの壁を抜けて行こうとしている。

「先輩!」
「スピード勝負。奴らもわかってるからこその時間稼ぎでしょう!先に向かってます!!」

私たちの立っている地面が揺らいで下に落とされた。まるで蟻地獄。一階層分下に落ちたというところか。広間のような場所に皆一斉に落とされて警戒する。三人の八斎會の組員が現れた。足止めを食らっていたらエリちゃんを連れて逃げられてしまう。
天喰先輩一人で、時間稼ぎ要員の三人の相手をすると言った。ファットガムは真剣な天喰先輩の表情を見て残ろうとしている切島くんの肩を掴み行こうと叫んだ。

「皆さん!!ミリオを頼むよ!あいつは・・・絶対無理するから助けてやってくれ」

いつもと違う雰囲気を身に纏った天喰先輩に託して私たちは広間を抜ける扉に手をかけた。地下通路が続いている。どこに向かっているのか分からないが向こうから組員が来たってことは、その奥に治崎とエリちゃんがいる可能性が高い。

「先輩・・・大丈夫かな・・・やっぱ気になっちまう」
「うん、そうだね」
「ただ!!背中預けたら信じて任せるのが男の筋やで!!!」

私と切島くんの会話を聞いていたファットガムが急に大声を出したので、驚いて足がもつれて転びそうになった。すんでのところで、切島くんが腕を引っ張ってくれたのでなんとか転ばずに済んだ。

「先輩なら大丈夫だぜ!!」
「逆に流されやすい人っぽい」
「心配だが信じるしかねえ!!サンイーターがつくってくれた時間!一秒も無駄にできん!シャコラァァァアアアア!!」

ナイトアイが上の階に戻ろうと提案し皆それについて行く。だけど先ほどから地面が揺らぐこともなく普通に私たちは走れている。
突然私の背後を走るイレイザーが狙われて壁が変形した。一人ずつ潰していく気か。だけど、イレイザーを庇うようにファットガムと切島くんが体当たりして動く壁の中へと転がり込んでいった。そのまま四方の壁が迫ってきて閉じ込められそう。ロックロックの個性のおかげで一部の壁の動きがロックされた。だけど、まだロックできていない壁が迫ってくる。迫る圧壁を一箇所に集中させた上で掘り進めていくしかない。フルカウルシュートスタイルで壁を蹴り壊し続ける。

「このままじゃジリ貧だぞ!追い詰められる一方だ!!」
「ハァッ!埒が明かない!!」

リューキュウたちが、大勢のヒーローたちが、警察の方々が、通形先輩や天喰先輩、切島くん、ファットガムが繋いだ道を止めてたまるか!
四方に迫っていた壁が解除され一気に空間が広くなる。

「開いた!?」
「ヒーロー名!!」

壁がその場にいた者たちを分断した。私はイレイザーに抱き抱えられて地面に降ろされた。私とイレイザーしかいない。壁を挟んで向こう側に皆の声が聞こえる。ロックロックの叫ぶような声が聞こえてきた。

「ロックどうした!!」
「イレイザーどいて下さい!!」

壁を蹴り破ってロックロックの元へ駆け寄ると、ロックロックが二人いて、一人は倒れていてもう一人が偽物に襲われたと叫んで私の元に近づいてきた。

「緑谷そっちは大丈夫か」
「はい!早く治崎の・・・」

ロックロックが急にナイフを取り出して私に向かって振り上げた。

「わ!!??」

イレイザーが個性を消すと、ドパっとドロドロに皮膚や服が溶けてトガヒミコの姿へと変貌していく。

「トガヒミコ!!?」
「トガ!!そうだよトガです!覚えてくれてた!わああ、また会えるなんて嬉しい!!嬉しいなァなまえちゃん!!」

私に向かってナイフを振り下ろすトガヒミコを、イレイザーが捕縛布で後方に引っ張ったお陰でナイフで刺されずに済んだ。死穢八斎會と敵連合は協力していないって情報だったのに、なんでここにいるの!?反動で後ろに飛んだトガはその力を利用して逆に相澤先生がトガのナイフで傷を負った。

「先生!!?」
「大丈夫だ近づくな!」

トガを壁が包み込んで隠してしまった。完全に協力体制取ってる。気配も完全に消えた。きっと壁のどこかに連れて行ったんだ。肩から血を流している相澤先生の元に駆け寄る。

「先生!!肩から血が!」
「大丈夫だ。それより、ロックロックの止血とナイフを拾っておけ。トガは血を使うらしい」

慌ててナイフを拾い上げる。あの身体捌き、あの個性。嘘でしょ。何を考えてるの敵連合。
壁の中を蠢くような声が聞こえてきた。きっとコンクリの中から私たちを攻撃している本部長の入中って人だ。奇声と同時に壁が大きく動いた。音が反響しまくっててどこから聞こえてきたのか分からなくなった。それに怒りに任せて動かしているのか、めちゃくちゃに壁が動いて圧死されてしまう人がいるかもしれない。
天井から大きな声が聞こえてきた。あそこだ!!
私は狙いを定めて飛び上がって目一杯蹴った。コンクリにクラックが入り裂けていく。中から人が出てきた。相澤先生が個性を消してくれたので壁の動きが止まって入中が落ちてくる。ナイトアイのサポートアイテムの超質量印が飛んできて入中の顔面に命中した。気を失ってただ落下する入中を空中で掴んで地面に下ろした。敵連合はその隙に逃げていってしまった。

「エリちゃんの部屋の方向なら私が把握している」

ナイトアイがそう言うが、こんなめちゃくちゃな壁のままじゃ進むこともままならない。警察官が入中に元に戻せと言ったけれど、入中はカタカタ震えているだけで個性を出すことができなくなっている。ブーストの効果切れ。反動でしばらく使えなくなるのかもしれない。

「トガとトゥワイス・・・敵連合がどこかに潜んでいるはず!!」
「トガ・・・トゥワイス!!許さね〜〜〜!!裏切りやがってェ!!」

入中が悔しさを滲ませて叫んだ。

「他の連合メンバーはどこにいる」
「知るか!!必ず見つけ出してやる!!連合の奴ら全員ドタマカチ割ってやる!!」
「ここにいるのは二人のみ・・・ということか」

捕縛されている入中は暴れ出したので警察官によってさらに締め上げられた。

「先生!!」
「・・・・・・」
「なーにを立ち話してんだ!!」
「ロックロック!」
「無視して進め!連合の方は警察に任せりゃいい!俺たちの最優先事項はなんだよ!!?俺は小娘のせいでこれ以上飛んで跳ねてはちょっとキツイ。わかったらとっとと足動かせ!!リューキュウたち上にいる連中!地下で分断された警官たち!サンイーター!烈怒頼雄斗!ファットガム!ルミリオン!ここまで来たらあと一息だろう!皆が稼いだ時間を無駄にするな!!」
「必ず!救け出します!ロックロック!」
「言ったな・・・!?必ずだぞ!ヒーロー名!!」

動ける者は治崎のいると思われる場所を目指して走った。段々と戦闘しているような音が近づいてきた。きっと通形先輩が戦ってるんだ。壁を何度も壊して辺りはもうめちゃくちゃだ。
あと一枚!!!

蹴破った先に通形先輩と治崎たち、エリちゃんも居た。先輩が戦っている。治崎に向かって走っていき右手に力を込めて殴り飛ばした。ナイトアイがボロボロになって崩れ落ちる通形先輩を抱きとめ、エリちゃんも確保した。

「ルミリオンがここまで追いつめた!!このままたたみかけろ!!」

もう一度治崎の元へ行こうとしていた私と相澤先生だったが、治崎が何かを叫んだ。先生が私を庇うかのように突き飛ばした。そのせいで先生は倒れていた人物の個性攻撃を受けてしまった。先生の動きがひどく緩慢になっている。動きを遅くする個性だ。先生の個性の効果がなくなって治崎の個性が発動し地面が鋭く尖って串刺しにするように飛び出してきた。

「こんな奴らに俺の計画を台無しにされてたまるか!なァ音本・・・!嫌だよなァ!?俺がこんなとこで終わるのは!!音本本当によくやってくれたよ。お前なら俺の為に死ねるだろう!?」

治崎は自分と仲間を破壊して融合させた。さっきまであった傷も消えてる。

「ルミリオン。お前は確かに俺より強かった!だがやはり全て無に帰した。さァ壊理を返してもらおうか。最低の気分だが、さっきよりはいくらかマシだな」

状況を把握しなきゃ。エリちゃんと先輩はナイトアイが守ってくれてる。相澤先生がいない!白フードのやつもだ。

「潔癖の気があってなァ・・・触られると、つい頭に血が上ってしまう。ここまでされたのは初めてだ。悲しい人生だったなルミリオン。壊理に・・・俺に関わらなければ“個性“を永遠に失うこともなかった。病に罹ったままでいられた」

永遠に失う・・・!?まさか・・・

「失って尚粘って、そしてその結果が増援を巻き込み全員死ぬだけなんてな」

融合した部下の手でも個性を使えるのか。威力を増した攻撃をしようと力を溜めている。先輩とエリちゃんの元へ向かって走り出した治崎を止めるため、私は尖って氷柱のような形状になった地面を折って治崎へと投げつけた。何本も投げて影に隠れて私も一緒に治崎に向かって飛んだが相殺されてしまった。アイアンソールじゃなかったら向こうの攻撃が私の身体を貫いていた。

「力と速さ・・・それだけだ」
「こいつの相手は私がする!貴様はルミリオンとエリちゃんを!!」
「了解です!!」

物陰に隠れている二人の元に行った。

「エリちゃん!先輩!動けますか!?」
「・・・ああ・・・!余裕・・・だ、よね・・・!!結局悲しませてしまった」
「・・・移動します!さっきので塞がれてたけど、私たちが通ってきた通路です!治崎と距離をおかないと・・・!少なくともここよりは安全です」
「もう・・・いいです・・・ごめんなさい」

腹部から血を流す先輩に縋るようにエリちゃんが涙を浮かべて震えている。向こう側から大きな衝撃音が聞こえてきた。

「サー!!!」

ナイトアイの腹を鋭く尖った地面が貫通している。治崎がもう一回攻撃しようとしている。二人を通路に押し込み、私は急いでナイトアイの元に向かった。だけどここからじゃ距離があって間に合わない。床を踏み抉って治崎の攻撃の軌道を逸らした。筋肉が、骨が軋む音が右脚から聞こえてくる。身体中が悲鳴を上げている。でも、動ける!

ワン・フォー・オール20%!!!

「増援が来て事態が悪化していること、気が付いてるだろう。諦めろ。俺の言った通りになるだけだ。“全員死ぬ“」
「そんなことはさせない・・・!!そう決まっていたとしても!その未来を捻じ曲げる!!」

地面を強く蹴って前に飛ぶように進み治崎のいる場所を目指す。しかし治崎も黙ってはいない。地面を分解し再構築して私を狙ってくる。“分解“でタイミングは測れるけど、避けきれない。
耐えるんだ!勝つまで!
治崎が手を緩めることはない。きっと治崎は死んでもエリちゃんを諦めない。時間はかけられない。ダメージを稼いでも“修復“される。ならば一撃で!
私は高く飛び上がり、踵を振り下ろした。

脳天一撃!マンチェスタースマッシュ!!

しかし、その一振りを避けられてしまった。私の右腕と左脚に治崎の放った地面の棘が刺さっている。

「いくら速かろうが先の二人に比べれば動きの線が素直で見えやすい。ったく“修復“と言ってもバラす瞬間はしっかり痛いんだ。もう止めだ」
「うううう、まだ・・・!!」

地面が割れて細かくなってなかったら、でっかい棘に刺さってそこで終わってた。

「ああ・・・そうやってルミリオンにも粘られた。諦めない人間の底力は侮れない。お前のせいでまた死ぬぞ!これが望みなのか!?壊理!!!」
「!?」

何を言ってるの治崎は。エリちゃんはもう先輩が・・・

「望んでない・・・!」

か細い声が後ろから聞こえてきた。エリちゃんはガタガタ震えている。

「何で・・・!!ダメだよ・・・!先輩と一緒にいなくちゃエリちゃん!!」
「壊理こいつ一人でこの状況。何とかなると思うか?」
「・・・思わない」
「ならお前はどうするべきだ?」
「戻る・・・」

そんなのダメだよエリちゃん!こいつの言うことに耳を傾けちゃダメ!!

「そのかわり・・・!!皆を元通りにして・・・!」
「そうだよな・・自分のせいで他人が傷つくより自分が傷つく方が楽だもんな。まだルミリオン一人の方が望みはあった。奴で芽生えかけた淡い期待が砕かれた。気づいてるか?壊理にとって最も残酷な仕打ちをしてる事に。お前は求められてない」
「・・・そうだとしても!!余計なお世話だとしても・・・!君は泣いてるじゃないか!!誰も死なせない!君を救ける!!」

私の手と脚に刺さった棘を引き抜いてその欠片を握りしめて粉々に砕いた。もう一度だ。一撃で決める。天井がミシミシと音を立てて、崩れ落ちてリューキュウと麗日さんと梅雨ちゃんが現れた。

「リューキュウ!!二人とも!!」
「メチャクチャだ・・・ゴミ共が!」

目を離した一瞬の隙に治崎は割れた地面のさらに下から上に伸びる足場を作りエリちゃんを連れてリューキュウが作った穴から地上へと出ようとしている。

「させるもんか!!」

追いかけてエリちゃんに向かって手を伸ばす。掴まなきゃ今度こそ絶対に!

通形先輩のマントが瓦礫とともに巻き上げられてエリちゃんはそれに手を伸ばした。落ちてくるエリちゃんを私は抱きしめた。

「もう・・・離さないよ絶対」

エリちゃんも私にしっかりと抱きついた。治崎がエリちゃんを取り戻そうと手を伸ばしてこちらに向かってきている。やばい。空中じゃ身動きが。
もう絶対に離さない。エリちゃん自ら苦しみの中へ戻らせるなんてこと絶対にさせない。必ず勝って必ず救ける!

「ああああああ!!!!」


治崎の攻撃を相殺しようと空中で脚を蹴り上げた途端、私はエリちゃんを抱えたまま吹っ飛んだ。オールマイトのように風圧で空中を高速移動した!?かっちゃんとケンカした時みたくコントロールがブレた!?じゃあ、つまり脚はダメになってる!!だけどその痛みは感じない。一体どうして・・・地面に降りたけど、私の両足は骨折してない。それどころか怪我も治ってる。

「・・・エリちゃんの力なの・・・?」
「・・・」

エリちゃんは下唇を噛んで俯いた。私は体の異変を感じて地面に座り込んだ。

「何?今度は身体が内側から引っ張られてるみたいな・・・!!」
「力を制御出来ていないんだ。拍子で発動できたものの、止め方が分からないんだろう、壊理!!」
「治崎・・・!」

エリちゃんを腕の中に入れて治崎から庇うように立ち上がった。

「人間を巻き戻す。それが壊理だ。使いようによっては人を猿にまで戻すことすら可能だろう。そのまま抱えていては消滅するぞ。触れる者全てが“無“へと巻き戻される。呪われてるんだよそいつの“個性“は。俺に渡せ。分解するしか止める術はない!」

私はエリちゃんを背中に担いで、通形先輩のマントをおんぶ紐にしてエリちゃんの体を私の背中に括り付けた。

「絶対やだ。そっか・・・足が折れた瞬間に痛みよりも早く折れる前に戻してくれたんだね。とっても優しい“個性“じゃない。体感した感じでわかった。体が戻り続けるスピードが。じゃあ、それを上回るスピードで常に大怪我し続けていたら!」

ワン・フォー・オール フルカウル 100%

「エリちゃん、君の力を貸して欲してくれる?」

エリちゃんはコクンと頷いた。エリちゃんの力が一段と強まった。きっと私を救けようと必死のあまり、強まってるんだ。それに止め方が分からないって言ってた。私が初めてワン・フォー・オールを使った時と同じで扱い方を知らない状態でアクセルをベタ踏みしてるんだ。

地面を四足獣のように変化させている治崎の一撃は凄まじい破壊力を持っている。街も人も壊滅してもおかしくない。

「どいつもこいつも大局を見ようとしない!!俺が崩すのはこの“世界“その構造そのものだ!!目の前の小さな正義だけの、感情論だけのヒーロー気取りが俺の邪魔をするな!!」

治崎、あんたは必ずダメージを負ったら分解して回復する。100%の速さならその隙を突ける。そしてもう回復はさせない!!

「目の前の小さな女の子一人救えないで、皆を救けるヒーローになれるわけないでしょ!!」

何度も治崎の身体に100%の力で拳を打ち込んでいく。治崎は地面の塊とともに地面に落下していき、動かなくなった。

「エリちゃん、怪我はない?ごめんね、私が至らないばかりに・・・」

ズズズと音を立てて私の体の巻き戻しが一段と勢いを増していく。最後の力を振り絞って、治崎が手を伸ばしていたけど麗日さんに取り押さえられていたのを私は知らない。この時、ワン・フォー・オール100%の力でもエリちゃんの巻き戻しに負けてしまっていたのだ。
急に巻き戻しが止まって、私はもう力を出せずに地面に倒れ込んだ。エリちゃんを腕の中に抱き留めたまま動けなくてただ息を切らしていた。
しばらくして救急車がやってきた。その頃にはようやく私も動けるようになっていた。救急隊員にエリちゃんを引き渡した。

「気絶してから発熱がすごくて・・・」
「とりあえず病院に運ぼう。君もだ」
「はい」

運ばれていくナイトアイに声をかけられた。

「緑谷・・・お前は未来を捻じ曲げた」
「ナイトアイ!!私言いそびれて!オールマイト生きるって!ナイトアイに合わせる顔がないって!必ず会いましょう!会って・・・また!だから・・・頑張って!!」

ナイトアイは頷くこともなくただ目を閉じた。救急車のドアが閉まってけたたましいサイレンを鳴らして走り去った。ナイトアイ、きっと大丈夫だよね?

一人の少女を救ける為の戦い。1時間にも満たない時間で怪我人も大勢いるし、家屋や道路の損害もある。手放しで喜べる状況じゃないけれど・・・

AM9:15 エリちゃんの保護は完了した。

私も病院へと搬送されて検査を受けた。異常なしということで、私は念のため一晩入院はするけど問題なければすぐに退院できるだろうと言われた。他の皆がどうなったか先生に尋ねたら、丁度相澤先生が入ってきて皆の状況を教えてくれた。切島くん、天喰先輩、ファットガム、ロックロック皆怪我をしたけど命に別状はないそうだ。本当に良かった・・・
エリちゃんはまだ熱も引かず、眠ったままなのだという。相澤先生に連れられて私は病院の廊下を歩いていた。エリちゃんは現在隔離されていて面会することは叶わない。エリちゃんの個性はまだ未知数で調整の訓練も気軽に行えるものではないと言われた。何のことかと訝しんでいると、相澤先生がある部屋に入るように私を促した。

「要するに彼女の“個性“には頼れないという話だ」
「どういう意味ですか」
「受け入れるしかない。ちょうど彼も到着したところだ」
「オールマイト!リカバリーガール!何でここに」
「私が呼んだの。だって・・・サーいつもオールマイトのこと・・・」

バブルガールが泣き出して、センチピーダーがハンカチを差し出して背中をさすっていた。規則的なピッピッという心電図の音が部屋に響いていて、いろんなチューブに繋がれたナイトアイがベッドに横たわっていた。その姿を見て、息を飲んだ。
オールマイトとナイトアイが言葉を交わす。

「これまで・・・あなたが殺される未来を変えたくて、変える術を探ってきた、ずっと。どうにも、ならなかった・・・私ではどうにも変えられなかった。だが、緑谷が今日見せてくれた。きっと緑谷だけじゃない・・・皆が強く一つの未来を信じ紡いだ。そのエネルギーが緑谷に収束され放たれた結果なんじゃないか・・・未来は不確かであなたは考えを改めてくれた。私はそれで充分。ただ・・・思い残すのは・・・」
「サー!ナイトアイ!」

通形先輩が看護師の静止を振り切って、ナイトアイの病室に駆け込んできた。

「先輩!!」
「ダメだ!生きてください!死ぬなんてダメだ!」
「・・・ミリオ・・・」
「サー!」
「辛い目に遭わせてばかり・・・私がもっとしっかりしていれば・・・」
「あなたが教えてくれたから強くなれたんだよ!あなたが教えてくれたからこうして生きてるんだよ!俺にもっと教えてくれよ!!死んじゃダメだって!!」
「先輩・・・」

私は何も出来ず、ただ涙をこぼしていた。ナイトアイは通形先輩の頬を触り笑いかけた。

「・・・・・・大丈夫。お前は誰より立派なヒーローになってる・・・この未来だけは変えてはいけないな。だから笑っていろ。元気とユーモアのない社会に明るい未来はやって来ない・・・」

力なくパタンとナイトアイの手がベッドに落ちた。
心電図の波形が波打たなくなってただの直線になって、モニターの警報音が激しく鳴っている。それなのに、私は静けさの中にいるようだった。看護師や医者が慌ただしく動いているのをただ眺めているだけで何もできない。無力だ・・・
ペンライトで瞳孔を見ていた医者が首を横に振った。そして時計を見てナイトアイの死亡時刻を告げられた。泣き崩れる先輩の背中にそっと触れた。

一夜明け、私は退院の運びとなり、相澤先生と共に帰ることになった。テレビでは治崎が護送中に敵連合に襲われたという報道をずっと放映しているらしい。知らなかった。

「先生、私もエリちゃんが目覚めるまでいちゃダメですか・・・?」
「お前がいても状況は変わらない。お医者さんに委ねるしかない」
「・・・・・・はい。先輩に挨拶してきます。すみません、荷物見ててもらってもいいですか?すぐ戻ります」
「あ・・・オイ今は・・・」

相澤先生が引き止めていたけど、私は先輩が心配で会いに行かずにはいられなかった。先輩の病室のドアをノックするとどうぞと声が聞こえてきて、そっと開けて中に入った。ベッドの上で激しめの運動をしている先輩が目に飛び込んできて、私は言葉を失っていた。

「オイっすーーーー!おはよう緑谷さん!!なんか俺だけもう一日様子見入院だって!!こんなにも元気なのに!!ちっくしょーーーー!!」
「先輩・・・」
「わかってるさ」

先輩はぴたりと動きを止めて、ベッドの上にあぐらをかいて座った。

「“個性“も失ってナイトアイまで逝ってしまった。笑ってられるような心境じゃない。だからこそさ。ナイトアイさ、君にはああだったけど、俺と話す時はけっこう笑ってくれてたんだぜ。だからメソメソしない。だって俺はこの先“立派なヒーロー“になるからね。俺が辛い顔してたらエリちゃんも辛いだろうしね」
「・・・先輩は“個性“を消されても一人で守り続けたんですよね。それに比べて私は、守らなきゃいけないエリちゃんに助けられて、先生にも助けられて。もし先輩が後継者だったらナイトアイだって・・・!!もし・・・、私が“個性“を先輩に渡せるって言ったら・・・そしたら・・・」
「いらないです。もし仮に本当にそんなことが可能で俺が譲ってもらったとしてさ。そしたら今度は君が苦労するだろう!何をしょぼくれてるのか知らないけど、君はよくやったよヒーローヒーロー名だよ!!・・・それに昨日イレイザーからエリちゃんの話を聞いてるんだ。今後もしエリちゃんが“個性“をしっかりと扱えるようになったら、“個性“を持ってる状態に戻してもらえないか頼んでみる。それが叶わなければ元通りになれるよう色々やってみる。とにかく俺は大丈夫。ナイトアイの予知がついてるんだ。だから笑っていようぜ!」

先輩は私を引き寄せてタオルで涙をゴシゴシ拭き取って笑って見せた。私もまだ涙は止まらないけど、大きな声で返事をした。

「はいっ!」



-50-







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